第六百五話 ぼっち妖魔は強がーる
ようやく体調も戻りました。
明日から仕事場復帰です。
<視点 麻衣>
終わった。
終わりました。
全て終了したのです。
あたしはダークネスとサイレンスの術を解く。
これであたしがこの世界ですべき儀式は全て終わった。
え?
もっと感動的なシーンはないのかって?
もっと涙溢れるような展開が良かった?
何をふざけたことをぬかしやがるのです。
見世物じゃないんですよ。
それに何度も言ってるでしょう。
あたしは感情の薄いリーリトなのだ。
人様の前でそんな簡単にピィピィ泣いてたまるもんですか。
まだ小さかった小学生の頃とは違うのだよ。
・・・ただ、ね。
心を落ち着けて再起動するのに少し時間が掛かっただけの話。
その間、みんなに心配させたら申し訳ないでしょ?
だから真っ暗闇にして一人になりたかっただけなのだ。
はい、この話は終わり。
そしてあたしはお待たせしてしまった皆さんに・・・
あれっ!?
誰もいないっ!?
う、嘘でしょ!?
置いてかれたっ?
ハブられたっ!?
ちょっとかくれんぼしてたら、鬼のあたしが30秒数えてる間にみんな家に帰っちゃったとか!?
何なの、その陰湿なイジメ!?
「もういいのかしら、麻衣?」
あっ!!
メリーさんがいた!!
身動き一つしないからお庭の風景に溶け込んででて人と認識出来なかった!
まあ、メリーさんは人間じゃないけども。
「よ、良かったあっ!
なんでみんないなくなってるんですかっ?
置いていかれたかと思っちゃいましたよぉっ!!」
「ああ、みんなはみんなで麻衣に気を遣ったみたいよ?
それにしても麻衣?
術を解くの早かったんじゃない?
まだ涙が拭えてないわよ?」
ぐはっ!?
「ち、違いますっ!!
これは皆んなに置いていかれたのかと、精神的なダメージ受けたせいでっ!!」
そう、正確に言うと、置いていかれたわけではないとホッとしたら涙が出てきたのだ。
だからママとお別れしたこととは全く一切関係ない。
ないったらないのだ。
「そう、じゃあみんなの所にいく?
・・・どっちみち、今度こそお別れなのだろうけど。」
「え、ええ、そうですね、
もう心の準備は出来てますから。
今みたいなハプニングなければ大丈夫ですよ。」
「そう、・・・なら良かったわ。」
ふと
メリーさんが気になった。
何だろう?
メリーさんは元々あたしと同じ感知系能力者。
自分の心に精神障壁を張ることもできる。
隠す必要もない時には大公開することもあるけど、元々能力者は無意識レベルで自分の心にプロテクトをかけるものだ。
あたしだってそうしてるし。
だから今の時点であたしがメリーさんの内心を見透せないのは当たり前の話。
いや、違和感はそこじゃないな?
えっと・・・
「あら、どうかした?」
うわっと、
「あ、いえ、メリーさんにも色々お世話になったなって・・・。」
とりあえず無難な話題にしておこう。
「それはお互いさまだわ。
私も麻衣にはお世話になったし、
それこそそれは言わない約束でしょおっかさんレベルの話だわ。」
なぜ、そこで大衆時代劇のお約束セリフが出てくるのか。
ママならそんなふざけ方は・・・
あ、そう言うことか。
「ああ、そうか、ようやく・・・。」
そこでメリーさんも不思議そうに首を捻った。
「ようやく?」
「すいません、あたし自身の話なんですけど・・・
ようやくメリーさんの姿を見ても、ママの面影をダブらせなくて済むようになったみたいです。」
そこであたしは視線をメリーさんから前方に戻した。
今まではどうしたってお人形に魂を移し替えた元の世界のママを重ね合わせていたものね。
今のメリーさんとは違うと、頭の中では理解はしていたのだけども。
メリーさんにしても、あたしの話は意外だったのかもしれない。
少し考え込んでいたようだけど、すぐに足の歩みを再開させた。
もう、
ここに用はない。
振り返っても、
ママがこっちを向いて手を振ってる姿なんか見えるわけもないし、
別の次元に繋がる穴すら残ってる筈もない。
あたしにしたところで術の解除し忘れとかもない。
強いて言えば、
何を考えているかも分からない妖精ラウネが、ずーっとこっちを眺めていただけだ。
一応挨拶がてらに手を振ってみたけど、
手を振りかえされることもなかった。
ただ何かを測るように首を傾けていただけだ。
「・・・あれは自分の身の危険がなくなったのを確認したかっただけみたいね・・・。」
ああ・・・。
そういや、一回メリーさんに刈られたって言ってたっけ。
「あら、麻衣たちにも怯えていたわよ?」
なんて事を。
これほど人畜無害、安心安全、明朗会計な麻衣ちゃんに向かって。
ていうか、結局攻撃魔術は一つも覚えられなかったな。
まあ、今から覚えたとしても元の世界には持って帰れそうにないんだけどね。
ただ・・・
さっきのメリーさんへの違和感。
ホントにママのことだけで良かったのかな?
また何か、
或いはまだ何か・・・
いやいや、
冒頭で言ったように全部の儀式は終わったんだって。
あたしの仕事も終わり。
あとはせいぜい個別の・・・
そうそう、大変なのはこれからのケイジさん達だよね。
あたし達がこれから元の世界に帰るならば、
あたしはあたし、
カラドックさんにはカラドックさんの日常が復活する。
そしてこの世界のケイジさんには・・・
彼のこれからの物語が始まるということだろう。
アガサさんもタバサさんも自分たちの道がある。
話を聞くだけでも大変そうだ。
マルゴット女王なんか、この公国を王国にするとかであたしの想像を遥かに超えた激務が待ってるらしい。
そうとも。
あたしはただの女子高生なのだ。
この世界でいろんな経験を
・・・むふふふふ、うん、いろいろあったけども、
ピーンポーンパーンポーン♪
げぇっ!?
マジかい!!
あたしの動きが止まったところでメリーさんも反応する。
「あら、どうしたの?」
てことはメリーさんには届いてないな。
あたしだけに来たメッセージか。
「いえ、例の頭の中に届いたメールです。」
「え? このタイミングで?」
「ほんと、何なんでしょうねぇ、
緊急性はなさそうですけど・・・。」
そしてあたしはステータスウィンドウを開く。
メッセージを示すアイコンが点滅しているな。
まさかここでどんでん返しはあるまい。
ないと思う。
それ!
『伊藤麻衣様、こんにちは、
お花のつづらはご満足されましたか?
さて、この度ぼっち妖魔制作委員会の会議において、役員の方から追加ボーナスの提案がなされ、無事に承認されました。』
うおおおおお、来たかボーナス!!
これは予想してなかったけどいいお話だ!!
てか、役員て誰だ。
そして何故このタイミングで?
まさかまた余計なお仕事を・・・
『あ、なんでもかなり正解に近い答えに辿り着いたからとのご褒美みたいですよ?』
・・・正解って、
まさかさっきのあたしがカラドックさんに言ったことだろうか。
まさか本当に?
そしてそのご褒美くれた役員て誰よ?
そして相変わらずメッセージも、こっちの疑問に後から反応してくるんだね。
まあ、いいか。
で、
大事なお話、
その中身は!?
『宝石のつづらは選択されませんでしたが、
そのご褒美の中に含まれていた二つの基本術を、麻衣様の元の世界で使えるようになっています。
使い所は慎重にお考えください。』
うわああああああああああああ!!
ダークネスとサイレンスかあああああああああ!!
暗殺者麻衣ちゃん爆誕!?
既に書きたいことはほとんど終えています。
気持ち的には最終回までカウントダウン状態です。
それが後何話くらいなのかは書いてみないと分からないのですけども。
まだラストに繋がる伏線も残してますが、
回収しないものも沢山あると思います。
聞きたい事があるなら今のうちだ!!
もちろん全てお応えできるかどうかは分かりません。
例えばアーサーとケイジが何したかは明かしません。