第六百三十九話 ぼっち妖魔は万全である
<視点 麻衣>
「おーい、まーちゃーん、
もーいいーかーい?」
あたしを起こしてくれたのはベルナさんだ。
「ふぁ〜あ、おはようございます・・・。
すいません、わがまま言っちゃって。」
「何言ってんだい、
普通ならこの場所に降りてくるだけでも一日かかってもおかしくないんだぜ。
こんなのロスにも何にもならないよ。」
「皆さんも異常なく?」
「ああ、バッチリだ。
あたしもブラックファングの連中もこの先は行ったことないからな、
いい感じにみんな、緊張してるぜ。」
それは何よりだ。
簡易ベッドルームから出ると、ラミィさんたちもあたしを出迎えてくれる。
「おはよー、麻衣ー、
眠気取れたー?」
正直寝足りないけどね。
「おかげさまでかなり楽になりました。
さあ、この後一気に行きましょう。」
一気に地下15階のボスまでクリアしたよ。
ここは地下16階、
さすがに色々危険な反応がある。
このダンジョンも終盤だものね。
ラミィさんを先頭に、階段を降りたあたしは遠隔透視を働かせる。
「ストーンゴーレム、
ゴブリン・・・あ、前に見たゴブリンより装備が豪華だな、これゴブリンファイターかな?
ゴブリンメイジもいるみたいです。
それと大型の蜘蛛、ポイズンスパイダー?」
ベルナさんたちの顔が歪むのが分かったよ。
ベルナさん達からしたら強敵ばかりなのだろう。
「その中だと怖いのはポイズンスパイダーねー。
必ずしも真正面からやってこないわよ?
壁とか天井からも攻撃加えてくるから。」
ラミィさんの説明にベルナさん達の顔がさらに歪む。
これ以上歪んだらどうなるんだろう。
まさか、苦虫を噛み潰したような顔に!?
みんな毒消しは持っているけど、毒消しも万能ではないし、すぐに効くわけでもない。
ここはあたしが如何に敵を感知するかにかかっている。
まあ、あたしだけ気を張る必要もないけどね。
もちろんラミィさんも蛇の胴体で床の振動をキャッチできるし。
ただ、纏いサイレンスを六人分は無理があるな。
せっかく覚えた技だけど今回は見送ろう。
「・・・て、いつの間にあたし達はいま地下20階に来てるのさ・・・?」
何を言ってるんですか、ベルナさん。
とんとん拍子でここまで来たでしょう?
ストーンゴーレムなんかラミィさんの水魔法で楽勝だし、ゴブリンなんかにいたっては、ラミィさんの魅了で同士討ち始めるし、
大変だったのは大蜘蛛くらいでは?
まあ大蜘蛛そのものも苦戦しなかったんだけどね、
その代わり子蜘蛛がね、
さすがに全方位からわらわら迫ってこられると対処に困る。
最初、スネちゃんやふくちゃんにおいでいただいたのだけど、それでも埒が開かないので、
キレたラミィさんが全体水魔法メイルシュトローム展開。
子蜘蛛の皆さんはどこかへ流されてゆきました。
「ただ子蜘蛛ごときにメイルシュトロームはコスパ悪いわねー。
あんまり何度も使えないわよー。」
「・・・あんまりどころかオレならファイアーストーム一発でガス欠だよ・・・
スゲーよ、らみたそ・・・。」
「あたしだってトルネード打てるのは一発限りだよ・・・。」
カリプソさんとベルナさんでは全体魔法は一度きりの切り札扱いなのだろう。
こればっかりはレベルを上げてMP増やすしかないね。
さ、お話はそこまでにして、ボス部屋開けますよ。
今度はただのフロアボスではない。
オックスダンジョン最終フロア。
ボスの種類も固定。
スケルトンナイトとリビングメイルの混成隊。
うん、あたしも遠隔透視で確認した。
スケルトンナイトは四体だ。
「では作戦を確認します。
ラミィさんは実質ボスにあたるリビングメイルを!
ベルナさんとリカルドさんはお供のスケルトンナイトに向かってください。
残りの二体はあたしが呼び出すスネちゃんが迎え討ちます!
ふくちゃんが頭上から敵を牽制しますのでご安心を!
カリプソさんは魔法でリビングメイルを!
アミネさんは指示とカリプソさんの護衛をお願いします!」
スケルトンナイトはこれまで戦ってきたスケルトンやラージスケルトンの上位互換。
鎧どころか盾まで備えている。
攻撃力、防御力ともに格段の差があるが、倒し方は変わらない。
問題はあたしも初めて戦うリビングメイル。
これは鎧に守られた霊体と考えるべきだと、来る前にエステハンさんに教わった。
鎧の中身の霊体部分に魔法は効くが、
カラダを覆う鎧が魔法を通さない。
まずは鎧を砕いてから霊体部分を魔法攻撃しないと倒せないそうなのだ。
ケイジさん達と一緒にいた時、
同じく霊体のリーパーと戦ったけど、あれが一番近似の存在というところかな。
あの時は光属性攻撃マシマシだったから楽勝だったんだよね。
今回は魔法付与できるのはベルナさんだけ。
しかもベルナさんは光魔法使えないし、
得意の風属性付与してもあまり効果ないから、
魔法剣は火属性一択。
まあ、でもなんとかなると思う。
血生臭い展開はない、ことになってるのだから!!
さあ、麻衣ちゃん、異世界最後の戦い、行きますよ!!
「ゴクリ・・・ 行くぜ!!」
剣士のリカルドさんが扉を開ける!
フォーメーションは今までと同じ!
槍を真ん前にかざしたラミィさんが突入!
扉を開けたリカルドさんがそのまま、流れるように部屋の中に!
ベルナさんに続きあたしが入り、
後ろにアミネさん、カリプソさんが入り終えたのを確認した瞬間、
スネちゃん、ふくちゃん召喚だよ!!
あたしの左右前方に二つの黄金の光が立ち昇る。
その気になればメリーさんも召喚できるけど、
もうあの人とは別れを済ませた。
今更メリーさんに頼ることは何もない。
てなわけで今回、たいまつを掲げるのはシーフのアミネさん!
遠隔透視でその姿を捉えていたけど、
改めて肉眼で敵の姿を見据える。
うん、眼前に四体のスケルトンナイト。
彼らに守られるかのように、その背後に浮かぶ鎧の塊。
リビングメイルには手も足も頭もない。
「ダンジョンボスと戦えるなんてね、
夢にまで見たこの機会、絶対ものにするぜ!」
ベルナさん、初っ端から魔法剣発動!!
出し惜しみするつもりも様子見をするつもりもないようだ。
一気に行けってことだね。
「ちくしょう、オレなんかただの剣士なのに!
でもやるだけやってやっからな!」
そうなんだよね。
もともとこの世界だって魔法使える人の方が少ないのだ。
基本職でもそれなりに戦えるから冒険者稼業がお盛んなわけで。
「リカルド無理しないでよ!!
スケルトンナイトを抑えているだけであたし達の勝ちは間違いないんだからね!!
・・・カリプソは当てにならないし・・・。」
アミネさんには是非的確な指示をお願いしたい。
「・・・ああ、槍を構えたらみたそ、
あの胸の震え・・・最高だぜ・・・。」
魔術士のカリプソさんは遠隔攻撃の要なのだけど、今回なにかの役に立つのだろうか。
最初に出会った時、アミネさんがアッパーカット喰らわしてた気持ちはよく分かる。
とはいえ、あたしも今回は全力で敵に集中したいので、魂を賭けたツッコミは遠慮したい。
足だけ引っ張らないでいてくれればいいのだけど。
ん?
また調子に乗るのかって?
いえいえ、今回はマジというヤツです。
安心してください。
危なげなく勝って見せましょう。
・・・チクリ
あれ、首筋になんかきた。
いや、なんだ、これ。
危険察知・・・てほどではないな。
だけど何かある。
どこでフラグ立てたんだっけかな?
まあいいや。
やっぱり油断は出来ない。
やってやりましょう!!
どこでフラグ立ったかって?
「それは麻衣ちゃんがヨルに会いに来る前ですよぉお!
まったく余計なことを思いつくですよねぇ!?」