第六百八話 ぼっち妖魔は反撃を試みる
なんとか更新できた・・・
<視点 麻衣>
あたしとカラドックさんは敵同士・・・。
けれど、
・・・それは雲の上の人達が敵対したままならの話でもある。
「麻衣さんは、
・・・父上とアスラ王は手を組んでいるという認識なのかな?」
「前も言いましたけど分かりませんよ。
でもそうだとしたら、あたしとカラドックさんも対立する必要はないと考えているんですけど、そこは同意してくれます?」
「そうだね、
もし本当に二人が手を携えているのなら、
麻衣さんの言う通り、私達には何のわだかまりもなくなると考えていいと思う。」
あたしとしてはそれだけでも十分なのだけど。
「ただし。」
「え?」
「私達が、父上を堕落させるために用意された駒だなんて話は絶対に受け入れたくない、
受け入れられる訳がない。
それでは私達の存在が、世界樹洞で聞かされたあの女神様の扱いと何ら変わらないってことじゃないか。」
あ、そ、そっちが良くなかったのかっ。
でも考えてみれば当たり前だ。
愛と美の女神アフロディーテ様は、
あたし達の造物主様の器を破壊する為に、本人の自覚もないままに造物主さまと恋仲に陥ったのだ。
そう、恋仲になるよう仕向けられた。
その先に悲劇が起きる事も全て計算されて。
アフロディーテ様はハニートラップ要員だったと言えば分かりやすいだろうか。
あたしだってあの話を聞いて、「酷すぎる」と本心から叫んでいた。
そもそもそう主張したのは他の誰でもないあたし自身だしね。
だからカラドックさんの主張はあたしから見ても当然の話だったのだ。
「ご、ごめんなさい、
デリカシーに欠いた発言だったとは思いますっ。
そこは本当に謝りますので許してください!」
あれ?
カラドックさんにため息つかれた?
「・・・そんなところでは素直に頭を下げてくるんだからね・・・、
はあ、本当に麻衣さんは手強いな。
ヨルさんとは別の意味で、純粋に好意を向けてくれるだけに、冷徹に突き放すことが出来ないよ。」
そ、そんな意外なことなのかな?
ていうかこれ、あたしは褒められているのか、喜んでいい場面なのか、どっちなのだろう?
「で、でも、どっちにしろ、
あたしもカラドックさんも、あの二人が何しようとしてるか分からない以上、ここでは結論出せないですよね?」
と思うのだけど。
「・・・そうなんだよね。
となるとやっぱりこの場においてもスルースキル使うしかないのかな?」
むう、やっぱりスルースキル最強伝説は揺るぎないのだろうか。
けれど
この場にあって、
攻める立場にいるのはカラドックさんとは限らないのだ。
「じゃあ、あたしからもいいです?」
「え? ああ、もちろん。
けれど私と麻衣さんでは同じ話をしていたのでは?」
話の内容は一緒なんですよ。
でも疑いを持っているのはカラドックさんだけじゃないと言う話で。
「同じ話です。
カラドックさんはあたしを疑っているからこそ、最後の最後にこんな話をしたんですよね?」
カラドックさんの顔が歪む。
「・・・麻衣さん、君を疑いたくはないんだけどね・・・。」
「大丈夫ですよ、カラドックさんの立場は理解してますから。
それに・・・お互いさまですし。」
「ん?
それは・・・、麻衣さんも私を疑っているという、こと・・・かい?」
カラドックさん的には自分たちこそ正当な立場に・・・
もっと突っ込んで言うと、自分たちこそが正義の側にいると本心で思っているんだろう。
だからあたしに疑われていると聞いて、意外そうな表情を浮かべてしまう。
さあて、どう説明すればいいのかな。
迂闊に話すと一刀両断にされてしまいそうな気がする。
もちろん物理的にという意味じゃないですよ?
あたしの主張が、と言う意味ですからね?
「あ、えーとっ、そのー、
カラドックさんを疑っているというよりも、
そ、その二人の天使が手を組んでるなんて、あたしの希望的観測みたいなもんじゃないですか、
疑っているっていうのは、その希望的観測のほうですよ。
何しろ何の根拠もない話だったんですからね。」
その点はカラドックさんも納得できる筈。
「と言うことは、麻衣さんの懸念は父上達が我々が見たまま、不倶戴天の敵同士であるならばってことかい?」
「そ、そうですね、
その可能性だってもともと否定出来ないんですよね。
ていうか、更に逆の可能性すらあります。
二人が実は手を組んでいるように見せかけて、その上で、なおどちらかがどちらかを騙したり裏切る事もあり得るわけです。」
・・・あれ、
自分で言ってて恐ろしくなってきた。
だってそれらに対してあたし達は、対抗したり対処する手段が全く思いつかないのだもの。
カラドックさんも事の重大さに気づいたようだ。
「・・・それは、頭が痛くなってきそうだね。」
「あたしも最後なんでぶっちゃけちゃいますね。」
よし、覚悟を決めよう。
あたしもカラドックさんもお互いに好意を持ってくれている。
だからこんな事を言って嫌われることは・・・ない、と思う。
結局、いくら考えてもあたしのおつむでは、
カラドックさんを説き伏せる理屈なんて思い浮かばないのだ。
「なんだろう?」
カラドックさんの表情も真剣だ。
あたしの言葉を真正面から受け止めてくれるつもりなのだろう。
ならば。
「あたしがカラドックさんに対して脅威を感じていたこと、
それは天使の息子であり、
そして大陸最大国家の王様だっていうカラドックさんが・・・」
「ふむ・・・。」
「あたし達地上に生きる人間たちを、
全て天使に売り渡す。
・・・それがあたしにとって、最低最悪の未来です。」
カラドックさんの目が見開く。
カラドックさんだけじゃない。
横でケイジさんも信じられないような顔をしているね。
もはやこちらの世界に生きてるケイジさんには直接絡まない話だとは思うけど、
元の世界で天使の息子として同じく生きていたケイジさんにとっては他人事の話としては聞けないのだろう。
もっとも、今この場の主役はカラドックさんだ。
ケイジさんには申し訳ないけど彼の反応はどうでもいい。
あたしの疑念に、そのカラドックさんはどう答えるのだろうか。
あ、あともう一つ追撃をしておくか。
「その場合・・・間違いなく、絶対に、
カラドックさんの世界にあたしがいたら、全力でカラドックさんに立ち向かうと思いますよ・・・。」
どんなに世界が異なっても、
あたしがリーリトとして生まれていたならば、間違いなく造物主様の側に就くだろう。
人間をいいように弄ばれてたまるものか。
その立ち位置が変わることはない。
「『売り渡す』・・・か。」
カラドックさんはあたしの言葉を反芻するかのように繰り返した。
「確かに、元々父上の息子である私には思いつきもしない発想だね。
なるほど・・・父上と対立する勢力側からはそんな考え方が出来るのか。」
しばらく俯いて考え込んでいたカラドックさんだけど、
ついに重い決断を下すかのように顔を上げた。
さあ!
カラドックさんはあたしの問いかけに対して、
果たしてどんな答えを出すのか!!
カラドックとのやり取りは次回で終わります。