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第六百五十二話 ぼっち妖魔は気付く

<視点 麻衣>


終わった。

終わりました。


あたしのイベントは全て終了です。


あとは皆さんにお別れの挨拶をするだけです。


・・・あたしの語りもこれか、次くらいで終わるということ・・・。




リーリトモードはオフにしてしまった。

そのまま明日まで感情をオフにしたままでも良かったのだけど、


あたしの中の何かがそれを拒否したのだ。


だからある程度こうなることはわかっていた。

ある程度、なんだけどね。


皆さんの拍手や歓声の中。

皆さんの視線や興味はダナンさん達とあたしに注がれている。


一応まだ、笑顔はあたしの顔に張り付いたまま。


他の人たちの声に応える余裕なんかないけどね。


でも大丈夫。

人から注目されるのが苦手な女の子をアピールすればいいのだ。

俯きながら恥ずかしそうにケーニッヒさんの隣の席に戻る。


あ、外套回収しないとね!



 「麻衣ちゃん?」


ケーニッヒさんはあたしの様子がおかしいのに気づいたろうか?

出来るならこのままこの場から立ち去ってしまいたいのだけども、さすがにそこまでやったら何があったのか勘繰られるだろう。


隙を見つけて帰るまで、このままやり過ごさなければならない。



ただ自分の感情を甘く見ていた。


さっきっから自分の気持ちがコントロールできない。

ここまで重いものになるとはね。


理由は分かっている。

だって、

もう、あたしの異世界冒険は終わるのだ。

もちろん家に帰りたいのは間違いない。


しばらくマリーちゃんやエミリーちゃんにも会ってないし、

学校のみんなともご無沙汰なのだ。


けど

けれど・・・



この世界で出会ったみんなとはもう会えない。

二度と。



ケイジさんやカラドックさんは彼らの道を歩む。

ご家族と再会して、何の憂いも無くなったリィナさんは、いつまでもあの明るい笑顔を絶やさないでいられるだろう。


女の子なら誰でも羨む美貌とスタイルを持つ、タバサさんやアガサさんの、真顔のままの掛け合いはもう見られない。


人騒がせでやかましかったヨルさんに煩わされる事もない。


ドジで間抜けなゴッドアリアさんの尻拭いをすることもない。


ダナンさんはあたしの知らない女の人と幸せになる。


あたしと仲良くしてくれたみんなとはもう会えないんだ。


今までは、みんなあたしを褒めてくれたりちやほやしてくれた。


でも、

あたしがいなくなって・・・


しばらくしたら・・・


そのうち「あんな子もいたよね」みたいに記憶も朧げになって・・・


あたしの印象も薄くなって・・・


そしてきっとみんなあたしの事を忘れ去ってしまうのだろう・・・。



いやだ。



いやだいやだいやだ。

耐えられない。

さみしい、さびしい、そんなのイヤだ。




 「麻衣ちゃん、どうかしたのかの?」


うっ、いけない。

この場ではなんとか取り繕わないと・・・。


でもなんて?

い、いや、あたしが普通の女の子なら、ここで感極まったっておかしくないはず・・・。


 「あ、ご、ごめんなさい、ケーニッヒさん、

 こっ、これでこの世界で、あたしのイベント最後だって思ったら・・・

 何だか胸が詰まっちゃって・・・」


 「・・・っ」


ケーニッヒさん、あたしに合わせて言葉詰まらせなくていいですってば。



ああ、うん、そうだ。

間違いじゃない。


でも何であたしは、こんな辛い気持ちになると分かっていたのにリーリトモードを解いたんだ。



・・・ああ



そんなの決まってる。

少し考えればわかる事だ。


あたしがさっき自分で答えを出していたではないか。


このお別れの悲しみを無かったことにしたら



肝心のあたしが、

みんなのことを忘れ去ってしまうことになるじゃないか。


強い感情が残っているからこそ、

記憶に強く刻みつけられるのだ。


あたしだってみんなのこと忘れたくなんかない。

いつまでもいつまでもみんなの事を覚えていたい。


でも、だからって、

どうすれば



 「ああ、見つけたぜ、まーちゃん、ケーニッヒのおっさん、

 ようやくエステハンさんに解放してもらえたよっ。」



ベルナさんが来てくれた・・・


これで流れが・・・


 「おお、ベルナちゃん、

 さっき、麻衣ちゃんから話は少しだけ聞いたけども、ラミィと一緒にオックスダンジョンクリアしたのかの!?」


 「・・・いや、いやいやいや、

 あたし達はまーちゃんとラミィっちの後、くっついて行っただけさ。

 それにクリアしたって言っても・・・ねえ?」


 「わしもさっき、衝撃の発表聞いたばかりかの。

 隠しエリアにデュラハンなんて悪夢でしかないかの。」


ベルナさん、何か言いたそうな目でこっち見ないでくださいね。

ちょっとあたしの都合ではあるのだけど、うまく口を開けそうにないし。


 「ああ、詳しくはまた明日、ラミィっちとエステハンの旦那に聞いてくれよ・・・。

 まあ、悪いことにはならないと思うからさ。

 ・・・て、ちょうどアレか?

 まーちゃんが貰って来た薬師の調合釜、ダナン達にプレゼントしたところ?」


ベルナさんが来てくれたおかげで、

あたしに話しかけようとする人はいなくなったようだ。

会場の皆さんの視線は、ダナンさん達本日の主賓に向けられている。


 「そうなるの。

 それよりラミィはこっちには来ないのかの?」


それはやめた方がいい。

絶対に騒ぎになる気がする。

色んな意味で花嫁さんを食ってはならない。


 「ああ、ラミィっちもダナンのことは知ってるって言ってたけど、そこまで深い知り合いでもないそうだしね、

 それにあたしと違って、ラミィっちはまだ仮とはいえ冒険者ギルド職員だろ?

 チョコと一緒に仕事続けるってさ。」


良かった。

これでこの場も何の心配も要らない。



けど・・・


 「あれ・・・?

 まーちゃん、どうかしたのか?」


やっぱりあたしの様子は少し変なのか。

リーリトモードはもう少しだけ続けてた方が良かったかもしれない。


もう遅いけどね。

でも乗り切ろう。


 「ああ、いえ、ご心配おかけしまして。

 今晩でこの世界にいる皆さんと永久にお別れだなーっ

 て思ったら、予想以上にあたしのハートに負荷が掛かりましてね・・・。」


 「・・・まーちゃ・・・んっ」



おっと、いけない。

こういうのって伝染するんだよね。

あたしがいつかの悪霊リジー・ボーデンみたいなことしてどうする。


 「そ、そんなの予想以上なんかじゃなく、当たり前の話だよ、

 まーちゃん、そんな努めて冷静になろうなんてしなくていいんだぞ?」


やめてください、ベルナさん、

あたしをそんな甘えさせないでくださいね。


この場はダナンさんと花嫁さんをお祝いする場なのだ。

あたしが悲しみや辛さをぶち撒ける場ではない。


それに、

今、ベルナさんに甘えちゃったら、あたしはもう感情を抑えられなくなると思う。


だからこの辺でキリをつけよう。


 「大丈夫です、

 皆さんとは改めて、明日ギルドの方にご挨拶に行きます。

 しんみりするとしたらそこでさせていただきますよ。

 ベルナさんもケーニッヒさんも明日ギルドにいらっしゃいますか?」


二人とももちろんだと頷いてくれた。


うん、これで終わり。


結婚式はあらかた全ての予定を終えて、

後はみんなでワイワイガヤガヤご歓談だけだそうだ。



その流れに紛れてあたしは会場をそっと抜け出す。


あたしと話をしたそうな人たちについては、うまくケーニッヒさんとベルナさんが抑えてくれた。

ごめんなさい、あらためて明日お礼言いますね。



まだこの時間なら宿屋のランプ亭はチェックインできる。

こんな辺鄙な村で満室になることは滅多にないと言ってたから問題ないだろう。


万一満室だったら、ラプラスさんが泊まっているリッチリッチホテルに行けばいいし。


もっともランプ亭に泊まりたいというより、ローラちゃん達に会うのが目的なんだけどね。


まさか忘れられたりはしてないと思うけど・・・


このタイミングであたしのこと忘れられてたら

マジで泣くと思う。



・・・ふう、


あたしは会場を出て夜風に当たる。

あたしが来る時騒いでた皆さんはほとんど会場入りしてるようだ。

外にはほとんど人はいなかった。


ちょっと風が出てきてるね。

冬の寒さが身に沁みる。

虚術であたしの周りの空気消しちゃおうか?


でも長時間やると酸欠になりそうだしね。

まあ、ランプ亭までならいいか・・・




と思ってたらあたしを呼び止める声がした。



 「麻衣ちゃん・・・っ!」



・・・バカ。

なんで一人で出て来たんだよ。


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