第六十二話 魔術士と僧侶が仲間になった
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アラハキバ神官長が再び話を始める。
「では話を続けよう。
問題となるのがその魔人の目的でね。」
「ああ、そこまで判明しているのか。」
「ここで話が深淵の黒珠に戻るのだよ。」
「どう言うことだ?」
「魔人の目的が、
深淵の黒珠の力を使って邪龍を復活させる事だと言う。」
ここで邪龍か。
「そんな事出来るのか?」
「分からぬ。
ベルナールも詳しい話は知らぬようだが、いま、我々ビスタールで起きている事が関係してくるのだ。」
「それは一体?」
「これが重大な話なのだ。
ケイジ殿、リィナ殿、我々が判断を下すまで内密に出来るか?
もし出来るというのなら、そなた達を冒険者として依頼を頼みたい。
依頼内容もある程度予想もつくだろう。」
「・・・分かった。
だが先に言っておくが、オレらのパーティーはまだDランクだ。
タバサには告げてあるが、オレはこの地で優秀な魔術士や僧侶を仲間に引き入れて、戦力を上げていくつもりではあったが、今の段階では高位の魔物に戦える実力はない。」
「見かけによらず慎重なのだな。
・・・いや、冒険者なら慎重な方が長生き出来るものだ。
分かっている。
依頼は調査を主体とするが、難しい注文もある。
そこで、提案も兼ねるのだが、
娘のタバサを一時的に君らのパーティーに参加させるのはどうだろうか?」
なんだって?
見ればタバサは両手を組んでおねだりポーズだ。
神官長の娘なんだよな、こいつ?
「我々としても早く解決したい問題なのだが、魔人側の組織的規模や不測の事態に対するには、我々の繋ぎとしてもタバサは有用だ。
それに並行して、君たちの冒険者ランクも上げた方がいいだろう。
我々ハイエルフは残念ながらヒューマン国家とはあまり付き合いがない。
だが、冒険者ギルドは国家のしがらみを超えて横のネットワークがあると聞く。
ならばケイジ殿、獣人でありながら、高い判断力と慎重な行動力を持つ君なら我々の依頼に応えてくれると思ったんだがね。
おっと、これは提案ではないな。
これから依頼を行う条件となるか。
情報の隠匿、そしてタバサのメンバー加入。
どうだね、それを踏まえて答えを聞かせてくれないか?」
やっぱり大変なことになってきた。
一石三鳥どころの話でなくなってきたな、これ。
しばし、状況を整理するべく黙って考えていると、
後ろで控えていたダークエルフ達の動きに変化があった。
「申し訳ない、少し席を外してよろしいですかな?」
ノードス兵団長の言葉にアラハキバ神官長は静かに頷く。
とりあえず、こちらの方は気にしないでいいだろう。
問題は・・・。
タバサの治癒能力は目を見張るものがある。
これまで他の冒険者たちのパーティーで見かけたどの僧侶よりも高い能力を持っていると言っていいだろう。
ただ、その目的が魔人の捜索、そしてその魔人の目的とやらがビスタールにとって重大な問題だという。
さらには、邪龍の復活がその先に待ち構えているとか、
どんなハードモードだよと言いたくなる。
オレらはまだワイバーンとだって戦闘を避けるぐらいなのに。
それで、まだ明らかになってないのが、ビスタールの危機とやらと、報酬と・・・
あと・・・ん?
「ちょっと待ってくれ、
魔人の正体は別にして、その魔人の率いる勢力とか、本拠地とかはベルナールから聞き出したのか?」
「ああ、一応聞いている。
だがさっきも言ったように信用できるとは限らんからな?」
「それは仕方ない、
わかる範囲で教えてくれ。」
「まず勢力だが、それほど大きな集団ではないらしい。
ヒューマン、亜人、妖魔、そしてデーモン、竜族など、コミュニケーションが取れる種族なら見境なく仲間にしていると言うことだ。
報酬は、ほとんどベルナールに提示したものと一緒のようだ。」
「スキルを与えられるスキルか・・・。
貰えるもんだけ貰って、はいさよなら、とか裏切ったりとかする奴はいないのかな?」
「それだけ成功報酬が魅力的なのかもな。
それと、後に控える邪龍を恐れているのか・・・。」
俺なら邪龍復活直前で反旗を翻すって言いたいところだな・・・いや、
まだそんな考え方から抜けられないのか、オレは。
おっと、今はこっちの話に集中と。
「それで本拠地だが、さすがに近場ではない。
この大陸の北方に、巨大な渓谷があってな、
馬車や騎兵では越えることのできない難所になっている。
どこかに人の足でも安全に渡れるルートがあるのかもしれないが、私は知らぬ。
ただ、その魔人はしばしばその渓谷を越えて、人里に何か所か拠点を作っているそうだ。
ベルナールはその内の一つの拠点で魔人と接触したという。」
「ならまずそこを叩くってことか。」
「そうだな、ベルナールの話だと、もうクィーンはそこから離れているようだが、
その拠点から本拠地までのルートが判明するかもしれない。」
「・・・どう考えても長期戦になりそうだぞ。
報酬は?」
「前払いは出来ないが、調査・討伐のための必要経費は払おう。
調査は、まず、魔人本拠地の発見、ここまで第一段階として成功報酬を払う。
報酬は100万ペソルピー。」
「いいね!」
オレのシッポとリィナの鼻がヒクつく。
「そして第二段階は魔人の目的の全容解明。
可能であれば、直接魔人と接触して要望を聞くなり、交渉の窓口になってもらうかもしれんが、身の危険を感じるようであれば無理をする必要はない。
ただ流れによっては、そのまま交渉使節の護衛の任を頼むかもしれない。
まぁその話はその時として、全容解明500万ペソルピーだ。」
「十分だ、あとは目的達成期間なんだが・・・。」
そこでダークエルフ達が帰って来た。
いつの間にかヒルゼン副隊長が増えている。
ダークエルフの国に帰ったと聞いていたがもう戻ったのか?
「アラハキバ神官長、お話の途中だと思いますが、こちらも参加させていただいてよろしいですかな?
あなたのご心配が的中したようです。」
ん? 何の話だ?
振り返るとアラハキバ神官長が驚愕の表情を浮かべている。
「ま、まさか、ダークエルフのエルドラでも・・・!?」
「はい、このビスタールと同じく、現世に戻られた御霊が著しく減少しているとのこと!
祭祀長は、アラハキバ神官長と同じ懸念を持ち、
あらゆる手段を以て、解決に当たれと我らに命じられました!!」
「そのあらゆる手段とは、我らビスタールの者と協力することも含まれるのかな?」
「勿論でございます!
エルフ以外のヒューマンを始めとした他の国家にも、協力を要請するとのことですが、
ただこちらは正直、ヒューマンどもが我らの言葉を信じて動く可能性は低いのではと申しております。」
現世に戻った御霊の減少?
なんだ、そりゃ?
そこでオレとアラハキバ神官長の目が合う。
彼はフッとため息をついた。
「ケイジ殿、いま、ノードス兵団長の言った意味が分かるかね?」
「悪いがさっぱりわからない。
・・・が、もしかして、さっき言いかけてた内密にするはずだった話か?」
「さすがだね、その通りだよ。
まぁ、もはや君に知られても問題はない。
簡単に言うとだね、
この世界から魂が減ってきている。
このままいくと、子供が生まれなくなる。
つまり人類滅亡の危機というわけだ。」
「は!?」
いや、簡単に言い過ぎだろう?
「最初はこのビスタールだけの話かとも思ったんだが、
魔法都市エルドラも同様のようでね、
恐らく、遅かれ早かれ他の都市も同じことが起きるだろう。」
「地味にヤバい話だな、
邪龍とは別の意味で人類の危機という事か。」
「さっきの全容解明の内容に、この問題も含まれる。
その、ラプラス商会の会長の話だと、魔人の話に無関係でなさそうだ。」
一気に話が難しくなってきた気がするぞ?
そのクィーンとやらがサービス精神旺盛で、こちらが聞いたことを全部教えてくれるなんて楽観的過ぎる状況は考え辛いし。
「ちょっと待ってくれ、
報酬はともかく、期間はこれかなり・・・。」
「度々すまんね、こちらの話も聞いてくれるかな?」
またもやノードス兵団長が割って入った。
「ふむ? まだ何か話したりない事でも?」
「細かい話はいくらでもあるのですが、
ビスタールは、そのケイジ殿にこの件の究明を依頼するのでしょう?
そちらのタバサ殿とご一緒に。」
「うむ、その通りであるが?」
「ではそのパーティーにウチのアガサを加入させていただきたい。
次期兵団長候補ナンバーワンのアガサは必ず君らの力になる。」
次期兵団長候補ナンバーワン?
魔法都市エルドラの魔法兵団トップの候補だって?
そりゃすげぇ!
て、無表情にダブルピースでアピールしてくるな、アガサ。
「それはこちらにとって願ってもないことだが・・・。」
「もちろん、こちらにも頼みがある。
優先順位はその魔人がらみの後でいい。
深淵の黒珠の捜索及び奪還を引き続き依頼したい。
だがあのラプラス会長の口ぶりなら、
彼の口からも邪龍関連の情報は引き出せるはずだ。」
確かにそれはオレも思った。
何となくだが、あのラプラス商会の連中、敵味方に分けて考えるより、
利でどちらにも付きそうだ。
「ノードス兵団長、あなた達の方でも何か考えがあるようですな?」
「私の考えは、恐らくはアラハキバ神官長と同じなのではないですかな?
冒険者として制約なく動けるケイジ殿は我々にとって貴重な存在となる。」
「随分と買われたもんだな?」
そこでアガサが口を挟む。
「元々この話は私から提案。
なによりケイジ、鑑定で見たあなたのレベルは異常。」
う、見られていたか・・・。
次回で回想編終了です。