表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
659/748

第六百五十九話 思春期の魔王

なんとか更新できました。

<視点 カラドック>


早いもので、私が元の世界に戻る期限も明日までとなった。


これまでいろいろと忙しかったよ。

戦闘行為こそなくなったけど、大勢の人たちとの会見や儀礼、お披露目、パーティーその他諸々。

麻衣さんと別れてからもイベントは目白押しだった。


もちろん私なんかより、女王や宮殿で働くみんなの方が大変だったと思うけどね。


 「この私でも出来ることはあります!

 カラドック兄上様の働きに報いる上でも精一杯お役立ちいたしますわ!」


イゾルテの気遣いが微笑ましい。

実際なんの役職にも就いてないイゾルテでは、出来ることも少ないのだけど、

その場にいてくれるだけでも励みになるからね。


コンラッドやベディベールに至っては、そんな気遣いのセリフを言う暇もなく、あちらこちらへと忙しくなく働いてくれている。


うん、そういった経験や苦労はけっして無駄にならないから頑張れ。


麻衣さんと別れてからの話をしよう。

とはいえ、ケイジやリィナちゃん、タバサにアガサとは今まで同様、共に行動している。


スケジュール管理はマルゴット女王との了承のもと、個別に動くこともあるが、基本このメンバーは常に一緒だ。


もうすぐこのメンバーとは完全に会えなくなるのにね、

最後の最後まで何事もなかったように働かされるのは、政に携わるものらしくて失笑がこぼれてしまうな。



だが、

いかなる時でも気を抜くことなど許されなかったのだろう。

この、いよいよ明日にはみんなとお別れするというそのタイミングで、


グリフィス公国のこのホワイトパレスに、警戒すべき脅威が迫っていたのだ。




 「上空に一匹のドラゴンを確認っ!!

 総員警戒態勢を取れえええええっ!!」


すぐにその情報は宮殿の各方面に共有された。


宮殿を守る兵達は全員武器を取り、

魔術士たちは杖を掲げ決められた配置場所へと向かう。


現状、なんの役職も与えられていないケイジや私も、「蒼い狼」の一団として物見の塔へ対処に向かう。


既にケイジのイーグルアイに頼るまでもなく、

居並ぶ兵士たちの視線で、上空にドラゴンらしき魔物が旋回しているのは確認できた。


だが・・・旋回?




 「・・・こっちに攻撃を仕掛ける意図が見えないな。」


ケイジの言う通り、確かにドラゴンはいるが、

威嚇の声を上げるのでもなく、興奮している様子も見えない。


となると、

この先の話も皆さんは予想出来るだろう。

だいたいにして、ドラゴンといえば心当たりがないこともないからね。


 「あっ、高度を下げてきたよ!」


リィナちゃんが天叢雲剣を持ちながら、この場の全員に聞こえるような大声で状況変化を告げる。


私含めて兵士たちも警戒の色を強めるが・・・


 「・・・あれ、ドラゴンの背に誰か乗ってるぞ・・・。」


やはりこういう時はケイジの目が一番だな。


そして人間が騎乗するドラゴンと聞いて、

ますます心当たりが確実なものとなってきた。



 「・・・なんか叫んでるね。」


そして聴力に優れるリィナちゃんはその声を聞き逃さない。


 「あーあー!

 こちら魔王ミュラ陛下の先触れーっ!!

 戦意はなーしっ!!

 宮殿への着地許可をねがーう!!

 くりかえーす!!

 こちら魔王ミュラ陛下の先触れー!!」



 「・・・あれ、ダンだよな・・・。」

 「声を届けるのに風魔法の使用を確認。

 意外とあの男器用。」


ケイジとアガサの独り言のような呟きに、

そばにいた兵士が周りに情報を伝達する。

案の定、冒険者パーティー「聖なる護り手」のリーダー、ダンだったか。


他の者たちにもあの声は聞こえたろう。

最大限の警戒態勢はその時点で解かれる。

もちろんまだ安心できるかどうかは不明なので、それなりに兵士たちは緊張したままだ。


すぐに情報はマルゴット女王まで伝えられてその裁可が降りる。


兵士たちが並んでドラゴンの着地場所を誘導するのだろう、

その時点で、まるで「了解した」とばかりにドラゴンが一鳴きした。


武装した兵士たちに監視されたまま、

冒険者パーティーのリーダー、ダンは疲れた顔をしながらも、ドラゴンに乗ったまま無事に宮殿の正面側の庭先に着地する。


まあ、争い事にはならないだろう・・・。



 「よぉ・・・、お前らまた会ったなあ、

 全く魔王様も人使い荒いよなあ?

 なんか邪龍倒してからの方がオレら忙しねー気がするぞ?」


私たちとダンが前に会ったのはケイジの誘拐騒ぎの時だったからね。

普通なら顔を会わすどころじゃないと思うのだけど、基本あの件に対してはミュラはノータッチ。

だから気兼ねせずにダンたちをこき使っているということかな。


 「なんか前回よりドラゴンをうまく乗りこなしてないか?

 顔もそこまでやつれ果てたようには見えないな。」


ケイジもあんまり気にしてなさそうだな。

普通に旧知の冒険者と会話しているかのようだ。


 「あー、慣れたっていうか、むしろこいつがオレを乗せるのに慣れてきたってところだろーな。

 あんまり無茶な加速や進路変更とかしないように気をつかってくれてるみてーだ。」


 「・・・それその内、ダンに竜騎士のジョブが追加されるかもな・・・。」


うん?

ケイジはもしかして羨ましいのか?



そんな会話をしているうちに、女王や官僚たちがやってきた。

いくら宮殿内とはいえ、女王もまだ国交も開いてない外国の遣いに姿を見せる必要ないかと思うのだが・・・


うん、今更だね。


 「おお、其方はベアトリチェに仕えておった冒険者よな?

 あの生まれたばかりの魔王、ミュラと言ったか?

 そのミュラの遣いだというのか?」


一応、ダンも相手が一国の女王ということは理解しているようだ。

ドラゴンの背中から降りて、粗野ではあるが形ばかりの礼をとる。


 「あー、ご機嫌麗しく、マルゴット女王陛下、

 実は魔王ミュラ様が、カラドック殿ご帰還前に是非にと会談したいと仰せでして。

 叶うことならば、ただ今上空に控えておりますので、宮殿への立ち入りを許可して欲しいと・・・。

 またマルゴット女王のご都合さえよければ、女王陛下ともお目通り願いたい、とのこってす。」


なんだ、あいつ私を訪ねてくれたのか。

・・・それは嬉しいのだけど。


 「はっ、妾はついでか、

 まぁ確かにカラドックは明日にもこの世界を離れてしまう身。

 カラドックと話をするには今を置いて他にない、ということか。

 構わぬぞ。

 ただ妾も魔王とは話をしたいとは思っていたが、些か急すぎるの。

 此度の話し合いでは何も決めるつもりはないが、それでも良ければ会談の席を用意するとしようぞ。」


良かった、

女王の許可が降りたようである。


とはいえ・・・


あ、確か官僚のバルファリスさんだっけ、

俯いて頭を抱えているよ。


・・・無理もないよね。

女王がさりげなく声を掛けているが・・・。


 「・・・わかっておる、わかっておるとも、バルファリス、

 妾とてここまで急な展開は望んでおらんとも。

 そなたらには苦労かけるのう・・・。」


 「・・・まだ身を隠してお忍びで会談を申し込んでくるならともかく、

 こんな堂々と万人の目に触れるようなかたちでやって来られるとは、

 ・・・他国にどう誤魔化せと仰るのかっ・・・!?」


うん、それは無理だと思う。



 「それにしてもフットワーク軽い魔王だよね?」


兎獣人のリィナちゃんにそこまで言わせるミュラも凄いな。

でもあいつ、そんな忙しないキャラだったかな?



む?

ダンはリィナちゃんにも用があるみたいだ。


 「あー、それと兎の勇者さんよ、

 そのー、なんだ、ミュラ様もはっきりと言ってねーけど、わかるよな?

 あんたとも会いたがってるような口ぶりだったぜ?」


 「えっ? あ、そ、それは・・・」

 「なんだと、あのクソガキっ!?」


相変わらず二人の反応が面白い。

女王ファミリーはこぞって同じ表情を浮かべ、暖かく二人を見守っていた。


ところがタバサとアガサの二人だけは、

何故か私の方にも視線を向けているな?


 「いやいや、カラドックも等しく同じ表情。」

 「うんうん、世界が異なってもやっぱり同じ血族。」


おや、私も女王たちと同じ表情をしていたってことなのかな?




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
表紙
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ