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第六百十話 ぼっち妖魔は追撃される

<視点 麻衣>


これで本当に、

みんなとはお別れを済ませたことになる。



誰か一人足りないような気がするけども、

忘れてるわけじゃない。

そこまでする必要はないだろうと思っただけである。


その気になればあたしはいつでも呼び出せるのだ。

いえ、そんな機会必要ないと思うんですけどね。




あたしは馬車に乗り込む。

みんなこっちを振り向いて、何人かは泣いてくれているよ。

確実にこっちの心を抉ってくるな。

この期に及んでまだあたしを泣かせたいのか。


この後あたしは一人になるんだぞ。

誰かと一緒にいたりすれば、話し込んだり他の事に気を紛らわせることもできるけど、

一人になったらどうしても色々考えてしまう。


さっきまではギリギリでなんとかなったけども、

あたしはこのまま耐え切ることが出来るのだろうか。




馬車が動き出す。


あたしもみんなに向かって手を振る。

声は出さない。


まともに大声が出るか疑わしいからだ。



だんだん、

みんなの姿が小さくなってゆく。


もう誰が誰かも識別できない。




家族以外で、

初めて仲間って呼べる人たちが出来た。


みんな、いろいろな事情を抱えていたけども、


もう会えない。



会えないんだよね。




本当に最後で。


 


どうやら城門も閉じられたようだ。

さすがにこれ以上、後ろを向いている必要もないだろう。


あとは窓の外へと街並みの景色を眺めることしかあたしに出来ることはない。


そう思っていたのだけど。





馬車の天井に気配が?




 「もしもし?

 私メリー、いま、あなたの上にいるの。」


姿は見えない。

声だけ上の方から聞こえてきたのだ。


まさか追っかけてきたのか。




 「入っていい?」


まさか断るわけにもいかないからね。


 「ええ、どうぞどうぞ。」




そしてメリーさんはゆっくり走っている馬車の中に入ってきてしまった。

まあ、別にいいですけどね。


 「どうしたんですか?

 まさか忘れ物を届けに来たなんてことないですよね?」

 


何度も確認したからね。

忘れ物なんてないはずだ。


そもそも元の世界からあたしが持ち込んだのは高校の制服一式のみ。

今やそれらは巾着袋の中だ。

それ以外なら忘れ物があったとしても、

結局はこの世界に置いていくしかない。



なんて思ってたのだけど。


 「死神の鎌、返して。」


ホントに

わっすっれってっいったあああああああっ!!

巾着袋にしまっていたままだったあああっ!!



 「ていうか、メリーさんだって忘れてたんじゃないでしょう?

 さっきのタイミングのどこかで言ってくれれば良かったのに。」


 「私はちゃんと空気を読めるから・・・。」


そうだったっけ?

空気を読んだ上でぶち壊すのがメリーさんだった気がするのだけど。


 「もしかして他にも理由があるんじゃ?」


きっとそうじゃないかという気がする。


 「私とハグしてないでしょ。」


あ、そっ、

それはっ


 「私、麻衣に嫌われてしまったかしら?」


ドキっ!


 「そ、そうじゃなくてですねっ、

 ほら、メリーさんには、ミシェルネさんて娘さんがいるじゃないですかっ、

 だからメリーさんと抱き合うポジションの人はあの子かなって、ちょっとあたしの中にも遠慮というものがあって・・・。」



うん、それは事実である。

加えて言うと、あたしもママと十分抱き合って、今までメリーさんがママだと思っていた過去と決別すべきかなとか、いろいろ考えてたら、そのまま・・・


 「感情のないままだったら私も何も感じなかったと思うけど、さすがに今の状態だと私も仲間外れにされたみたいで、さみしいのだけど。」



ああああああああ、そ、そうなるのかあ〜。


 「わ、わかりました、

 遠慮しなくていいというなら、こちらこそ是非に。

 でも、メリーさんこそ、ミシェルネさんとの整合性というか、あたしはメリーさんの娘でも何でもないのにいいんですか?」



 「大丈夫よ、ほら。」


そう言ってメリーさんは腕を拡げた。

まあ、あたしも既にメリーさんはママではないと割り切っている。


ならば、と自然に抱きついたのだけど。





改めて言うまでもなく、

メリーさんの体は石でできた硬い体。

これまであたしがお別れした人たちとは当然、抱き心地も触感も異なって当たり前だけど、

あたしが違和感を覚えたのはその事ではない。



ちょっと痛い。




メリーさんだって分かってる筈なのに。

自分の体で思いっきり抱きしめたら、

抱かれた方に痛みが発生することくらい。


 「あ、あの、メリーさん?」


おかしい。


メリーさんが更に力を込めてくる。


あたしに対して悪意なんかないはずなのに。



まるであたしに縋り付くかのように。

このまま、締め殺されたりなんてしないよね?


ううう、

危険察知スキルも働いていないっ!  

い、いったい何がおこってるんだ



 「メ、メリーさんっ、ちょ、ちょっと力を・・・!」



そこでようやくあたしを抑えつけていた力が弱まったのだ。



 「あっ・・・ごめんなさい、

 コントロールしきれなかったわ。」


ん?

いったいどういうこと?

エクスキューショナーモードになってないなら、メリーさんは人形の体を自由に動かせる筈。


 「だ、大丈夫でしたけど、いったい何が?」


そこでメリーさんはカラダを少し離してくれた。

二つの手はまだあたしの腕を掴んだままだけど。



 「この人形の体には、

 百合子の情念がこびり付いている。」



・・・っ!?



え、い、いったい何を言い出したの?


 「もちろん、私は私。

 百合子の人格とは異なる存在。

 けれど多少なりとも影響を与えてくるの。」


そ、そうか。

以前も書いたけど、感知系能力者は、他人から流れてくる情念をガードする術を身につけている。


けれど、メリーさんの場合は、他人じゃない自分の体から流れてくる情念なのだ。

更に言うと・・・


 「百合子の記憶と情念には、まだ幼かったあなたの姿が焼きついているのよ。

 この、私ですら無視できないほどの。」


そうだ。

元の世界ならともかく、この世界のメリーさんは感情を復活させている。


なら、当然他人の感情の影響も受けてしまうのだ。

でも最初に会った時はそんなに・・・




 「あ、も、もしかしてミシェルネさんとの出会いが呼び水に?」


それまでメリーさんが拘っていたのは黒髪の女の子の話ばかりだった。

なのに、元の世界の一人娘との不意の出会い。

否応にも過去の母親としての意識をほじくり返されてしまったのだろう。


そして同じ母親としての意識がママの記憶をも強烈に呼び覚ます結果となったのだとしたら・・・




 「そうなのかしらね。

 ・・・いえ、きっとそういうことなんだわ。

 あなたは私の娘ではないと分かりきっているのに、この体が抑えられないの・・・。」


これはあたしにも予想すら出来なかった。



あたしはどう受け止めればいいのだろう。


 「麻衣、あなたが戸惑うのも分かるわ。

 どんな態度を取ればいいか分からないのでしょう?」


 「は、はい、どうしましょう?」


 「・・・どうすればいいのか、正解と言えるものは私にもわからない。

 でも出来ることはあるわ、

 私たちは二人とも感知系能力者なのだから。」



え?

意味が分からない。


 「ど、どういうことですか?」


 「本音を言えば、百合子の記憶を全てあなたに渡すべきだと思う。

 けれどこの人形のカラダから百合子の痕跡を全て消し去ることは出来ないわ。

 恐らくこの世界の魔法でも。

 けれどあなたにコピーすることなら可能。

 麻衣が21世紀に生きてる人間ならコピペの概念は分かるわよね?

 私のカラダに残ってる百合子の情念と記憶を、可能な限りあなたにコピペさせる。」


コピー&ペーストか。


この世界の僧侶呪文で呪いは解除できるものもありますが、


あくまでもメリーさんのような特殊なものや強力な呪いは無理ということで。

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