第六百七話 ぼっち妖魔は立ち向かう
なんとか更新できました。
ストーリー的には何も展開が変わったり重要なシーンもないと思うのですけど、
登場人物たちの間でまとめ的な会話も必要じゃないかなと。
<視点 麻衣>
悔しい。
悔しいから、リィナさんとのハグハグの後、
タバサさんとも抱き合う。
ふふふ、ふふふふふふ。
すっごいくびれのウエストだね。
ふへへ、これはたまりませんなぁ。
思わず手のひらを腰からお尻に回したくなる。
「緊急事態、麻衣がエロ親父にクラスチェンジ。」
そんなジョブがあったら恐ろしいのだけど。
固有スキルに「セクハラ」とか「密室作成」とかあるのだろうか?
続いてアガサさん・・・
こ、これはヘタをすると窒息するレベル!
おおおお、指が沈み込むじゃないですか!!
「へいたいさん、この人はやく逮捕拘束監禁。」
そう言ってもアガサさん、あたしの行動事前に察してましたよね?
まぁ、仕方ありません。
へんたいさんと呼ばれる前に・・・
じゃなくて兵隊さんを呼ばれる前に撤退しましょう。
さて・・・いよいよ残すは・・・
とその前に、あたしは今一度リィナさんに断っておかねばならない事があったのだ。
お許しを得ておく必要があるといえば皆さんもお判りだろうか?
もちろんこの流れであたしが何を求めているのか、リィナさんは全て理解している。
お?
リィナさんからのウィンクとサムズアップ!
承諾いただきましたよ!!
さあ、ケイジさん。
いま、あたしがリィナさんと何のやり取りをしたのかお分かりですか?
・・・分かっていないようだね。
あたしがケイジさんの真ん前に立っても反応が鈍い。
「・・・ケイジさん。」
「お、おう、なんだ・・・。」
「ケイジさんにも色々とお世話を・・・
危ないところを何度も助けてもらったし。」
途端に慌てふためくケイジさん。
「な、何言ってるんだ!?
それこそオレ達は麻衣さんに何度も危機を救ってもらってるし!」
ふ、今のはフェイントだよ。
本命は次のアクション!!
がばちょ!!
「うっ、うわああああああああっ!?
麻衣さん!?」
そう、あたしはケイジさんの胸板に突撃したのである!
「心配いりませんよ?
たった今、リィナさんに許可はいただきましたから。」
「あっ、今のやり取りはそういう・・・
いや、そんな、それはそれでいいかもしれないが、女の子がそんな簡単にっ!?」
この程度、高校生の男女間でもありがちなのだけど、ケイジさんの元の世界では・・・
ああ、なんか大崩壊してたんだっけ。
あたしの世界とは価値観が異なるのだろうか。
けれど、あたしは容赦しません!
「そんな大袈裟なもんじゃないですよ、
あたしには男兄弟いないんで、
こういうの憧れてたんですよ。
大人しく甘えさせて下さいな。」
ちなみに現代高校生の間でもありがちとは言ったけども、
当然あたしにそんな相手はいない。
せいぜい、隣クラスのなつきちゃんとじゃれあう程度である。
「あっ、そ、そうか、そういうもん・・・か?」
よしっ、今回はあたしの言い分が通ったようだ。
ようやく一矢報いた気分である。
そしてふふふ、もふもふ気持ちいいです。
後はケイジさんにもちゃんと言っておかないとね。
「ただ、これ以上はあたしも何も出来ません。
ケイジさんも一人で抱え込まないで、なるべくみんなを頼るようにしてくださいね・・・。」
説明するまでもないと思うけど、これ以上何も出来ないってのは過度の接触の事じゃないですからね?
ケイジさんへのお助け行為の事ですからね?
「そ、そう・・・そうだな。
麻衣さんの言う通りにするよ・・・。」
アルツァーさんて人との因縁はなんとか収まったようだけど、
もう一人の自分自身がこの世界に存在しているなんて、あたしが聞いても大事に思えるものね。
他にも魔王問題だって片付いていないのだ。
更には聖女さまやら、あたしのご主人様の問題も・・・。
あれ?
問題ばっかり残している気がするぞ。
そうか、
こう言う時こそカラドックさんのスルースキルが必要なんだね。
了解。
そして・・・
あたしは名残惜しくもケイジさんから離れ、
もう一人の転移者、
カラドックさんに向かい合う。
分かっている。
分かっていますとも。
そしてお互いに。
微笑ましいシーンはここまでなのだ。
風向きが変わったことをメリーさんやマルゴッド女王は察知できたろう。
「カラドックさん・・・。」
「麻衣さん・・・。」
温かい笑顔を浮かべているけど目は笑ってないよ、カラドックさん。
さっきあれだけ警戒心を高まらせていたんだ。
どれほどカラドックさんに危険視されてたかは十分理解できる。
まあ、いくらなんでもこの場で斬りかかられることはないだろうけども、
この人とはお互い納得済みで別れておきたい。
「えっ、・・・とあたしから喋っても?」
「ああ、もちろん構わないよ。」
「さっき、ケイジさんにも言いましたけど楽しかったです。
男っ気のない暮らししていたあたしにもお兄ちゃんが二人もできたみたいで。」
当然のことながらパパは男っ気の中にカウントしていない。
当たり前の話である。
ほら、いい歳して泣くんじゃありませんって。
「それは光栄だ。
私も楽しかったよ、嘘偽りなく、ね。
そして麻衣さんには何度も助けてもらった。
今も元の世界に戻ったら、君を探し出すことが出来るか真剣に悩んでいる。」
「あたしの世界とカラドックさんの世界って年代も微妙にずれてるんですよね?
下手するとあたしの方がカラドックさんより年上の世界かもしれませんね。
・・・まあ、あたしが生まれてない世界なのかもしれませんが。」
「麻衣さんと私の世界とはそんなに差異はないと思っていたのだけど、麻衣さんが生まれてない可能性もあるのかい?」
「何とも言えませんね、
さっきのママの話なんかも、もしかしてたらあたしのパパと恋仲になることすらなかった可能性もあるみたいだったし。」
あ、いけない。
話が逸れそう。
今すべきなのはその話でなくて。
「もし、そうだとしたら残念だけど、
これでも一国の王だからね、
もてる権力と国力全てを動員してでも、君を探してみせるよ。」
言葉だけなら、
すっごいグッと来そうな口説き文句に聞こえるんだけど、目的は全く色気ない話なんだよね。
そしてカラドックさんも本題は忘れてないのだろう、
話題を元に戻してくれそうだ。
まあ今している話はその前段階なのだけども。
「初めて会った時に、あたしのことはそっとしておいて欲しいって言ったと思うんですけど。」
「覚えているとも。
でも私の世界にいる筈の麻衣さんのセリフというわけじゃないだろう?
君も人格が異なる別世界の自分のことなら、何の負担も気苦労もないんじゃないかな?」
むう、確かにそれはその通りだ。
頑張れ、カラドックさんの世界のあたし。
「まあ、その件は置いときましょうか。
改めてカラドックさんに言わなきゃいけないというか・・・」
そこでカラドックさんは恥ずかしそうに頭を掻いた。
「いや、やっぱり女の子の麻衣さんに言わせるわけにはいかないかな、
多分私と同じことを言おうとしてるんだろう?
なら私から言うよ。」
お?
それは楽で良い。
多分話す内容についてはあたしと同じ筈。
「先に前置きというか、前提は理解して欲しいんだけど、
私は麻衣さんと敵対したくない。
これは国王としても、カラドック個人としてもだ。」
隣でケイジさんが、ようやくこの場が不穏な空気になってる事に気付いたようだ。
「あたしもです。
ふふふ、どうやら相思相愛のようですね。」
この場にヨルさんがいなくて本当に良かった。
あの人がいたままならこんな迂闊な冗談言うのも命懸けになるものね。
「ははは、嬉しいね、
そしてやっぱり麻衣さんが私に言っておきたい話は同じもののようだね。
では次に話を進めよう。」
カラドックさんの言葉は真実だと思う。
この人はあたしを気に入ってくれている。
そして本心からあたしと仲良くしたいのだ。
そう、
したい。
あくまで願い。
願望。
つまり
裏返しに言えば、
このままでは「したくても出来ない」ということだろう。
「最終的にはお互いの立場という話なんですよね?」
カラドックさんは黙って頷く。
そう、この人は称号にもある通り「天使の息子」。
その立場を変えることはない。
そしてあたしもだ。
あたしは「闇の巫女」。
あたしはあたしの意志で造物主様の側に就く。
従って、
天使と造物主さま、二人が敵対しているままなら、
あたしとカラドックさんは敵同士にならざるを得ないのだ。
思ったより長くなりそう・・・。