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第六百二十八話 ぼっち妖魔は地獄の蓋を開ける

<視点 麻衣>


今のあたしは上機嫌になっていた。

お酒のせいもあるだろう。


でもまだこの時点ではあたしの理性はしっかりしていたはずだった。

この時点では、だ。


ストップをかけられる人間がいないという状況が、果たしてどれほど恐ろしいことなのか。

それをあたしはまた思い知らされることになる。



何しろ楽しいことばかり連続で起きてたからね。



あたしの前に、

お祭り騒ぎを聞きつけてくれたのか、見知った二人組が現れた。


 「あ、いたいた、麻衣さん!

 お世話になったね、メイジャが挨拶したいって・・・。」


おっ!!

ポッポさんとメイジャさんじゃないですか!!

なんか仲良さそうだぞ!!


 「もしかしてお二人はイイ感じに!?」


暗がりでも二人の顔が赤くなるのがわかる。


 「う、うん、ようやくオヤジさんが認めてくれて・・・

 まだ機嫌悪そうにしてるけど・・・。」

 「完全に体が治ったらあたしもポッポのお店手伝う方向で・・・」


それは良かった!

そうそう、こういうめでたいお話を聞きたかったんだよね、

他には?

他にはいない?



 「おう!

 どこ行ってた、ボーディ!?

 おめー、嬢ちゃんに気に入られていたろ!!

 酌くらいしてやったらどうだ!!」


うおおおおおおおおおおおおおおおお!!

ゴールデンレトリバー獣人のボーディさん来たああああああああっ!!



 「あ、ま、麻衣さん久しぶり・・・

 オレが言ってた勇者パーティーに加入出来たんだってね、すごいや、

 良ければ話を聞かせてよ。」


任してくださいなあああああ!!

夜が明けるまでお話できますよおお!!





・・・これがいけなかった。


この寸前まであたしは自制できていた。


そう、少々お酒が入ったところでどうなるもんではないと思っていたからだ。



けれど上機嫌のうちに次々と楽しい出来事や嬉しい話を聞かされて、

いつの間にやらあたしの限界点を大きくぶち破ってしまったのだ。



とどめは。


 「麻衣ちゃーん!!

 いたあああああああああ!!

 良かったよおおおお、仕事抜け出してこれたああああああ!!」


 「あっ、宿屋のフローラさん、お仕事どうしたんですか!?」

 「オヤジに話したら行ってこいって!!

 宿のことは今晩気にしなくていいからってさ!!

 だから朝まで絡もううううっ!!」


ああ、あの宿屋家族経営だものね。

正確に言うとご家族だけでなく、親族含めて回してるらしいけどまあそれはどうでもいい。


フローラさんはあくまでも看板娘だそうだ。

別に受付が必ずしもフローラさんじゃなくても宿屋は回せるということだった。

まあ、その代わり残った家族は激務になるかもしれないけども。


理解のあるお父さんで良かったね。



そう、

ここでノリのいいフローラさんが来てさらに流れは加速した。


さすがにツァーリベルクおじいちゃんもフローラさんまでは守備範囲にはない。


当然野郎どもが寄ってくる。

フローラさんはノリがいいので、相手が馴れ馴れしく近づいても拒否しない。


場は当然盛り上がる。


さっきは寂しそうにしていたデミオさんも、

フローラさん来てからやけに近い距離で鼻の下を伸ばしていた。


このスケベオヤジめ。



あたしも負けてはいられない。


何故ならこの宴会の主役はあたしだからだ。




盛り上がりの中心地はあたしでないとならないのだ。




ね?


話の方向がおかしくなっているでしょ?

あたしのいつもの思考回路ではない。


この後はあたしの視点というより、

あたしの記憶を頼りにこの宴会の顛末を話させてもらう。



確かゼロスさんだったか、

あたしにみんなの度肝を抜く魔法か何かを見せてくれと言ったんだ。


当然みんなリクエストの大合唱くるよね。


この時もうすでに、あたしのお目々はぐるぐる巻き状態だったんだろう。

口もきっと、うりぃちゃんなみに大きく広がって、端からヨダレも垂れていたのかもしれない。


もちろんあたしも全く何も考えれない状態だったわけでもない。


もともとあたしの魔法は人畜無害なものばかり。

危ないのは「この子に七つのお祝いを」だけだった。

だから、それさえ使わなければ大丈夫と思ったのだよ。


なら人目を惹くものと言えば。


 「それではああー!

 花の女子高生! 伊藤麻衣ー!!

 しょーかんじゅつ行っきます!!」


みんな大喜びしてたよ。

召喚士の魔法なんて滅多に見られないってね。



けど何故なんだろうね?

みんな、

あたしがいったい何を呼び出すのか、

なんの疑いも持たずにフクちゃんを呼ぶと思ってたみたいなんだ。


でもあたしはみんなにインパクトあるのは「どっち」かな、と思って、



スネちゃんを呼んで見せたのである。





うん、



阿鼻叫喚の大地獄。


スネちゃんも

「あれ? 誰を食べればいいの?」

みたいな目で聞いてきたので、最初に誤解をただしておいた。


 「あー、今回はバトルじゃないからー!

 ここにいる人たちみんな可愛がってあげてー!!」




うん、

あたしはちゃんと理性を働かせている気になっていたんだ。

その後、どうなるか考えることもできないくせに。



そしてスネちゃんは、

あたしの言葉を忠実に守った。



だから



死人は出ていない。


出ていないけど、

もはやスネちゃんの体長は、

軽く大人の人間を、

一人、丸呑みできるくらいに巨大化していたのだ。


この場にいるどれほどの冒険者の抵抗や反撃も、

いまやスネちゃんにとってはただのじゃれ合い。

だから互いに命の危険はない。


もはや抵抗すら諦めたおじさんたちのカラダに、ウロコで覆われた胴体で巻き付いたり、

或いは恐怖のあまり痙攣しているその顔を、

二つに枝分かれした可愛らしい舌先でチロチロしたり。


あたしみたいに爬虫類に抵抗のない人間ならともかく、確かに一般的な感性を持つ人たちには生命の危険を十分に覚悟せねばならない出来事だったのだろう。


そんな人たちに、いったいどれほどの恐怖とショックを与えてしまったことか。



そして夜が明けた時には、

逃げ遅れた大勢の人たちが、

土くれた大地にぐったりと力無く屍を晒してしまっていたのである。



ツァーリベルクおじいちゃんが泡を吹いて倒れていた。

デミオさんらしき服装の人がヤム◯ャさんみたいなポーズでピクリとも動かない。

どうしてそんなことになったのか、ゼロスさんがほとんど素っ裸のまま白目を剥いている。

見てはいけないものに関してはスルーしよう。




・・・うん、

死屍累々とはまさにこのこと。




え?

なんでそんなに冷静なのかって?


イヤですね、もちろん冷静でいられるわけもないでしょう。

だから全ての感情をシャットアウトする妖魔モードに切り替えてるだけです。




そしてもちろん、あたしのすべきことは分かっている。



あたしは冒険者ギルドの扉を開け放つ。

建物の中はみんな無事だった。

ここに避難してきた人たちもいる。

あたしを恐ろしいものを見るような目で見てきた人もいるかもしれないけどみんな無視。


 「すみません!!

 ごめんなさい!!

 これで全て収めてください!!

 では皆様ごきげんよう!!

 お元気で!!」


ありったけのお金を渡して、職員の人に何も言う隙を与えずに走り去る。


そう、キリオブールからの逃走。

それしかあたしに出来ることはなかったのだ。






そう言えば阿鼻叫喚の阿鼻地獄って・・・

間違いなくアビスのことだよね?


以前書きましたけど


アビスとはギリシャ語で「底なし」という意味。


阿鼻叫喚でいう阿鼻地獄はインドからの仏教用語ですね。

阿鼻(Abi)はサンスクリット(梵語)avici、

「絶え間が無い」という意味だそうです。



ギリシャ語とサンスクリット語は同じ系統に属するインド・ヨーロッパ語族でもありますし、

ほとんど同じ語源と思っていいと思います。



まあ、相変わらず日本に伝わるあの「神様」に、何故そんな名前がついてしまったかは謎のままですね。


仏教の影響で名前が変わったなら北方系?

でも海に流されたり海から流れついたりとかは南方系の話にも見えるし。

もともと別の神様だとしたら、どうして両者を同一の神様にしたのでしょうね?


朝廷が関わる歴史書からは、

流され捨てられた神としてその後の経緯は一切触れられてないのに、日本各地で富をもたらすものとして祀られるようになったこの物語の最重要人物は。

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