第六百十八話 ぼっち妖魔は魔王と対面する
<視点 麻衣>
あたしとミュラ君は応接間に案内された。
ヨルさんとヨルママが到着次第、ダイニングルームでご飯をいただけることになっている。
竜人のゾルケトフさんやドラゴンさん達は、お外で飲み食いするんだって。
運転手さんであるラプラスさんは控え室でお食事を貰えるとか。
ちなみにドラゴンさん達の食糧なんて、この館で用意できるのかと思ってたら、
なんとミュラ君のウェストバッグに備蓄してるのだという。
つまりこの世界に10個しかないというマジックアイテムか。
さすが魔王である。
その程度のものは収集済みなのだろう。
そして今やあたしの目の前にはミュラ君が。
二人っきりで。
あらためて彼の顔を見るとメチャクチャ美形である。
さすが、あのベアトリチェさんの息子さんだ。
あの、色素の薄い水色の透き通った瞳に見つめられたら多くの女性たちが惑わされる事だろう。
あ、え、と、あたし?
あたしは、ね、ほら?
美形なんて、天使くんの件で懲りてるから。
ちゃんと免疫があるのだよ。
たかだか年下に見える美形の男の子にときめいたりなんてしませんよ。
うへ、うへへへへへへ。
うん、それは大丈夫、
大丈夫なんだけど・・・
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
え、と、
どうしましょう?
ミュラ君とは前回既に多少の会話はしたことあるけど、
改めて二人っきりになって何を話せば・・・。
異常成長を遂げているミュラ君、
まだあたしの方がお姉さんに見えるけども、
・・・見えるったら見えるけども、
彼は転生者。
前世でどのくらい生きてたのか知らないけど、あたしより人生経験豊富なのは間違いない。
まして今や、この地域を含む魔族全体の魔王さまである。
へりくだっておいたほうがいいのだろうか。
と思ったら向こうから話しかけて来た。
「カラドックのパーティーにいたヨルという魔族に会いにきたのだけど、まさか君もいたなんてね。
え、と・・・麻衣さん、だったっけ?」
・・・心なしか相手も緊張しているようだ。
あたしごときに何を・・・
そう言えばカラドックさん曰く、
彼も幼少期はぼっちだったような・・・
「あ、は、はい、伊藤麻衣と申します。
以前は失礼な事を・・・。」
思いっきりミュラ君の親子関係に口出ししちゃったしね。
けれどミュラ君はゆっくりと首を振った。
「あ、いや、それについては気にしなくていい、
むしろこちらこそ色々世話になったと思う。」
それは良かった。
魔族の王に指名手配されたら堪らないからね?
「そ、それと、できれば普通に話して貰えないかな、
出来れば、だけど。」
ん?
普通って・・・まさかタメ口OKとか?
「それは・・・構いませんけど、
あたし、普段からこんな喋り方なんで・・・。」
大抵の人には丁寧語使ってるからなあ。
「そ、そうか、なら楽な喋り方でいいよ。
なにぶん、魔族含めて同世代の人間とコミュニケーション取る機会が滅多になくてね、
前世でもそんな関係になれたのなんて、リナとその兄弟くらいなもので・・・。」
あー、やっぱりぼっちだったんだ。
それは親近感湧いて来たな。
え?
それは相手がいないだけであって、
自分から引きこもってるお前と一緒にするな、ですと?
なんと失礼な。
あたしは能力を隠すためにぼっちを貫いていただけである。
あたしのコミュニケーション能力に問題あるわけではない。
ないのである。
そ、その気になれば友人の一人や二人っ!
「え、と、じゃあ、魔王様に対して失礼な喋り方するかもしれませんが・・・。」
「それこそ、君は僕の家臣でも部下でもないのだから気にしなくていいよ。」
話の分かる人で良かった。
まあ、リィナさんじゃあないけど、
リナさんて人とそれなりの仲だったのなら悪い人ではないのだろう。
「そ、それにリナ・・・いや、リィナにもいろんな人と交流するように言われてるしね。」
なるほど、やはりリィナさんには逆らえませんか。
「それで・・・改めて聞くけど麻衣さん、
君は僕やカラドックと同じ世界からやって来た異世界人なんだよね、
それに・・・妖魔と人間のハーフ・・・。」
ああ、そこはステータス見られちゃったら否定しようもないんだよね。
ただいくつか修正点がね。
とりあえず妖魔変化しておこう。
「おっ!?」
あっ、びっくらこかれたかな?
「えーと、それなんですが、
あたしが地球からやって来たのは間違いないんですけど、カラドックさんの世界とは微妙に違う世界だそうです。
ただ、共通の知り合いは間違いなくいるようですね、
カラドックさんのお母さんのマーゴさんとか。」
あと誰かいたっけ。
天使くんの話はやめておこう。
また話が長くなる。
「世界はいくつもあるということか?」
「みたいです。
それとあたしはこんな姿になれますけど、特に大した能力持ってないですよ?
人間とどこが違うと言われても困っちゃうんですよねえ?」
外見が多少変わったように見えても、
別に変温動物になるわけでもないし、生態が変わるわけでもない。
「むうう、しかしそう言われても元の世界で見かけたら驚くのは間違いなさそうだよね。」
それにはきっちり反論しておくぞ?
「でも、それ言ったらカラドックさんの精霊術とか、ミュラ君だって動物の使役術使えてたんですよね?
普通の人間から見たら信じられないレベルのチート能力ですよ?」
あたしも蛇さんだけは使役できるけどね。
たぶん。
「なるほど、そうか、そう言われてしまうと・・・。」
その辺りでヨルさん達がやって来た。
ようやくご飯タイムだ!!
「この度は愚かな父がご迷惑かけまくったですよぅ。」
ヨルさんとヨルママが思いっきり腰を曲げて謝罪する。
二人とも普段着とか戦闘用スタイルとかでなく、
どごぞのお嬢様やご婦人が着るような華やかな衣装だ。
人間の貴族が着るようなドレスとも一風変わったスリムで足元を隠すようなワンピース。
ヨルさんは今回、頭を絹のようなターバンで隠してる。
「ほんとうに魔王様が寛大な処置をしていただいて感謝しますねぇ。
もうあの人にはきつく罰を与えておりますので・・・。」
ママさんはヨルさんと二人並ぶと姉妹みたいだね。
言葉遣いや態度で年齢を感じさせるけど。
「あ、ああ、君らであれだけやっておくなら、僕の方から何か処分する気はないから。」
ミュラ君も引いている。
そりゃ、あれだけ血液だか体液だか分からないけど、大量の液体を流出させてればね。
・・・ヨルパパ生きているのかな?
とりあえずその件はもういいだろう。
今やダイニングルームでの昼食会となった。
ちなみにこっそり広場でもらったバジリスクの串焼きを提供している。
料理人の人に温め直してもらっただけだけどね。
食べるものは他にも沢山あるし、
あたしが食べられなさそうな食材もないようだ。
安心して舌鼓を打とう。
四人での昼食兼会談は和やかに進んだ。
もっとも話の中身は結構大事なことばかりだと思う。
たまにヨルさんが直球投げ込むから怖いんだけどね。
「それで魔王さまは人間社会に戦争仕掛ける気はないですかよう?」
ほらあ!
そんなのこんな席で気軽にしていいものじゃないでしょうに!!
「・・・現段階ではその予定はない。
一部ヒューマン社会と交易を始めるか検討段階だ。
もちろんヒューマン側が攻めてくる可能性も排除しない上での検討だけどね。」
ああ、そんな話題に付き合えるはずもありません。
けど、これ言っとかないとね。
「あ、じゃ、じゃ、ミュラ君、大事な情報を・・・。」
「うん、なんだい?」
「黄金宮殿でも会ったと思うんですけど、
あの場にいたマルゴット女王、
異なる世界ではミュラ君のお母さんに自分のお父さんを嵌められたようなことになってます。
マルゴット女王にその記憶はなくても、何らかの影響なのか、ベアトリチェさんを思いっきり敵視してました。
まあ、親の恨みを子供にぶつけるような人ではないと思いますけど、出来たら配慮してあげると・・・。」
「そうなのか・・・
わかった、ありがとう。」
ミュラ君も複雑な表情を浮かべている。
でも、あともういっちょ。
「それと、これは蛇足的な情報ですけど、
カラドックさんの世界でもあたしがいる世界でもない、更に別の世界で、
ベアトリチェさんとあたしのママが一時期、アスラ王と同一人物らしき人に仕えてたそうです。」
「!?」
これは流石に驚いたようだ。
まあ、言わなくても良かったんだけどね。
多少、あたし達に縁があると言った方が、この先安全かなと。
あたしも打算的になってきたな。
「そんな情報、どうやって・・・。」
「ああ、あたしのステータス視えるかと思うんですけど、あたしに闇の巫女なんてある称号のせいだと思います。
ちなみに自分では何が知れるのかとか、一切分かりません。」
そういうことにしておこう。
しばらくミュラ君は考え込んでいた。
さすがは王様だよね。
黙って考え込む仕草がとても絵になる。
「そうか、
色々貴重な情報をありがとう。
それで・・・ここから本題なんだけど。」
むむ!
一体何の話を!?
あたしもヨルさんたちも緊張する。
「・・・リィナとあの獣人、ケイジだったか、
あの二人は付き合っているのか?」
・・・うん、
ミュラ君にとっては大事なことなんだよね。
そうだよね、
魔族やヒューマンのことなんかよりとってもね。