第五十九話 会長ラプラス、空を飛び、オデム変身、地を駆ける
布袋どんは海を行きません。
誤字報告ありがとうございます。
初めて報告画面見た、ああなってるのですね。
その時、周辺の魔力が増大した。
ダークエルフたちに緊張の表情が浮かぶ!
続いて大地を震わす振動と大音響!
「なんだ!?」
「あれは公民館・・・いまラプラス会長がいるはず!?」
ちょうどいま、オレたちはラプラス会長が公民館で残務整理していると聞いて、
これからノードス兵団長とアガサを伴い、そこへ向かおうとしていたところだった。
全員駆け足で現場に向かってオレたちが目撃したのは、
ただただ衝撃の光景・・・。
公民館の建物は全て吹き飛び、それがあったと思われる場所には、
無事な姿のラプラス会長と、あのダークエルフの射手、ベルナールが対峙していたのだ。
「おやおや、ケイジ様に・・・これはエルドラ魔法兵団の方々かな?
ベルナール様、いかがされます?
まだ続けますか?」
「く・・・まさか会長が私と同じ風属性の使い手とは・・・。
しかもこれほど高度な魔力を・・・。
仕方ない、だがあなたもこのままではまずいのでは?」
「そうですね、では私はこの辺で失礼させていただきますか、
布袋さん! いるんでしょう!?
出てきてください!!」
うわっ!
瓦礫の一部が盛り上がったかと思うと、大量の木材の下から布袋が出てきた。
「か、会長、お呼びで?」
「お呼びって、この状況で呑気ですねぇ?
ダークエルフの皆様方にバレちゃったようです。
私は例のものを持って一足先にマスターの所へ戻ります。
後はよろしくお願いいたしますよ?」
「りょ、りょーかいですー。」
そういうと、布袋はいつもの白い袋の中から何か黒いものを取り出した。
・・・あれってまさか・・・。
「深淵の黒珠!?」
後から追いついてきた魔法兵団にノードス兵団長は指示を出す。
「全員で彼らを包囲しろ!!」
ベルナールに慌てた様子は見られない。
だが、ため息まじりにこの状況を嘆いているようではある。
「やれやれ、
これはこれは。
エルドラ魔法兵団ノードス隊・・・。
相手にするにはなかなか骨が折れる相手です。
どうされるのかな、ラプラス会長は?」
「ふふふ、一介の商人である私に相手などと、そんな大それたマネなど出来るはずないでしょう、
ここは一つお暇させていただくだけです。」
そういうと、会長は布袋より深淵の黒珠を受け取り・・・
え・・・空に舞い上がった!?
風魔法エアライドか?
だが呪文詠唱した様子もない。
しかも確かエアライドという呪文は、空気の壁を踏みつけることによって、空中を移動できる呪文の筈。
だが今、オレたちが見ているのはエアライドなのか!?
単純に地面の上に浮かび上がっているのだ!!
ノードス兵団長が驚きの叫びをあげる。
「ぬうう!?
それは浮遊スキル!? 会長!
あなたはもしや妖魔なのか!?」
「さて、どうでしょう?
ただ一つ間違いを・・・。
これは浮遊スキルではございません。
私だけのユニークスキルとでも言いましょうか?
まぁどうでもいいですが・・・。
それより魔法兵団の皆さん、
このままお聞きください。
確かに、エルドラからこの深淵の黒珠を盗んだのは我々です。
ですが、使い終わったら返却する予定なのですよ。
使用目的は我々のマスターの個人的事情になります。
皆様に一時的なご不便はおかけしますが、大きな被害はないでしょう。」
「勝手なことをぬかすな!
さっさと我らの宝を返せ!!」
まぁ、それで納得できる奴はいないだろう。
「やれやれ、仕方ありませんねぇ、
それと大事な話を一つ。
あなた方が拘束すべきは私ではなく、そのベルナール様です。
まだその方は犯罪は犯してませんが・・・ああ、この館を破壊してくれましたが、
人類・亜人双方に回復不能の大被害をもたらそうとしております。」
「なんだと? どういうことだ!?」
「まぁご本人の口から聞いた方が確実なんでしょうが、
ベルナール様の主は・・・邪龍・・・ですね?」
邪龍だって!?
それは魔王と対を為す人類最大の怨敵ではないか!?
「なんだとっ!?
邪龍がこの時代に復活しているのか!?」
ラプラスとノードス兵団長の話に、ベルナールは落ち着き払ったままだ。
邪龍の配下であることを否定するそぶりも見られない。
「そしてベルナール様はその邪龍のために、人類の魂を集めている・・・。
深淵の黒珠があれば、その作業は加速度的に早まりますなぁ?
違いますか?」
本当なのか!?
当のベルナールはラプラス会長の指摘に薄く笑みを湛えるのみ・・・。
「反論もないようでしたら私はこの辺で・・・、
では皆さま、ごきげんよう・・・。」
するとラプラスは更に上空へと浮かび上がり、両手を広げたかと思うと、
まるで翼を広げるようなポーズで大空を滑空し始めた。
あれなら誰も追いつけるはずもない。
だが。
「そのまま逃がす私ではない。
これでもエルドラでは名の通った弓使い。
打ち落とさせてもらおう。」
ベルナールが矢をつがえた。
風魔法併用で威力とスピードをブーストさせている。
この距離で届くというのか!?
その時である。
「さっせっないよー!」
緊迫したこの場に全くそぐわない少女の声?
だがその声の主は現れず、
代わりに一人の獣人がベルナールに襲い掛かる!
「ぬ、ぬぅ、ケイジ!?
何故貴様が邪魔を・・・!?」
それでもさすがのベルナール、
突然の攻撃にもカラダを捻って避ける事に成功、
だが本来の目的である弓は射ることなどできないようだ。
ていうか、
ケイジって!?
いや、あれはオレじゃないぞ!?
「な!?
狼獣人がもう一人!?」
驚愕するノードス隊長。
いや、その場にいる全員同じ思いだ。
「あれあれ?
かわされちゃったー。」
確かに黒い体毛に覆われた狼獣人がそこにいる。
だが、その口からこぼれたのはあり得ないほど幼い少女の声。
「あ! こ、こいつ昨夜我らを襲った・・・!」
ダークエルフの一人が大声で喚く。
昨夜、紛らわしいマネをしくさったのはこいつか!!
だが、あの声に聞き覚えがあるぞ?
一方、ラプラス会長の姿が小さくなってゆく。
もはやオレでも打ち落とせる距離にはない。
さすがにここまで来るとベルナールも慌てざるを得ないようだ。
「魔法兵団の皆様!
捕らえるべきはこの商人に名を借りた盗賊団だ、
私は一介の弓使いに過ぎない!」
無理だろう、
邪龍の名前を出されて、仮にもエルフの秩序を守ろうという組織が見逃すはずもない。
「どちらも捕縛せよ!!」
そうなるわな。
ノードス兵団長の号令で、ダークエルフ達が一斉に動く。
だが、布袋の対応は素早い。
「オ、オデム、こっちに、
あ、アースウォール。」
今度は間違いなくアースウォールだ。
だが詠唱破棄しやがったぞ?
そしてあのロリボイスの持ち主はオデムなのか!!
あっという間に布袋の前に10メートルはあろうかという高い壁がオデムごとせり上がっていく。
それだけではない!
狼獣人姿のオデムはその土壁に運び上げられるどころか、
更には自分でピョンピョン飛び跳ねて、
あっという間に向こう側に飛び降りてしまったようだ。
いや、タイミングが合えばオレの脚力で同じ事ができるだろうが、
この位置からではもう手遅れだ。
もう、あの壁の高さを飛び越えることは出来ない。
すぐにダークエルフたちが攻撃呪文を打ち込むが、土壁をぶち壊せる様子が全くない。
それにしても・・・あの狼獣人がオデムだと!?
だが、あの姿は何だ!?
服装は別にしても完全にオレの姿になっていた!
変身スキル!?
だが、ラプラス会長が嘘を言ってないとするなら目が見えない筈だよな?
どうやってオレの姿をコピーできる?
オデム
「だからこそのモフモフ!!」
なお、
オデムとはヘブライ語でルビーを指す単語のようです。
それ故にオデムの瞳の色は赤と設定しました。
彼女の更なる秘密は暫しお待ちを。
もちろん、ラプラスや布袋どんについても。