第六百六話 ぼっち妖魔は挑まれる
ぶっくま、ありがとうございます!
<視点 麻衣>
さて、まだまだ最終回というわけではない。
ただ気分は限りなくそれに近いものを感じている。
だって
これまでずっと長いような短いような旅を続けてきたのだ。
何も感じないほうがどうかしている。
・・・まあね、
あたしは感情のないリーリトの筈なんですけどね。
いよいよみんなとのお別れの時。
おかしいよね、
最初はずっとぼっち・・・じゃなくてソロ活動しているつもりだったのに。
いつの間にかみんなとワイワイ賑やかに冒険するのが当たり前のようになっていた。
「皆さん、お見送りまでありがとうございました。
一足先にお別れさせていただきます。」
宮殿のいくつかある門のうち、
普段使わない所を開けてもらった。
マルゴット女王は大々的にお見送りしたかったようだけど、丁重にお断りさせていただいた。
あたし一人いなくなるのに、そんな大騒ぎされたくないからね。
その代わりと言ってはなんだけど、
小ぶりながらも豪勢な馬車を用意してもらう。
これで国境手前の街まで乗っけてもらうのだ。
「・・・寂しくなるのう。
けれどもまた麻衣殿とはどこかの世界の妾と縁があるかもしれぬな。」
ホントにね。
そしてここは、
元の世界のマーゴお姉さんのノリで、抱き合いながらお別れするのが流れかな、とも思ったのだけど、
この世界のこの方は仮にも一国の女王である。
あたしが馴れ馴れしく飛びついていい相手ではない・・・
と思ったら飛びつかれたああっ!!
「うわわ、いっ、いいんですかっ、
女王ともあろうお方が一般人のあたしに抱きついてぇっ!!」
「何を言う?
それこそ何故、女王の妾が市井の一少女を抱き締めてはならんと言うのじゃ?」
・・・え?
あれ?
そう言われれば・・・いいのか?
反論する術は見つからない。
今ひとつ納得できないものがあるだけで。
とりあえず、
なんとか振り解いたけども・・・。
しかし相変わらず油断も隙もない。
まあ、別に悪い気はしませんけどね。
おっと、後ろからコンラッドお兄様、ベディベールお兄様、そしてイゾルテ嬢も勢揃い、
その後ろには慎ましやかにニムエさんが給仕用のカートを押している。
紅茶セットか何かだろうか。
こんな場所で?
ただこれはもう、ちゃんとお一人お一人にご挨拶をせねばなりませんね。
イゾルテ嬢とは遠慮なくハグハグさせていただきましたよ。
歳もあたしの一つ下ですからね。
普通にお友達感覚で・・・
・・・なのに何故!
胸部装甲であたしはまたも大敗をきっしてしまうのか!!
いいえ、この場はあたしが美味しい思いをしたと思えばいいだけのこと。
ええ、ええ、目から血の汗なんか流しておりませんとも!
さて、
そしていよいよ「蒼い狼」パーティーの面々とお別れする場面・・・
ん?
ケイジさんたちはまだ動こうとしない?
なんだこれ?
危険察知ではないけども・・・
あれ?
ニムエさんが出てきた?
カートを押しながら・・・
カートの上には豪勢な布のカバーがあって・・・
一々あたしも遠隔透視するまでもないから何だろと思っていたら、ニムエさんが布をどけて・・・
おっ!?
美味しそうなケーキ!?
この最後のタイミングで?
「コンラッド王子とベディベール王子が共同で作った三種のベリーケーキです。」
はいいいいいっ!?
見ると二人の王子様方、それぞれ右と左の片腕組まして仲良く高々と・・・
え、お二人ってそんなノリできたの!?
あ、あ、負けじとイゾルテさんが・・・
「この花束は私からですわ?
麻衣様、受け取って頂けますか?」
ちょ、ちょ、ちょ、
なにそのサプライズ!?
あたし異世界に戻るから何も持って帰らないよって断ったつもりだったのに・・・
あ、よく見ると花束の中にちっちゃなお人形まで飾られて・・・
て、これ、タバサさんとアガサさんをデフォルメした二頭身人形じゃないの!!
か、かわいい!!
布地はそこらのものだけど、
二人のコスチュームそのまま再現してるし、
これ・・・
「アガサが土人形作成。」
「タバサが衣装裁断。」
してやったりとポーズ作って微笑むダブルエルフのお二人・・・
くっ
「まあ、麻衣殿は帰還ギリギリまで他所の国を回るのじゃろう?
それまで馬車の中に飾るも良し、
嵩張るようであれば、それこそそのマジックアイテムの巾着袋に収容してれば良かろうて。」
くぅぅっ、マルゴット女王・・・っ
「こっ、こんなっ、
み、みんな、もしかしてみんなしてあたしを泣かせようとしてるんですかっ!?」
よ、よりにもよって最後の最後でこんなマネを・・・。
負けて堪るか!
リーリトの誇りにかけて屈してなるものですかっ!!
「何だかんだ言っても麻衣はまだ16でしょ?
そこまで我慢する必要ないわよ?
私のミカエラもお嫁に行く時、ぼろぼろ泣いていたもの。
もちろん私もね?
だから遠慮は要らないわ。」
・・・メリーさん、
さっきはあたしを待っててくれてたんじゃなくて、みんなの予測より早くあたしが立ち直った時のための抑え役だったんだな。
「ぐうぅ、メリーさんもグルだったんでずね・・・。」
ぐっ、鼻声になったっ、
ヤバい・・・。
ていうか、メリーさんは何でもかんでも娘さん基準なのか。
おい、
ケイジさん、後ろで「あと一息」とかつぶやいてないで。
あたしが耐え忍んでる間にも、にっこり笑ったニムエさんがケーキを切り分けてくれている。
ええ、ええ、そりゃ嬉しいですよ、
心の底からね。
でも、
こんな別れが辛くなるようなことを何でみんな・・・
ええい、やけ食いだ!!
ただ辛いもの食べて誤魔化すならともかく、
甘酸っぱいものを食べても・・・
甘酸っぱいというより酸っぱ甘い・・・。
いえ、美味しいですよ、
ただ予想より酸味が強いせいか、顔から分泌液が・・・
どんどん不利になるばかりじゃないかあ!!
ちなみに、
さすがに土台のパウンドケーキを焼いたのは宮殿の料理人だそうだけど、デコレーションとか素人でもなんとかなりそうな部分を二人の王子が頑張ってくれたとか。
全く期待も想定もしてなかった人たちから、こんな意表の突き方をされるとあたしの動揺も激しい。
もちろん危険も悪意もないので、あたしの察知能力はお仕事をしてくれないというわけなのである。
「ごめんね、麻衣ちゃん、
言い出しっぺはあたしなんだよ。」
やっぱりリィナさんか。
男性陣だとそこら辺、遠慮しそうだものね。
そして、一度やると決めたらどこまでも悪ノリするのがここにいる皆さんというわけだ!!
「リ、リィナざん、
う、嬉しいんですよ、嬉しいんですけども・・・。」
「だ、だってさ、あたしだって、
麻衣ちゃんともう会えなくなると思ったら急にさみしくなってさっ、
前も言ったかもしれないけど、タバサやアガサ、それにヨルにしたって、その気になったらあたし達はいつでも会える。
けど麻衣ちゃんとは、
もう・・・二度と、会えないじゃん、かっ・・・。」
ああっ、ズルいっ!
リィナさん、自分から先に泣き始めたっ!
「リ、リィナさんこそ、今まで全然泣くようなマネしなかったのにっ。」
ご家族と感動の再会した時も借りてきた猫、いや、ウサギさん状態だったものね。
「そ、そうでもないよ、
前に・・・あ、あの時、まだ麻衣ちゃんいなかったか。」
あたしが合流する前に何かあったのか。
まあ、今更どうでもいいよね、そんな昔の事。
あたしがケーキを食べ終わるのを待ってくれたニムエさんは、ナプキンをくれた。
よし、これでどさくさに紛れて目頭も拭いてやる!
ニムエさん、そこで「しくじった!」なんて顔しなくてもいいから!!
けどそこで間髪入れずリィナさん近づいてきた!
ええ、あたしは空気読めない子じゃありませんとも。
もふもふウサギさん、堪能してやろうじゃありませんか!!
ガシっ!!
「ご、ごめんなさい、リィナさん、お鼻がっ・・・グスっ」
目からは流さんぞ。
リーリトの誇りにかけて!
寒いところに出たら鼻水出るのは仕方ないでしょ?
「あはは、な、ならそういうことにしといてあげるねっ、
そ、それよりさ、麻衣ちゃんに一個だけ聞いておきたくて・・・。」
ん?
なんか真剣そうな話題だろうか。
「は、はい、なんでも?」
「麻衣ちゃんがあたし達・・・
ううん? あたしと仲良くしてくれたのは、やっぱり元の世界のご主人様があたしのおじいちゃん・・・だから?」
ああ・・・
それは・・・その通りなんだけど、
実際は・・・
「間違いじゃないです、でも。」
「でも?」
「あんまり関係ないですよ。
一度仲良くなったら、
・・・ってそれ以上理由要りますか?」
ていうか、あたしにそんな難しい理屈を求めてもらっては困る。
リーリトは自由を何よりも重んじる生き物。
やりたいようにやったらいいがね精神を体現するのみなのだ。
そしてリィナさんはあたしの答えに満足してくれたのか、泣き笑い・・・いや、思いっきり太陽のような笑顔を浮かべてくれた。
「ならさ。」
「はい?」
「あたし達も麻衣ちゃんたちを全力でお見送りしたかったんだよ。
そこに理由なんか要らないだろ?」
・・・く
反論できない。
ボロ負けである。
あたしはまたも言い合いで勝てなかった。
この異世界転移であたしは精神的にも色々成長した筈なのだけど、
根本的には何も変わっていないということなのだろうか。
予定通りなら次回更新日は4日なのだけど・・・
次回更新出来なかったらごめんなさい。
お別れシーン、感情の薄い麻衣ちゃんに合わせて、
とても淡白な別れ方にしようとしてたんですが、
今回投稿2日前くらいに心変わりして、
もう少し色をつけようかなと・・・。