第六百三十二話 ぼっち妖魔は案内される
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 麻衣>
見違えた。
分かり易すぎる身体的特徴のおかげで、受付に座ってる女性がラミィさんであることはすぐに分かった。
けれど、つい最近召喚術で観た姿とあまりにも変わりすぎていたのだ。
「ラ、ラミィさん、どうしちゃったんですか!!
髪もちゃんと梳かしているし、お肌も綺麗になっちゃってるし!
そ、それ以前に服をちゃんと着て・・・
ああああああ!
いくつ突っ込めばっ!?
なんで・・・なんでなんで冒険者ギルドの制服着て受付カウンターに座っているんですかああああああああああああああ!?」
はあ、はあ、はあ、
つ、疲れた・・・
まさかこれだけの衝撃を連続で叩きつけられるとは・・・
そんな難しい質問はしてないはずだけど、
あたしの質問の量と勢いが激しすぎたのか、
ラミィさんも困った顔になってしまった。
「もう、麻衣ったら相変わらずねー?
もっと落ち着かないと真の魅了の力は発揮できないわよー?」
「いーんですよ!!
あたしはこのスキルに頼るつもりはないんですからっ!
・・・て、も、もしかしてラミィさん、その姿って人化してるんです!?」
あたしも我を忘れて叫び続けているわけではない。
しっかりと鑑定してみたらラミィさんの種族がヒューマンになっていたのだ。
確か邪龍の分体たちとの戦闘でも結構な経験値は入ったと思ったけど、まだそこまでは・・・
「あ、カタンダ村の助っ人作業で大量の経験値入っちゃったんですか!?」
そこで満面の笑みを浮かべるラミィさん。
う・・・!
これはヤバい。
あたしに魅了は使ってない筈だけど、
大抵の男衆はこの能天気な笑顔でコロリと参ってしまうに違いない。
「そーなのよー!!
麻衣にもらったMPポーションがぶ飲みしてストーンシャワー連発してたじゃない?
あれだけでもかなりの経験値だったのに、あたしが魅了した人たちの討伐でもスキルポイント加算されてたみたいなのよねー。
その後、スタンピード落ち着いた後もダンジョンの復旧作業に協力してたら人化ポイント貯まっちゃったみたいなの。」
あ、ああああ、そ、そうかあ。
い、いや、これは確かに驚いたけど、別に悪い話じゃないよね?
「どお? どお?
あたしの制服姿似合ってるー?」
そう言ってラミィさんはカウンターから出てきて、スカートやストッキング、さらには普通のヒールというギルドの制服姿を、一回転しながら披露してくれた。
「お、おおお、ちゃんと人間の下半身になってますよ・・・、
ラミィさん、おめでとうございます・・・。」
ここは素直に称賛しておこう。
事前情報がなければ、これはただの爆乳お姉さんにしか見えない。
「んっふっふー!
ありがと、麻衣ー!!
吸血鬼や邪龍の相手させられた時はホントにどうなるかわからなかったけど、十分な見返りだわー。」
そうだね。
まあ、唯一の心配は、これだけ大量の経験値蓄えたラミィさんが人に害なす場合だけど、
人化して冒険者ギルド職員になってるのなら大丈夫なのかな?
するとそこへ
「んだよ、騒がしいぞ、
まさかまた色ボケしたアホどもがラミィ目当てに・・・って、おお!?
お、お前・・・嬢ちゃん、帰ってきてたのか!?」
お?
一目見たら絶対に忘れることのできないインパクトあるエステハンさんがやって来た!
「おと・・・ギルドマスター遅いですよ、
それにこの村と世界を救ってくれた伊藤様にそんな失礼な態度はよくありません。」
さすが実の娘だけあって、あんな凶悪フェイスのエステハンさん相手に、チョコちゃんは全く怯むことはないね。
「あはは、お久しぶりです、エステハンさん、
皆さんご無事のようで何よりで・・・」
あたしはこの場にふさわしい挨拶をするつもりで・・・
先ほどのチョコちゃんのセリフの中にある引っ掛かりを覚えてしまった。
「ん?
あれ? ギルドマスター?
確かエステハンさんはギルドマスター代行・・・」
その瞬間チョコちゃんは得意そうな笑顔で、
エステハンさんは気恥ずかしそうに・・・
ラミィさんは入手したての両足でくるくる踊っている。
「うふふ、そーおなんですよ!!
エステハンはスタンピードからのカタンダ村防衛の功績が認められて、晴れて正式なギルドマスターになったんです!!」
おお!
それはめでたい!!
「エステハンさん、おめでとうございます!
やったじゃないですか!!」
けれどエステハンさんは素直に喜べないようだ。
「いや、そうなんだけどな・・・
今回は嬢ちゃんとラミィに助けられちまったようなもんだからな、
あんまりオレの功績だと胸を張れねーんだよ。」
「何言ってるんですか!
これはギルドマスターの地道な業績が評価されてのことです!
その後も村の復興や、ラミィさんのスカウトとか目に見える形で村の平和に貢献したでしょ!」
ああ、うん、そうだよね。
ギルドマスターなら別に魔物と正面で戦うより、
みんなの指揮をしたりその土地を落ち着かせることの方が大事な仕事だものね。
「い、いや、まあ、そうなんだがよ?」
恥ずかしそうに照れ笑うエステハンさん。
それとまたチョコちゃんは興味深い話をしてくれたな。
「ラミィさんのこと、冒険者ギルドの方でスカウトしたんですか?
よくもまあ、そんな思い切ったことしましたね?」
「ああ、それか、
あんまり大っぴらにできる話でもないんだけどな、
当然、ラミィが人化できるっていう前提がないと無理な話だ。」
この後詳しく聞いたんだけど、
スタンピードが終わってからも、ラミィさんはそのまま、魔物が溢れ出たダンジョンの調査とかにも協力してくれたらしい。
随分太っ腹だなとも思うけど、
報酬代わりにエステハンさんは大量の食糧提供したし、
ラミィさんは人化スキル取得目前だったり、
あと、村人や冒険者の人たちにちやほやされてしまったので、
気分良くエステハンさんたちに協力していたのだという。
そしてめでたく人化スキルを得たならば、
もうこのまま冒険者やるかギルド職員になってしまえばどうかという話になったそうなのだ。
「・・・とはいえ、冒険者にするのはどうかと思ってな。
ラミィは根が悪くないんだろうが、魔物には違いないしな。
自由気ままな冒険者だといつかハメ外すっつーか、何しでかすかわかんねーし。」
そこでチョコちゃんが鼻息を荒くする。
「ですので、私がマンツーマンで、ラミィさんに人間の暮らし方とかギルド職員の心得などをレクチャーしているのです!!」
何よりである。
ラミィさんのその後も少し心配だったけど、
エステハンさんやチョコちゃんが、万全の体制でフォローしているならあたしが心配することなど何もないな。
良かった良かった。
この二人の組み合わせならきっと何も問題ない。
お菓子メーカーさんからラムレーズン&洋酒入りチョコレートを送って来てくれてもいいレベルだと思う。
「あ、そう言えばケーニッヒさんやベルナさんは今日は?」
「おお、ケーニッヒのヤツは非番だぞ。
でも今晩はダナンの結婚式に参加するって言ってたな。
嬢ちゃんもいくだろ?
ベルナはさっきオックスダンジョンに向かったぞ。」
ああ、それは残念。
でも・・・うん、ラミィさんの衝撃で一時的に忘れてたダナンさんのことを思い出してしまった。
まあ、方針はさっき決めたからいいんだけど。
「結婚式かあ、
何か気の利いたご祝儀渡したいけど、何の用意もしてなかったからなあ・・・。」
さすがに巾着袋の中にもそんな便利なものはない。
これは猫型ロボットのお腹のポッケではないのだ。
すると、あたしが悩んでいるのが分かったようで、くるくる踊っていたラミィさんが声をかけてきた。
「あらぁ?
麻衣ったらこないだの男の人にプレゼント渡すのに悩んでいるのー?」
「ああ、え、ええ、まあ・・・。
あたしの持ち物って今はもう、旅に必要なものしか入ってないし・・・。」
ここがキリオブールなら商店街とか探しに行けば気の利いたものありそうだけどね、
良くも悪くもこの小さな村じゃ売ってるものも・・・
「なら取りに行けばいいじゃなーい。」
は?
この蛇女さんは何を言っているのか。
「だって今の麻衣ならダンジョンの奥深くまで潜れるでしょ?
オックスダンジョンの最下層まで行ってボスモンスターのドロップ品もらってくればプレゼントとしては十分よねー?」
ほわっと?
オックスダンジョンって、下層階どうなってんだったっけか・・・?