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第六百七十七話 お守りの言葉

<視点 ニムエ>


誰かなんとかして。


空気が重い。

さっきも言ったけど、

カラドック様とケイジ様、

そして後ろの方ではリィナ様とマルゴット女王、

さらには魔王様までもが緊迫した表情を浮かべている。


コンラッド様やベディベール様も私と同じ違和感を覚えているようだ。

メリーさんほど分かりやすい態度ではないけれど、この場の空気のおかしさに戸惑い続けているのは間違いない。



一方、カラドック様に「他に言うことはないのか」と問われたケイジ様は、床に視線を落としたままだ。


・・・そりゃあ、

お二人はずっと死線を共に戦い続けていた。

一歩間違えればどちらかが死んでいてもおかしくない。

しかもパーティーの中に男は二人だけ。


そんな関係を続けていたら、

言いたいことも言えないこともあるのかもしれない。


そう、それ自体はそんなに不思議な話じゃないと思う。


けれど今のケイジ様は・・・


ああ、どこかで見たことあるような気がする。

あれはまるで・・・


昔、私の弟が功名心に逸り、

裏山に住み着いたゴブリンを、父に報告もしないで一人で倒しに行ったことがあったっけ。

ゴブリン自体はなんとか倒したらしいけど、

屋敷から連れ出した馬を転ばせてしまい、

馬の足を折ってしまった。

その件で、弟は父たちにこっぴどく怒られてたけど、

あの時の弟の姿に今のケイジ様の姿が重なる。

まあ、今の状況には関係ないとは思うのだけど。



カラドック様は、ケイジ様の言葉を根気良く待ち続けている。

逆にケイジ様はこれから罪の告白でもしなければならないかのようだ。


いったい何がケイジ様をそこまで追い詰めているというのか。



 「そ、そうだな・・・。」


あら、ようやくケイジ様が顔を起こした。

これから何を言うのだろう。


 「うん、なんだい、ケイジ。」


 「あ、ああ、互いにこの世界のことは話したな。」


 「そうだね、言い足りないことがあるならまだ付き合うよ。」


 「い、いや、それこそ話を続けたらキリがなくなると思う。

 だ、だからここから先はお前の世界の話をしたい。」


 「私の、世界? ・・・のことかい?」


どういうことかしら。

ケイジ様とて、カラドック様の世界のことは何も分からないはずよね?

あら、

リィナ様の血相が変わったわ。

いったい・・・


 「あ、いや、そんな大袈裟な話じゃない。

 単にお前のこれからのことを案じたいだけさ。」


それならそんな大袈裟に悩み込むことなんてないはずだけど。


 「・・・ああ、そうか、

 それで、なんの話を?」


カラドック様だって私が思いつく程度の引っ掛かりを感じるだろうに、話の腰を折りたくなかったのか、ケイジ様の話を素直に聞くみたい。

ああ、これがスルースキルってヤツなのね。


 「以前、聞かせてもらったが、お前はいま現在、大陸の最大国家の国王なんだろ?

 凄いよな、そして、この後お前は大陸統一を目指すとか・・・。」


うわ・・・

改めて聞くと本当に凄いお話よね。

こちらの世界では、未だ全ての土地を手に入れた王様はいない。

女王じゃないけど、カラドック様がこの世界に残ってくれたらこれほど心強いものはないだろう。


 「はは、言葉にすると身の程知らずとも言われそうだけどね、

 私には有能な家臣がたくさんいる。

 国外にも協力してくれる勢力もあるからね。

 もちろん、そんな簡単に成就できる話でもないけれど、いずれは必ず・・・ね。」


最後の言葉に力があった。

「必ず」。


カラドック様にはどうしてもやり遂げなければならない強い理由があるのだろう。

確か、カラドック様の弟君、そしてここにいるリィナ様の異世界の写し身を、かつての部下に殺されたのだ。


そしてその裏切り者は、

未だ周辺の敵国の中に潜伏しているとか。


一見いつも穏やかに見えて、その心のうちに激情を燃やしているカラドック様には、


その裏切り者を探し出して大勢の前に引き立てて、


何本もの槍で串刺しにでもしてやらねば、

怒りは収まらない話なのだと思う。


 「そうだな、お前なら出来ると思う・・・。」


なのにケイジ様の言葉には力がない。

もっと「必ず出来る」とかはっきり言えばいいのに。



 「そ、それでカラドック。」

 「ああ、なんだい?」


 「オレはもちろん予言者でも何でもないし、

 これからオレの言うことに根拠も何もないんだが。」


 「・・・ああ。」


 「きっとお前はやり遂げる。

 そりゃ、一年や五年程度では無理だろうけどな、

 それでもやり遂げる。

 お前は大陸を統一する覇王となるだろう。」


あ、そういう言い方もいいわね。

相変わらずケイジ様はゆっくりとした言葉だけど、かえって説得力が出てきたわ。



後ろでメリーさんが

「本に書いてあるのに」とか呟いているのが聞こえてきた。


きっとスルーした方が良いと思う。


 「・・・君にそう言われたら自信が出てきたよ。

 必ずや大陸の全てを手に入れて見せよう。」


本当にやり遂げてしまいそうなのよね。

私もカラドック様の側で雇ってもらえないかしら。

・・・無理よねえ。


 「そ、それでなんだが。」


あら、今の話でまとまりそうだったのに、まだ何かあるのだろうか。

カラドック様も薄く笑いながら不思議そうな顔をしている。


 「お前は必ずやり遂げる。

 どんなことをしてでも。

 ・・・けれどその道は順風満帆ではあるまい。

 優れた武将がいても、有能な家臣がいても、何度も何度も様々な困難がお前を待ち構えているはずだ。」


それは・・・現実的に考えてその通りなのだろうけど、わざわざこんな最後にいうことなのかしら。


 「覚悟はしているさ。

 父から全てを受け継いだとき、

 そして、惠介やリナちゃんを失った時から、この手がどんなに汚れようと、自分の道を見失うことはないと誓ったのだから。」


いけない。

カッコ良さすぎる。

先程のエルフの方々のご乱行の後にこんなお姿を見せられたら、

私の精神と肉体が保たない。

早く休憩時間にならないだろうか。



 「く・・・そんなお前に贈りたい言葉がある。

 ただ、さっきも言ったがオレは予言者じゃない。

 だから、これからオレが話すことは、お守りのように受け止めて貰えないだろうか。

 忘れてくれてもいい。

 仮にそんな時が起こったら、思い出してくれさえすればいいだけの話なんだ。」


 「へえ、それは興味あるな、

 ケイジは何を言ってくれるんだ?」


 「ああ、話そのものは難しいものでもなんでもない。

 ただ本当にそんなことが起きたら、の話なんだ。」


だから勿体ぶらないで!

早くその先に行くのよ!


 「うん、それでいったい?」

 「カ、カラドック、さっきお前も言っていたが、お前には有能な部下が大勢いるんだろう。

 お前のことだ。

 お前一人で全てを背負い込まず、様々な案件を適材適所に振り分けることも既にやっているんだろう。」


 「それこそ、私にも限界があるからね、

 報告は全て受けているけど、なるべく大勢の人間が携われるよう心掛けているよ。」


 「そうなんだろうな、

 お前の活躍が目に浮かぶよ。

 ・・・それで仮の話というのはここからなんだが。」


 「ああ・・・?」


 「この先、いつか必ず、

 お前一人では対処できないことが起きる。

 そしてお前はその事件を、愛する家族や信頼できる部下の、誰にも相談すら出来ないかもしれない。」


え、

そんなことが起こり得るのだろうか。

ていうか、やけに生々しいのだけど何の話?


 「それは・・・想像しにくいな。」


 「今は想像できなくてもいい。

 それに仮の話だ。

 そんな事件自体起きない可能性もある。」


じゃあなんでそんな話をしたの?



 「ただカラドック、

 いつか、10年先か20年先かも分からないが、

 もし、そんな事態が起きたら・・・

 オレの言葉を思い出してくれ、

 そしてその時は・・・」



 「・・・・・・。」


カラドック様はケイジ様の話を黙って聞いている。

話の先が見えないんだものね。

ここは聞いているしかないだろう。



ところがケイジ様がこの後、何を言うのかと思ったら・・・



ケイジ様、また下を向いちゃったじゃないの!

カラドック様にはもう時間が残ってないのよ?

いいかげん早く言えばいいのに!


あ、ようやくまた動きだしたわね。


 「すまん、カラドック、うまい言葉が出てこなくてな・・・。」

 「・・・構わないよ、

 ゆっくり喋ってくれ・・・。」 


本当に辛抱強い人よね、カラドック様。


 「ああ、そうだ、アルツァーと話をして、何となく、そういう考えに辿りついたんだが・・・」


 「アルツァー殿?」


アルツァー様ってケイジ様のお父様よね。

なんでカラドック様の話をしていたのに、アルツァー様の話が出てきたのだろう。


 「いや、話を戻すぞ、カラドック。

 もし、お前でも誰にも相談できない、一人で抱え込まなくてはならないような事態が起きたら」


 「・・・・・・」




 「カラドック、お前の父親を頼れ。」


 「なっ・・・!?」


ケイジがアルツァーの名前を出したのは、

ケイジの苦しまぎれの思いつきです。

その方がこの後の話をするのにカラドックが受け入れやすいのではないかと一生懸命考えたのでしょう。

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