第六百四十六話 ぼっち妖魔は出会う
前回のあらすじ
もし家電リサイクル法が家電リユース法だったらもっと大変なことに・・・。
あ、ついに椅子を買い替えました。
長年愛用していたロッキングチェアは粗大ゴミに・・・。
<視点 麻衣>
「あたしも危険は避けたいんだけどさ、
か・・・仮にもう一度戦闘になったら本当に勝ち目はない?
まーちゃんやラミィっちが全力を尽くしても?」
ベルナさんが縋るような目でこちらを見てくる。
アミネさんやリカルドさんも一緒に。
カリプソさんの目はまだおかしい。
ラミィさんを崇めるような視線だ。
いい加減にしろと言いたいけども、それは放っておこう。
「あたしの槍も壊されちゃったしねー、
デュラハンには光魔法以外ほとんど効かないからあたしの手持ちの術は役に立たないわよー。」
物理的な威力という意味では、
土魔法も氷魔法も通じるそうだ。
けれど、それだったら槍の攻撃の方が威力は高いと思う。
まあ、砕かれちゃったけども。
アミネさんがいいアイデアでも出たのか、ぎこちなくもパァッと明るい顔をする。
「あ!
じゃ、じゃあそれこそ、さっきのドロップアイテムを装備して・・・。」
リビングメイルが落とした水属性の短剣かあ。
ううーん、あれだけじゃなあ・・・。
「しないよりマシってだけよー。
それこそあんな鎧に短剣なんか通じないわ。
魔法にしたところで、多少水属性を強化したところで、
せいぜい体勢崩すくらいよー。」
「あ、ああ、そ、そうですよね・・・。」
いいアイデアかと思ったのにって顔だね、アミネさん。
すっかりしょげちゃった。
「けど・・・まーちゃんも、
いや、まーちゃん、またっていうか、少し余裕ありそうかい?」
あたしが落ち着き払っていたせいか、
ベルナさんがあたしに期待の目を向けていた。
別に余裕あるってわけじゃないんだけどね。
どうしようか悩んでいるのは確かだし。
「うーん、奥の手と言われればないこともないです。」
「おお!」とばかりに全員の視線があたしに集中する。
「やっぱりあの状態異常かける必殺技ですか!?」
あれが決まればいいんだけどね。
「アミネさん、さっきも言いましたけど、あれは多分ほとんど効かないと思います。
過去に何度かあの術を使いましたけど、
いわゆる真のボスに相当するような相手には、7回のうち一発決めるのでやっとでした。
それが決定的に効果のあるものならしめたものなんですけどね、
まあ、やれと言われればやりますけど、あたし自身が期待できると思っていません。」
確か執事魔族さんが呼び出した悪魔にレベルダウン一発、
吸血鬼エドガーに酩酊、
魔人ベアトリチェさんに・・・妊娠・・・
あ、あれは何となく作為的な雰囲気を感じるけどね。
それ以外はほとんど気休めみたいな効果だった。
「じゃ、じゃあ一体?」
そこであたしはアミネさんからラミィさんに顔の向きを変える。
ラミィさんもそれであたしの意図に気付いたようだ。
「あー、麻衣がなにしたいか分かっちゃったー。」
ふふふ、さすがラミィさんには分かっちゃうだろうね。
・・・でも。
「あたしがみなさんに提示できる奥の手、
それはラミィさんをあたしの召喚術で戦闘の場に呼ぶことです。」
みんな、あたしの言葉を聞いて、
一度、喜びかけて、
すぐに混乱と疑問の表情を浮かべた。
うん、意味が分からないって顔だよね。
まあ、召喚術のことを詳しく知らないと分からないだろう。
特に、今この場にラミィさんがいるのに召喚術使うってこと自体が理解出来ないのかもしれない。
「契約している魔物を召喚術で呼ぶと、召喚者のレベルに応じて、その魔物のステータスに多大なボーナスが加わるんですよ。
今のあたしならラミィさんをガッチガチに強化できると思います。」
途端に色めき立つみなさん。
でもね、なんだよ。
「ただ麻衣の言うとおりだとしても、それでも勝ち目薄いわよー。
何しろ武器だって心許ないしー。」
そう、たとえ能力的に追いついたとしても、
向こうは戦闘のプロなのだ。
それに武器だけの話でもない。
鍛え抜かれた技が違う。
亡者なんだろうが死者だろうが、騎士として身につけた技能には、荒野の魔物であるラミィさんなど及びもつかない。
「あとはスネちゃんやふくちゃんを総動員してなんとか・・・ってところでしょうね。
そこまでやって善戦できるかと。
それでも倒し切れるかというと自信ないんですよね。」
「うう、じゃあやっぱり逃げ出す手段を考えた方がいいんですね・・・。」
当然だよ。
圧勝できる自信があるならあたしも戦ってもいいと思う。
けれどこのメンバーでは無理だ。
何より回復職がいない。
大きなケガをしたら誰も治せないんだよ?
血生臭い展開はないと決めているのに、前言を翻すことになってしまう。
「だからせめて他の手段を」
と言いかけてこの部屋を見回した。
何かないかと思って。
いきなりデュラハンと出くわしたのは肝を冷やしたけども、現時点では誰も大怪我していない。
つまり今もなお「血生臭い展開」にはなっていないのだ。
なので他にこの場を切り抜ける手段がある筈。
あたしが落ち着いてるように見えるとしたら、それが原因というか根拠というか。
けれどこの場に何もあるわけはない。
ただ、
例えば、また別の場所に転移する魔法陣くらいあったっていいんじゃないかと思って。
ん?
と思っていたらなんだ、あれ?
何もないと思ったのになにか転がっている。
けれどこの距離じゃなんだか分からない。
他に何もない部屋の向こうの隅の方に、
何かがポツンと落ちているという違和感。
ゲームかなんかなら、宝箱とか何かが入ってるツボとかなんだろうけど、そんな大それたものという雰囲気ではない。
あたしが怪訝そうな顔してるのにみんなも気付いたようだ。
一斉にこの広い部屋の隅の方に視線を向ける。
とはいえ、みんなだって何が落ちてるかは分からないだろう。
視力強化のスキルを持つケイジさんがここにいたら、すぐに見極めることは出来たのだろうけど。
少なくとも武器には見えない。
砕けたラミィさんの武器の代わりが出来たなんて、都合のいい話はなさそうだ。
サッカーボールくらいの大きさ?
もっと大きいかな?
ただ、
さっきはみんなも何かは分からないだろうとは書いたけども、
大自然の中で生きてきた妖魔のラミィさんの視力だけは、あたし達より遥かに高性能だったようだ。
「なにあれ、人のあたまー?」
は? あたま?
なんでそんなもの床に転がっているの?
「え? ラミィさん、どういうことです?
人の生首が落ちてるってことですか?」
さっきのデュラハンに殺された冒険者の成れの果てだろうか?
いや、でもここまでやってこれた人たちなんてこれまでいなかった筈。
それともたどり着くことは出来たけども、
隠し通路のことを地上に知らせることも出来ず、ここで息絶えたということなのだろうか。
「ううーん、生首っていっていいのか、中身の詰まった兜って言えばいいのかしらねー?」
ええっ!?
いや、ていうか・・・
あたしもそこまで言われて気付いた。
魔物というか霊的反応というか・・・
危険はそんなに感じないけども・・・
あれ意志があるよ。
すなわち生きている!?
その瞬間、
ヤツはゴロンと首をこちらに向けたのだ。
「おおおおおお!
ついに冒険者がここまで来たんかあ!!
首を長うしてまっとったんやああああっ!!」
へっ?
ぎゃあああああっ
なま首がしゃべったあーっ!!
いぬ
「姐さんっ!?」
うりい
「うちのわけなかろうがっ!!
不死身のおんどれと一緒にすんなやあっ!!」
いぬ
「あ、あのっ、おいらも首切断されたら死にますよっ!?
ちよ、姐さん、まさか試そうなんてしてないですよねっ!?
なんですか、そのバカでかい肉切り包丁はっ!?」
麻衣
「ちなみに最後のは男の人の声でした。」