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第五百九十四話 オレはお前の

結局ケイジは我慢出来なかったようです・・・。


自転車も買った。

靴も買った。

上着は・・・今年はあったかいからいいか・・・。

ウールのコートは健在だし。

<視点 カラドック>


いよいよこの日が来てしまった。

お別れ会は昨夜のうちに済ませているよ。


昨夜は誰もが麻衣さんに感謝し、その別れを惜しんだ。



もちろんそれで最後ではない。

この後も、本当の最後の瞬間まで私たち皆全て別れを惜しむことになるだろう。

なので、長話になりそうな事を昨夜のうちに済ませただけとも言える。



・・・おっと、



麻衣さんの話の前に、

何か重要な話を忘れていないかって?


はて、何だろう?

仮にも賢王と呼ばれたこの私が忘れている事など?



ああ、ケイジの件だね。

もちろん忘れてなんかいやしないよ。


そう、だね。

何から話そうか。


昨日の邪龍討伐記念式典で、

私は今更ながらの驚愕と衝撃を受けた。

もちろんモードレルト君のことで間違いない。


アルツァー殿のことは多少予想はついていたのだけど、

まさか彼の息子モードレルト君が、弟の惠介そっくりだとは思いもしなかった。


恐らく彼こそこの世界の惠介と言って間違いない・・・のだろう。


髪の色こそ違うがそれは些細な問題だ。

私の世界の惠介の母親は日本人の恵子さん。


だから黒髪が惠介に遺伝しているわけで、

モードレルト君の母親が別人なら黒髪になる訳もないものね。


・・・それでも顔はほとんど一緒なのかな。

だとすると、顔は父親のアルツァー殿の血筋の影響か。


確かに女王やコンラッド君達にも通ずる風貌とも言える。


逆にアルツァー殿には「カラドック殿と我が息子モードレルトはどことはなく似ているな!」と嬉しそうに評された。



確かに私と惠介も片親が同じなのだから、

どこへ行っても兄弟と認識されていた。

誰もそれを疑うことなどなかったのだ。


ただ、

この世界には、現在のところ、

我が父シリスも恵子さんもいない。

そもそも日本人風の顔も文化も今のところ見たことはない。


ああ、食文化は一部似通ってるかもしれないね。


この世界と私の元の世界の関係、

異世界転移、

異世界転生、

その辺りの仕組みは謎に包まれている。


ローゼンベルクのアスターナ夫人の例もあるが、

私の世界の人間関係と、この世界の写し身達の人間関係は必ずしも一致しない。


・・・一致しないが何がしかの関係を保つことは起こり得る・・・


今のところそれしか言えないよね。


偶然なのか、人為的なものなのかも分からない。

ある程度法則があるのかもしれないけども。


まあ、そんなわけで、

私の弟、惠介の写し身がモードレルト君・・・


という図式自体は何の問題もない。

彼が転生者なら惠介の記憶を保持していたかもしれないが、

マルゴット女王の魔眼ではそんな称号もないとのことだ。


もちろん元気そうな惠介そっくりの顔を見たことは嬉しいよ?

惠介の記憶がなかったのは残念と言えば残念だけど、


・・・それが一番良かったのかもしれない。



 何故なら






宮殿での麻衣さんのお別れ会の後、

私たちはホテルに帰り、それぞれの部屋に戻った。



ただ、部屋に戻る前、私の後ろを一人の男がついてくる。

そいつにも自分の部屋があるのにね、

彼は自分の部屋を通り過ぎて私の部屋までついてきたのだ。

誰のことかは分かるだろう?


 「やあ、どうしたい、ケイジ?

 自分の部屋には戻らないのか?」


あいつは思い詰めた顔をしていたな。


 「カラドック・・・

 少し聞きたいことがある・・・。」


 「・・・いいとも、部屋に入ろう。」


だいたい何の話かは見当つくけどね。



私はグラスを用意する。

さっきまで二人とも飲んでたけども、

まあ、酔い潰れるほどじゃない。

ほろ酔い程度さ。


 「すまんな、疲れてないか?」

 「いいや、別に頭を抱えるような政務なんかからも解放されてるしね、

 後は一週間羽を伸ばすだけさ。」


ケイジは少し笑ったようだ。

本当に国王の仕事は大変なんだぞ?


 「話というのは・・・お前の弟の話なんだが。」


ああ、そうだろうね。


 「モードレルト君、のことかな。

 会場でも言ったけど、惠介そっくりだったよ。」


もはや隠すような話でもない。

事前に彼のことを聞いていたならともかく、

いきなり目の前にアイツの顔が現れたんだ。

さすがに私に「驚くな」なんて無茶振り、誰もしないよね?



 「やっぱりお前の弟の、この世界での姿だと思うか?」


 「・・・少なくとも私とマルゴット女王は、そう判断した。」


ケイジにはこの言葉の持つ意味がわかるだろうか?


ケイジは寂しそうに笑う。



 「・・・リィナには生き別れになってた家族との再会・・・。

 カラドックにもご褒美がっ・・・てことなのかな。」


かもしれない。

私にとっては誰一人欠けることなく邪龍を倒し、みんなの笑顔を見れただけで良かったのだけれど。


 「よ、良かった・・・な。」


ん?

それを言うためにここへ来たのか、ケイジ。

無理するんじゃないぞ。


 「違うだろ。」


 「え、い、いや、カラドック?」


 「そんな奥歯に物が挟まったような祝福なんか欲しくない。

 何か私に言いたいことがあるんだろう?

 はっきり言え。

 君と私の仲だろう。」


 「な、仲っ・・・て。」


この賢王の前で隠し事なんて出来ると思うな、ケイジ。

リィナちゃんや麻衣さんのような感知能力なくなって分かるものは分かるんだよ。


 「あ、い、いや、せっかくの喜びに水を差すんじゃないかってさ、

 それが引っかかって・・・。

 今回もさっきまでここに来るかべきかどうかも悩んでて・・・」


ふむ、その言葉自体は嘘でもないんだろう。

でもね。


 「どういうことだい?

 あのモードレルト君に何か問題が?

 私にもリィナちゃんにも懐いていた気のいい青年だと思ったけどね。」


あ、あからさまにケイジが反応した。

怒りを押し殺しているのか?

奥歯が折れるのを心配したくなる。


 「あ、あの色ボケ野郎、獣人のことバカにしていたくせに・・・。」


ん?

へぇ、それは気づかなかったな。

ケイジに対抗意識燃やしてたのはてっきりリィナちゃん絡みだと思ったのだけど。


 「い、いや、本人のいないところで陰口叩きたくはないんだが、あいつはベディベールやイゾルテの悪口も言っていた。

 おれにはあいつが気のいい青年になんか見えやしなかった。」


 「・・・そうだったのか、

 まあ、人間誰しも好き嫌いや相性もあるだろう。

 彼もまだ若い。

 将来政治の舞台に立てばまた変わるんじゃないか?」


途端にケイジの顔が沈む。

私の意見を心の底から同意できないが、

反論すら出来ないといことなのだろうか。


 「・・・オレはあの男を信用できない。

 それと同じ理由で、

 リィナやカラドックにもあの男を信用して欲しくない・・・!」


これは・・・

ケイジの本音だろう。

だがそれだけで私が自分の意見を変えるわけにはいかない。


 「その理由とやらは?

 ケイジだって今日初めて彼に会ったんだろう?

 獣人差別主義と言ったって、意外と根深い物じゃないかもしれないよ?

 彼もリィナちゃんを見て獣人に対する見方を変えるべきかもしれないと言ってたぞ?」


ちゃんと訳か根拠をはっきりしてくれないとね。


 「それは単純にリィナを女と見ているだけだ!!」


荒ぶるな、ケイジ。

そう言えばアルツァー殿も狼獣人であるケイジの母親と一線越えたんだったか。

・・・血筋なのかな。


いや、今はどうでもいい話か。


 「ケイジが彼を信用出来ないというのは、リィナちゃんへの嫉妬かい?」


 「違う!!」


まあ、私もそんなこと思ってないけどね。


 「なら?」


 「お、」


お?


 「オレにも・・・よく分からない。」


なんだ、そりゃ。

 「ケイジ・・・いくらなんでもそれは。」


一応私は国王でもあるんだから、

そんないい加減な報告されてもどうしようもないぞ?


けどケイジは引き下がらない。


 「分かってる、

 オレの言葉に何の根拠も説得力もないのは分かっている。

 こんなの誰に言っても通用しないよな。

 けど、カラドック!

 オレは・・・」


ケイジの形相が今までにないくらい激しくなっている。

それほど・・・か。


 「カラドック!

 オレはお前の部下じゃない!!

 仕事仲間でもない!!

 けっ、けれどオレは・・・オレはお前の・・・!!」


そこでケイジは言葉を詰まらせる。

そして次に吐くべき言葉から彼は逃げ出したようだ。


 「だ、だから、たとえ証拠も根拠もなくとも!

 言わせてくれ!

 オレはあの男だけは・・・、

 あの男だけは信用するなっ!!

 たとえ、今現在あの男がお前を慕っていたとしても!!

 特にカラドック!!

 たとえアイツがお前の弟だとしても!!

 絶対に心を許してはならないんだ!!」


ケイジが彼を気にしていたのは分かっていた。


だがここまでの激情を隠していたなんてね。

しかも私が一週間後に元の世界に戻ることはケイジだって分かりきっているはず。


それこそスルーしたって何の問題もなかったろうに。

それが分からぬケイジでもあるまい。


それでも・・・



ケイジは黙ってられなかったって、

ことなんだろう・・・ね。


少し考えさせてもらうか。

テーブルに置かれたロックのウイスキーを飲んだ後、一気に冷たい水を喉に流す。

爽快感が堪らない。


まあ、考え事の中身は難しくも何ともないんだよね。

単に私の覚悟だけの話なんだ。

確かにモードレルト君の存在は驚いたのだけども・・・





ふー・・・っ


 「分かったよ、ケイジ。」


 「カラドック!?」


 「理由は納得してないけど、

 私が帰るまで、モードレルト君に近づかなければ問題ないだろう?

 私の帰還日に彼ら親子も参列するかもしれないが、普通に社交辞令だけ交わして帰ればいいんだよね?」


 「あ、ああ!

 済まんカラドック!!

 何から何まで恩に着る!!」


途端に子供みたいに無邪気な表情で・・・

最初は狼フェイスで表情読みづらかったけど、流石にもう慣れたからね。

こいつの喜怒哀楽なんかは大体分かる。


 「でもマルゴット女王とかには?

 あの人にとってもモードレルト君は可愛い甥なんだぞ?」


また沈み込みやがった。

忙しい奴だ。


 「そ、そっちはまだ時間があると思う、

 何とかそれとなくオレの懸念を伝えておくさ。」



全く人の気も知らないで・・・

手間のかかる奴だよ、ホントに。



しかし気になることも言ったな。

「時間」だと?


いったいなんの「時間」だと言うんだ?



だがそれほど心配することはないだろう。

私や麻衣さんがいなくなっても、ケイジにタバサやアガサの縁は切れてない。

それに聖女様もなんだかんだケイジに辛く当たっていたが、

困ってる人を見捨てるような人にも見えなかった。


もしケイジが、何らかの事情でこの先苦境に立たされる事があったら、

遠慮なく聖女様に頼るようアドバイスしておくか。


いや、ケイジ、


そんな嫌そうな顔しないでさ・・・。



 

ひたすらスルー。

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