第六百五十四話 ぼっち妖魔はまた負ける
やっぱり少し伸びそうです。
<視点 麻衣>
・・・嘘でしょ。
振り返らなくてもわかる。
声は間違いなくダナンさん。
ただしその気配は一人きり。
花嫁さんのミンミンさんを伴ってる様子は全くない。
二人一緒なら何の問題もなく、お別れのご挨拶でこの場を離れられたのだけど。
・・・こういう時こそスルースキル・・・
無理です。
・・・無理だという理由を考えるとすれば、
あたしの方は強引に気持ちを抑えつけたとしても、ダナンさんの方にわだかまりが残るはず。
後々それがどこかで露呈するのだけは避けたい。
・・・ううん、そんなことはどうでもいいんだよ。
もうあたしはこの世界と何の関係もなくなるのだ。
そんな後先のことは考える必要もない。
単に・・・
あたしの感情が暴れ始めてるってだけのこと。
だからイラつきを隠す事もなくダナンさんに向かって振り返る。
「なんで一人で出て来たんですか!
花嫁さん、ほっといて!!
ダナンさんがこれから大事にしなきゃならないのはあの方でしょう!!」
「あっ、えっ・・・!?」
ホントになんでこんなイラつくんだろう。
ケイジさんがリィナさんの心情に気づきもしなかったあの時と近い気がする。
けど今回はムカつき加減が半端ない。
まあ、それはあたしが当事者のせいだからだろう。
それは分かっている。
ただ、絶対口に出して言えないんだけど、
あとしのことを追って来てくれて、
ホッとしたというか、嬉しい部分もちょこっとあるのだ。
・・・てことはこの不満はあたし自身に対してでもあるのか。
でも目的は忘れちゃいけない。
ダナンさんとミンミンさんは幸せになってもらうのだ。
この場は何事もなく、
ダナンさんにはすぐにターンして式場に戻ってくれないと・・・
けど、あたしもその後の言葉が出てこない・・・
ダナンさんとはにらめっこを続けてる。
早く戻ってもらわないとならないのに。
「ご、ごめん、で、でもこれで・・・
これでサヨナラなんて・・・。」
あ、向こうが反応してくれた。
ならあたしも返すことくらい出来る。
「何言ってるんですか、
あたしはこの世界の災厄を解決して、ダナンさんは綺麗な花嫁さんをゲットして、みんなハッピーじゃないですか。
お互い笑顔でお別れできるのに何が不満なんです?」
「ち、違う!
そんなんじゃなくて!!
お、おかしい、おかしいよ・・・っ!」
ん?
何がおかいしの?
何もおかしくないでしょうに。
「ご、ごめん、僕もこんな状況初めてで、
麻衣ちゃんとまた会えるなんて思ってもいなかったせいもあって・・・
どう言えばいいのか・・・っ」
そこであたしは少しだけ笑みを浮かべることができた。
「それは・・・お互いさま、ですよ。
あたしもダナンさんが結婚するなんて予想もしてませんでしたからね。」
ダナンさんは側で見ててすぐわかるくらいに狼狽えている。
嫌味を言ってるつもりは全くないんだけどね。
ただせめて冷静になって欲しい。
取り乱したままだとこの場を人目に見られた時、まるであたし達が痴話喧嘩でもしてるかのように誤解される恐れがある。
・・・ダークネスかけちゃおうか。
いや、それも良くないよね。
真っ暗にして二人で何やってたんだって言われたらそれこそお先真っ暗だ。
「い、いや、ちがう、そう、そうだよ。」
今の言葉はあたしに投げかけたというより、独り言に近いかな。
自分が何を言うべきか、考えがまとまったんだろう。
「ず、狡いよっ」
は?
意味がわからない。
ダナンさん、挨拶以外ではそんなわけのわからない話をする人じゃ無かったと思うのだけど。
でもいきなり狡いとか言われたら言い返してもいいよね。
「何がズルいんですか?
あたしの何処がズルいっていうんですか。」
別に脅かしてるつもりは全くないけど、
気圧されるように後ずさるダナンさん。
そんなにあたし怖いかな。
「あ、ご、ごめん、この場合、ズルいってのは、麻衣ちゃんと、そして僕も・・・ふたりとも、なんだ。」
うにゃ?
余計に訳が分からないぞ。
「だ、だってそうだろ?
麻衣ちゃんは、僕の気持ちも確かめずに言いたい事だけ言って、この世界からいなくなるんだろ!?
後に残された僕の気持ちは!?」
え、ちょっと待って。
どの口がそんな。
「だから僕も、なんだよ!
麻衣ちゃんが戻ってくることなんかないと勝手に決めつけて!
周りの空気に押されて・・・
そのまま流されて彼女と(いっ!?)」
さいれーんす!
なんて事言い出しやがる。
そこから先は言ってはいけない。
ダナンさんはあたしの虚術のことを知らないから、いきなり音が聞こえなくなって慌ててる。
まあ、声そのものを封じてるわけじゃないから、体の異常でないとは分かってくれるかな。
よし、解除。
「ダナンさん、言葉に気をつけて下さい。
それから今のは一瞬だけ音を聞こえなくしただけです。」
「ま、・・・あ、普通に聞こえる。
麻衣ちゃん、そんなスキルまで・・・。」
「あたしの事はどうでもいいんですけど、
ダナンさん、一つ聞きますね?
この結婚って、貴族みたいにお互いの意志を無視した政略結婚みたいなものだったんですか?」
「い、いや、ち、違うよ、
仕事中に、その、いろいろあって、お互いの気持ちに気づいて・・・。」
うん、そこを突っ込もうとは思いませんからご安心を。
「なら、それでいいじゃないですか。
そのまま花嫁さんを大事にしてくださいよ。
もう二度と会う事もない異世界のあたしのことなんか気にかけてる場合じゃないでしょう。」
「だ、だったらどうしてこの村にっ!
わざわざ僕の結婚式に来たんだよっ!!
そのまま知らないフリして元の世界に戻ればいいだけじゃないかっ!!」
はぁ!?
何言ってんの、そんなのあたしの勝手・・・
・・・あ、あれ?
え、
それって
そう言われれば・・・
い、いや、でもそしたら!!
「嫌ですよっ!!
せっかく、せっかく仲良くなった人たちが幸せになるって分かってるのに、その晴れ姿を見たいって気持ちになるのは当たり前のことですよねっ!!」
「そこに僕の気持ちはっ!?」
えっ
「僕の気持ちが全然晴れてないっ!!
このまま麻衣ちゃんに去られたら、ずっと僕の気持ちは晴れないっ!!
君は気持ちよく立ち去るつもりなのかもしれないけど、
僕は全然気持ちよくないじゃないかっ!!
そんなの、誰がどう考えてもズルいだろっ!!」
あれ、あれ、あれ?
しまった。
忘れてた。
あたしは人と言い合いしたら絶対に負けるのだ。
もちろん、そんな法則や決まりがあるわけではないけれど、大体にして負ける割合の方が多い。
現に今のダナンさんの理屈に反論出来ない。
だって言われてみたらその通りなんだもの・・・。
い、いや、負けるな麻衣っ!!
あたしはやればできる子の筈。
ここから起死回生の一手を
「あたしのことはどうでもいいんですって、
あたしが言いたいのはミンミンさんのことを」
「分かった!
ミンミンは絶対幸せにするっ!
君が心配する必要はないっ!!」
っと・・・
あ、え、と・・・
す、素晴らしく男らしいご立派なお言葉です・・・。
そ、そうだよね、
あたしが花嫁さんを心配するなんておかしいよね?
い、いや、そうでなく
「ち、違いますよ!
なら今のこの状況をどうにかしないとって話でしてねっ!?」
そう、もともとその話をしていたんだものっ!
「・・・なら、麻衣ちゃん、
ぼくにちゃんとお別れの言葉を言わせて欲しい・・・。」
あっ
・・・はい。
なんかダナンさんの言ってることが正しいような気がしてきました。
ダメです。
すいません、やっぱりまた負けちゃいました。
なので、ここから先は皆さん相手にさいれーんす!
い、いえ、隠すような話でも何でもないですよ?
お互い、過去のいろいろ・・・いろいろなことにお礼を言い合ってですねっ!?
お互いの健康と幸せを祈ると言うニュアンスの言葉を掛け合ってですねっ、
はい、そして、
誰からも疑われるようなことのない距離と態度を保ちながらお別れしたのです!!
あとの心配は、式場にダナンさんが戻って、
ミンミンさんに変な疑いを持たれるかどうかだけ。
一応、遠隔透視で視たんですけどね。
ダナンさんは堂々と説明してたっぽい。
さすがに遠隔透視ではミンミンさんの心情は読めないけども、あそこまでさわやかな態度のダナンさんに疑いの目を向けることは困難だろう。
・・・むしろこれで良かったのかな。
中途半端な態度でお別れして、
ダナンさんにもやもやを残したままだったら、
ミンミンさんだとて、何があったのか心配して・・・
うん、考えない方が良さそうだ。
やっぱりあたしが間違ってたのかしらん。
・・・人生、思うようにはならないんだなあ。
またこれで一つ、大人になったんだと思うことにしよう。
さて、その夜のことを書こうと思う。
いえ、特に大した話はありませんよ。
予定通りランプ亭に泊まって・・・
「いとーさまああああっ!!」
ローラちゃんと感激の再会を果たして、
ローラちゃんはお父さんお母さんに休憩もらって、あたしとお食事一緒にお話しして・・・。
まあ、仕事中のお父さんお母さんもその場であたしのお相手してくれてたんですけどね。
さすがの個人経営宿屋。
リッチリッチホテルではこうはいかないでしょう。
その後あたしはすぐに部屋の布団に潜った。
よく考えたらというか、
よく考えなくても眠いのだ。
昨日ほとんど寝てなくて、昼間にダンジョンで仮眠しただけ。
いろいろまたもや考えることがあったかもしれないけどそんな時こそリーリトモード。
そのまま睡眠できるのだよ。
スヤスヤと安眠させていただきました。
ところが朝になったらローラちゃんの目が赤い。
まぶたも腫れている。
どうしたのかと思ったら、
あたしの部屋で一緒に寝たいとか言い出してお父さんたちに叱られたとか。
あああ、それは申し訳ない。
でも、それはさすがに・・・仕方ないよね。
あたしも体力持たないだろうし。
いや、多分それはそれで寝落ちするのも楽しいか。
けれど宿屋を経営するご両親としては、さすがに一線は越えられないよね?
ただこれ以上あたしももらい泣きするわけにもいかない。
ここで最後のプリンを振る舞う。
もう巾着袋の中にプリンは残っていない。
最後だ。
ローラちゃんはプリンと顔をぐしゃぐしゃにしながら美味しい美味しいと食べてくれた。
お父さんたちも涙ぐんでいたけども、
先にお二人とお別れのご挨拶をし、
ランプ亭の外まで出て来たローラちゃんは、泣きながら手を振ってくれていた。
あ、リーリトモードは解いていますけどね、
これ以上あたしも泣くとリーリトとしての沽券に関わりますからね。
とは言え、あたしが泣かないのも一方的に年下の女の子を泣かせてるみたいで良心が痛い。
だから最後に突撃かまして思いっきりハグハグして来ましたよ。
これなら文句はないだろうと思ったら更に泣かれてしまった。
どうしろっていうの。
とりあえずあたしは悪くない。
さあ・・・
気持ち切り替えよう!!
これで後は冒険者ギルドに行って本当に終わりだ。
もう伏線も全部回収・・・
あ、
一つ残ってたな。
一つというか、一人というか。
スルーしてもいいんだけど、
聞けそうだったら聞いておくか。
何しろあたしがこの世界来て、最初の方にこの耳で聞いた話だものね。
それこそ今までスルーしていたのだけど、
最近、思い起こすといくつか不審な点に気づいてしまいましてね。
まあ・・・おそらく、なんだけども。
とりあえず行きますよ!!
冒険者ギルドへ!!
リィナ
「麻衣ちゃん、
・・・ケイジと同じことしてるって自覚ある?」
ケイジ
「あっ、こ、こういうことなのか。」
麻衣
「げぇっ!?
あたしとケイジさんの行動パターンが一緒だとお!?」