第六百五十一話 ぼっち妖魔は企む
<視点 麻衣>
さあ、皆さん、いよいよ最後のイベントとなりました。
あたし視点で物語を語るのも間もなく終わるでしょう・・・。
・・・あれ、なんか胸の辺りがズキンと来たよ?
気のせいかな。
危険察知も働いてないし。
え?
元の世界に戻った後のエピソードがある筈?
ああ、多分なんですけど、それを語るのはあたしではないそうです。
誰視点だろうね?
なつきちゃんかな、それとも御神楽先輩かしら?
はたまたマリーちゃんかエミリーちゃんか、
・・・まさか今更パパではあるまい。
とゆーわけで、
気持ちを引き締めて・・・。
あたしはダナンさんの結婚式にやってきた。
日本の結婚式場みたいに受付はいない。
会場をセッティングしてくれてる裏方の人はいるみたいだけど、参加したい方は誰でもフリーパス。
公民館の外では、この暗さにも拘らず、既に「めでたいめでたい」と騒いでる人達もいる。
ご近所さんか職場の皆さんだろうか?
はい、まずあたしの準備です。
高校の制服には着替えました。
胸元におリボンも装着済みです。
外套を羽織ってる上にフードで頭も隠しています。
腰にはお馴染みの巾着袋です。
・・・これも今晩でお別れだね。
明日、ラミィさんにお渡ししましょう。
さて、会場に入る前、
あたしは遠隔透視を起動する。
うんうん、真正面の舞台の奥に正装したダナンさんと花嫁さん、
確かお名前はミンミンさんだっけ。
舞台の端におじいちゃんがニコニコしながらお話してるね。
村長さんか医療ギルドのお偉いさんかどちらかというところか、お祝いの言葉を述べている雰囲気。
うん、このままこっそり入ってもいいのだけど、その前にあたしは人探しをしないといけない。
確か既に会場入りしてるはず・・・。
見つけた!
ケーニッヒさんである。
結構前の方に陣取ってるな。
ダナンさんとケーニッヒさんは、
個人的にはそれほど親しい関係ではなかったかと思ったけど、冒険者ギルドの代表としてオフィシャルな身分で来ているのかもしれない。
よし、
あたしの行動は決まった。
扉を開けてこっそり入る。
皆さんそれぞれ椅子に座っているみたいなので、壁際に乱雑に置かれている椅子をあたしも勝手にお借りする。
まあ、誰に文句を言われることもないでしょうと。
あたしは「ごめんなさーい」と腰を低くして小声で皆さんの側を通り過ぎる。
特に奇異な目で見られることも・・・
いや、フードで頭隠してるのは変な目で見られたかもしれない。
ケーニッヒさんの左右は少しばかししか余裕はないな。
あたしはまたも小声で、
「すいません、少し詰めていただいてよろしいでしょうか?」
と頭を下げる。
ケーニッヒさんは誰が来たのかと訝しがっているね。
よしよし、ここでフードを取ろう。
「お久しぶりです、ケーニッヒさん。」
「お、おわっ!?」
おお!
糸目のケーニッヒさんの目が見開いた!!
「ま、麻衣ちゃん・・・かの!?
い、いったいどうしてまた・・・!?」
ふっふっふ、驚いてくれやがりましたね。
サプライズ第一弾成功です。
「おかげさまで明日には元の世界に戻れるんですよ・・・っ。
そ、それで出来る限り、それまでにお世話になった皆さんにご挨拶を・・・。
あ、もう冒険者ギルドには顔出してますんで。
そしたらびっくりしましたよ、
ダナンさんが結婚するっていうじゃないですか。
なので取るものもとりあえずここに来た次第なのです。」
うう、
なんかまた口を開いた途端、胸が締め付けられるような・・・。
いや、これは病気とかではないと思う。
とりあえず今の所なんの問題もない。
それとよく考えたら取るものは取ってきたよね。
「びっくりしたのはこっちかの・・・!
いや、でも本当にいいタイミングかもの。
後でダナン殿に会ったら思いっきりびっくりさせるとええの。」
「ケーニッヒさん、随分前の方にいると思ったんですけど、何か祝辞でもあげるんですか?」
「うん、一応、冒険者ギルドの代表として来てるかの。
スピーチ苦手なんじゃけども。」
と言いつつ卒なくこなすのがケーニッヒさんなんだよね。
「あ、そ、それじゃあ一つ厚かましいお願いしてもいいですか?」
「厚かましいお願い?
麻衣ちゃんがかの?
やれやれ、・・・なんか分からんけどわしが断れそうにはなさそうじゃの。」
「ああ、そんな難しいお願いではなく、ちょっとしたサプライズを演出したくてですね。」
別にもったいぶることもなく、
簡単にあたしはこの後の予定をケーニッヒさんに説明する。
そしてケーニッヒさんの快諾をいただいた。
そこで再びあたしはフードを被り直す。
ケーニッヒさんのスピーチが始まるまでに一応これまでの経緯をお話して・・・
ああ、あたしも喉とか乾いちゃってましたので、話をしながらお飲み物をいただいたいます。
お酒?
そんなの飲みませんよ。
未成年ですからね!
おっと、そうこうしているうちにケーニッヒさんの出番がやってまいりました。
「ではあとは任せるかの!」
相変わらず頼もしい人である。
さて・・・
久しぶりに見たダナンさん、
ところどころスピーチしてる人にイジられて恥ずかしそうにしてる時もあるけど・・・
もともとガタイもいい人だし、パリッとした花婿の格好は見違えるようだね。
隣のミンミンさんも光沢のある花嫁衣装に包まれてとても綺麗だ。
・・・うん、
幸せそうだ。
ここに来れて良かった・・・。
一方、ケーニッヒさんは冒険者ギルド代表として、
医療ギルドと、今後も持ちつ持たれつお互いの発展をなどという形式的なお話をした後、
ニイィイという嫌らしい笑みを浮かべてくれやがりました。
「さて、これで冒険者ギルドの仕事は終わったかの。」
この場の締めくくりの言葉としては不似合いなセリフに、ダナンさんも会場も空気が変わる。
「本来ならわしもここで席に戻らせてもらうんじゃけど、ちょっと予定外のことが起きての。」
おっとザワザワしてきましたよ。
まあ、ケーニッヒさんが悪代官みたいな笑みをしているので何事かと思われたんでしょうね。
「皆さんもちょっと前のスタンピードは忘れておらんじゃろうけどの、
幸いにしてこの村の被害は最小限に済んだしの。
もちろん、村中あげてスタンピードの魔物に対処したとか、医療ギルドの皆さんも力を尽くしてくれたとか色々あるがの。
さてダナン殿、今こうしてめでたい式が行われる幸運は誰がもたらしてくれたかと思うかの?」
うん?
ケーニッヒさん、もしかして話を大袈裟なものにするつもりじゃなかろうな?
「そ、それはもちろん冒険者ギルドの皆さんのおかげで・・・」
ダナンさんの声も懐かしいな・・・。
うん、話の流れ的にダナンさんがそう解釈しても仕方ないよね?
でももちろん、ケーニッヒさんがそんな恩着せがましいお話をする筈もない。
「いやいや、恥ずかしながらわし含めて、冒険者の戦力的にはまったく足りてなかったかの、
本来であれば村が全滅してもおかしくなかったのだの。」
「あ、なら、そ、それは彼女の・・・
あの新しく冒険者ギルドに採用された・・・」
うん、彼女といえばラミィさんだよね。
ダナンさんはラミィさんのこと知ってるけど、いろんな意味でこの結婚式に彼女を参加させなくて良かったと思う。
「ううん、それも間違いないんじゃけどの、
ラミィが助けてくれたのはこの村だけなのかの。
まあ正解をバラすんじゃけど、実はこの村どころか、この国、この世界全てを救った者が、今この式場にきているのかの。」
ケーニッヒさん話を盛りすぎ!!
ほらぁ! 式場中騒ぎになっちゃったじゃないですか!!
ああ、ケーニッヒさん、構わず話を続けてる!
「皆さんも伝説くらいは知っとるじゃろう、
邪龍というとんでもない化け物の復活が原因で、あのスタンピードは起きたことかの。
その邪龍をこの世界の勇者が討伐したおかげで平和を取り戻したわけじゃけど、
なんと!
その勇者パーティーに参加して邪龍の息の根を止めた英雄が、今この場にいるのかの!!」
ああああああああああ!
あたしが息の根を止めたわけじゃないのにいいいいい!!
ええい、やりゃあいいんでしょ、
このノリに乗っかりゃいいんでしょう、
望むところですよ、
このノリでダナンさんを祝福し切ればいいんですよね!
やってやりますとも!!
あたしは立ち上がる。
フードは被ったまま。
当然ダナンさんからも花嫁さんからも、
席の皆様からも注目を浴びる。
ケーニッヒさんは壇上からあたしに向かって手を差し出す。
「勇者パーティー『蒼い狼』のメンバー、
この世界とは異なる世界からやって来た召喚士にして巫女!」
ケーニッヒさんの言葉に合わせて外套を外す。
「かつてこのカタンダ村で冒険者デビューを果たした女の子・・・!」
その外套を宙に向かって放り投げてやりました!
え?
人の上に落ちたら迷惑だろうって?
なら無重力かけとけばいいでしょう!
後でちゃんと回収しますよ!
そしてあたしの顔と黒髪が衆人の目に晒される。
ふふふ、あたしと視線が合いましたね、ダナンさん。
驚いてる驚いてる。
周りからもあたしの顔を知ってる人もいるでしょう。
方々から驚きの声が上がる。
「ご存知!
異世界からやってきた黒髪の女の子、
伊藤麻衣ちゃんだの!!」
さあさあ、あたしの最後の晴れ舞台だよ!
もうすぐ麻衣ちゃんの出番が終わる・・・
短ければ後二話、
字数が伸びれば追加でもう一話、くらいかな・・・。