第六百四十話 ぼっち妖魔は関わらない
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 麻衣>
いよいよオックスダンジョン地下20階、ダンジョンボスとの戦い。
ボス部屋の造りはこれまでの部屋と大差ない。
違うのは周りの壁に多少なりとも装飾を試みたかのような、幾何学的な文様が刻まれている。
それとどういうわけだか、壁の要所要所に松明とその台座が取り付けられている。
誰が用意しているんだろう?
「なら明るくしてやるぜ!
ファイアーボール!!」
魔術士のカリプソさんが次々に松明に向かって火を放つ。
あれでちゃんとつくんだ。
便利だな、ファイアーボール。
まあ魔力がそんな多くないなら、火をつけるより、敵に攻撃してくれた方がいいような気もするけど、アミネさんが持つ松明だけだと複数の敵を上手く照らせないしね。
必要と言えば必要なことだったかもしれない。
さて、改めて説明するまでもなく、
あたし達は六人プラス、スネちゃん、ふくちゃんの大所帯。
敵もそれが分かっているのか、互いに距離を縮めあう。
うちの最大戦力ラミィさんは、リビングメイルに狙いを定めているが、
その前に四体のスケルトンナイトが立ち塞がっている。
だから
ベルナさんと剣士リカルドさんが左右から回り込む!
当然両脇のスケルトンナイトも反応!
それぞれ打ち合う剣が火花を散らす。
それでもまだ二体のスケルトンナイトが邪魔だ。
だからスネちゃんが特攻!
もたげた首を左右に振って敵を幻惑!
動きの鈍いスケルトンナイトはその動きについていけはしまい。
ふくちゃんは二体に分裂した。
一体がスケルトンナイトの頭上に注意を向かせ、もう一体が背後の足元から攻撃を仕掛ける。
まあ、ふくちゃんはあくまでも足止め役なんだけどね。
ということで・・・
「はい、いっきまーす!!」
槍を構えた半人半蛇のラミィさんが凄まじいまでのダッシュ力でリビングメイルの体にまで肉迫!
ラミィさんは魔法も使えるけど、リビングメイルに有効な魔法はほとんど持ってない。
ストーンランスは普通に物理攻撃としては有効だけど、そんなもの撃つヒマがあったら自分の槍で攻撃力かける方が効率がいいしね。
・・・ううむ、これは・・・
「えーい!
あっ、逃げるな、このちょこまかとおおおー!!」
リビングメイル・・・
手も足も出ない・・・
ていうか頭も手足もない。
ただその場に浮かぶだけ。
いや、恐らく霊体系魔物に当然備わっている浮遊スキルでふらふら上下左右に動くんだけど、
なかなかラミィさんの攻撃がヒットしない。
うん、もちろんラミィさんの独特ステップからの連続攻撃は、実際避けきれてなくリビングメイルに傷を与えている。
ただその鎧が硬すぎる。
まさに鎧の表面に傷を与えているだけ。
仮に鎧を地面に固定して、
一直線にラミィさんが特攻かければその鎧を砕くことは出来ると思う。
けれど宙に浮かんでふわふわしてるだけなら、
どれだけ攻撃に威力があっても力が分散されてしまうのか、今一つ目に見える威力がないのだ。
それに
「きゃっ!?」
腕も足もないのだから当然リビングメイルに攻撃手段はない・・・
・・・そんな美味しい話もないのだ。
鎧を纏う騎士系のくせに火系の魔法を使うのだ。
呪文も唱えられない代わりなのか、事前に相手の正面を向くという予備動作があるおかげで、
ラミィさんも躱す事自体に難はないだろうけど、時々慌てるくらいに態勢を崩してしまう。
もしラミィさんがソロで挑んでいたら、その隙にスケルトンナイトに囲まれてしまうと思う。
・・・うん、
楽勝とまでは行かないけど、
苦戦しているとも手こずるというほどでもないかな。
クワシャアーン!!
よし!
スネちゃんが巻き付き攻撃から一体のスケルトンナイトを破壊した!
一度巻きついちゃえばスケルトンナイトに抵抗する手段はないものね!
そのままスネちゃんはふくちゃんを相手にしていた別のスケルナイトに向かう。
同時にふくちゃんは四体に分裂!
二体がベルナさん、リカルドさんに援護。
残りの二体がリビングメイルの元へ。
ボス敵だろうがなんだろうが、光属性のふくちゃんは不死系の天敵なのだ。
「フクロウさん、ありがたいよ!」
素人目だけど、やっぱり剣の腕前は、本職のリカルドさんの方が小慣れてる感じだ。
ただ、炎の魔法剣を使えるベルナさんに、スケルトンナイトも押されているように思う。
どうやら炎の魔法剣は、直接敵を切ることが出来なくても、炎の熱が骨の体に徐々にダメージを重ねているようだ。
鑑定で敵のステータスを見ると少しずつHPが削れていっている。
もちろんまだ安心は出来ない。
今のところやや優勢というところか。
けれど、このままスネちゃんがもう一体を崩したところで勝敗は確実となるだろう。
・・・ただ正直もう一押し欲しいな・・・。
ベルナさんの魔力もそんな保たないだろうしね。
「カリプソ!
ファイアーボール今!!」
あたしがお願いした通り、アミネさんが他の人への指示をやってもらってる。
「おう!
らみたそのために!!
『全てを焼き尽くす炎よ! ファイアーボール!』」
ちょうどリビングメイルも魔法発動するところだったんだろう。
動きを止めた瞬間にタイミングのいい指示だと思う。
結果、魔法発動を阻害されたのか、リビングメイルの魔法は不発。
その隙にラミィさんの一閃が鎧を削る。
HPは・・・1割も減ってないね。
長期戦になるのかなあ。
ふくちゃんの爪嘴もダメージにはなっているけど、あれでは雀の涙だ。
「ちくしょう、やっぱりファイアーランスの方がいいのかな・・・。」
もちろんファイアーランスの方が威力は大きいだろう。
けれどカリプソさんも魔力がことさら多いわけではない。
当たればいいけど、避けられた時に魔力消費が大きいのは躊躇われる。
「ねえ! 麻衣ー!」
お?
ラミィさんがあたしを呼ぶ。
「どうしました、ラミィさん!?」
「麻衣の得意技やってみてー!」
ん?
あたしの得意技?
「あ、は、はい、いいですけど、不死系には・・・」
と言いかけてスケルトンには効果があった事を思い出す。
あれ?
でもリビングメイルって霊体でもあるのか?
「うん、ダメ元でいいからー。
効果あったらみっけものって感じでー。」
そうだね。
現状あたしはスネちゃんやふくちゃんの指示監督だけで特に何もしていない。
まあ、もちろん召喚術で常時魔力消費中だけどね。
お安いご用ですっと。
「それ、この子に七つのお祝いを!!」
もちろん狙いはリビングメイルだよ!
状態異常!
MP漏洩!
金属疲労!
精神耐性減少!
初心!
引っ込み思案!
かせいほうけい!
童貞!!
ん?
「鑑定!
あ! すっごーい、麻衣やるわねー!!
MPがどんどん減っていくわよー!
これなら魔法使えなくなるわねー!!」
「ま、麻衣さん、すごいです・・・、
これが邪龍を倒すこともできる異世界の方なのですね・・・。」
「ハハッ、さすがまーちゃんだね!
これでもうこの勝負もらったようなもんだ!!」
あ、うん、えっと。
たぶん、アミネさんとベルナさんは、
ラミィさんが言ってくれた、
リビングメイルのMPが減り始めたことに対してあたしを称賛してくれてるんだろう。
でも、これ、どうしたら。
すいません、私もこんな展開予想してませんでした。
書こうとしてたのはこの次のイベントだけだったんですけど。