第六百六十六話 賢王の恐怖
前回、ぶっくまありがとうございます!
と書き忘れました。
そして何度か書いてますがもう何か特別事件的なイベントは起きません。
カラドックとメリーさんが元の世界に戻るのもあと少しで。
<視点 カラドック>
その日の晩に予定していたイベントは全てキャンセル。
女王とその家族、
私達「蒼い狼」の一団、
そして魔王ミュラと冒険者「聖なる護り手」、
このメンバーでの食事会とあいなった。
竜人ゾルケトフは護衛役に専念しているので、
歓待する必要はないのだけど、
さすがに休息なしで立ち続けるわけにもいかないのだろう。
時折ダンと交代しているようだ。
それならば、というか、そこに付け込んでと言うべきか、
歓談の席でもダンと交代して話を聞かせて欲しいと、
・・・マルゴット女王の希望があった。
確かに竜人なんて滅多に見かけない存在らしいから、気持ちはわからなくもないのだけど。
それを聞いて老官僚バルファリスさんがうずくまっている。
ミュラも「それはどうなの」と首を捻っていたけど「オレもゾルケトフの反応を見たい」と、ダンがその流れに乗っかってしまった。
言うまでもなく、こちら側はエルフの二人組も賛成、
リィナちゃんは「いいのかな・・・」と困惑しつつも「みんな仲良く」主義の立場上、消極的賛成。
ケイジは好きにしろと干渉せず。
ベディベールとコンラッドはその流れに関与したくない様子。
そしてイゾルテ・・・
「私もお話したいです!!」
性格は女王とは異なるけども、
自分の欲望に忠実なところは間違いなくあの母にてこの娘ありだ。
コンラッド、
この国の将来は君の肩にかかっているからな。
頑張れよ。
食事会の前に私は女王と打ち合わせ。
内容は先程のミュラと何を話したのかと言う報告。
・・・あと意外とメリーさんがポンコツかもしれない件について。
「何をやっているのだ、あの人形殿は・・・。」
凄いな、
私の母を含めて女王が頭を抱えているシーンは初めて見たぞ。
「ミュラの方は問題ないかと思います。
彼も自分の立場もあって慎重に行動していると、おも・・・われ・・・」
あれ?
そうか?
よく考えたら魔族の王が数人の護衛だけで人間の国に予告もなしにやってくるって、凄い大胆な話だよね?
いかん、
私も少し思考が麻痺してきたのかもしれない。
「カラドックよ、
なんならこの世界に骨を埋めてゆかぬか?
そなたがいてくれれば妾も安心なのじゃがのう?」
「人の弱みに付け込むのはやめて下さい、マルゴット女王。」
ついつい絆されそうになっちゃうからね。
そんなことがあったけど、
無事に食事会は催されたよ。
上座にはもちろんマルゴット女王、
対面には招待客の魔王ミュラだ。
ただこれは政治的なイベントではなく、
あくまでも親睦を目的とした食事会。
なのでというべきか、
なのにといべきなのか、
魔王ミュラの両隣をリィナちゃんとイゾルテで挟み込むという、
何なの、そのあからさまな接待は?
という配置図。
もちろんケイジはこちら側にいるけど、
背筋を逆立てて終始威嚇警戒モードだ。
なお、ダンとゾルケトフのシフトだが、
最初にダンが席に着くようだ。
彼ならこの場でも物怖じしないで会に参加できるし、場の空気を温めておくのも彼の役目だものね。
それとメイド魔族のメナさんは魔王ミュラの給仕を務め、ダンと二人で食事の毒味役も担うという。
まあ要らぬ心配だろうけどね、
それでも余計な疑いなど入り込まないように、形式に則るというのは大事なことなのだ。
あ、先に言っておくよ。
ケイジ以外については終始和やかに食事会は進んでいた。
メリーさんも監視してくれていたけど、問題は何もなかった。
「失礼ですがカラドック様・・・。」
おや、こちら側の給仕のニムエさん。
どうかしたのかな?
「あの、突っ込む方が誰もいないので、私の口から言わせていただきたいのですが・・・。」
うん、構わないよ?
なんだい?
「いえ、あの・・・
イゾルテ様が必死にミュラ様を歓待しようと頑張っていたのに、
当のミュラ様はさも迷惑だと言わんばかりに・・・
それをリィナ様が咎める構図がもう・・・。」
ああ、確かにあれはよくないよね。
あの可愛らしいイゾルテが涙目になっていたんだぞ?
私ですら思わず食器でもミュラに投げつけてやろうかと思ったもの。
さっきの私の説教はなんだったのかって思うよね?
「いえ、もう、その時点で既に・・・
それにコンラッド様もベディベール様も、おまけにケイジ様までも臨戦態勢になってたのを見て、それでも何もなかったと・・・?」
その話に付け加えると、
魔王側でもゾルケトフとメナさんとハイエルフのオスカさんが「やんのかゴラァ」状態だったっけ。
最後に私の予想どおり、リィナちゃんが全身に雷を纏わせて部屋中に轟く大声で一喝。
「だああああああああああああっ!!
そこに並べっおまえらああああああああああああっ!!」
まあ、大体ニムエさんの言うとおりなんだけどね。
これを機会に徹底的にリィナちゃんに説教してもらおうとね。
そうすれば完全に魔王は勇者のお尻に敷かれるだろ?
ケイジについては今更だろうから何も変わらないのだろうけども。
「す・・・全てカラドック様の計画どおり・・・なんですかっ?」
ふっふっふ、
立つ鳥は跡を濁さないどころか、
ロードローラーで全ての不安の芽を潰していくのが賢王のやり方なのだよ。
「・・・本当に恐ろしい男だよな、カラドック・・・。」
何を言ってるんだ、ケイジ。
大切なものを守るというのはこういうことだぞ。
「コンラッドもベディベールも学ぶが良い。」
「「は、はい・・・」」
ですよね、
さすが女王は分かっている。
「・・・オレら、ホントにこいつらと敵対しなくて良かったぜ・・・。」
うん、まあ、ダン、
君もそれを懸念してケイジの誘拐騒ぎの時、彼を無闇に傷付けなかったんだろ?
誇るべきだよ、
君にはそれだけの危険回避能力があるということなのだからね。
あ、あと蛇足になるかもしれないけど、
食事会が終わっても各々喋りたいことがあるだろうから、一部抜粋しておくよ。
「ううっ、
私、一生懸命ミュラ様をおもてなししようとしたんですよっ?
見た感じ、私とミュラ様って年齢も一緒くらいだし、
好きな食べ物は何ですの?
とか、よろしかったら公都の街並みをご案内いたしますよ?
とか!
それなのにそれなのに、何を聞いても興味なさそうにしたり、こちらの顔も見てくれないなんてなんてあんまりですっ!」
本当にそう思うよ。
いくら何でもひどすぎる。
ミュラはしっかりと反省するように。
「いや、だから僕の精神年齢は中年のおじさんなんだって・・・。
それに悪いとは思ってるけど、女の子にそんな感じで寄ってこられるのは、もうお腹いっぱいなんだよ・・・」
まあ、確かにあのメイド魔族の子やスケスケ衣装のハイエルフの子は、ミュラに冷たくあしらわれてもめげなそうだしね。
それでミュラがげんなりするのは理解してあげるとも。
・・・けど、そんなことイゾルテには関係ない話だよな?
そしてベディベールやコンラッドだって妹を思う兄の気持ちは一つだ。
「・・・縛り首ですよね?」
「串刺しにしよう。」
「生温い。
手足の爪を全て引き剥がして、生きたまま角を引き抜いて火炙りにするべきだ。」
最後のケイジの発言がやけに生々しいけど、
これ以上はまたリィナちゃんが暴れ始めるからそこまでにしておこうな?
この後の未来の展開・・・
イゾルテ・・・化けさせるか。
いざとなったらケイジの土手っ腹に風穴空ける勢いの攻撃力もあるわけだし。