第六百十六話 ぼっち妖魔は帰れない
<視点 麻衣>
とゆーわけで、あたしは帰ることにした。
「最後に会えて良かったですよ、ヨルさん、
どうかお元気で・・・。」
ぐはっ!?
部屋の出口へと引き返そうとしたら、いきなり後ろからしがみつかれた!
うっぷ、酒臭いっ。
「麻衣ちゃん、何しにここへ来たですかあっ!?
もう少しヨルに構ってくれてもいいじゃないですかあっ!!」
なんてわがまま言い出す人なんだろう。
信じられない。
まあ、まだお昼ご飯も食べてないし、急ぐ必要はないのだけど。
「ていうか、ホント麻衣ちゃん、
自分の興味ないことに対しては思いっきり淡白ですよねぇ?」
なんだと。
鏡を見せてやりたい。
それはあなたのことなんですよと。
「いえ、本気でヨルさんが元気になってくれたらそれでいいんですけどね。」
「ヨルも自分でこのままじゃいけないとは思っているですよぉ。
でも今は何もする気が起きなくてぇ・・・。」
まあ、失恋したと思えばそういうこともあるだろう。
あたしにはよくわからない話だけども。
え?
いえいえ、自慢しようだなんて思ってませんよ。
何しろ大した恋愛経験などないことは自覚しておりますので。
むしろ自虐ですって。
うん?
それが淡白だと?
何を仰ってるのか理解できませんね。
まあ、今はあたしのことでなくヨルさんのお話を。
「角は治さないんですか?」
ここはヨルさん自身の部屋なのだから、誰か他人が訪れることなどそうそうない。
隠す必要もないのだから、半ばで切り落とされた角は当然そのまま剥き出しだ。
「・・・それも何度も何度も考えたですよぉ。
おとうさんも治癒士探してくるから絶対に治すように言ってたですけどねぇ、
しばらくこのままでいるつもりですよぉ。」
・・・奪い取るのが不可能であるのなら・・・
あたしだったら、とっとと忘れるかした方がいいと思うけども。
どのみちあたしがここでヨルさんの愚痴を聞いてても、何も物事は進展しないし解決もしないんだよね。
だからさっきのタイミングで帰ると言ったのは間違いじゃない。
後はヨルさんの気が済むまでの話だ。
まあ、もともと今晩はここに泊まるつもりでいたから時間取られること自体は構わないんだけどね。
そう言えばこの街って宿屋あるのかな?
なければこの館、結構広いからあたし達が泊まれる部屋くらいあるよね?
ヨルさんが町長の娘だというならその融通くらい利くとおもうけど。
・・・うん?
なんだ、この気配。
とても強大で途轍もない速さでここに近づいている・・・
その時、外からとても大きな音が響いてきた。
ジャーン! ジャーン!
銅鑼か何かの音?
もっともこの音についてはこの街に住んでるヨルさんの方が当然詳しい。
「ふわっ!?
街の外から何か近づいてきたですよぉ!!
ワイバーンかドラゴンか・・・、
この音は見張り台から鳴らしているですぅ!!」
思わずあたしは窓の外に身を乗り出す。
外は風が強いけどほぼ快晴。
視界は良好だけどあたしの視力じゃまだ何も見えない。
けど何かがやって来る方角は分かってる。
なんてことはない。
そんなものは遠隔透視を使えばすぐに・・・
接近して来るものは七、八匹程度の翼ある魔物。
すぐにはワイバーンかドラゴンかの区別はつかない。
けど二匹だけ色が違う。
先頭を駆る銀色の魔物と、中央のボスらしき黄金色の・・・
ん?
その組み合わせって・・・
あれ、
どこがて見たような気が
あ。
見張り台からの銅鑼は鳴り続けている。
あそこからじゃ何が近づいているか、まだ分かるまい。
けどあたしには・・・
ジャーン! ジャーン!!
「げえっ!! 魔王っ!!」
思わず年頃の女の子が発してはならない声を出してしまった。
なんとミュラくんではないか。
そう、あの雄々しい黄金色のドラゴンに乗っているのは魔王少年ミュラ君だ。
それこそ、あたしはもう二度と彼には会うことないと思っていたのだけど。
そして先頭にいた銀色のドラゴンに乗っていたのは竜人ゾルケトフさんだったっけ。
相変わらずゴテゴテした重そうな槍を構えている。
結局、ケイジさんたちと戦う事がなくて本当に良かったと思う。
あの鬼人の人とゾルケトフさんは互角の実力と言ってたからね、
そしてその話は、恐らく地上での一対一の戦いにおいての話だろう。
今みたいにドラゴンに騎乗して、
竜騎士として戦うのなら、もはやそれは冒険者パーティーAクラスとしてもどうしようもない脅威となる筈だ。
人間を大量に殺していた鬼人さんの時は、メリーさんがうまくはまったけども、
このゾルケトフさんは紳士っぽい。
そんな人の道に悖るような過去がなければメリーさんだってどうにも出来ないんだものね。
まあ、ゾルケトフさんは人じゃないけども。
・・・ていうか、
ヨルさんのパパがヒューマンの国に戦争仕掛けるとか言ってた話はどうなったんだろう?
いくらなんでもドラゴンさん数匹では戦争にならないと思うのだけど。
それともこの数ならケイジさんのパーティー、
或いはカラドックさんのみが制圧対象ということか。
やがてミュラ君率いるドラゴンの一隊は、この館の敷地の中に着陸したようだ。
いったい何事だというのか。
そしてしばらくして、あたしたちのいる部屋の扉がノックされる。
それも慌てているのが丸わかりな調子で。
「ヨッ、ヨルお嬢様、大変です!」
この声はバトさんだね。
「どうしたですかぁ、騒々しいですよぉ!」
「も、申し訳ありません、
ですが、お館さまが、ゴア様が・・・」
「おとうさんがどうしたですかぁ?」
あんまり興味なさそうだね、ヨルさん。
まあ、どこもお父さんの扱いなんてそんなものだろう。
「ゴア様が、縄で縛られた姿でお帰りになりましたあ!!」
また凄いことになってるな。
そして何がどうなったというのか。
あたし達は、部屋を出て敷地内の数匹のドラゴンさんたちの前にやって来た。
確かに立派な角を生やした魔族のおじさんが、縄でグルグル巻きになっている。
ヨルさんといい、同じ日に親子でグルグル巻きにされるとは、やはり血は争えないということか。
「おとうさん、なんて情けない姿になってるですかあ。
まさか魔王さまに謀反起こしたんじゃないですよねぇ?」
うわ。
確かにこの構図だけ見るとそうも見えるよね?
ミュラ君、裏切り者に寛大なタイプだろうか。
それともまさか一族郎党なんてことは・・・
「そっ、そうじゃないんだ、ヨルっ!
聞いてくれ!!
パパは魔王様になんの二心も抱いていぞっ!!
これは・・・これをやったのは・・・!」
「おだまりっ!!」
「ひぃっ!?」
あっ、
なんかドラゴンの背中から、スタイルのいい魔族の女の人が降りて来た。
鞭みたいなのを持ってるけど、
ヨルさんのお父さんの鼻先に、その鞭をかすめさせている。
あれは怖い。
いったいあの女の人は誰だろう?
前のベアトリチェさんの所では見なかったと思う。
あたしの疑問は簡単に解けた。
それもあたしのすぐ近くにいる人から。
「あっ、おかあさん、久しぶりですよぅ。」
えっ
「ああ、久しぶりだねぇ、ヨル。
何だか大変だったみたいねえ。
しかも邪龍を倒しちゃったんだってえ?
あんたはやる子だと思ってたよ。
・・・なのにこの人ったら、身の程も弁えず、魔王さまに、しつこくヨルを傷物にされたからヒューマンを滅ぼさなければならないなんて言い寄ってねぇ、
魔王さまは、寛大にも許してくれたけど、罰は必要だろ?
だからこうしてしばらくこのままにしといてね。
しっかり反省するまでねえ?」
まさかのヨルママ登場である。
しかし、本当にこの世界、強い女性ばっかりだね。
ゴッドアリアさんなんか貴重なタイプかもしれない。
今回は更新できました。
次の話はまだ、考えてません。