第六百六十四話 うっかりドジメリーさん
現在、VRoidで、こないだシルエット上げたのとは更に別のキャラクターを作成しています。
髪の色で悩んでまして・・・。
<視点 カラドック>
興奮しすぎてしまったかな。
一度落ち着こう。
もちろん間違ったことは言ったつもりもない。
ただ、当たり前の話だけども、
ミュラは私の部下でも弟でもない。
本来私はこんなに偉そうなことを言える立場ではないのだ。
そして当然ミュラだって私の言うことを聞く道理もないだろう。
であるならば、彼はどこまで私の言葉を受け止めてくれるのか。
再び椅子に座り直す。
落ち着いて話をするために。
さあ、ミュラ。
君は私の言葉をどう受け止めた?
「・・・全く、おせっかいなヤツが多いな・・・。」
む?
確かに私自身その自覚はあるけども・・・
「いや、言っていることは分かるよ、カラドック。
僕だって何にも考えてこなかったわけではないからね。
ただ、そんな簡単に生き方を変えられるわけじゃないってのは分かってくれるだろ?」
言葉は・・・届いているのか。
そして本人もそれが分かっているのなら、
これ以上は本当にただのおせっかいということなのか。
ただ・・・
パチパチパチパチパチ・・・
あれ?
意識していなかった方角から拍手が・・・
見たらメリーさんが私の方に向かって拍手してくれていた。
え?
今のやり取りの中で何を?
「素晴らしいお話だったわ、カラドック。
本当にあの斐山優一の息子なの?」
メリーさんが私達の会話に乗り出してくるとは意外だったな。
それこそ私たちの会話が未来に影響を及ぼすかどうか、その一点にしか興味がないと思っていたのだけど。
「メリーさんにも賛同されるとはね、
でも父上とはあまり関係ない話だよ。
そもそも私は幼少期は騎士団の中で育ってきたのだから。」
それにしても前も思ったけど、
どうしてメリーさんは、父上のことを時々斐山優一と呼ぶのだろう。
私の時代の400年後に生きていた人なら、
シリスという名のほうが広まってるはずなんだが。
「ああ、なるほど、
でもごめんなさい?
どちらかというと、今の話を聞いて、私の立場はそちらのミュラ君?
彼よりにあるのよね。」
え?
どういうことだ?
ミュラだって何のことかわかるまい。
ああ、もっともミュラは、メリーさんが何者なのかもよくわかってないかもしれないな。
「もちろんカラドック、
あなたの言ってることは正しいわ。
けれど一度でも自分が世界から弾かれたと思い込んでしまった人間にとって、その考えを受け入れるのはとても難しいことなのよ。」
世界から弾かれる・・・
それは、
確かメリーさんが以前に・・・
「カラドック、彼女はいったい・・・。」
「ああ、私から紹介してもいいんだが。」
そこで私は視線をメリーさんに向けた。
私達の400年後の世界から来たというのは既に話したけども、
どうせなら本人の口から話した方がいいだろう。
「そうね、簡単に・・・いうのは難しいのだけどね、
私は21世紀の時代に生まれた化け物、
斐山優一や朱武達に、何の憐れみも持たれずに殺されたうちの一匹よ。
それこそ、人の愛なんてものは見たことも聞いたこともない、
仲間ですら信じることもない畜生、
その記憶をこの身に持ち続けているの。」
ん?
・・・え?
い、今なんて?
「メ、メリーさん!?」
「あら、どうしたの、カラドック?」
どうしたのって、どうしたのじゃないだろうっ?
「い、いっ、いま、父上や朱武さんに殺されたってのは・・・
そんなの初耳だぞ!?
ま、まさか君はっ!?」
確かに世界樹の洞窟でも人形の身になる前に、別の人生があったというような話は聞いていた。
化け物とか悪霊とかいうワードも出ていたはずだ。
確かに言われてみれば、
その姿が人のものではないというならば・・・
けど父上たちに殺されたなんて・・・
「あ」
いや、あ、じゃなくてさ・・・
メリーさん、思わずやっちゃったとばかりに手のひらで口を覆う姿は可愛いのだけど・・・
「そう言えば黙っていたわね、その話は。
でも誤解しないで?
単純に話がややこしくなるから黙っていただけでカラドックたちに悪意はないのよ?」
それはそうなんだろうけど・・・
ていうか、今の説明でメリーさんの中の人の正体は完全に把握できたよ。
確か、多国籍軍需産業の首魁の一人。
その中でも女性は二人のみと聞いている。
そしてその内の一人が我が最愛の妻、ラヴィニヤの母親だ。
つまりメリーさんの中の人は、残されたたった一人に特定できる。
・・・なるほど、
それもあって私の・・・
正確には父上の子孫たちに執着していたということか。
しかもメリーさんが散々拘っていた黒髪の女の子とは、顔立ちがラヴィニヤにそっくりだという話だし。
そう言えば初めてメリーさんに会った時も、
彼女が父上の日本人名を知っていたことに、私は違和感を覚えたはずだ。
それどころか彼女はラヴィニヤの母親の名前まで知っていた。
然もありなん、
彼女は当時、まさに父上たちと命のやり取りをしていたくらいなのだから。
ミュラは当然驚いているしかないよな。
「・・・続きを話しておくわね。
そしてその後、
時代は400年後、ウィグルから遠く離れた地の辺境伯家の娘がその化け物の記憶を受け継ぎ、二人の人格も混ざり合った。
そしてその娘は斐山優一達に恨みを待つ者たちの計画通り、神聖ウィグル王国国王の妃の地位を手に入れたわ。
とはいえ私自身はそれほど斐山優一を憎んでいたわけではないの。
むしろ、美しくも新しい肉体と最高の権力を手に入れて、どうやってこの世を謳歌しようか、そっちの方に夢中だったのよ。」
「そこだけ聞くと、とても健全な生き方だよね。」
「ええ、ありがとうカラドック。
でもね、ここでミュラ君の話に戻るのだけど、三つ子の魂百までっていうのかしら、
言われてみれば私はその後も誰も信用していなかったわ?
もちろん人を愛するなんてことも。
アイザス・・・ウィグル国王は私の欲望を満たすための道具。
彼の元から逃げ出して・・・
再婚した男とは・・・それこそミュラ君の出会った女性と同じような立ち位置なのかもね、
ともに世界から弾かれた同族意識はあったけども、別に彼のことも愛していたわけではなかったし。」
ああ、メリーさんはミュラの話に自分を重ねてしまったのか。
でも
「でもメリーさんは自分の娘には無償の愛を注いでいたんだよね。」
そうとも。
そこだけはミュラの話とは違う。
決定的に異なる。
「・・・ええ、その通りだわ。
さすがに自分のお腹を痛めた子供だもの。
それが片親なのにあんなにいい子に育ってくれたのよ?
かわいいに決まってるじゃない。」
思わずあの聖女さまを思い出してしまう。
まあ、確かにあんな娘がいたら可愛いに違いない。
ミュラも自分の過去と比べているのだろう。
一つの問いをメリーさんに向ける。
「子供を作るような仲になっても夫は愛せなかったのかい?」
「・・・愛情だとは思えないわね。
私を抱く時、彼はきっと他のことを考えていた。
そもそもあの男にとって、私は性の捌け口ですらない、ただの現実逃避の手段の一つよ。
私とカラダを重ねることで、情けない現実を忘れようとしていたのでしょうね。」
確か、再婚した相手がアスラ王の子孫だといっていたっけ。
「もっとも、それはお互い様なのだけども。」
それで同族意識か。
別にきっかけは何にしても、そこから愛情が生まれることだってあると思うんだけどな。
「まあ、男の話はどうでもいいのだけど。」
あ、もとの話に戻るのかな。
「そんな何十年も拗らせた私でも、
ちょっとしたきっかけで変わることもあるってことよ。」
・・・なるほど。
そこで最愛の一人娘の話に戻るわけか。
子供を愛することがちょっとしたきっかけと言っていいのか分からないけど、この場でそれをあげつらうのも野暮だろう。
「ううむ、子供か・・・、
そうだね、確かに今の話は一例だということなんだろうけど、僕がお腹を痛めることはないだろうからなあ・・・。」
む?
今の話は聞き捨てならないな。
「いや、おかしいぞ、ミュラ。
私の息子だって私が産んだわけではないがメチャクチャかわいいぞ?」
あれ?
ミュラのやつ、笑いながらため息つきやがった。
パチパチパチとメリーさんが再び手を叩いている?
なんで?
「素晴らしいわ、さすがは賢王よ、
貴方はそのまま変わらないでいてね?」
これは褒められたのか、それともバカにされたということなのだろうか?
解せぬ。
「ていうか、今の話をカラドックに聞かせてよかったのかい?
それこそその情報持ち帰ったら未来に変化が起きるような・・・」
そうなんだよ。
なら私は今の話を忘れるという手段しか取れないじゃないか。
ほら、メリーさん?
「お願い、忘れてカラドック」
って、死神の鎌をチラつかせて頼み込まなくていいから!
確かメリーさん、これまでカラドックにバラしていなかったはず・・・
私のうっかり確認ミスでございませんように・・・