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第六百十四話 ぼっち妖魔はお邪魔する

<視点 麻衣>


やって来ました、魔族の街マドランド。


荒野の中にポツンと浮かぶ城塞都市・・・いや、街。


一応、街の周りは高い壁に覆われているけど、

その街の中にはそれなりの高さを持つ建物が少ない。


街の広さはそこそこあると思うけども、

建物部分がスカスカだ。


そう、上空から見るとそんな印象なんだよね。


あ、初めて訪れる場所なのに、よく街の場所が特定出来たねって?


それはもう、あたしの遠隔透視がありますからね、

ヨルさんの居場所はバッチリなのだ。

この期に及んであの人も隠匿結界なんてかけてないしね。


 「麻衣様、着陸地点はいかがいたしますか?」


ラプラスさんが振り返ってあたしの反応を待つ。

実は今のあたしは変装仕込み中なのだ。


変装といっても顔を変えるわけじゃないよ。


トラブル防止のために魔族のフリをするだけ。


まず手持ちのブランケットをターバンみたいに巻いて角を隠す。

もちろんあたしにそんな物騒なものはついてない。


結婚してない魔族の女性は角を隠すそうなので、とりあえずあたしもそれに従うのみ。


肌の色はどうしようもない。


それこそ、この世界の化粧品探せば、

どこかで浅黒い肌を再現できるファンデーションがあるかもしれないけど、

そこまでしなくていいだろう。


そしてあたしの切り札。


 「妖魔変化ようまへんげ。」


まあ、スキルや魔力を使うわけじゃないから、MPがどんどん消費されると言うこともない。


この姿で魔力を使うと威力と消費量が激しくなるだけ。

何もしなければずっとこのままでいられる。


そうしてあたしの瞳は翡翠色・・・

風の噂では、限界突破すると瞳が黄金色に近づくとかなんとか・・・。


 「とりあえず、町長さんの館の前のメインストリートに降ろしましょう。

 さすがに建物の敷地内にいきなり降りると大騒ぎされそうですし。」


一応、ケイジさんたちから、

ヨルさんの街の様子は聞いて来た。


他人には無関心な人達が多いらしいけど、

いきなり空飛ぶ馬なし馬車や、ハーフエルフのラプラスさんがいたら騒ぎになるかもしれないしね。


 「・・・しかし、確かにそれで肌の色が変われば麻衣様も魔族に見えるかもしれませんな。」


あたしは手鏡で自分の顔を映す。


うーん、

自分の顔だから違和感ないけど、

知らない人が見たら騒がれるかな。


そもそも普段の深緑色の瞳はともかく、

妖魔化すると瞳は透明じゃなくなっちゃうんだよね。


要はそれこそ翡翠石のように透けた部分がなくなっちゃう。

瞳の真ん中に黒い瞳孔が浮かぶだけ。


改めて聞くと気持ち悪いな・・・。




表現変えるか。


普段は生卵割ったら透明の白身の部分が、


妖魔化すると茹で卵みたいに真っ白になると・・・


うん、もっと気持ち悪いかもしれない。

下手すると魔族の人達以上にあたしは魔族寄りということなのだろうか。


この話はやめよう。




馬車を降りると、

さすがに無関心な人が多いと言われる魔族の人達でも、珍しそうに数人の男女が集まって来た。

うん、みんなごっつい角を生やしていなさるね。


魔族の男だと執事のシグさんて人は見たことあるけど、背格好はみんなバラバラだ。

角の形も一人一人違う。


 「なんだ、お前ら?」

 「そっちの男はエルフか、

 こっちの小娘は・・・ん?

 魔族にしては肌が白すぎるし・・・。」

 「それよりこの馬車、馬はどこ行った?

 ていうか、空から降りて来たか?」


多少騒がれるのは仕方ない。

けれど、あんまり時間取られたくもないしね。


 「町長さんの娘さんのヨルさんに会いに来たんですよ。

 一緒に邪龍倒した仲間なので。」


後半の説明は要らなかったかも。


 「おお! そうか!!

 それはよく来た!!」

 「あれが空飛ぶ馬車か!」

 「てことは、おまえが異世界の妖魔とやらか!」


結婚有名にされてたらしい。

妖魔変化しなくて良かったかも。


 「ああ、あまり娯楽はなさそうですからねぇ・・・。」


ラプラスさんが的確な解説をしてくれた。

なるほど、噂が広まるのも早いと。



 「おまえら串焼き食べるか!」


そのうちの一人が向こうに見える屋台から、なんかの肉の串焼きを持ってきてくれた。


どうやらみんないい人たちらしい。

ところがあたしの耳元でラプラスさんが囁く。


 「麻衣様、確かそれはバジリスクの香草焼きで、ごくごく稀に食べた者を泌尿器科にお世話にならせるという曰く付きの・・・。」



あたしはにっこりと微笑む。

 「ありがとうございます、ヨルさんへのお土産にさせていただきますね。」



油断も隙もないな、魔族共。



町長さんの館を訪ねると、

既に馬なし馬車の到着が知られていたようだ。


ちなみに馬なし馬車は、ラプラスさんの風魔法で、館の前まで移動している。

このまま門の中へお邪魔するつもりだ。


パリッとしたスーツの初老のおじさんが待ち構えていた。


 「ただ今、執事を任されているバトと申します。

 こちらへはどのようなご用件で?」


魔族の人はあまり歳をとらないように見えるそうだから、人間にしたら結構高齢の人なのかな?


 「伊藤麻衣と申します。

 友達のヨルさんに会いにきました。

 落ち込んでると聞いたんで元気出してもらおうと・・・。

 お呼びしてもらえますか?」


友達枠でいいよね?

みんなとあんな別れ方したから、ヨルさんに冷たくあしらわれるかもしれないんだけどね。


ちなみに魔族の執事の人の顔は、あたしの言葉を聞いて途端に柔らかくなった。


 「おお、ヨル様のご友人の方でしたか!

 ではすぐに・・・あ、いえ、直接お通しいたしますが、それでも宜しいですかな?」


うん?

こっちはもちろん構わないけども。


 「あ、はい、そちらさえお構いなければ。」


友達とはいえ、いきなり部屋に来られたら慌てないかな?

それとも意外とヨルさん、部屋の中とか綺麗にしてるのだろうか。


遠隔透視・・・するまでもないと思うけど。




そしてヨルさんの部屋の前まできたようだ。

 「ヨルお嬢様、

 ご友人がいらっしゃってますよ、

 お部屋を開けて下さいませ!」


執事の人が扉をノックする。

よくよく考えてみたら、こんな真っ昼間に部屋の中に閉じこもっているのか。


やっぱり元気なくしているのかな。


そして部屋の中から投げやりな声が。



 「はぁ〜、ともだちですかぁあ?

 どうせミドが角をなくしたヨルを笑いに来ただけですよねぇぇ、

 そんなヒマあったら街の外の見回りにでも行かせてくださいですょお〜。」


やっぱりカラドックさんに振られて引き篭もり状態か。

会いに来たはいいけど、

あたしと再会して元気だしてくれるかな?


時々ヨルさん、本気で冷たくなる時あるからなあ。


 「ミドじゃないですよ、

 麻衣様だそうです。

 こないだまで一緒に旅をされてたのでは!?」


 「はぁ〜?

 マイいい?

 そんな魔族に知り合いいないですよお?」


あら?

まさか本気で忘れられてしまってるのだろうか?


心配になったのか、執事の番頭さ・・・いえ、バトさんでしたっけ、

バトさんがこっちを振り返る。


 「もしかしてヨルさん、邪龍討伐から帰ってきてずっとこんな感じなんですか?」


 「はい、ゴア様が呼びかけてもずっと部屋から出ず、

 ゴア様はゴア様で、娘が傷物にされたと人間達に戦争仕掛けるべきだと魔王様に直談判までされて・・・。」


ちょっ!!

それ、ヤバいでしょ!!

下手したら人魔大戦勃発するところじゃないの!!


カラドックさん、ちゃんとそこまで見越していたんですか!?


 「やむを得ません。

 これは力技で部屋から出て来させるしかないようですね。」


 「麻衣様!?」


番頭さんもご心配なく。

さすがに「この子に七つのお祝いを」は危険過ぎますからね。



ここは一つ、

前回邪龍戦で覚えた、見えない場所に術を起動させる技をご披露しましょう!


 「召喚、しかもダブル!!」


ヨルさんの部屋の中にふたつの魔法陣を展開!!

あたしはやればできる子なのだ。


 「あれっ!?

 ヨルの部屋の中に魔法陣が出来たですよぉ!?

 それも二つも!!」


 「召喚、ふくちゃん&スネちゃん!!」


 「あっ、こ、この蛇とふくろうはぁっ!?」


いくら歴戦の強者ヨルさんでも、りらっくましまくりの自分の部屋で、いきなりふくちゃんたちに襲われたら一溜まりもないだろう。


 「ちょっ!?

 二匹ともヨルのことは覚えていないんですかよぉ!?

 血も涙もないとはこのことですようっ!!」


うむ、スネちゃんに簀巻きにされて、

ふくちゃんに顔じゅう啄まれているね。

遠隔透視で視えるよ。


ヨルさんをぐるぐる巻きにしたので、

ふくちゃんに中から部屋の鍵を開けてもらった。


ふくちゃんは器用で賢いからその程度朝飯前なのだよ、うふふふふふ。



・・・それはいいのだけど。





うっぷ!

酒臭っ!!


ヨルさん、

真っ昼間から飲んだくれてやがる!!

 

確かに部屋の中見回すと空っぽの酒瓶だらけだ!


これ・・・あたしにどうにかできるのかな。


さて、どうしてくれようか。

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