第六百三話 「魔」の正体
ぶ、ぶっくま、ありがとうございます・・・。
カラダがボロボロです・・・。
土曜日の夕方食べたカツ丼&たぬきそばセット・・・
日曜の朝起きたらゲップがその匂い・・・。
そのままトイレで水のようなものを・・・。
もはや固形物は何も食べられず、
その日は盛大に口から大量の前日食べたものを戻して・・・
今もなお水のようなものを何度も・・・
熱やじんましんはないのだけど・・・
今回予約投稿したあと病院行ってきます。
ううう。
まだ風邪も治りきってないのに・・・。
病院行ってきた・・・
PCR検査はインフルもコロナも陰性。
けど、検査料金めっちゃ高い!!
<視点 カラドック>
私にとって信じられないような話が麻衣さんの口から続く。
「だから、
マーゴお姉さんも、カラドックさんも、
加藤さんて女の人も、その子供も、エリナさんて従者の人も・・・
みんな造物主さまからの天使くんへの慈悲深い残酷な刺客なんだよね・・・。」
わ、私たちが、父への刺客だと・・・。
そ、そんなバカな・・・。
それが、
前回、麻衣さんが口を閉ざした本当の理由だというのか。
否定したい。
麻衣さんの言葉の全てを。
私の心の中の全てがその言葉を拒否する。
ただ一点、
その中で私の心の奥底に、
何故か父上の言葉がむくむくと浮かび上がってくる。
「天使の本当の使命は、
地上の魔を監視することにある」
何故今になってそんな言葉が思い出される?
地上の魔とは何だ!?
アスラ王のことではない。
いつだったか執事魔族シグが呼び出した悪魔たちのことか?
いいや、違う。
あんなものはただのクリーチャーだ。
麻衣さんだって、あんなものが私たちの世界に存在するのか懐疑的だった。
なら、
天使ともあろうものが警戒する「魔」とは一体・・・
そして私は
更に恐ろしい事実に気付いたのだ。
会わせて良かったのか?
この二人を。
別々の、互いに本来知るはずのない情報を擦り合わせた二人の妖魔。
そして彼女達はこの後、それぞれ元の世界に戻るのだ。
禁断の知識を手に入れて。
それは・・・私の父にとって許容出来るものなのだろうか?
私たちの異世界召喚の真の目的、
すなわち邪龍討伐というお題目が、
深淵を目覚めさせるカモフラージュだったのかもしれないのと同様、
今回の麻衣さんへのご褒美も、
ただ感動の再会自体が目的ではなく、
もっと恐ろしい計画の一部だったのだとしたら。
それに嬉々として協力しているこのカラドックは、
まるでただの道化ではないか!?
・・・どうする。
今からでも遅くない。
私のユニークスキルを麻衣さんに使うか。
彼女の魔力を最大限に吸い取れば、
すぐに百合子さんは元の世界へと消えてゆくだろう。
ならば
「カラドックさん。」
は!?
いつの間にか麻衣さんが私の目の前に立っていた。
二つの瞳を妖しく光らせて。
「あたし達は仲間です。
共に死線を潜り抜けて。
一緒に旅をしてお互い助け合って。
それは夢でも幻でもありませんよね?」
「も、もちろんだとも。」
いかん!
麻衣さんに私の疑念が伝わってしまったか!?
そして麻衣さんは私の腕を掴む。
逃がさないとばかりに。
喰われる
私の本能がそれを告げた。
麻衣さんの顔が歪んだ。
その口が広がる。
まるで
これから獲物を丸呑みするかのように
「やだなぁ、カラドックさん、
ご自分のお父さんを信じてくださいよ。」
ん?
あ、あれ?
麻衣さんが自虐的な、というか呆れたような表情か?
瞳の色も元に戻ってる?
「え、い、いったい!?」
何がどうなってる?
麻衣さんは私を食い殺そうとしてたわけじゃない?
「さっきも言ったじゃないですか、
天使くんにはあたし達の能力じゃどうにも出来ないんですよ。」
「そ、それは確かに聞いたけども。」
「それに、多分ですけど、
あの子も・・・天使くんも理解してる筈ですよ?
自分が人間の心を理解したらどうなってしまうのかを。」
え
「じゃ、じゃあ、麻衣さんは、
父上は自分が堕落するのを覚悟した上で、
人の心を手に入れたって言うのかい?」
「まあ、例によって根拠ないんですけどね。」
恥ずかしそうに笑う麻衣さん。
だとしたら。
人間の心?
私たちには人として生まれてきて当然備わっているもの・・・。
いや、正確には家族や人間社会の中で暮らして身につけるものとも言えるが・・・
そんなもののために、父上がそれほどの覚悟を必要としてまで希求するものなのだろうか。
いくら元々天使には存在しないものだとしても・・・。
「あ、そ、それでカラドックさん・・・。」
む!?
「な、なんだい、麻衣さん!?」
「そ、そろそろカラドックさんのスキル使ってもらっていいですか?
ママの現況もわかったんで、そろそろあたしも本来のお話をしようかな、と・・・。」
「あ、ああ、も、問題ないよっ。」
さっきのは気の迷いだったのか。
そうとも、こんな土壇場で何を取り乱す必要がある?
私は麻衣さんに恩を返すためにも出来る限りの協力をするだけだ。
みんなから徴収した魔力を麻衣さんに送る。
麻衣さんは再び百合子さんとの話を続けるようだ。
「ママ、ごめんね、
そんなに長話は出来ないんだ。」
「仕方ないわね、どれだけ非常識な現象なのかは理解できるもの。」
「うん、それでね、
あたしはママに・・・。」
「麻衣、ちょっと待って。」
うん?
雲行きがおかしいか?
「あ、え?」
「麻衣、あなたがもう一人の私に言いたかったこととか、伝えたかったこととか、
何となくわかるけど、やっぱり私には子供を産んだ記憶はないもの。
それを聞かされても違和感しかないと思うの。」
「そ、そうだよ、ね。」
和気藹々とはなっても、根本的な話は何一つ解決しない問題ということか。
「それに、私がこれから元の世界に戻ったら、あなたとはもう、二度と会うことはない。
・・・そうよね?」
「・・・・・・。」
麻衣さんの顔が歪む。
確かにその通りなのだ。
「だから教えて。」
「え?」
「私が元の世界に帰って・・・
あなたを産むにはどうしたらいいの?」
え?
「そ、それは、か、可能性でしかないけど、
まず、パ、パパに会って?」
「パパ、ねぇ・・・、
そう言えば、麻衣?
あなた私に最初に会った時、私の名前が伊藤百合子かって聞いたわよね?
私が結婚した人は伊藤って言うの?」
「あ、う、うん、そうだよ・・・。」
「伊藤、伊藤・・・そんな知り合い、いたかなあ・・・。
あ、大学の新聞部にいた伊藤先輩かな・・・?」
「あ!
多分それ!!
ママとパパは大学で知り合ったって言ってたし、パパはいくつか出版社のフリーライターやってるし!!」
「ああ〜、てことは日本に戻って・・・
でも生きてるかな〜、
日本もかなり荒廃しちゃってるのよねえ?
でもちょっと探してみようかしら?」
おお?
二人がうまく出会って結婚することができたら、百合子さんの世界で麻衣さんが産まれる可能性が出てくるのか!?
「い、いいの? ママ・・・。
だ、誰か他の人、とかは?」
「あのー、麻衣?
私たちはリーリトよ?
男を選ぶのにそんな拘りはないわよ?」
「そ、そっか、そうだよね、
じゃ、じゃあ一つお願いしていい?」
「あら、何かしら?」
「パパと出会うことが出来て・・・
その、うまく一緒になることができたとして・・・
あたしが産まれてパパが用済みになったとしても・・・
すぐにパパを殺さないで欲しいんだ・・・。」
そうだ、
それが麻衣さんたちのリーリトという種族の忌まわしい慣わしなんだっけ。
「ああ・・・
そう言うことなのね、
麻衣に感情が残ってる理由・・・
絶対とは約束出来ないけど・・・
心に留めておくくらいなら出来るわ。」
おや、麻衣さんが首を振る。
「あ、それはママの勘違い。」
「え? 違うの?」
「あたしに感情があるのは、ママたちをずっと見てたからだよ。
リーリトにも感情があるとあたしが理解したのは、ママの生き様を見せてもらったから。
ママはパパを愛していた。
あたしはそれを知っている。
・・・あれ?
なんだかママにお礼を言うより、こっちの事を伝える方が大事な話だって気がしてきた!」
しばらく百合子さんは呆けていた。
麻衣さんの話を信じることが出来なかったのかもしれない。
さすがにそれはね、
今までの会話の流れからしても、
百合子さんがそれを受け入れるのは無理ではないかと思ったのだけど。
「心配するほどのものではないかもしれないわ。」
え?
メリーさん!?
「本当に彼女に感情がなければ、麻衣の話を一刀両断にしていた筈よ。
百合子にも多少思うところがあるのよ、
自分の中に心があることを。」
・・・それは、
確かに先程は盛大な「喜」の感情を見せてくれていたしね・・・。
「・・・麻衣から聞いた話を全部鵜呑みにするのは難しいかもしれないけど・・・。」
お、百合子さんが再起動したぞ。
「あ、うん、
その通りにしてとは言わないよ・・・。
でも、覚えていて欲しいんだ。」
「・・・わかったわ。
でもこれだけは理解した。
麻衣、あなたとても頑張って来たのね・・・。
いろんな目に遭って、いろんなこと考えて・・・。
あなたは凄い子よ・・・。
そしてあなたに私が言ってあげられることは、
もし・・・私が子供を産んだら・・・その子には『麻衣』って名前をつけるわ。
そうしたら・・・またあなたに逢えるかしら?」
「ママ・・・。」
その瞬間、麻衣さんが百合子さんに抱きついた。
今までずっと我慢していたのだろう。
百合子さんも最初は戸惑ってはいたみたいだけど・・・
とても優しい目で・・・
彼女の二本の細い腕が麻衣さんを包み込んだのである・・・。