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第五百九十二話 ぼっち妖魔は手を触れる

よし、自転車ゲット。

思いっきりペダル漕いでも足に負担はない!

チェーンが外れて大事故を起こす心配もない!!

快適である!!

<視点 麻衣>


 「ま、麻衣ちゃん、それって!?

 で、でも今現在あの子は何にも!?」


前世でのケイジさんは、父親・・・すなわち「少年」を恨みまくっていた。

けれどこの世界のモードレルト君はどうなのか?


リィナさんはまだわからないみたいだけど、

ケイジさんは当然そこまで理解している。



 「・・・起こり得る。」


 「ど、どうして!」


 「考えてみれば、モードレルトの父アルツァーは、オレの処遇の件でマルゴット女王から冷や飯食わされ続けてきた。

 本来なら女王の弟という立場で、もっと活躍出来る場を与えられていた筈だし、暮らしも贅沢に出来たろう。

 ならばあのギネヴィエという妻と息子のモードレルトは、現状に強い憤りを持っていたに違いない。

 ・・・これはオレの想像だが、

 モードレルトも同世代の貴族の子女たちの間で、不当に低い扱いを受けていたと感じている筈だ。」


ケ、ケイジさん、まるで見てきたような・・・って、

そ、そうか、

誰よりもケイジさん本人が味わってきた道なのか、

ここか、それとも元の世界の話かもしれないけど。


 「昼間の話だと、アイツらは獣人たちの台頭に心の底から反感を覚えているようだ。

 ・・・アイツらにしてみれば真剣にこの国の未来を憂いているかもしれないな。」


あ、そ、それは互いに歩み寄れそうにない。


 「そ、それじゃ・・・。」


 「ああ、後はオレが味わってきたように、

 不遇の果てにモードレルトの愛する誰かを失うというきっかけさえあれば、前世のオレが完成する。

 そうなったら誰もアイツを止められない。

 オレ本人でさえ、アイツの心を変えられる事など出来ない。

 誰かを愛し大切に思う気持ちなんか、それこそ自分自身にすら否定出来ないさ。

 だから、オレに出来ることは、せいぜい力ずくで奴をねじ伏せることだけだろう。」


 「ケイジ、で、でも今の話の通りだとして・・・。」


 「そうとも、未だ犯してすらいない未来の罪を理由に、誰が奴を裁けるかって話なんだよな。

 そもそもオレの話も他人には聞かせられないからな。

 さー、困ったな、

 こうなるとマルゴット女王すらオレの味方にはなれないな。

 共に女王の血縁者なんだからな。」


 「ケイジさんにはそこまで確信が・・・。」



 「ああ、できれば世界樹の女神様にでも未来を視てほしいくらいだ。

 或いは聖女様なら何か気付けるのかな?」


 「で、でもそれ、逆に言えば、

 モードレルト君の大事な人が亡くなったりしなければ、彼も暴発しないってことだよな?」


 「そうだな、それまでは安全と言えるだろう。

 もっとも、誰がその大事な人とやらの安全を保証できるのかって話なんだが。」


ううーん、

かなり重要な話には違いないけど、当面は何もないと思っていいんだよね?


 「どっちみちカラドックさんが元の世界に戻るまでは何も起きないですよね?」


 「昼間の反応を見る限り、モードレルトはカラドックにも本心から尊敬の眼差しで見ていたと思う。

 それに身近に大切な人間がいるうちは問題ないと思うぞ。」


複雑な心境なんだね、ケイジさん。

本来なら自分のお兄さんと何のわだかまりもなく再会を喜び合いたいのは自分なのにね。


 「じゃあ、全ては言えないまでも、

 マルゴット女王にだけ、あの男の子を注意しろって言えばいいんじゃ?」


リィナさんの提案はもっとものように聞こえるけども。


 「何を根拠に?」


 「あ、ああああああ・・・。」


だよね。

獣人に差別意識を持ってるなんて、まだまだこの国にはいっぱいいそうだし、そうなるとモードレルト君一人だけを注意しろなんて不自然極まりない。


ううむ、ここはやっぱり・・・


 「まだベディベール君やコンラッドさんの方が話は早いかもしれませんね。

 ケイジさんの予感と言われても警戒くらいはしてくれるかも。」


 「そうだな、アイツらには悪いが政治的な実権が薄い分だけ話を聞いてくれる可能性は高いな。」


よし!

あたしにしてはいい事言った!

さらにさらに!!


 「それと後一人もしかしたら」


 「ん?

 他に頼りになる奴いるか?」


いるのだ。

それはもうカラドックさん並みの能力と理由を持つお人が。


 「魔王ミュラ君です。

 モードレルト君がリィナさんに色目使ってたと言えば、きっと力になってくれますよ?」


 「・・・え、ええ・・・。」

 「麻衣ちゃん、ちょっとそれは・・・。」


ん?

二人とも何を戸惑ってらっしゃるのか。

適材適所とはまさにこのことでしょうに!!


 「いや、下手するとヒューマンと魔族の間で戦争始まるかも・・・。」


聞こえなーい!



まあ、ケイジさんのお悩みと懸念は十分理解しました。

・・・けどね、

あたしがケイジさんに聞きたかったのは、実を言うとこの話ではないのだ。

いえ、もちろん今の話も聞きたかったのだけど。



あたしはちょっと神妙な顔をしておく。

 「ケイジさん。」


ここから先は本当にあたしの自己満足の世界の話となる。


 「麻衣さん?

 どうかしたかい?」


 「今のお話も気にはなってたんですけど、

 あたしのもう一つ気になった点を聞いてもいいですか?」


 「気になった点?

 何だろうな?

 オレに答えられる範囲なら何でも聞いてくれ。」


ケイジさんに答えられるのかな。

自分で聞こうとしてるのに、ケイジさんが分かる話なのか確信が持てないというのもおかしな話だけど。


でも聞かずにはいられない。

あたしはカラドックさんのようなスルースキルは持っていないのだ!


とはいえ、どうやって切り出そう?


 「あ、・・・えっと、

 あたしが気になったのは・・・、

 モードレルト君の顔なんですけどね。」


 「ん? ヤツの顔?」

 「はい、あの、ケイジさん本人から見て、

 モードレルト君の顔って、ケイジさん前世の惠介さんて人にそっくりってことでいいんですか?」


 「ああ、うーむ、

 自分で自分の顔に似てるって・・・

 考えてみたら客観的な評価じゃないよな?

 少なくともオレの若い頃にそっくりだと思ったが。

 まあ、髪の色は違ったが。」


うーん、ここまで来たら話を止めようもないぞ?

さあ、一気に行きますか。


 「でも麻衣さん、それが何か?」


 「あ、えっと、以前あたし、夢の中で、

 白人将校の姿をした人が少年・・・

 ケイジさんのお父さんを刺したって話をしましたよね?」


 「・・・ああ、もちろん覚えているよ・・・。」


む、ケイジさんの警戒心があがったようだ。

あたしが何を聞こうとしているのか、気づいているのかな?


まあいいや。


 「あの夢を見た時は、もちろんケイジさん、

 ・・・いえ、惠介さんでしたっけ、惠介さんのことは知らない人だったんですけど、

 あたし、あの人を見た時、あたしの知ってる誰かに似てるかなって思っちゃったんですよ。」


 「・・・前世のオレの姿は・・・

 モードレルトに似てたか・・・?」


ん?

その質問・・・

あたしの話を逸らそうとしている?


 「そうですね、あたしが見たのは四、五十代くらいに見えましたけどね、

 髪の色は黒で、口髭生やしてました。

 それ以外ではモードレルト君にそっくりでしたよ。」


 「そう、だろうな・・・。」


いいのかな、話戻しちゃって。


 「で、その時の顔が誰に似てたかって話なんですけど。」


 「ん? あ、ああ。」


 「あの時のあたしの感想は、

 あの白人の男の人って、マーゴお姉さんに似てるかな?って思っちゃったんですよ。」


 「ん?

 マーゴって・・・マーガレットさんのこと、だよな?」


 「はい、その時はそれしか思わなかったんですけど、

 今日の式典で皆さん見て、マルゴット女王もアルツァーさんも、モードレルト君も・・・

 それにカラドックさんも加わるとホントに親戚っていうか、みんな血が繋がってるんだなって・・・。」


 「え、でも麻衣ちゃん、

 カラドックはともかく、実際女王もモードレルト君も血の繋がりがある親戚でしょ?

 何もおかしくなくね?」


 「・・・・・・」


リィナさんは全く気づかない。

このおかしな状況に。


ケイジさんは何も言わない。

あたしが言いたいことに気づいてる?


 「ええ、この世界なら同じ血筋の人達の顔が似ててもおかしくも何ともないんですよ。

 でも、ここじゃない世界・・・

 ケイジさんの前の世界で、

 ケイジさんとマーゴお姉さんの顔が似ている筈ないんですよ。

 だってケイジさんの母親は加藤さんて日本人の人で、マーゴお姉さんの子供でもないんですよね?」



 「あっ、そうかぁ、

 そう言われてみればそうだよねぇ?」


リィナさんの自然な反応とは別にケイジさんは無言のままだ。


これ・・・やっぱり聞かない方が良かったのかな・・・。



どうしよう。

この話終わったら麻衣ちゃんエンド(その1)なんだけど、

まだ考えがまとまらない。



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