第六百三十七話 ぼっち妖魔は納得できない
<視点 麻衣>
オックスダンジョン地下10階。
あたし達はボス部屋の前にいる。
部屋の入り口の外見は、地下5階の扉とほとんど変わらない。
しかしもちろん、中にいるボスの姿は別物だ。
「・・・まーちゃん、中にいる魔物の種類は?」
ベルナさんはあたしの能力を知っている。
当然あたしもこれから戦う敵の詳細は押さえておきたい。
「不死系・・・ラージスケルトンです。」
3メートルはあろうかという巨大な骸骨だ。
そしてボロいとはいえ、その巨体に合うだけの巨大な剣を片手で振り回すようだ。
うーむ、タバサさんがいたらホーリーシャインで瞬殺だったよね。
そこまで行かなくても僧侶の人がいてくれたら楽勝なんだけどな。
「あー、今回はあたしと相性良くないかもね、
まーでも苦戦するほどではないわ。」
骸骨には、ラミィさんの麻痺魅了は通じないし、得意魔法の水も土もスケルトンの弱点とは言えないものね。
なので、ラミィさんは槍と土魔法のゴリ押しで戦うつもりのようだ。
するとそこへ、あたし達の後ろから男の人が話しかけてきた。
「す、すまないがいいだろうか?」
名前は魔術士のカリプソさんだったっけ。
「はい、なんでしょう?」
「相手がスケルトン系ならオレの火魔法が有効だと思う。
なんなら、ファイアーストームだって打てる。
良かったらオレも攻撃に参加させてくれないだろうか?」
あー、それは嬉しいんだけどね。
「えーっと・・・、
手助けしていただけるのは嬉しいんですけど、ボス部屋ってほぼ密室に近いんで、火系魔法は厳禁なんですよ、
酸欠であたし達全滅する可能性あるんで。
せめてファイアーランス数発程度にしてもらえませんか?」
まさしくフレンドリーファイアーで全滅したら目も当てられないものね。
「え、酸欠?
そ、そうなのか?」
キリオブールでも似たような話があったけども、この辺は冒険者ギルドかどこかでみんなに研修でも受けさせた方がいいと思うよ。
カリプソさんは、「せっかく、らみたそにかっこいい所を見せられるかと思ったのに」としょげ返ってしまわれた。
ていうか、
「ラミィさん、あの人魅了掛けっぱなしにしてないでしょうね?」
「えー、魅了掛けた人は全員術は解いてあるわよー。
ていうかあの人には魅了なんて一度もかけてないわよ。
しかも麻衣なら鑑定でそんなの分かるわよねー?」
素でラミィさんの虜になってしまったか。
恐ろしい人である。
「あー、でもまーちゃん、あたしの魔法剣やファイアーボール程度なら大丈夫なんだろ?」
「あ、はい、その程度なら問題ないです。
以前も四つ腕クマ戦でベルナさん、使ってましたもんね。」
それにそんな長時間の戦闘にはならないだろう。
基本的にラミィさんとあたしの術でケリはつけるつもりである。
それではと・・・
ん?
いや、ちょっと、その前に、
あたし今、とても、どうでもいいようなことに気づいたのだけど。
「ん? まーちゃん、どうかした?」
「あ、いえ、誰かご存知の人がいたら教えてほしいんですけど。」
この場の全員の視線があたしに集中する。
あたしが気付いたのはとても素朴な疑問。
「身の丈3メートルもあるスケルトンて、
生前は何の種族だったんでしょう?
巨人とかですか?」
この世界のどこかに巨人さんという種族はいるのかもしれないけど、今までお目にかかったことはおろか、聞いたこともなかったんだよね。
「え?」
「え?」
「「「え?」」」
あれ?
みんな質問の答えが分からないというより、
まるで質問そのものの意味が分からないような反応・・・
「麻衣、何言ってるのー?
生前も何もスケルトンはスケルトンよー?
最初からスケルトンに決まってるじゃないー。」
へ?
え、いや、そんな。
他の人の反応もラミィさんの話を聞いて「当たり前だろ」的な顔・・・
「え、だ、だって人が死んだらゾンビかスケルトンになるわけですよね?」
逆を言えば人の死体がなければ、ゾンビもスケルトンも生まれないはず。
「それは特殊なケースよー。
そもそもここはダンジョンのボス部屋よー?
誰かがボスを倒したら、時間経過で次々に新しいボスが湧き出るんだから、いちいちそんな人間や亜人の死体用意できるわけないでしょー?」
え・・・と、
それは
うん、ラミィさんの話ももっともだ。
あれ、あたしの方が間違ってるの、これ?
ていうか、これがダンジョン99の謎のうちの一つなんだろうか。
前にケーニッヒさんが言っていたものね。
「す、すいません、
あたしの今言ったことは忘れてください。」
いったいどういうわけで、物語終わり間際にそんな事実が明らかになるのだろう。
しかもストーリーに直接関係のないことで。
ていうか、あたしのパートは既にエンディング終わらせちゃってるんだよね。
後はなんか、元の世界に戻ってほのぼのエピソードがひとつあるらしい。
中身がどんなものになるか聞いていないのだけど。
なんでも未回収の伏線が残っているとかなんとか?
あ!
いえ、この話は秘密なんでしたっけ!!
では気を取り直しまして!
さあ、扉をあけて、ラージスケルトン戦、いきますよ!!
その骸骨は俯き加減でしゃがみ込んでいた。
遠目から見れば、まさしく戦闘で力尽きた戦士の成れの果てにしか見えまい。
けれどあたし達が部屋に入った途端、
その頭蓋骨の二つの眼窩に赤黒い光が灯る。
ガシャリ、
ガシャリと機械的な動きでそれは立ち上がった。
ていうか、元は生きた人間じゃないというのなら、もうこれは不死系というより、魔導体と言った方がいいんじゃないだろうか。
あ、でも光属性に弱いのは不死系の特徴とも言えるからなあ。
まあ、そんなことは後回し。
「じゃあ行きますよ!」
先手はあたしなのだ。
不死系といえどもあたしの術が有効なのは既に分かっている。
「『この子に七つのお祝いを』!」
状態異常!
老化!
神経痛!
痴呆!
骨粗鬆症!
難聴!
歯の脱落!
白髪!
気のせいかな?
・・・なんか今回は全部状態異常の方向性が統一されてるような。
でも第三者目線でも明らかな効果だ。
綺麗に並んでいた歯並びからは、ボロボロ歯が抜けて、せっかく立ち上がったのに、フラフラと覇気がない。
ただ白髪っていうか、毛髪は元々ないからね。
それだけは不発といっていいだろう。
「「「な、な、な!?
なに、今の!?」」」
「ブラックファング」の皆さんに、あたしのユニークスキルを見せるのは初めてだからね。
一方、ベルナさんは既にあたしの戦い方は知っている。
いまさら驚いて堪るかとばかりに、離れた距離からファイアーボール連発!
ラージスケルトンの肩口に一発当たるけど、
隙間の多い骨の体に、もう一発は脇腹のあたりをすり抜けてしまった。
けれど肩口に当たった方は間違いなくダメージになっている筈。
頭の方もガクンと反応したしね。
そしてその一瞬の隙を突いてラミィさんが特攻!
もちろん馬鹿正直に真正面から飛びかかる筈もない!
ラージスケルトンが一呼吸遅れて横凪の剣閃!
「あっ、危ない!」
「きゃあ!?」
「らみたそ!!」
たぶんそのまま突っ込んでもラミィさんの攻撃の方が早かったと思う。
けれど既に歴戦の強者と化したラミィさんは更なる成長を遂げていた!
「あーすうぉーる!!」
詠唱破棄!
防御呪文でラージスケルトンの攻撃を防ごうと?
いやいや、あの巨体から繰り出される一撃を土壁で防げるわけないでしょう。
なら何のために?
麻衣
「危険感知も何もない、
このまま行っていいんですよね!?」
はい、血生臭い展開はないと何度も言ってるでしょ?
それともそんな展開をリクエストしたいんですか?
麻衣
「いやいや、やめてくださいってば!!」
でもなんかはあるんだろうなあ・・・