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第六百六十五話 賢王はやり過ごす

賢王と魔王の会談はここまで。

<視点 カラドック>


メリーさんは私の時代から400年後の世界からやってきた。


当然私にとって、衝撃的な出来事や国を揺るがす事件についても知っているのだろう。

メリーさんにとっては何の価値もない昔話であろうとも。


そしてまた、

彼女にとってどんなにつまらない話だとしても、今現在に生きる私にとっては看過出来ない話などいくらでもあるはずだ。


けれど、それに一々・・・

いや、たった一つの小石を投げるような、そんなどうでもいい行為でさえ、

本来の歴史で私が行うはずだった行動と別の行為をしてしまえば・・・


それだけで未来が大きく変わってしまう恐れがあるならば、

どんな恐ろしい話を聞かされたとしても、私は何も聞かなかったことにしか出来ないのだ。


・・・どう考えても私の精神衛生上よくないよ、それは。


私のスルースキルにも限度があるんだぞ。



今ここで出来るのは精一杯の抗議。


 「メリーさん、他にもきっとたくさん、私の耳に入れてはならない話があるんだよね?

 実を言うと私自身聞きたくて聞きたくて抑えが効かなくなりそうだから、未来を変えてはならないとメリーさん本人が警戒するくらいなら、自分でそこは守って貰えないかな?」


見るからにしょぼんとしてるメリーさん。

顔の表情は一切変化ないのに、そんな動きは出来るんだからね。


動きや反応そのものは可愛らしいんだけど、

本当にお願いだからしっかりしてほしい。



 「・・・そう言えばこの話、マルゴット女王には喋ってたわね。

 未来が変わる恐れがある話はカラドックには伝えるべきではないとも言った覚えもあるから、

 その点、女王は配慮してくれていたのね。」


母上・・・じゃなくて女王は知っていたのか。

そんな態度など私には全く見せていなかったものね。

さすが一国を統べるだけのことはある。


 「・・・えーっと」


あっ、いかん、

ミュラをほったらかしにしてしまったな。


 「ああ、済まないミュラ、君の話だったよね。

 さっきはついきつく当たってしまったが、君の身を案じての態度だと受け止めて欲しい。

 私だって君にはこの世界で幸せになってもらいたいと思っているんだ。」


 「ああ、分かっているよ、

 だからカラドック、君の言動に対して反感を覚えるようなことはない。

 単に僕自身がそう簡単に変われるかなって思ってるだけの話だしね、

 そちらのメリーさん?

 人形の話も興味深かったよ、

 なるほど、世界に弾かれた・・・か。

 確かに、前世の僕には僕の存在できる場所なんてなかったしね。」


よかった、とりあえずミュラ自身、どうしなければならないのかは理解しているようだ。


 「後で話す機会はあると思うけど、リィナちゃんはその点で君には協力してくれると思うぞ。

 まあ、これは余計な話だけれども、

 勇者と魔王が手を組んだなんてことになれば歴史的な出来事として未来まで語り継がれることになるね。」


ん?


自分の言葉からではあるけど閃いたぞ。

確かマルゴット女王はこの国を完全独立した王国にのし上げるという野望を持っていたよね。


・・・ならば進む道は見えてきたんじゃないか?


あとで進言してみよう。

あの人のことだから既に腹案を持っているかもしれないけどね。



そろそろこの話はお終いにしてもいいだろうか。

そう言えばミュラは他にも話したい事があると言っていたっけかな?


 「うん、僕も昔のことを吐き出して少しは気が楽になったかもしれない。

 面白くもない話を聞いてくれてありがとう、カラドック。」


 「・・・別にお礼を言われるようなことでもないぞ。

 それでミュラが話したいと言ってたことは君の過去のことと・・・

 もう一つ何かあると言ってなかったっけ?」


 「あ、ああ、そうなんだが・・・」



ん?

歯切れが悪いな。

そわそわ落ち着きなさそうな顔をしたかと思ったら、

ミュラのやつ、私とメリーさんの顔を見比べているぞ?


 「あら、私に何かあるのかしら?」


当然メリーさんだって気づくよね。


 「い、いや、今の話の流れだと口を開きにくいんだが・・・。」


ん?

つまり私の世界についてかな?


 「どうした、ミュラ?

 どうせ話をするのもこれで最後だろう。

 まあ、私達の世界の未来に影響を与えそうな話なら遠慮してもらったほうがいいとは思うが・・・。」


 「う、うん、話は、その、あの、

 リィナのそばにいる狼獣人のことなんだ・・・。」





・・・ケイジのこと、だと?


 「ああ、彼の話なら私達の世界には関係なさそうね、

 なら安心して聞いていられるわ。」



メリーさんには・・・

メリーさんにとってはそうだろう。


けれど。


 「・・・カラドックに聞きたい、のは、

 あの狼獣人の本当の」

 「ストップだ、ミュラ。」


 「本当の、え、あ?」


恐らく今の私の顔はさっき以上に険しいものになっているかもしれない。

けれどそんな懸念は後回しだ。

いま、何より重要なのは、ミュラにその先をいわせないこと。


 「ミュラがケイジの何を知りたいのか知らないが、それなら直接あいつに聞いてくれ。

 この場にいないあいつの情報を、私が勝手に喋るわけにはいかないからな。」


 「い、いや、そうじゃない、カラドック。

 実は麻衣さんからある程度聞いているんだ。

 知りたいのはあの獣人というよりむしろ君の」

 「余計な世話だ。」


 「そう、本当に余計な世話を・・・え、君じゃなくて僕が?」


私はいいんだよ。


 「麻衣さんが君に何を喋ったのか知らないし、私は知ろうとも思わない。

 知る必要ないからだよ。

 ミュラ・・・この私の態度で全て察してくれないか。」


 「・・・まさか、君は・・・」


だいたいミュラが何を聞きたいか想像できる。

けれどそれについて、

私は自分の見解を話すことはおろか、

耳に入れることすら拒絶する。


一度でも耳に入れてしまえば、

私は何らかの動きを起こさなくてはならなくなるからだ。


 「カラドック、君は全て知っていて・・・。」



だから何の話か分からないよ。


 「知らないな。

 知っているのはケイジには何か、守りたいものがあるんだろうってことだけさ、

 なら全力でそれを私も守ってやらないとな。

 それが私の、

 この世界でアイツにできる最後の役目だよ。」

 

 「・・・・・・。」


薄い水色の瞳で私の真意を見抜こうというのかい、ミュラ。


好きにするといい。

君がこれ以上その口を開かないと言うのであれば、私も何も言うことはない。


うん、メリーさんは話についてきていないな。

何の話をしているのかと首を傾げている。


 「・・・はあ、分かったよ、

 まあ確かにこの話は僕の興味本位でしかないからね、

 別にカラドックの意図が分からなくても構わないさ。」


 「ミュラ、察しが良くて本当に助かるよ。」


 「なら、カラドックの言う通り、今度本人に確かめてみるよ。」


 「私がこの世界から離れた後なら好きにしてくれ。

 じゃあせっかくだから、この話を納めてくれたお礼に、君にとって看過出来ない重大な話をしてあげるよ、ミュラ。」


 「へえ、重大な話って?」



私は口元を緩ませる。


 「私の弟、惠介のことさ。」


途端にミュラの顔が凍りつく。

そんなことだろうと思ったよ。



 「カラドック、いいのかい?

 いま、その話を・・・。」


 「何がいいのかどうか知らないけどね、

 実は私の母親、マーガレット同様、惠介の写し身もこの世界にいるのさ、

 偶然こないだの式典で出会ってね。」


 「・・・え?

 こないだ? 式典で?」


よし、これで私の目論みは達せられるな。


 「そう、転生者とかでなく、あくまでこの世界に生まれた惠介だ。

 まあ、と言っても顔が似てるってだけだけどね、名前はモードレルト、

 血縁上は女王の甥にあたる。

 今のところ、女王、そして女王の弟アルツァー、そしてその息子モードレルト、そしてリィナちゃんが、

 私達の世界にいる人間の、この世界での写し身と言えるだろう。」


開いた口が塞がらないとでも言いたい顔だね、ミュラ。


では最後に念には念を入れてトドメを刺しておこう。

・・・私も容赦ないな・・・。


 「それと、モードレルト君は獣人差別主義者らしいから、魔族として生まれた君に会ったとしても良い反応はしないかもしれない。

 ただその上で知っておいた方がいいな。

 どうもモードレルト君も、惠介の影響なのか、初めて会ったリィナちゃんに一目惚れでもしたかのような反応だったよ。」



その瞬間、

この宮殿内に異様な魔力の奔流が吹き荒れる。




その根源は私の目の前にいるミュラからだ。


しまった、

そこまで反応するとは。


 「リ、リナに、一目惚れ、だと・・・!?」


 「い、いや、落ち着いてミュラ。

 その場ではケイジがリィナちゃんを守ったから、な?」


 「そ・・・それって、ケイジが惠介を?

 え? 何がどうなって?」


物騒な魔力は収めてくれたけど、今彼の頭の中は超混乱状態にあるみたいだ。


まあ、許せミュラ。

私はこのまま逃げ出させてもらうからな。



 「・・・私もよく状況が飲み込めないのだけど。」


あ、メリーさんはミュラ以上に理解出来ない話だったかもしれない。


・・・そうだな、メリーさんにはこう言っておくか。


 「つまりね、リィナちゃんに現状、三人の男達が群がっているという構図なんだよ。」


話を単純化するとただそれだけの話なんだけどね。



 「・・・なんて素敵な・・・

 じゃなくて、面倒くさい事態になっていたのね。」


メリーさんの瞳が輝いたように見えるのは気のせいだろうか。


まあいいさ。

なんとかこの場は乗り切ったしね。



ただこの後、女王たちになんと説明したものか・・・。


はあ、まだまだ気が抜けないや。


ツェルヘルミア

「あの子に邪な視線向けてる悪い人はどこにいるのかしらああっ!?」

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