第六十四話 カラドックお説教する
・・・話は20分くらいかかったかな。
ケイジはここまで来た経緯を思い出しながら、
そして言葉を選ぶかのようにゆっくりと話してくれた。
たぶん、何か不要な話と判断するのに時間を掛けていたようにも感じる。
実際は色んなことを思い出していたのだろう。
「何か他に聞きたいことはあるか?」
そうだな・・・。
「とりあえず二つ程・・・
まず魔人の目的は判明したのか?」
「ああ、おぼろげながらね。」
「それは?」
「不老不死。」
なんだって!?
「そんな事、出来るのか!?」
「分からん。
カラドックはオレ達の戦歴調べたんだろ?
その時、オレらがドラゴンと戦ったという記録を目にしたんだよな?」
「あ、ああ、君らがAランク昇格のきっかけになった討伐例だな?」
「そうだ、
そのドラゴンは人語を解する知能あるドラゴンだった、
そしてそのドラゴンも魔人と契約していたらしい。
そこで、戦闘の最後で魔人の目論見を聞いたんだ。
死んでいった人間、亜人の魂を食う事で、肉体を不老不死に近いものにしていくそうなんだ。
具体的なやり方までは聞き出せなかったが、不老不死を得る代償が、その魂を捧げることのようだ。」
「す、すると深淵の黒珠という宝も魂を集めるのに使うと言ってたよな?」
「ああ、だからそれも奴らの手には渡せなくなっている。
ちなみに未だに深淵の黒珠の所在も、バブル三世の居場所も不明なままだ。
ラプラス商会は、全て二代目とやらが取り仕切って、ラプラス本人は引退したことになっている。」
「結局、両者は無関係なのか?」
「今のところ、そう認識しているがな、
元々奴らは商人だけに金で転ぶ可能性を考えると甘い考えは持てない。」
「そうか。」
「それとさっきの長話に付け加えるなら、魔人に協力した者への見返りも判明した。」
「へぇ、それは一体?」
「それも不老不死さ。
詳細は分からないが、それも魔人のスキルを経由して行われる見込みらしい。
口の軽いドラゴンとベルナールの証言が一致した。」
それは確かに魅力的な話だな。
内容によっては国も動かしかねない。
「で、もう一つ聞きたいことは何だ?」
私としてはこの後の質問の方が、より聞きたいことだ。
「ケイジ、君らが各国の小競り合いを邪魔してた理由は?」
さっきの話を聞いても、グリフィス公国の味方をしても、その軍の邪魔をする理由が見当たらない。
「カラドックなら分かるんじゃないか?」
「いいや? どうしてそう思う?」
実を言うと理由の一つは思い浮かぶが、
あまりに労力と見合わないというか、
人が良すぎるというか・・・。
こちらからの質問にケイジは答えなかった。
隣でリィナが「わかるわけないよー」と呆れている。
やがてケイジは諦めたかのように鼻を鳴らした。
「ふん、仕方ない。
簡単に言えば、戦力の保持だ。
これから魔人・邪龍を相手にするに当たり、最悪の場合、人類全体の危機だ。
いたずらに人間同士で争って無益な血を流す事はない。」
まさか本当にこっちが思ってた通りかよ!
「ちょっと、それは効率悪過ぎるだろ!
下手したら自分たちの命の方が危険じゃないか!!」
リィナがほらやっぱりとジェスチャー。
だがケイジは気にも留めない。
「今回はそれだけじゃない。
エルフ達の国で死んだ人間の魂が戻って来ないことは言ったよな?
邪龍が甦ったかどうかは分からないが、既に魂が喰われている可能性もある。
だから余計に無駄な戦いで命を落とす事だけは出来ないんだ!」
ケイジ、君は・・・。
「つまり、君が各国の小競り合いを邪魔していたのは、政治的な理由など全く関係なく・・・
一人でも死ぬ人間を減らしたいと、
ただそれだけだと言うのか?」
「そうだ、
そして、オレ達にはそれを止める力があるしな。」
呆れたね、これは。
思わず笑いが出る。
後ろでエルフ達がフォローする。
「ケイジは甘ちゃん。
けれど実際ほとんど私たちが介入した戦闘では死者はゼロ。」
「ケイジはお子ちゃま。
けれど大言実行する実力の持ち主。」
フォローなのかな?
確かに・・・ケイジの身体ステータスは異常だ。
特別に目立つスキルを持っているわけではない。
私の鑑定眼はそこまでレベルが高くないが、「鷹の目」というユニークスキル以外は他でもよく見られるもの。
だが狼獣人と戦闘レベルの高さが相まって、ストレングス、敏捷性、体力、器用さ、全てが他の冒険者の数値を上回っている。
宮廷時代にどんな訓練をしていたんだ?
「カラドック、お前がオレのやり方を否定するのは構わないが、パーティーに加入するからには従ってもらうぞ?」
「いや、
趣旨は理解したよ、
誰も死なないことを目的とするならそれは立派な意志だと思うよ。
きっとマルゴット女王も理解してくれる筈だ。
なんなら私の方から・・・。」
そこでケイジが慌てて私を止めた。
「やめろ!
恥ずかしいから言うな!!」
て、おい、それが理由か!!
ほんとにコイツ変なところで子供っぽいな。
だが、流石にそれには異を唱えざるを得ない。
「・・・いや、ケイジ、
君が恥ずかしがるのは分かるが、戦の準備をするしないの判断だけでも、女王だけでなく、大勢の将兵や税・兵糧を取られる民たちの暮らしに影響を与えるんだぞ。
少なくとも一方的でも構わないから、マルゴット女王に君の真意を伝えるべきだ。
それがはっきりするなら女王とて色んな手が打てる。
それに君は自分のカラダが自分の物だけだと思っているかもしれないが、それも間違いだぞ。
今も皆が君を心配しているんだ。
だからこそ、私は彼女たちの真剣な願いを聞いてここにやって来たんだ。
君はその彼女たちの心を蔑ろにしてはいけない。」
さすがにケイジの視線が落ちた。
自分でも分かっているんだろう。
自分の行動が最善ではないことに。
「凄い・・・ケイジに真正面から正論ぶつけて論破。」
「さすが賢王・・・獰猛フェイスを怯みもせずにお説教。」
二人のエルフが目を見開いて驚いている。
側からだとそう思えるかな?
そんな大袈裟なもんじゃないんだけど。
狼の獰猛フェイスと言っても、さすがにもう見慣れてきたしね。
一方ケイジの方は、そこまでエルフ達に言い切られて反発するかと思ったが、
私の諫言を受け入れてくれたようだ。
「そう・・・だな、
カラドック、お前の言う通り、かもな。」
「・・・思ったより素直なんだな。」
「お前のさっきの食堂での話が効いてるんだよ。」
ああ、さっきもイゾルテの話したしな。
女の涙には弱いのかもな、こいつ。
いい男じゃないか。
「ならカラドック、マルゴット女王にはあんたから伝えてもらっていいか?
ただ魔人や邪龍の話はぼかしてほしい。
まあ、どの道、明日の洞窟の番人を突破するなら、
その先に向かうわけだから、その間、他の国々の小競り合いに干渉するヒマはもうなくなるんだが。」
「ああ、手紙で良ければ伝えておくよ、冒険者ギルドに配達頼めるのかな?」
「それで大丈夫だ。
・・・はぁ、でも他の奴ならいざ知らず、
マルゴット女王は絶対、オーバーリアクションで、
『ケイジ! そなたの事は信じておったぞ!!』と騒ぎたてるんだろうなあ。」
ああ、それは。
眼に浮かぶ。
ひょっとすると、
「ケイジは妾たちを裏切っていなかったぞよパーティー」を開催するかもしれない。
「諦めよう、ケイジ。」
あの人に逆らっちゃダメだから。
「だよな、うん。」
私たちは二人で項垂れた。
「この二人、仲いいな。」
リィナちゃんに突っ込まれた。
これはあの女王を知っている人間でないと理解できないよ、きっと。