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第六十一話 魔人クィーン


ベルナールを捕えてから丸一日が経過している。

ここは中央神殿、神官長の執務室。

本来、資格のない人間は立ち入ることのできない場所だが、

タバサの口添えでオレやリィナは同席することを許された。

・・・なにかその点について、タバサの個人的な理由があるようにも思われたが、そこはスルーしよう。

少なくともオレたちにデメリットはない。


今回、初めて会ったのが、

タバサの父親でもあるという神官長のアラハキバだ。

なるほど、男女の違いはあるが、

筋肉質の逞しい背格好の壮年男性といえる、イケメンおっちゃん。

美形のタバサ同様、絵になる佇まいだ。

これで神の教えを説かれたら、

女性のみならず、男性ですらすぐに帰依するに違いない。


ただ本来、オレやリィナはここにいる必要はないと思う。

例の「深淵の黒珠」関連の依頼についても、捜索依頼続行なら誰か配下の者に指示を出させれば済む筈だ。

念の為に口約束で終わらないよう、契約の書面を貰えれさえすれば、こちらとしては有り難い。

この国では冒険者ギルドのような制度がない以上、最低限それだけは確約して欲しいのだ。


それでも、わざわざ今回の事件のトップ会談に、オレらを同席させたのは彼らの信義の問題なのだろうか?


いや、アガサとタバサがチラチラこっちを見ている。

・・・たぶんこっちがメインの理由なのか。



 「それで、冒険者のケイジ殿、リィナ殿で良かったかな?」


アラハキバ神官長がオレらに名前の確認をする。

オレらは自然な動作で頷いた。


 「今回の働きはご苦労だった。

 あのダークエルフ、ベルナールと言ったな、

 ヤツを尋問した結果、重大な事実が分かってね。」


 「オレらをここに呼んだのは、その事実とやらに関係あるってことか。」


 「なるほど、タバサからの報告通り、話の飲み込みが早い人物のようだ。

 これは頼りになりそうだな。」


そんな見え見えのおだてには乗りたくないが、少なくともハイエルフのタバサからは好評価を頂いているのは間違いないようだ。

何故かリィナが恥ずかしそうに頭掻いているけどお前の話じゃないぞ。


 (ケイジのおバカ!)


顔にオレの心の声が出ていたのか横からお尻つねられた!

オレが褒められたのが嬉しかったらしい。

すまん。


とりあえずタバサに視線を向けるとウィンクされながら親指立てられた。

オレは父親の目の前でどんなリアクションをとればいい?

まあ、今はアラハキバ神官長の話を聞こう。


 「まず、魔法都市エルドラの至宝、深淵の黒珠の話は聞かれているのだな?

 とりあえずその話は一度置いて貰いたい。」


 「え?

 あ、ああ、それはいいが・・・。」

それは意外だった。

となると、あのラプラス会長が去り際に放った一言、

邪龍とやらか・・・。


 「ここにいるノードス兵団長やその隊員たちには申し訳ないが、

 深淵の黒珠は魔法都市エルドラの問題、

 しかも少々暮らしが不便になる程度の事なのでな、

 気分の良い話ではないだろうが理解してくれ。」


アラハキバ神官長はノードス兵団長に首を向けて同意を求めた。

対してノードス兵団長は微妙な表情を浮かべたが、既に話の流れを理解しているのか、何も言わなかった。


 「さて、話を戻そう。

 私としては内密にするかどうかは、国家レベルでの判断が必要になるかと思うが、早急に対応できるのならば、誰も気付かぬ内に解決するのも一つの手だと思っている。」


 「何の話だ? 邪龍の件か?

 邪龍が復活しているなら、それこそ国家どころか国家連合にでもならないと討伐出来ないんじゃないか?

 それに・・・勇者も。」


一般的に、

いや、これは諸説あるが、

邪龍と魔王の危機度は等しいとされる。

違いと言えば、

魔王はほぼ100年に一度現れるかどうか、

邪龍は500年に一度現れるかどうかの差だろう。

邪龍の方が頻発度が低いとは言え、

魔王より脅威と言うわけではない。

強いて違いを挙げるとすれば、

魔王というものは、しばしば人間に対抗するように、魔王側も国家や軍隊を組織する事が多い。


これに対し邪龍はモンスター軍団を率いても、軍略とか政治とかはあり得ない。

ただの数に任せた力押し。

もちろん民衆などもいない。

従って、

魔王には交渉や停戦などの駆け引きは起こり得るが、

邪龍が人間に対して戦意を持ったならば、

どちらかが滅びるまで戦いは終わらない。

そう言う対処の難しさを考慮に入れるならば、魔王より邪龍の方が脅威度は高いと解釈する者もいると言う。

オレの認識はそこまでだ。


実際、かつて邪龍が現れた時の話は言い伝えしか残っていない。

どうやって滅ぼしたのかは、伝える国や種族によって細部が異なるものも多い。


そして魔王に対抗できると言われる勇者の存在。

これについても話は様々だ。

魔王が生まれる時には勇者も現れる。

また、勇者が生まれた時には世界のどこかに魔王がいる。

と、言われるのだが、

邪龍に関しては、必ずしも勇者が対応するとは限らない。

対抗戦力としては、勿論討伐の筆頭には名前が挙げられようが、

邪龍が現れた時に勇者が存在してない場合が過去にあったそうだ。

ただ、誰もそれを証明できない。


もしかしたら世界のどこかに勇者はいたのかもしれないが、

過去に邪龍を退けた時には勇者はその場にいなかった。

言えるのはそれだけだ。


 「ふむ、その件だがね、

 邪龍の話はラプラス会長がしていただけなのだ、

 肝心のベルナールは邪龍の存在を認めていない。

 いや、本人もそこまで信じていないと言えばいいのか。」


 「は?

 ならベルナールは誰の為に動いていたんだ?」


 「ケイジ殿は魔人を知っているか?」

 「・・・魔人だと!?」


聞いたことはあるが詳しくは知らない。

その存在は亜人の一形態なのか、

それとも高度な知能を持つ魔物なのか。

一般に体内に魔石を有するのなら魔物の分類になるとはいうが、

絶対数が少ない為に討伐された記録も少ないという。

恐らく世界中の冒険者達の中でもSランクのパーティーが数回討伐した記録が残っているかどうかだろう。


 「ベルナールの雇い主は魔人だそうだ。

 少なくともベルナールはそう認識している。」


 「魔王でも邪龍でもないのか。」

 「一応、な。」

 「歯切れが悪いな、

 はっきりしないのか。」

 「ベルナールとしては、その魔人に忠誠を誓うと言うよりも、分け前を貰える代わりに協力をすると言ったビジネスライクな関係だそうだ。

 その為か、あまり重大な秘密とか情報は少ないらしくてな。」


 「でもそれなら、逆に知っていることはバンバン喋れるってことだよな?」


 「うむ、後は話の信ぴょう性でな。」

 「成る程、そりゃそうだな、

 で、魔人の正体は?」


 「どこまで信じられるかの話になるが、雇い主の魔人は女性だそうだ。

 仲間うちではクィーンと呼ばれているとか。」


クィーン・・・女性の魔人か。


 「名前は分からないのか。」

 「ベルナールは一度鑑定してみたそうだが、普通に鑑定阻害されたそうだ。

 名前も近しい者にしか教えてないと言う。」


 「そんな奴とよく手を組もうと思うもんだな。」

 「それがどうもその魔人には特殊なユニークスキルがあるらしくてな、

 詳細は不明なのだが、触れる相手に特定のスキルを与える事が出来るそうだ。」


 「は?

 そんなスキル聞いたこともないぞ?

 魔人独自の、いやユニークスキルってことは個人のスキルなのか、

 それは是非ともお近づきになりたいスキルなのかもしれないな。」


 「うむ、それで前払いのような形でベルナールが手に入れたのが闇属性魔法だというのだ。

 そして成功報酬は更に魅力的なものらしい。」


 「それは一体?」


そこでアラハキバは一度口を閉じた。

 「?」

 「いや、済まない、話の順番があってな、

 気になるなら後でもう一度聞いてくれ。」


なんだろうな、

まあそれなら元の話に戻すか。

 「ふぅん、他人にスキルを与える事のできる女性の魔人、クィーンねぇ。」


クィーンと言うと、マルゴット女王を思い出すな。

魔人が高い魔力持ちだと言うなら、いざとなればあの人を・・・


 「ん? どうかしたかね、ケイジ殿?」


オレは首を振る。

いや、これ以上あの人には世話になれない。

もし、魔人とやらがグリフィス公国に攻め入るなら勿論真っ先に駆けつけてみせるが、今はその段階にない。

敵になるかどうかも決まってないのだ。


 「すまん、こっちのことだ、

 気にしないで話を続けてくれ。」


 

カラドックの世界の歴史(抜粋)

21世紀初頭、イギリスにて軍事クーデター発生→失敗

日米合同有人火星探査船、地球を出発→遭難

地軸の変化による大破局、異常気象→文明の衰退


その後、

中東に破壊の天使アスラ王率いる軍事国家スーサ勃興

大陸中央に月の天使シリスが治めるウィグル王国台頭


カラドックが故郷を旅立ち、日本で腹違いの弟を見つける。


そしてスーサとウィグルの戦争勃発・・・


ウィグルが戦争に勝利し、スーサは滅び、

天使シリスはその王位を息子カラドックに譲り、姿を消す。

カラドックの弟・惠介と李那が部下の裏切りで命を落とす。



その400年後、行方不明となっていた有人火星探査船が地球に帰還する・・・。


あくまでカラドックの世界において、

「文書に記された」歴史です。

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