第六百四十四話 ぼっち妖魔は転移する
伏線回収っと。
<視点 麻衣>
「隠し通路!?
それじゃあ何かい?
このダンジョンはこの部屋で終わりってことじゃなく、この先もまだ奥に何かあるっていうのか!?」
ベルナさんの疑問はもっともだ。
カタンダ村でオックスダンジョンの存在が知られてどのくらいなのか知らないけども、
結構早い段階で、このダンジョンのゴール地点は把握されていたらしい。
けれどこの先もあるなんて誰も知ることはなかったんだろう。
あたしにしても、最初にこのダンジョンに入った時のことは覚えている。
リビングメイルたちと戦う前から、ボス部屋に何らかの隠し要素はあるのではないかと思っていた。
だから、ベルナさんに問われるまでもなく、早い段階で隠し通路のことは把握していたのだ。
ただし・・・
「ベルナさん、
奥に何かあるのかという話なんですが、
あたしの遠隔透視では何も見えません。
何も見えないっていうか、ただの通路と言っても行き止まりみたいなんですよ。
むしろ隠し通路という表現だと誤解されるかもしれません。
とても細長い隠し部屋と言ってもいいかと。」
そう、横幅は10メートルほど。
そして奥行きに関しては30メートルほどは有るのだろうか。
そこで行き止まり。
これは部屋なのだろうか、通路なのだろうか。
非常に迷う造りである。
「敵も罠も何もないと・・・?」
「敵はいません。
罠は・・・ちょっとわかりませんが、
魔力反応はあります。」
あたしが開示できる情報はここまでである。
その上でこれからどうするのか皆んなで意見を出し合うことになった。
最終決定権はあたしにあるのだけど、
みんなの意見や要望も貴重な判断材料だしね。
シーフという職業柄、アミネさんはこのメンバーの中でももっとも慎重だったのだと思う。
「麻衣さん、とりあえず・・・
その隠し通路、ですか?
そこに入ること自体に危険はないのですよね?」
「おそらく・・・
あたしの危険感知も全く反応してないわけじゃないんです。
なので、部屋に入るだけならそれほど危険はない、としか言えませんけど。」
「なら、その先のことを調べるためにも、隠し通路に、行ってみませんか・・・?」
この時点であたしに反対する理由はない。
強いて言えば、何かあるような気がするとしか言えない。
もちろん、では何があるのかと言われても現時点であたしには何もわからない。
一応、みんなにそのことは説明しておいた。
全員、体力はまだ余裕あるし、
魔法を使うメンバーもまだまだ魔力は十分に残っている。
隠し通路への扉は巧妙に隠されていた。
ご丁寧にもボス部屋入り口入ってすぐの壁の窪みに仕掛けが隠されていたのだ。
アミネさんがその仕掛けを解除すると、地響きとともに反対側の壁が動き出す。
その中までは松明の火は届かない。
まあ、あたしの遠隔透視でも異常は見られないけどね。
ここから先は事前情報は何もない。
何が起こるかも分からない。
一応ダンジョンの隠し部屋とか見つけただけでも報奨金は出るらしいけど、
あたしが欲しいのはお金じゃないしね。
問題はあたしでも感じるこの魔力反応だ。
魔物がいるわけでもない。
大昔に死んだ魔物の魔石でも取り残されているのだろうか?
いや、「物体」は何もないんだよね。
まあ近づいてみればわかるか・・・。
あたし達は警戒を切らさず隠し通路へと移動する。
両壁には松明を設置する台もない。
なのでアミネさんが手に持つ松明を高く翳してはいるのだけど・・・
やっぱりこの細長い空間には物質は何もない。
この先奥まで歩いて行っても壁しか待ち受けていないのだ。
「となると、罠か、さらなる隠し部屋を見つけるしかないのかな・・・。」
うん、アミネさんの呟きは正しい考え方だと思う。
それでもやっぱり感知能力を持つあたしの方が発見は早いようだ。
「それ」はこの隠し通路の行き止まり手前に「あった」。
「皆さん、この空間から発していた魔力の正体が分かりました。」
全員の視線があたしに、
そして数秒後、さらにあたしの視線の先に集中する。
肉眼で皆さんにも視えるのかな?
魔力の反応が視えるあたしには、
「それ」が光って視えるのだけど。
「あ、よく見ると床に何か文様のようなものがありますね・・・魔法陣!?」
そう、そこにはあたしが召喚術でふくちゃん達を呼び出す時に浮かび上がるような、魔法の文様が床に刻みつけられていたのだ。
「召喚の魔法陣か!?」
「だとすると、ここからこのダンジョンの裏ボスが?」
いつの間にかカリプソさんが正気に戻ってリカルドさんと問答していた。
なによりだよ。
さて、裏ボス・・・か。
さっきのリビングメイルが真のボスではなかったということだろうか。
「あー、これ、召喚魔法陣じゃないわねー。」
これまで比較的静かだったラミィさんが寄ってきた。
どうやらこの魔法陣の種類が何なのかわかるようだ。
ちなみにカリプソさんの視線はやはりラミィさんの揺れる物体に釘付けのままだった。
ダメだ、この人・・・。
いや、もうこんな人のことはどうでもよくて、
ではいったい何の魔法陣だというのか?
リカルドさんがその先を聞く。
「じゃあ、これはなんの?」
「転移魔法陣よ!!」
「転移魔法陣!?
これが!?」
あたしも転移魔法陣なんて初めて見る。
いや、この場にいる全員だって見たことなかったのだろう。
妖魔として何十年生きてるか知らないけど、ラミィさんは前に見たことあるのかな。
まあ、今聞くことじゃないね。
問題は。
「まーちゃん、転移魔法陣の先なんて・・・」
「あー、さすがにあたしの遠隔透視でもどこに繋がってるのかなんて視えませんね。」
ここでまた先ほどの相談と問答が始まる。
けれど今回はこの先の情報は何もない。
危険感知?
これもさっきと変わりない。
全く何もないわけでもないのだけれど、
そこまで危険な反応ではないのだ。
転移先にゴブリンとかスケルトンくらいはいるのかもしれない。
その上で結論は先ほどと一緒。
なら行くだけ行ってみようとのこと。
行った先で何か危険な兆候が見えたらすぐ引き返すということで。
念の為に、最初は魔法陣の上に先の戦闘で落ちてたスケルトンナイトの剣を置いてみた。
ほんの少し時間が経ってたから柔らかいひかりが立ち上り、
剣はどこかへと消えて行った。
うん、転移以外の危険な罠ではないと思う。
まあ、転移先が壁の中とかだったら恐ろしいことになるけど、そんな事態が待ち受けているならあたしの危険感知が警鐘を鳴らすはず。
なら大丈夫だろう。
緊張しながらあたし達六人は魔法陣の上に乗る。
大丈夫。
危険はない、はず。
血みどろ展開はないということになってるのだ。
そしてあたし達は柔らかい光に包まれる。
意識の一瞬の喪失。
そして再び意識を取り戻した時、
背筋がゾワッと逆立つ。
あたしの危険感知に最大の反応が。
これ鬼人さんときと同じくらいのヤバさ。
「皆さん前を!!」
あたしに出来ることは大声を上げるだけ。
もちろんみんなも何かが起きてもおかしくないという心の準備は出来ていたろう。
けれどここまで恐ろしい相手が待ち構えていたなんて。
このダンジョンの真のボス。
一頭の馬に跨ったフル装備の鎧姿。
一人の騎士。
けれどその騎士には首がない。
そう、
待ち構えていたのは首無し騎士だったのだ。
誰かの声が飛ぶ。
「ま、まさか伝説の魔物・・・
デュラハンッ!?」