第六百四話 一度のエピローグ
お腹はまだ本調子ではないけど、
とりあえず最悪の状況は脱しました。
咳は薬飲んでもどうにもなりませんね。
会社の方は有給貰いました。
もう仕事する分には問題ないと思いますが、
有給が大して消化されてないからと連休にしてもらいました。
ホワイトな会社で何よりです。
カラダが不調な間は下書き全く進めてませんでしたがこの後書けるかな。
<視点 カラドック>
・・・う
あれ、おかしいな、
何も見えない・・・、これは。
ああ、そういう事か。
えーと、
ここから先の実況中継なんだけどね・・・
カメラに色々不具合が起きてね、まともな映像を受信できなかったんだ。
そう、別に私の涙腺が決壊したとかそんな話じゃなくてね。
え?
ケイジのカメラ?
マルゴット女王の?
リィナちゃん?
うん何故かみんな同時にダメになったんだ。
メリーさんのカメラは無事だったんだけど、生憎彼女には実況機能が備わってなくてね。
まぁ、その後も麻衣さん達はいろんな話をしていたみたいだ。
例えば他の家族の話とか。
麻衣さんのお祖母さん、・・・百合子さんにとってはお母さんになるのかな、
麻衣さんも会ったことはないけど、テレパシーのようなもので時々やり取りしているとか。
名前は小百合さんというそうだ。
それと百合子さんのほうは私のアーサー叔父さんに会ったことがあるらしい。
全裸の状態の・・・。
なんでそんなシチュエーションでと思ったが、どうやら例の生贄の儀式だったとか。
同時にベアトリチェと食人鬼のあざみという女の子に、いろんな意味で食べられそうだったらしい。
その後は姿を見てないそうだけど、情報収集した段階では騎士団の総指導者として現在も活躍しているそうだとのこと。
無事で何よりだ。
そろそろみんなの魔力もかなり減ってきている。
私が声をかけなくても麻衣さんも把握していたようだ。
会話も締めの段階に入ったと思われる。
「ママ、ごめんね、
忙しかったのに、こんなとこに呼んじゃって。」
「いいえ、その価値は十分あったわ。
そもそもお母さん以外の同族なんて会ったこともなかったのよ?
それどころか初めて会った同族が私の娘なんてね。
確かに色々驚いたけど、嬉しいことばかりよ。」
「なんか・・・会う前はアレも言わなきゃコレも言わなきゃと思ってたんだけど・・・
かなり喋り込んだ気もするし、まだ言い足りないことがたくさんある気もするし。」
恐らくそれは・・・
この後、私も同じような思いをすることになるんだろうな・・・。
ああ、メリーさんもうんうん頷いている。
聖女さまとの別れの時もそんな感じだったのだろう。
再び百合子さんが優しい目になる。
あれは間違いなく母親の目だと思う。
だってウェールズを抱いた時のラヴィニヤもあんな目をしているもの。
「でも私はあなたのママになれそう?」
「なれそうも何も、ママは間違いなくあたしのママだったよ。
例えあたしと一緒にいた記憶なんかなくっても。」
「良かったわ・・・
私を呼んでくれてありがとう、
・・・麻衣。
私のかわいい一人娘・・・。」
百合子さんの背後に緑色の球体が発生する。
あれが別次元への門となるのだろう。
そう言えば辺りもまた薄暗くなっているな。
いよいよお別れの時間ということだ。
最後に二人はもう一度抱き合う。
「ママ、ありがとう・・・。」
「いつかあなたに逢える日を楽しみにしてるわ。」
確か、
前に聞いた時は、
自分を命がけで助けてくれたことや、
守り続けてくれたことにお礼を言いたいと言っていた。
ただ百合子さんは、自分が知らない事についてお礼を言われてもピンと来ないとも言っていた。
ならば、
今回のありがとうに、麻衣さんはどんな意味を込めたのか。
やがて緑の靄は深く濃く拡がり、百合子さんのカラダを包み込み始める。
もちろん麻衣さんは、そのまましがみ続ける事は出来ず、名残惜しそうにカラダを放した・・・。
「さようなら、元気でね・・・。
麻衣・・・。」
「・・・あたしも・・・
ちゃんとお別れが言えて良かったよ、
さよなら・・・ママ・・・。」
そして緑の空間に百合子さんは飲み込まれてゆく。
こちらの世界に現れた時と逆の現象だ。
違うのは本人の意識がはっきりしていることくらいか。
そして、
百合子さんのシルエットも薄くなり、
そして同時にガス状の塊もどんどん小さくなってゆく。
いつの間にか空は元の明るさを取り戻していた。
今や、この庭園に異常は何もない。
強いて言えば、まだ妖精ラウネがビクビクしているくらいか。
百合子さんの魔力も桁違いだったからね。
これで・・・
麻衣さんのご褒美イベントは全て終了だ。
今回の召喚では、私の位置からでは麻衣さんの表情は角度的にほとんど見えなかった。
観客者の私たちでさえ、何度も涙する事が多かったのだけど、
それに引き換え、麻衣さんはずっと自分を律していたのだろうか、
一度も泣いたりするような場面はなかったようだ。
本当に16才の女の子が死に別れた母親と会うのに、そこまで感情を抑えられるものなのだろうか。
それともこれがリーリトという種族の特性なのだろうか。
そう思っていたら麻衣さんがこちらを振り返った。
「皆さん!」
お?
「本当にありがとうございました!!
そ、それでちょっとばかりお時間いただけますか!?
な、何の危険も異常事態でもありませんので!!」
何のことだろう?
時間の方は問題ないと思うが・・・
すると麻衣さんは私たちの返事を待たずに術式を起動する。
少し慌てている様子だけども。
「だーくねす!!」
あ、麻衣さんの周りが真っ暗になる。
「あーんど、さいれーんす!!」
そして何も聞こえなくなった。
とは言え静寂空間も麻衣さんの周辺だけだろう。
現に隣にいるケイジの声は普通に聞こえるものね。
「ど、どうしたんだ、麻衣さんっ?」
ケイジはまだ涙声だな。
まあ私も人のことは言えないけども。
ただ、麻衣さんが何をしたいのかは分かるだろ?
「ば、バカだなあ、ケイジは。
他人に見られるのは恥ずかしいってことだろうっ・・・。」
「あ、そ、そうか、そうだよな・・・。」
この場にイゾルテがいなくて良かったと思う。
あの子だったら人目も憚らず大声で泣きじゃくりそうだものね。
「わ、妾たちは先に館に戻っていようぞ、
メリー殿は・・・。」
もちろん女王も目元が真っ赤だ。
メリーさんはどうだろうね。
感情は復活しているとはいっても、そう簡単に貰い泣きするような性格の人ではないと思う。
人ではないっていうか、人形だものね、
涙を流す機能は無いはずだ。
「私はここで麻衣を待ってるわ。
因縁的にも私が適役だと思うのだけど。」
「メリーさんから見て麻衣さんは・・・。」
要らぬ心配だと思うけどね、
念の為に聞いてみる。
「心配することは何もないわ。
あなたたちと同じ感想だと思う。
あの子はとても強い子よ・・・。」
予想してた通りの答えが返ってきた。
そうだね。
私もそう思うよ。
麻衣さんとメリーさんを残して私たちは建物の中に戻る。
これで・・・
一息ついたら、私たちと麻衣さんは本当にお別れだ。
正直、
今後の事について、
全く疑念がないわけでは無いけれど、
さっきの麻衣さんの主張は・・・
あれはあれで麻衣さんの嘘偽らざる本心であり、
私たちに対し何の敵対心も持っていないとみて良いのだろうか。
いや、そうだね。
少なくとも麻衣さん自身に対しては何も疑う必要なんかないだろうね。
父上も私に王位を譲る時に、
後は好きなようにやれと言っていた。
要は天使たちの争いに、私たち人間が介入する必要はないという事なのだろう。
あの時は、もうアスラ王の脅威など全て消し飛んだからこその発言だと思ったけども、
そういう意味ではなかったのかもしれない。
いずれにせよ、
私が元の世界に戻るまで後一週間弱。
私もこの後ケイジ達との別れが待っている。
うりぃ
「ナレーションはん、エンドロール前にバレよったぞ?」
あらあら、まあまあ?