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第六百七十八話 兄弟

<視点 ニムエ>


え?

え?

話が見えない。


どういうこと?

カラドック様にはケイジ様の言ってる意味がわかるの?


 「子供の願いを無碍にする父親はいない。

 きっとお前の父親はお前の声に応えてくれるはずだ。」


そっ、そう?

そりゃ優しい父親はそうなんだろうけど、

家族にはいろんな関係があるわよね?

それに貴族や王族なら、政治的な思惑が入ることだってあるし。


あ、ていうか、カラドック様のお父様って人間じゃなくて、天使とかいう高次元存在のはずよね?

ケイジ様もそのことは聞いてるんじゃないの?


当たり前だけど、

カラドックさまの驚いた顔は私以上の反応だ。


 「ケ、ケイジ、それは・・・。

 第一、父上とはもう何年も会ってないし、

 これから先、私の前に姿を現してくれるという保証もない。

 そ、それにいくら父上とはいえ、私の抱える難題になど・・・。」


 「心配することはない。」


今度はケイジ様の言葉に力がある。

いったいどうして?



 「し、心配することないって・・・。」


 「言ったろう?

 お守り程度の話だと。

 それでも覚えていて欲しい。

 父親なら子供の願いを聞いてくれるもんだ。

 お前の父親が、

 本当に『お前たち』の父親なら、

 そいつは必ずカラドックの前に姿を現してくれるはずだ。」




今回動きを止めてしまったのはカラドック様の方だ。


今のケイジ様の話だけで、いったい何を理解すればいいというのか。

大体「お前たち」って弟様はお亡くなりになったって言ってるのに。

カラドック様にはもう、ご兄弟はいない筈。

なのに、なんでわざわざそんな表現使ったの?

私ならケイジ様に質問攻めをしたいところだ。


けれどカラドック様はそうしなかった。

ご自分の中にある情報だけで答えを出そうとしていたのだろうか。

いくら賢王でもそんなの無理じゃないかと思うのだけど。


 「ケイジ、念の為に聞くが、それは今現在の話では・・・ないんだよな?」

 「ああ、起きるかどうかも分からない未来の話だ。

 第一今現在カラドックに、誰にも相談出来ないような問題でも持ち上がっているのか?」


あ、確か今もなお、カラドック様は弟様の仇を討つべく、諸外国に戦を仕掛けたり圧力かけているんだものね。

解決してはいない話はあっても、

誰にも相談出来ないような話ではない。




 「そうか、わかったよ・・・。」


え、いいの?

カラドック様、それだけでいいの?

何が何だか全然分からないのに?


 「カラドック、ありがとう・・・。」


ケイジ様は心底満足そうな表情で?

これはもしかしてアレなのだろうか。

男同士でしか分からない禁断の・・・

いえ、今はそんな空気ではない!


 「話の内容はわからないけども、

 ケイジにはどうしても私に伝えたいことがあったってことなんだね。

 そしてケイジの顔色を察するに、

 私には今の説明で十分だと判断したってことなんだろう。」


ほ、本当にそれだけでいいの、カラドック様?


 「・・・これ以上は、他人の家族にオレが深入りしていい話じゃないと思っただけさ。

 既にここまで踏み込むこともどうなのかと悩んでいたんでな。」


そ、それはまあ、他人様の家族の話なら・・・。


 「気にしなくていいよ。

 ケイジの言葉はずっと覚えておくさ。

 それより、お返しではないが、私もケイジに聞きたい事がある。」


あ、途端にケイジ様の態度が変わった。

見てて可哀想なくらいあたふたして。


 「な、なんだ?

 お、オレに答えられることなのか?」


 「難しいことじゃないよ、

 それに以前、あれは邪龍討伐前の時だったな、

 ケイジの口から一度言ってもらったことだ。」


 「邪龍討伐前・・・

 オレは何を言ったんだっけか・・・。」



 「ケイジ、覚えていないか?

 あの時、君は私の弟、惠介が、最後まで私の弟であったことを感謝していたに違いないと言ってくれた。

 今でもその考えは変わらないか?」


 「あ、ああ、言ったな、

 確かに言った。

 そしてもちろん今もその考えは変わらない。

 だが、どうして今頃そんな・・・。」


問われたカラドック様は天井を見上げる。

何かを思い出そうとするかのように。


 「私はね、惠介が死んだと聞かされた時から、ずっと心の中に溜め込んでいたものがあったんだ。

 ・・・同じ兄弟なのに、

 私は大国の王となったというのに、

 どうしてあいつだけ、そんな辛い目に遭わなきゃならないんだって、

 私にはラヴィニヤがいてくれるのに、

 どうしてあいつはリナちゃんも失ってしまったんだって、

 どうしても納得できない自分がいるんだ。

 そして、私はずっと、

 あいつに、

 惠介に恨まれていたんじゃないかってね、

 あいつは自分が死ぬ時、

 そんな運命を、いや、事によると私を呪いながら死んでったんじゃないかってね。

 だから、

 もしかしたらそうじゃなかったんじゃないかって・・・

 だったらケイジ、

 もう一度同じことを私に言ってくれないだろうか。

 私が恨まれてなんかいなかったって・・・ケイジ?」


カラドック様、

カラドック様の過去の話は聞いていたけども、

そんな重いものをずっと抱えていたなんて・・・


いえ、それよりケイジ様!?



うつむいてっ?

まるでカラドック様の話が、

聞くのも耐えられないかのように・・・



肩も震えてる・・・

そ、それは確かに今の私でも心を揺さぶられる話だったけど・・・。


あ、ケイジ様だけじゃないわよね?

後ろでリィナ様も顔を両手で覆って必死に涙を抑えている。



あ、ようやくケイジ様が顔を起こした。


 「ち、違うぞ、カラドック!

 それだけは違う!

 分かった、何度でも言ってやる!

 そ、そいつは!

 お前の弟は!

 お前を恨んでなんかいないっ!!

 ずっと、ずっとお前が兄でいてくれたことに感謝してっ・・・

 そ、そのことだけはっ、ずっと変わらずっ・・・ううっ?」


あ、ケイジ様の膝が、崩れ落ちたっ!?

急に力が抜けてしまったかのように。

も、もしかして泣いてるのとか?


しかも予想された出来事のように、リィナ様がケイジ様の背中を支えている。


 「す、すまん、カラドック、

 言葉がうまく・・・だが、信じてくれ、

 お前の、弟は・・・っ!」





 「ああ、・・・分かったよ、ケイジ。

 全部分かった・・・。」


カラドック様?

しゃがみこんでるケイジ様に近づいて・・・


そ、そのままケイジ様の肩を抱いてしまわれたっ!?

後ろでリィナ様が一歩引く形でケイジ様の背中に手を添えたまま・・・。


これ、いったい何の光景なのっ?


 「ケイジ、・・・あ、ありがとう。」


カラドック様も泣いている。


 「そして、そして今こそ、

 私は、私の、過去の心のわだかまりは全て消え去った・・・!」



そ、そんなことで?

いくらケイジ様の言ったことだとしても、

異世界のカラドック様の弟様に接点など何もない話なのに。


そ、そりゃあカラドック様が、

ケイジ様に亡き弟様の姿を重ねていたのは知っているけども・・・



 「カ、カラ・・・ドック、

 お前、は、う・・・、

 今まで、ずっとそのことを・・・

 すまんっ、すまんっ、カラドック!

 うおおおおおっ!!」


 「ば、バカだなあ、ケイジっ、

 どうして、どうして君が謝るっ・・・

 君はっ・・・な、何も悪くないだろうっ・・・?」




泣いている・・・

二人とも。


ケイジ様も最初は大きな声を上げてたけど、

多少なりとも冷静になろうとしているのか、

今は必死に声を押し殺している。



・・・カラドック様の抱えていた苦しみはそこまで大きかったのだろうか。

でも、

今二人が泣いている理由は、

ほんとうに同じものによるものなのか、今ひとつ判然としない。



ただ私も気づいてしまう。

私の足元にポタリと雫が落ちる音を聞いて。


仕方ないわよね?

理由など分からなくたって、どうしたってこの空気に感化されてしまうもの。


恐らくこの大広間にいる誰もが感動しているのだろうけど、本当の理由など誰も分かるまい。

恐らくあの二人にしか分からない出来事。

今はただ、皆んなこの光景に目も心も奪われているとう話。


ほら、

いつの間にか皆が涙を流している。

さすがに魔王様サイドは距離も遠いし、魔王様も厳しい顔をしているだけだったけど。


コンラッド様もベディベール様も、恐らく私と同じような認識のはず。

女王に至っては顔を沈め、ハンカチで顔を覆っていた。



・・・女王は、

カラドック様たちの事情をご存知だったのだろうか・・・。


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