第六百二十二話 ぼっち妖魔は後日談をお話しする
久しぶりなので人物説明
キリオブールの男爵家。
キサキおばあちゃん、ツァーリベルクおじいちゃんがご夫婦。
その子供は長女がクィンティアまま。
次女がロワイエルさん。
ロワイエルさんのお婿さんがキングストーンさんで現当主。
うっかりドジ魔女っ子ゴッドアリアさんは、クィンティアままの娘。
お父さんは元冒険者でご逝去されています。
ロワイエルさんとキングストーンさんの子供が双子で、
エンジェちゃんとメサイヤちゃん。
<視点 麻衣>
「こないだは済まなかった・・・
よりにもよって邪龍を倒して世界を救うような君に対して、偉そうな説教を・・・。」
あたしは今、ギルドマスターさんのお部屋にて、お話を聞いている。
ギルドマスターさんの後ろには受付嬢のカティアさんも同席してくれた。
イメージ的には、
学校で校長先生に呼び出し喰らったみたいな・・・
いや、今回は悪いことは何もしていない。
二年前は、鉄格子つきの病院から退院したあたしの状態を確かめるために、クラスの先生と一緒に面談したけど、あの時は腫れ物に触るような雰囲気だったよね。
まあ、先生たちの立場も分かるからあたしも文句を言うつもりもなかったけども。
「あ、いえ、ギルドマスターさんのお立場は理解してますので。
冒険者がランク以上の魔物に手を出しちゃいけないってのもその通りだと思いますし。」
これは当時ランクの低かった、あたしとツァーリベルクおじいちゃんが吸血鬼エドガーと戦った後の話である。
あくまであれは、
偶発的にやむを得ず戦闘になっただけなので、
あたし達にお咎め処分はなかったものの、
ギルド側も何らかの対応をしないと格好がつかないものね。
今回とて向こうはお仕事でやってるのだ。
「そう言ってくれるか・・・。
異世界からやってきてくれたのが君で良かったよ。
それにこの街だけでなく、世界そのものも救ってくれたとはね、
君はたまたま立ち寄っただけの街なのだろうが、我々にとっては大きな幸運だったようだ・・・。」
「いえ、あの、あたしはみんなの手助けしただけですよ?
それより・・・このキリオブールは邪龍の影響によるスタンピードの被害とかは・・・。」
そこでギルドマスターさんやカティアさんは複雑な表情を見せた。
「むう、想定してた最悪の被害よりはマシだったと思う。
何しろ思ったより早くスタンピードも沈静化したからな。
あれもいきなり魔物達が大人しくなったのは、邪龍が倒されたからと言うことで良いのか?」
「そうみたいです。
他にも封魔石で作った結界に破邪呪文かけることでスタンピードを抑える手段もありますけど、大元叩いちゃうのが一番手っ取り早いようでしたね。」
それにその手はダンジョンみたいな限定エリアでしか使えないしね。
「何から何まで・・・
この街の被害だが、ここには有能な土魔術士がいるおかげで、防壁を作る事で民間人の被害はほとんどない。
まあ、家の中に湧いた凶暴な蟲どもには煩わされたがな。
被害は討伐に向かった兵隊や冒険者に多かったというところだ。」
ほお、
有能な土魔術士と言えば、一人の女の子の顔が思い浮かぶけど、
「有能」という条件がついてしまうなら、そこにゴッドアリアさんは含まれてないはずだ。
「あ、もしかしてツァーリベルクさんのご家族とかも・・・。」
「うむ、そう言えば伊藤殿は、あちらのご親族と面識があるのだったな。
ツァーリベルク殿自身は教会の人間として行動されてたが、キサキ様や現当主様の奥方ロワイエル様、更にまだ幼きながらも二人のお孫様たちも活躍されていたのでな。
他の街と比べても、被害は殆ど出なかったと言っていいと思う。」
なるほど、
貴族の人が民から支持されるのは、その街を様々な脅威からいかに守れるかという点に集約されると思う。
土魔術が得意というキサキおばあちゃんの血筋が続く限り、この街は安泰なのだろう。
ちなみに以前説明したかどうか覚えてないけど、
キサキおばあちゃんの家は貴族だけど、
位の低い男爵家で、この街一帯の領主ではない。
カタンダ村を含むこの地域全てをもっと地位の高い貴族の人が治めており、その人こそが領主さまなのだとか。
その代わり、このキリオブールの街のみを任されているのが現当主のキングスト-ンさんだそうだ。
「・・・それに冒険者でもなかったが、
伝説となっていた領主様のところの元魔法警護兵まで姿を見せてくれたからな。
噂に違わぬ活躍で大勢の冒険者の士気を高めてくれた。」
「伝説の魔法警護兵?」
「ああ、キサキ様の家を飛び出した娘さんだそうだが、若い頃にはその優れた才能で処方面で活躍していたらしい。
どこに住んでいたのかも誰も知らなかったが、スタンピードで追い詰められていた我々の劣勢に駆けつけてくれてね、
貴族の言葉遣いこそしていなかったが、勇ましい言動と大規模な水魔法と土魔法で我々のケツを叩いてくれていた。
あれで戦いの趨勢は決したといっても過言ではない。」
クィンティアままか!!
山から降りてきたんだね。
なんかとてつもなく絵になりそう。
あたしもその時の現場を見てみたかったな。
なお、そのクィンティアままが現役当時働いていたのが、さっきの領主さまのお城だそうだ。
まあ過去の物語のバックグラウンド的な説明はここまででいいだろう。
「あ、あの、それで、あたしは元の世界に戻る前にゴッドアリアさんやツァーリベルクさんにご挨拶したいだけなんですけど、彼女のお住まいって前と一緒かどうか、ご存知ですか?」
本題はこちらなのである。
けれど、さすがにギルドマスターでも一冒険者がどこに住んでるかは知らなかったようだ。
その代わり受付嬢のカティアさんが情報をくれる。
「ゴッドアリアさんなら、一時的にではありますが、今は教会にご厄介になってるそうですよ?
墓地の整地だったり区画の延長とか何か色々土魔法を、魔物討伐とは関係ないところで才能を発揮されているようです。
・・・確かにあの方の魔力量は他の冒険者より抜きん出ていますからね、
戦闘中にうっかりミスして他の人に迷惑かけるよりかはよっぽど被害は・・・
いえ、安心して日々を過ごされているようです。」
おお、それは素晴らしい。
ならこの後のあたしの予定はだいたい決まったかな。
ここを出たら商業ギルドに行って、
デミオさんにご挨拶、
会えたらファーゼ商会のマーヤ夫人とも・・・
あ、先に宿屋のフローラさんのところにも行かないといけないかな。
お土産はプリン各種セットでも持っていけばいいだろう。
それで教会にいってゴッドアリアさんとツァーリベルクおじいちゃんに会えばこの街での用は終わる。
・・・教会ならあたしを泊めてくれるお部屋くらいあるかな?
まあ、最悪ゴッドアリアさんの部屋にお邪魔してもいいだろうと思う。
・・・イヤとは言わないだろう。
うむ、嫌と言わせるつもり自体全くない。
その時はあたしの愛すべきしもべ、ふくちゃんが大活躍することになる。
ふくちゃんもきっと喜ぶに違いない。
さて、ギルドマスターとの会談が終わり、冒険者ギルドを出ようとしたら、ロビーにいたみんなが慌ただしくバタバタしてた。
何か緊急のクエストでも入ったのかと思ったら、あたしの歓迎パーティーやら顔見知りの人間に話を広げるのだとかで大忙しにしているとか。
そんな大仰なことして欲しくはない、と言おうと思ったのだけど、
多分あれは騒げれば何でもいい様子だ。
恐らくあたしがいなくても宴会を繰り広げるつもりらしい。
それならあたしも文句は言えない。
今なら近場の魔物の数も大量に間引かれているはずだものね。
しばらくはハメを外しても問題ないのだろう。
さ、夜の話は夜の話として次は商人ギルドだよ。