第六百七十五話 歴史の中に埋もれた真実
これまであまり触れてきませんでしたが・・・
(それとなく匂わせていたつもりはある)
カラドックの家庭も順風満帆だったわけでもありません。
表現が難しいですね。
負い目とも違うし、
負の遺産とも言えないし、
カラドックというより、天使シリスの尻ぬぐいとも言えなくもないし、
一つ言えるのはここに書かれてる因果が、
400年後にも影響を与え続けていると言う話。
以前「語られない話」で、
ランディ将軍とザジルの会話の中にもそれとなく。
<視点 ニムエ>
「ちょっといいかしら?」
あれ?
この流れでメリーさんが介入する必要ある?
「うん、なんだい、メリーさん。」
「愛し合う夫婦のむつみ合いを邪魔するつもりは全くないのだけども、避妊はちゃんとするのよ?
ウィグル王列伝には、あなたに子供が二人以上いたなんて書かれてない筈だから。」
あ、そうか、メリーさんにしてみれば未来を変えられちゃ困るんだものね。
下世話な話かもしれないけどこれは大事な問題!
「ああ、それは・・・」
ん?
カラドック様が何か一瞬言い淀んだみたい。
表情から余裕の笑みも消えている。
何かあるのだろうか。
「・・・メリーさん、
とりあえずその心配は恐らく要らない・・・。
彼女の母親の問題・・・と言えば分かってくれるかな。」
それだけだと何がなんだか分からないと思う。
おしゅうとめさんか誰かに、子供を産む事を反対されてるとか、そんな感じの話だろうか。
第一、400年後の未来からやってきたというメリーさんが、カラドック様のお妃様のご母堂とお知り合いというわけでもないだろうに。
「・・・エクトーラの・・・、
でも彼女も私とほとんど同じ時期に殺されて・・・。」
あれ?
知り合いなの?
え?
どういうこと?
だってメリーさんてカラドック様の400年後の世界からやってきた筈・・・
あ、そう言えばその段階で転生者だったとか、
400年後の貴族の娘に乗り移ったとかいうようなこと言ってたっけ。
それで二人の精神は融合してしまったらしいそうだ。
「そうなんだけどね、
その母親の因果というのかな・・・」
「因果・・・ああ、なんとなく分かったわ、
確かにこの場で言うことではないわね。」
「理解してくれてありがとう・・・、
感謝するよ。」
「私も同類だったもの。
その子の出生自体が奇跡だったということね・・・。」
「・・・・・・。」
子供が産まれにくい家系だったとか?
それならありがちな話だと思うのだけど。
けれどカラドック様は、口をそれ以上開かなかった。
もしかしてだけど、
あれだけの超人ぶりを示したカラドック様にも、あまり他人には言えないような秘密があるのだろうか。
いえ、むしろその事が奥様への絶対的な愛に繋がっているような気もする。
いずれにせよ、カラドック様がこの場で明かしたくない話のようなら、私ごときメイドが気にしていいものではない。
ここは大人しく二人の会話を見守ろう。
「そんな真実もあったのね・・・。」
メリーさんがまた新たな真実を見つけたようだ。
でも元々この話って、メリーさんには直接関わりのない話よね?
まあ、ともかくメリーさんもそれなりに納得したようだ。
「お邪魔したわね」とでもいうように、頭を下げて元いた場所に引き下がる。
え、と、今、話はどこまで・・・
あら?
カラドック様の前にイゾルテ様がいらっしゃった。
あ、そういえばイゾルテ様のご挨拶はまだだったはず!!
ずっと思いを堪えていたのはイゾルテ様も同じ。
本当によくここまで耐えていたものだ。
恐らくこの後、この大広間にイゾルテ様の咽び泣く声が響き渡るだろうとは、この私にも容易に想像できる。
まあ、この場にはイゾルテ様専属のメイドもいるから、ハンカチの用意はその子達に任せるけども。
・・・あ、いえ、きっと多分、普通のハンカチだけだと物足りないかもしれない。
と思ったら向こうに洗面器のようなものが見えた?
・・・そうね、それくらい用意していた方が無難だわ。
ぬかりないようね、イゾルテ様付きのメイド達も。
「ああ、イゾルテ、
君ともこれが最後になるんだね・・・。」
「・・・ぐす、カラドック兄上様、イゾルテは悲しゅうございます・・・。」
既にイゾルテ様の両目には、
溢れんばかりの涙が湛えられている。
何か一つのきっかけだけで、そのまま抑えも効かずに流れ始めるだろう。
「私には姉妹はいなかったからね、
世界が異なれば、君のような可愛らしい妹がいたと知れて嬉しい。
この後はコンラッドと、ベディベールと、そしてケイジと仲良くね・・・。」
「ケイジ兄上様といつでも逢えるのは嬉しいです、
でも、でもカラドック兄上様とは、これでお別れなんて!!」
うん、やっぱりイゾルテ様に対しても、カラドック様はお優しいお兄様なんだわ。
そっとその肩に手を回す御姿は美しくもある。
「ずっとこうなる覚悟はしていたんだろう?
ついにその時が来ただけさ。」
「分かってます!
分かっておりますとも!!
でも、でも自分の心が嵐のように荒れ狂って、抑えが効かないんです!!
カラドック様は・・・カラドック兄上様は私たちと別れて寂しくないんですかっ?」
「もちろん寂しいさ、
でもイゾルテも立派な王族だ。
君だって分かっているだろう、
その血筋に生まれた者の責務と責任を。」
「分かってます、でも、でも嫌なんです!!」
イゾルテ様のお気持ちはよく分かる。
私もイゾルテ様の立場なら、果たしてどんな態度に出ただろう。
カラドック様もお辛い筈。
これ程慕ってくれる愛らしい妹を、この場で突き放さないとならないのだから。
ある意味、先程のエルフの方々より厳しい態度にでなければならないのだ。
「イゾルテ、
寂しいのは君だけじゃない。
君の母上とて、昨夜は同じように私との別れを惜しみ、同じように悲しんでくれた。
もう少し時間が欲しいというならギリギリまでこうしていよう・・・。
それでも、私たちはこの足を踏み出さねばならないんだ。」
本当に昨夜は大変だった。
でも確かに女王とて道理は弁えている。
最後は無理矢理、カラドック様に素敵な笑顔を向けようと必死になっておられたのだ。
見ているこちらの方が辛くなるほど。
「あ、あの、なら兄上様、
兄上様もお寂しいのですよね?
なら、ならば・・・お願いが、
もしそのお気持ちが本当だと仰るのでしたら、いつまでも残る思い出だけでもこのイゾルテに・・・」
「言ってごらん?
この場で叶えられる事なら、イゾルテの望みを叶えてあげたいと思う。」
「は、はい、嬉しいです、
では、あの、せめて形に残る思い出というか、
それに、もし、カラドック兄上様が、先ほどのアガサ様やタバサ様から受けたダメージが回復されてないようでしたら・・・」
「うん? ダメージ?」
え?
なんで?
さっきの話、まだ続いてるの?
イゾルテ様もなにか、せがむというか焦り気味の勢いで・・・
「は、はい、私にもわかりますわ?
今現在、カラドック兄上様のお体に、ダメージというか良くないものが溜まり続けているのですよね?
私たちは兄妹ゆえ、体を交わすことはできませんが、
そ、その、私がこの二本の手を使って、カラドック兄上様の中に溜まっている悪いものを、抜いて差し上げることくらいなら可能ですわっ?」
ちょ、ちょちょ・・・
イゾルテ様!
そんな縦笛でも握るかのような手つきでっ
「「「「「「「「なにいいだすのおおおおおおっ!?」」」」」」」」
大勢の人々の声が重なった。
もちろんその中には私の声も含まれる。
ただ一人、マデリーン嬢だけが、
「勉強になる」とでも言いたげな表情で、このシーンを食い入るように見つめていた。
いえ、イゾルテ様、
そこで浮かべている恥じらいの表情自体はとても素敵なんですけど、
この場でこんな席で衆人環視の見守る中、そんなセリフと手つきをその人相手に使っちゃいけません。
いったい誰がそんな知識をイゾルテ様に与えたというのか。
ああ、
バルファリス様がヨロヨロと、足元もおぼつかないご様子で大広間から退出なさろうと・・・
一人で歩けないじゃない!
ついには衛兵の一人に体を支えられて出ていってしまわれた。
果たして明日はご無事に出廷されるのだろうか。
・・・あれ?
気のせいか、
み、みなさま、この、私の方を疑うような目で見てない?
え、いえ、ちょっと、違うわよ?
だって私は女王付きのメイドであって、
イゾルテ様のお付きでも教育係でもないのだからね、
本当に本当よ!?
ねえ?
どうしてそんな犯罪者を見るような目で私を見るの!?
違うから!
冤罪っ!!
私は無実っ!
やってないっ!!
私のせいじゃなああああああああああああい!!
(うふふ、この私が死んだからといって安心してもらっては困りますわぁ?
それにしてもウーサー様の血筋は本当に私と相性いいのですねぇ?)
「んー? どうしたカルミラぁ?」
「あ、あれ? いまクィーン様の気配をあの王女から感じたような」
なお、
この話はグリフィス公国の歴史からは永遠に隠されることとなります。
うりぃ
「もう最終回間際だというのに、どんだけフラグ立てまくるつもりなんやっ!?」
さて、
いよいよ大詰めとなりました。
次回、トリは当然ケイジです。