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第六百六十九話 賢王の矜持

<視点 いと気高き揺蕩う光の淑j・・・おや、玄関に誰かき ゲェッ!? リィナ様げぶぅっ!!おごっぐはっ!ぐぼっおお!ご、ごめんなさいもうしませお許し・・・視点 ニムエ>



・・・何があったのだろう、

リィナ様って聞こえたけど、リィナ様ここにいるわよね?


うん、きっと私の気のせいだろう。

リィナ様が一瞬邪悪な笑みを浮かべたようなのなんてきっと気のせい・・・。


そう、

そんな幻を気にしている場合ではない。

私の仕事は給仕兼カラドック様たちのお見送りの様子をここに記すこと。


他のことに気を取られている余裕なんて更々ないのだ。


まず私・・・いえ、私以外のメイドたちを含む給仕担当がこの場にいる皆様にグラスをお渡しする。

この後注がれるのは、

宮殿でよほどのことがないと振る舞われない貴重なワインだ。

ほとんどの参列者が大人なので、みるみるうちにワインがなくなってゆく・・・


ああ、私も一度でいいから飲んでみたい。

ティスティングだけでもなんて・・・無理よね。


イゾルテ様は未成年なのでワインではなくブドウジュースを。

他の国ではイゾルテ様のご年齢でも成人扱いするところもあるようだけど、この国ではまだダメなのよね。


まあ、王女が飲酒したところで咎める人なんか誰もいないとは思うけど、

迂闊に酔われて王女にあるまじき行為や言動を起こさないとは誰も保証できない。


特に今日みたいな感情がコントロールできなくなりそうなイベントでは、なるべく慎重になっていただかないと。


うん、

そこはイゾルテ様もご理解しているご様子。

ほっとくと、いつ泣き出すのではないかという、見ているほうがハラハラしてる状態なのだけど、大人しくグラスに注がれたジュースを見つめている。


・・・心ここに在らず、と言った方がいいのかもしれない。



 「皆の者、飲み物は行き渡ったようじゃの。」


改めて見回すと本当にここにいるメンバーは、女王の身内と召喚に関わった人たちだけだ。

・・・魔王様方は置いといて。


偏屈なバルファリス様ですら、女王たちから距離を置いてカラドック様たちを見守っている。


まあ、あの方は獣人や魔族を危険視しているだけのようだから、異世界から来たカラドック様に思うところは何もないのだろう。

・・・メリーさんに対してはどうか知らないけども。


そういえば、

カラドック様のあちらの世界での弟様が、

アルツァー様のご子息とそっくりだったという話はどうなったのだろう。


ここに来ていないということは、招待されなかったのだろうか。


私も役目上、その話を耳にしてしまったが、

女王からみだりに話を広めないようにと釘を刺された。

・・・まあ広めるも何も、カラドック様は今日この時をもって帰られるのだから、話が広まっても特に問題ないと思うのだけど。

それに肝心のモードレルト様やアルツァー様達が吹聴しちゃったら、私の口を噤ませても意味ないわよね?


てことは、今この場だけ黙っていればいいのかな?

ああ、場の空気を読めということね。

もちろん私はできる子メイド。

この場は給仕役に徹しましょう。


 「では、カラドック殿、

 いえ、異世界の我が兄、カラドック、

 そしてその更に遠い未来の子孫の妃、メリー殿、

 あなた方のおかげで私たちの世界は救われました。

 今日この最後の日、我がグリフィス公家及びそれに仕える重鎮、全ての者が最大の感謝をもってあなた方を元の世界へとお見送りしたいと思います。

 ではみなさま・・・杯を。」


マルゴット女王の長子、コンラッド様が仕切り役のようだ。

てことは、締めはやはり女王だろうか。


うん、みなさまグラスを掲げている。

誰もが誇らしげな、或いは必死に悲しみを堪えているかのような顔。


ケイジ様は、

魔王ミュラ様は・・・何を思っているのだろうか、

その表情からは何も読み取れない。


メリーさんは居心地悪そうに見える。

自分のことを感謝されても困るし、ワインも飲めないのにグラス持たされても・・・ってことよね?

それとも未来の子孫の妃って紹介されたのがいたたまれなかったのかしら。

なんでもその時の王様に嫁いだはいいけれど、その後色々やらかして夜逃げしたとまで聞いている。

つまりお妃様だといってもたった数年だけの話なのだ。


自分の身に置き換えて想像したら確かに居心地悪いわよね・・・。



あ、一応今更な話だけど、ちゃんとメリーさんの鎌は万一のことを考えて、麻布あさぬのでグルグル巻きにして、誰もが分かるように少し離れたテーブルの上に安置してるからね?

そして当然、部外者に・・・いるわけないのだけど盗まれたりしないように警護の兵士も見張っている。


だから心配することなど・・・


メリーさん、持ち帰るの忘れないでね?

絶対よ?

この宮殿に置き忘れてもその後の扱いに困るんだからね?




 「乾杯!!」


コンラッド様の合図で、

みんなのグラスがキンキンと打ち合わされる。


それぞれ近い位置にいる方々同士で・・・


あ、さすがに魔王様のグラスに当てるのは恐れ多いのか、他の人たちは持っているグラスを近づけるだけね。


魔王様一人、高々とカラドック様の方へと掲げている。


そして・・・

こちらではまたお互いに視線を合わせあい・・・


示し合わせたかのように、

いえ、当然段取りはあるわよ。

私の同僚の一人が抱えきれないほどの花束を持ってやってくる。


最初にそれを渡すのは・・・



 「・・・え、えへ、あたしからでいいかな・・・。」


そう、その大量の花束を渡されたプレゼンターはリィナ様だ。

そしてリィナ様はそのままカラドック様の正面に、恥ずかしそうに・・・


いえ、違う。

まるでこれから先に起きることを嫌がっているかのように、


ゆっくり、

とてもゆっくりカラドック様に近づいていく。


反対にカラドックの表情はとても優しげだ。


 「おや、一番手はいきなり勇者リィナちゃんか・・・。」


 「なんで・・・。」

 「ん?」

 「なんで、そんなに晴れやかな顔なんだよぅ、カラドックぅ・・・。」


あ、いけない。

リィナ様も号泣寸前じゃない?


 「・・・いや、そんなことないぞ。

 私だっていっぱいいっぱいさ。

 けれど私にも賢王としての矜持があるからね、

 最後の最後でみんなに泣き顔を残していくわけにもいかないだろ?

 なに、私はこの世界のこの後のことを何も心配しちゃいない。

 だからこの世界に生きる皆んなを最高の笑顔で祝福してあげたいのさ。」


凄いわよね、

さすがの賢王カラドック様、

脇役でしかない私の涙腺すら怪しくなってきた。


 「ふ、うふふ、ホントに大したヤツだよな、カラドックは・・・。

 この花束、元の世界には持って帰れないだろうけどさ、

 あたしが選んだんだ、

 あたし達の気持ちと綺麗な思い出だけでも持って帰ってくれよな。」


 「・・・ありがとう。

 リィナちゃんも幸せに・・・。

 リナちゃんの分まで・・・。」


リナ様。

私もまた聞きなんだけど、

カラドック様の世界には、リィナ様とそっくりの女の子がいたそうなのよね。


魔王ミュラ様もその子に恋心を抱いていたらしいのだけど、

今から数年前にカラドック様の弟様と一緒に亡くなられたという。


そしてカラドック様はこの世界にやって来て、

ご自身の母君とそっくりなマルゴット女王と、

そしてそのリナ様とそっくりなリィナ様に出会ったのだ。


そんなの誰も偶然だなんて考えはしないだろう。

母君の方はまだともかく、

カラドック様にしてみれば、永遠に失ってしまったものがこの世界に残っているのだから。


あら、まあ、

抱えきれない程の花束を渡されて、カラドック様も両手が塞がってしまったご様子。


この後、私がその花束をお預かりに行くことになっているのだけど、今すぐ行くわけにはいかないの。


何故かって?



すぐに分かるわ。

ほら?

花束を渡したら引っ込むはずのリィナ様がまだそこにいる。


 「リィナちゃん?」


そのリィナ様は少し恥ずかしそうに「へへへ」と小さな笑い声をあげた。


 「ケイジには事前に断っているからさ、

 そ、その、さ、サプライズで・・・。」


ぷちゅっ



 「う・・・わっ」


リィナ様、やってくれました!!

両手が塞がったカラドックにしだれかかるような態勢から、そのままカラドック様の頬に親愛のキッス!!


さすが今、ノリに乗ってるリア獣勇者リィナ様!


これはさすがのカラドック様も不意打ちだったのだろう、目をぱちくりして何の返し手も思い浮かばないご様子!


 「え、えへへへへ!

 カラドックも元気でね、

 こ、これはあたしからの感謝の証だから!」


 「ふ、ふふ、さすがに予想できなかったよ、

 今のキスはずっと覚えておくよ、

 ・・・ずっとね・・・。」


 「・・・うん、あたし達のこと、忘れないでね・・・。」


 「忘れるわけがないよ・・・。」


あ、リィナ様がうつむいて・・・


いきなりダッシュしてケイジ様の背中に回り込んでしまわれた。


 「・・・う、うう、うぇえぇん・・・っ!」


やっぱりリィナ様も我慢されてたのね。

縮こまって泣き始めたリィナ様を、

ケイジ様が優しくその背中を包む・・・。



・・・いい。

なんて素敵な光景なのだろう。


あ、ダメ。

いつまでも見ていたい光景だけど私も仕事しなきゃ。

カラドック様の花束をお預かりにいかないとね。


はあ、すぐ近くでこんなシーンを見られるのは役得と言えば役得なのだけど、

やらなきゃいけない仕事が多すぎる。


ちっとも集中して、鑑賞できないじゃないの。




ゲストも呼んでいます。

次回そこまでいくだろうか。

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