第六百四十八話 ぼっち妖魔は交渉する
<視点 麻衣>
なるほど、今回はこういうオチか。
落とし穴はないと思うけどあたしの中で何かがストンとハマった。
いわゆる魔物に分類される人たち、
まあ、今回は魔族の皆さんは置いておこう。
考えてみたら、ラミィさん、吸血鬼エドガー、鬼人さんやら竜人ゾルケトフさんや、
分類が未だにわからないけど自称悪魔の皆さん、
ああ、あと土に膝から下を埋めた妖精っ子がいたっけ。
会話は皆んな出来るけど性格も立場もバラバラだった。
当たり前だよね。
全員が全員、人間皆絶対殺すマンのわけもない。
中には交渉したり仲間にだって出来る人もいるのだろう。
もちろん油断を誘ってこちらを騙そうという人もいるかもしれない。
そこはさすがのあたしも警戒しときますけどね。
でも多分この人は安全な気がする。
相変わらず兜の下がどうなってるのかよく分からないけども。
「ま、麻衣さん、危険ですよ!!
喋り方だって怪しさ満点だし、し、しかもそんなふざけた理由で首だけこんな所に転がってるなんて!」
まあ・・・アミネさんのいうことももっともだとも思うのだけど。
たぶん、「魔物」に関してはあたしの方が詳しいと思うんだよね。
「アミネさん、心配いらないですよ。
少なくとも現段階で悪意はこの人なさそうなんで。
・・・ただ、絶対にこちらから攻撃はかけないで下さい。」
「そ、そんな、意味が分かりません!!
どうしてそんな!!」
うーんと、どう言えばいいんだろう。
あたしの能力を信じてくれと言っても説得力ないものねえ。
そう思ってたらラミィさんが助け舟を出してくれた。
「あたしも麻衣の意見に賛成かなー。」
「そ、・・・それはラミィさん、あなたも・・・」
そこから先は言っちゃダメだよ、アミネさん。
まあ、ラミィさんは魔物と言われても気にしないかもだけど。
「ううん、そういう話じゃなくてー、
この生首の人はあのデュラハンの頭部分。
もしここでこの生首倒しちゃっても、体の方が無事だったら?
あたし達にデュラハンを倒す実力はないのよ?
それこそ八方塞がりじゃなーい?
ならここで仲良くなってた方がいいわよ。
あたし達と戦う必要なくなるんだから。」
おお!
さすがのラミィさん!!
もやは後光が差して見えるほどだ!!
確かに生き物なら頭潰せば終わりだけど、
命のないはずの魔導体や不死体の場合、
それで活動停止する保証がないのだ。
そして生首さんもあたし達の事情を察したらしい。
「ああ、わいのカラダ部分に襲われたんかあ、
そりゃあえらいすまんなあ。
けど一応わいも裏ボスの仕事就いとるんで、カラダの方も侵入者見つけたら問答無用でしばきにかかってもしゃーなかろ?
まあ、目も口もないさかい、さいしょっから問答できんけどな!! でゅはははっ!!」
うん、まあそれはそうなるよね。
でもそうすると・・・。
おっと、
ベルナさんも何かあるのかな?
「ちょ、ちょっと待って、まーちゃん!!
そしたらこの生首、元の体に戻してってことなんだろうけど、ダンジョンボスに違いないなら、どうしたって戦闘になるんじゃないのかい!?」
あたしに聞かれてもなあ。
とゆーわけであたしは視線を生首さんに向ける。
空気は読んでくれるだろう。
「あー、そーゆーことならなー、
君らがどーしてもこのダンジョンクリアしたいっちゅーなら確かに戦闘になるで?
しゃーないわいな、わいも消滅したくないしな?
けど、このまま外に戻るっちゅーだけならわいも後追いせんで?
ならお互いハッピーハッピーちゃう?」
ああ、やっぱりうりぃちゃんとはイントネーションも話し言葉も少し違うね。
文字だけだと分かりにくいと思うけど。
まああたしもあまり西の方の人と知り合いいないし。
とはいえこれで問題解決だよね?
あたし達がこの生首さんを持ち運んで、さっきのデュラハンの所に届ければいいだけだ。
ところが、
ここで不満を口にする方がお一人。
「ちっちっちー、
それだけじゃダメよー、
あなたあたし達に助けて欲しいんでしょー?
なら対価を貰わないとー、
タダで助けて欲しいなんて虫が良すぎると思うわよー?」
お!
ラミィさんが強気に出た!!
大丈夫かなと思ってたら、ラミィさんはあたしにウィンクしてる。
あ、これあたしの為か!!
なら乗っかっちゃいますね!!
「そう言われればそうですよね、
この生首さん、あたし達が手助けしてあげないと、この後何百年何千年とここで転がり続けるしかないんですもんね、
あたしならそんな孤独絶対に耐えられなくて気が狂っちゃいますね。
それを助けてあげられるんなら、誠意を見せてくれたっていいですもんね!」
ベルナさん達がそんな強気でいいのかと心配してくれるけどここは突っ切りますよ!!
「ぐ、き、君ら交渉上手やな・・・
ええで・・・、
うーん、ならどないしよう?
わいの持ってるドロップアイテムリストの中から一つ、
あ、でも流石に大当たりの最高級アイテムは堪忍してな!?
わいが討伐されたわけでもないのに、最高ランク品は渡せられへんさかいにな!」
なるほど、話は全て分かった。
ここから先はあたしの独壇場で
構うまい。
あたしの名前は
いとうまい。
え?
だれがうまいこと言えと?
ごめんなさい、うまくありませんでした。
そう、それはどうでもよくて、
あたしは両手を上げて皆さんにアピール。
そのまま生首さんの元へ向かう。
「デュラはんさん、デュラはんさん。」
「おう!
なんや、かわいいおじょーちゃん!!
ああ、それとなー?
はんでもさんでもえーけど、
敬称はかぶらせんでええからな!」
ああ、かぶっちゃうのか、
そう言われるとそうだよね。
とりあえず本題に入ろう。
「それで、ものは相談なのですが・・・。」
そしてあたしは交渉を始める。
このダンジョンに来た目的は、
あくまでダナンさんへの婚礼の引き出物目当て。
魔物討伐にもレベル上げにも興味はないのだ。
そしてあたしは見つけ出す。
ダナンさんへの贈答品に相応しいアイテムを。
「分かりました!
それを頂けるなら首のあなたを責任を持ってカラダの元へお連れします!!」
「おっしゃ!! 交渉成立やな!
・・・はああ、やっとかあ〜、
もうほんまに地獄やったわあ、
だぁれもここに来んし、周りの景色もなんも変化ないしなあ〜、
ああ、元に戻ったら何しよう?
今度はわいの頭使ってゲートボールでもするかなあ?」
どうしても転がりたいのか。
それだとすぐにまた、カラダと離れ離れになるのではないかと思うのだけど。
まああたしが気にすることではないね。
それと・・・
「ちなみになんですけど、ドロップアイテムの最高ランクって何が貰えるんですか?」
特に聞く必要なかったんですけどね、
ほんの少しの興味で。
ただそれは恐ろしいまでの禁忌だった。
「ああ、それはな?
◯もののやりゆーてな?
ちょいと呪い、はいっとったかな?
それを振るうと髪が長く伸びるゆーおもろいもんや!
何でも殺された家族の復讐のために造られて、若い妹はんを人身御供にして、槍を作ったおにーちゃんもそのまま槍に取り込まれて魔物を殺しまく」
「あ、それ以上言わなくて大丈夫です。」
あたしはニッコリと微笑む。
それは絶対にダメだ。
このデュラはんさんを討伐してはならない。
誰が何と言おうとも絶対にだ!
次回でデュラはん編終われるかな?