第六百五十話 ぼっち妖魔はダンジョンを後にする
ニコ動が大変なことに・・・。
<視点 麻衣>
「はい、じゃあ、お洗濯あんどシャワー!!
カリプソ君は後でアースウォールの外からファイアーウォールお願いねー、
あたしが風魔法で熱風乾燥するからー。」
「いえす! らみたそ!!
あなたの為なら喜んで!!」
あたし達は無事に一階まで戻ってきましたよ。
水場のあるセーフティゾーンで行軍で付着した汚れや汗を流してもらう。
まあ、冒険者ギルドに戻ってからやってもいいんですけどね、
ここでラミィさんとカリプソさんの魔法で何とかしてもらうのが一番手っ取り早かった。
最初に女性チームでまとめてシャワー、
リカルドさんにお外の警戒をしてもらう。
この辺りで脅威になる魔物なんていないんだけどね、
他の冒険者からの覗き見行為を防止するために。
水魔法ででてくるお水は周囲の気温に準ずるらしく、結構冷たかったけど、すぐ側に火元があるのでどうにかこうにか。
全ての属性を使えるアガサさんなら、火術と水術を融合させてお湯も出せたかもしれない。
あとこの辺りは地上に近い分、酸欠になる心配もないと思う。
女性陣が終われば男性お二人。
まあ彼らはそこまで念入りに体洗う必要もなかったようで、それほど時間もかけずにすぐに出てきた。
あたしの場合、この後ダナンさんの結婚式だからね。
ある程度身綺麗にしておかないとならないのだ。
・・・あ!
そう言えば結婚式に着てく服は!?
と一瞬悩んで高校の制服でいいかと思った。
首元にリボンタイ着ければそれっぽくなるかな。
式場までは今の外套でいいだろう。
「じゃあ、あたしとベルナさんとでギルドへの報告済ませておくわー、
どうせ麻衣は隠しマップ発見の褒賞なんて要らないでしょー?」
そりゃあねえ、
明日には元の世界に戻るのだし。
「ええ、その辺りはベルナさんとブラックファングの皆さんで分けてくれればいいですよ。
後出来ればあたしも冒険者ギルドに顔出そうとは思ってます。
ただそれが今夜になるか明日の朝になるかは分かりませんけど。」
宿の手配してないんだよね。
結婚式が早く終わればランプ亭に泊まってもいいのだけど、
遅くなりそうだったらチェックインできない。
その時は冒険者ギルドのロビーで寝かせてもらうつもりだ。
女の子一人で危ないって?
ふくちゃんに番してもらうから平気ですよ。
え?
一晩召喚魔力持つのかって?
ああ、
確かめてないんだけど、
ふくちゃん、この村周辺を棲家にしてる筈なんだよね。
たしかそんな設定だったはず。
うん、そういうことにしておきましょう。
だから召喚術ではなく、普通に呼べば森の中から来てくれるのだ。
さてさて。
「そ、それじゃああたし達はこれで・・・
麻衣さんには貴重な経験をさせていただいて・・・
それとあたし達ほとんど何もしてないのに隠しマップの褒賞金とか・・・
もう何と言っていいのか・・・」
アミネさんの顔が複雑そうだ。
言いたいことは分かる。
あたしに感謝してるのは間違いないんだろうけど、常識ハズレの展開ばかり目の当たりにして、現実に起きたことだと飲み込めないんだろうね。
「いえいえ、トラップ解除とかとても助かりましたよ。
・・・いろいろ大変だとは思いますけど、めげずに元気でいて下さいね。」
瞬間あたしの視線が左右にぶれる。
その意味はアミネさん自身わかる筈だ。
「・・・はい、本当に。
これからよく身の振り方を考えます・・・。」
一応、他の二人の男性は子供の頃からお互いを知っている幼馴染みだそうだ。
ならあたしがとやかくいうべきことの程でもないだろう。
・・・ケイジさん、これが現実なんですよ。
あなた達の場合は特殊なケースだと理解してくださいね?
「オレ的にはあのデュラハンに稽古つけてもらいたいんだよな。」
リカルドさんは全く警戒していないのか。
確かに先程、西の人限定で効果のある必殺技を教えたけど、実力に大きな差があるのに相手してくれるかな、あのデュラはんさん。
「気持ちは分かるけど、自力でダンジョン最下層まで行ける実力ないと無理よー?」
だよね?
ラミィさんの言う通り、そこに着くまでが大変なのだ。
あたしやラミィさんのようなチートを当てにしてはならない。
「そっ、そうか、そうだよな・・・。」
肩を落とすリカルドさんを見て、
アミネさんもため息をついた。
大変だね。
「オレはらみたそについていくからな!」
・・・もう好きにすればいいよ、カリプソさん。
「あー、別に今夜急いでする話でもないんだけどさあ。」
お?
ベルナさんか何か閃いたのかな?
「いや、ホントに大した話じゃないんだけど、
さっきラミィっちが面白い話したろ?
このカタンダ村の村おこしになりそうなヤツ。
まあ、あたしも上手く考えらんないけど、
チョコにしろ、ケーニッヒのおっさんに考えさせるにしろ、なんかアイデア出たら忙しくなるよな?
ブラックファングのみんなは、その手伝いしてくれるとあたしらも助かると思うんだけどな。」
おお!
それはいいアイデアだと思うな。
じゃああたしもなんか言っておくか。
「最下層まで安全に行けるシステムが出来たら、冒険者を目指す子供たちにデュラはんさんから戦い方を教えてもらうってのも良さそうですね、
戦闘力最強の魔物から剣や槍を教えてもらうって凄いことになるかと思いますよ。
あの人、子供にウケそうだし。」
あれ?
ラミィさん以外、みんなとんでもない人でも見るような顔になってしまった。
「なんてことを・・・と言おうと思いましたけど、麻衣さんがいうとそれもアリなのかと思ってしまいますね、
・・・何も考えてないリカルドとは違いましたね・・・。」
どうもアミネさんは、
あたしの発案を聞いて、あたしとリカルドさんを同列に置いてしまったようだ。
けれどすぐに気づいたとおり、
あたしの場合、ダンジョン最下層までかなり楽に行けるというチート前提ですからね。
だからまあ、
あくまでも最下層まで安全に行けるという保証が出来てからのお話です。
ちゃんとあたしも分かってますよ。
とゆーわけで、あたしの最後の冒険はおしまいだ。
デュラはんさんから手に入れた引き出物を持ってダナンさんの結婚式へと向かう。
外は結構暗くなっている。
夕方五時を過ぎた頃だろう。
結婚式そのものには遅れても仕方ないと思っている。
そもそも飛び入り参加するつもりなのだ。
まあ、さすがに愛を誓う儀式真っ最中には行きませんよ。
ちゃんと空気は読むつもりです。
間違っても「ちょっと待ったあ!」とか
「話は聞いた!世界は滅亡する!!」なんて叫んで乱入するわけがありません。
しないからね?
結婚式は村の寄り合い公民館で行われるという。
一応ちゃんと屋内だよ。
狭い村だからあたしだって以前行ったこともある。
さあ、ちゃんとダナンさんは花婿ムーブ出来ているかな?
また訳の分からない意味不明な挨拶しちゃったりしてないだろうか?
・・・やってるだろうな、
まだレパートリー残ってるかどうかは知らないけども。
そしてあたしは一人、
ダナンさんの結婚式場へと向かう。
・・・覚悟は出来てるぞ。
今の精神状態はリーリトモード。
あたしは全ての感情をオフにするのだ。
上辺に祝福の笑顔を貼り付けて。