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第五百八十八話 アルツァーの告白

すいません、長くなりました。

二話に分けるには短くて・・・。


それにしても・・・有給あったのに家で一話分ずつしか下書きできなくて、

一昨日、電波が入らない仕事場所で三話分下書き進めることに成功した私って・・・


<視点 ケイジ>


あー、

その、なんだ。


結論から言うぞ。


ここから先の話。

重大な新事実が明らかになったわけでも、

大どんでん返しがあるわけでもない。


よくある、誰にでも想像できるような話を聞かされるだけだ。


もちろん当事者であるオレからしてみたら、

茶化すような話でもない。

だから、オレはアルツァーの告白を黙って聞いていたんだ。


オレに、

できることはそれだけ、だしな。


まあ、途中で聞きたいことが起きた時は質問くらいはさせてもらった。


それだけの話だよ。


そんなんでも聞きたいか?


ああ、ならここから先は、アルツァーの告白シーンだ。

 

 「・・・何から話そうか。

 まだ、私は成人前の15、6という年齢だったな。

 ケイジも知ってるだろうが、この国で武門に生まれたならば、修行の意味合いも兼ねて、ダンジョンや魔物の討伐に向かうことは貴族では当たり前の話だった。

 当時、私はお付きの騎士と共に何度も冒険者達とパーティーを組んで魔物討伐を繰り返していた。」


そう、カラドックもこの世界に来て似たような事をやっているが、この国では珍しくも何ともない。

貴族で・・・しかも領主ともなる身ならば戦場に出ることもある。

そんな時に、剣もろくすっぽ振れないようでは話にならない。

もちろん幼少の頃から英才教育はなされているが、実戦となれば中々訓練のようにいかないものだ。

そこへ例え魔物とはいえ、生き死にの戦闘を経験するんだ、

レベルアップによる成長、スキルの獲得は勿論のこと、心構えが全然違ってくるわけだ。


アルツァーも、もちろん飾りなどではない騎士としての実力を身に付けている。

彼はそうやって力を伸ばしていたのだろう。


 「ある時、冒険者ギルドで狼獣人のカトレヤを紹介された。

 獣人にしては珍しく体力はそれ程ないとのことだったが、

 獣人としての索敵能力と、何よりもレアな結界能力は、つまらない負傷など避けたい我々にとっては垂涎の能力だった。

 ・・・最初は彼女も私達が貴族と聞いて獣人差別を警戒していたけどね、

 良くも悪くも・・・私は獣人差別なんて興味なかったから・・・。」


そう、

アルツァーも姉のマルゴット女王の影響からか、それ程亜人や獣人に下手な差別感情などもっていなかったんだろう。

一見いい話に思えるかって?


・・・良くも悪くも、だよな、本当に。


 「カトレヤは口数が多い方じゃなかった。

 もちろん必要なことは遠慮なく話しかけてきたがな、

 『全くアルツァーは変わってるね?

 あたしの姿見ても全然平気みたいだね?』って。

 もちろん私だって、獣人の女性相手に早々下卑た感情は覚えない。

 恋愛対象として意識することもなければ、婚姻対象なんて以っての外さ。

 けれど・・・一緒にパーティーにいて、

 共に冒険をして、何度も死線を潜り抜けて、いつの間にかある程度は、お互いの信頼関係は出来上がっていったんだ。」


そうなんだよな、

息子のオレから見てもおふくろは優しかったが、それ程お喋りする印象はなかった。

それだけに、前世の母さんと姿が重なることもなかったんだろう。

・・・何しろ同じく息子のオレから見ても、前世の母さんは、時々頭にネジがハマってないんじゃないかと思う時が・・・


いや、今はこっちの話だな。


そしてアルツァーは一度リィナに視線を送る。


 「コホン、ケイジも経験あるだろうが、

 状況によっては、テントや宿泊所に男女で寝泊まりしなければならないこともある。

 肌寒い日なら尚更の話となるが、獣人の体はヒューマンにとってはとても有り難い存在になるから、自然と距離が近くなる。

 もちろんそんな簡単に男女の一線を越えることはないが、そういうことを繰り返しているうちに、互いに警戒心など薄れていってしまったんだろう。」


そうだな、

そしてその件で、オレ達に対して何もツッコミは要らないからな。


 「クエストが終われば互いの身分も気にせず、飲み屋でバカ騒ぎしたよ。

 楽しかった。

 私も若かったしな。

 酒に飲まれて潰れたこともあるし、朝、目が覚めたら知らない天井を見上げていた事もある。

 まあ、流石にそれ程痛い目には遭わなかったが、そんな環境にいるとな・・・。」


ほらな。

たいていの冒険者なんてそんなものだ。

その時に間違いが起きる事もあれば、知らない奴に身包み剥がされてることもよくある。

まあ、アルツァーがその時点で痛い目に遭わなかったというなら、お付きの騎士がしっかりしていたんだろう。


 「いよいよ、ケイジからしたら気分が悪くなるかもしれないが・・・

 私の修行期間も終わりを迎えることになった。

 カトレヤとは知り合ってから最後まで冒険に付き合わせた。

 その頃にはお互い、何の遠慮もなくバカなことを言い合ったり、方針が異なるものに関しては感情的に言い合いする事もあった。

 ・・・でも、だいたいは私が謝ると彼女は笑って許してくれたよ、

 『ほぉーら、あたしの言ったとおりだろう?』てな。」


ああ、それはオレも言われたことあるな。

おふくろの得意そうな顔が目に浮かぶ。


 「確か、最後の方のダンジョン探索の時だろうな。

 あの時は他のメンバーと別行動していて、

 私達二人は安全地帯にいた。

 ・・・もちろん直前までそんなつもりはなかった。

 いや、もうその頃には時々は意識するようにはなっていたんだろう、お互いに。」


うん、オレだってリィナがいるが、

タバサやアガサに女の色気を感じる時がたまに・・・いや、やたらめったらある。

しかも最近は麻衣さんまでが、何かわざとやってんじゃないかと思うような怪しげなアクション起こすしな。

自分を律するのは一苦労なのだ。


 「勢いで・・・と言っていいものか、

 その晩は激しく求め合ったと思う。

 彼女はあまり多くを語らなかった。

 最初は戸惑っていたみたいだったが、

 ずっと優しい眼差しを私に向けていて・・・

 一度も私を拒絶しようなんてしなかった。

 だから、私も、それが嬉しくなって・・・。」


気分が悪くなる、というより、小っ恥ずかしいものがあるんだよ。

これ、おふくろは墓の向こうでどんな気持ちで聞いているんだろうな。


 「朝になって、何事もなかったかのように彼女は振る舞った。

 最初は私もどんな顔をして彼女に接すればいいか分からなかったんだが、

 すぐに彼女の意図は理解できてしまったんだ。

 私の冒険者活動はもう終わり。

 私は貴族の社会に戻らねばならない。

 ならば・・・

 このまま何もなかったことにするしかないのかなってね・・・。

 きっとカトレヤはそう気を遣ってくれたんだろう。

 それに、その時はすぐに他のメンバーとも合流したしね。

 本格的なミッションはそれが最後になった。

 その後も何度か冒険者ギルドで会う事もあったが・・・。

 私がギルドに最後の挨拶に訪れた時は彼女もそこにいた。

 私はパーティーメンバーに謝礼金を振舞い・・・

 カトレヤにはかなり多めに渡したんだがな、

 最初彼女は突っぱねたよ。

 『約束の金は貰っている、こんなものを受け取るわけにはいかない』ってね。」


ああ、それはおふくろらしいな・・・。


 「今から考えると、彼女が受け取ろうとしなかったのは、私からの手切れ金とか口止め料とかと勘違いしていたのかもしれない。

 勿論そんなつもりはなかった。

 ただ感謝と・・・そして体の弱い彼女の薬代とかになるかと思ってのことだ。

 結局は、最後に彼女は私の説得で受け取ってくれた。

 もしかすると、あの段階で彼女は自分の妊娠に気づいていた可能性もある。」


なるほど、

手切れ金など、貰ういわれはないが、

オレを産んで育てるとしたら、冒険者稼業は続けられなくなるものな。


 「その後、カトレヤと会う事は二度となかった。

 私も成人し、領地を治める勉強をしなければならなくなったし、婚姻の話も持ち上がった。

 カトレヤとの関係は、私にとって大切な青春の1ページの思い出として終わってしまったんだ・・・。」


 「おふくろがかつての関係をたてに、金の無心に来るなんて考えてもいなかったのか?」


アルツァーは即答せんばかりに首を横に振る。

 「あり得ないよ。

 さっきの金のやり取りもそうだが、彼女はいつも誇り高かった。

 他の冒険者のおこぼれなんか決して貰おうともしない。

 まさに狼はかくあるべし、を地で行くような女さ。

 それは息子である君が一番分かっているのでは?」


 「ああ、そうだな。」


聞いてみただけだ。

アルツァーがおふくろのことをどこまで分かっているのかとな。


 「・・・後は知っての通りだ。

 数年後、いきなり姉上に呼び出され、

 過去のカトレヤとのことを根掘り葉掘り聞かれて、

 ケイジ、君の存在を知った。

 その時まで、君が生まれていた事も、

 彼女が冒険者稼業からすっぱり足を洗っていた事も、

 ・・・彼女が亡くなっていたことも知らなかったんだ・・・。」




オレはそこで初めて




アルツァーの顔から、

何かがこぼれ落ちていたことに気づいたのだ。



 「・・・おふくろのカラダが目に見えて悪くなっていったのは、オレが生まれてからだそうだ。

 それまでは、体力がないという程度で、日常生活にも何の影響もなかったらしい。」


その意味でもオレにアルツァーを責める資格はないと思う。


 「・・・そう、だったのか。」


 「アルツァー、アンタは今でもおふくろのことを・・・?」


 「う・・・、恋愛感情、ではないとは思うが、

 もう少し、彼女に、何かしてやれなかったのかと、後ろ髪を引かれることは・・・ある。」


 「・・・そうか。」


そこまで聞けば十分だった。


あとはどうしても聞きたいことがあるかと言われれば・・・



 「アルツァー、

 オレに出来ることはアンタの話を聞くことだけだ。

 さっきも言ったように、オレにはアンタを責める資格もない、

 それと最も大事なことは・・・。」


 「大事なことは・・・?」


 「オレはアンタを許す資格すらない、という事だ。

 意味が分かるか?

 オレの言ってる意味が・・・。」


アルツァーはひとしきり考え込んでいた。

まあ、そんな難しい話じゃないだろう。


 「私は・・・

 決して許されない・・・ということなのか。」


んん?

ようやく出した答えがそれか?

ああ、まあそういう解釈も可能になってしまうのだろう。


ならば


 「それを決めるのはアルツァー、

 お前自身にしか出来ないな。

 だが、少なくとも、

 ・・・おふくろはアンタを恨んじゃないよ、



 それはおふくろの息子であるオレが保証する。」



 「・・・っ」



アルツァーの方から嗚咽のようなものが聞こえてきた。


心なしか体も上下に揺れている。

オレのイーグルアイはヤツの足元に何か落ちるのを・・・

いや、霧のせいだろうか、よく見えないな。



もういいだろう。


 「・・・オレ達はもう墓参りを済ませた。

 後は二人で昔話でも口喧嘩でも何でもやってくれ、

 リィナ、付き合わせて悪かったな・・・。」


 「う、ううん!

 そんなことない!!

 か、帰ろう、ケイジ!!」


ん?

なんかリィナの機嫌がいいか?


オレの腕を取って歩き始めたぞ?

 「お、おいおい、そんな急いでっ」


オレがリィナに引っ張られて歩き始めたまさにその時、


 「ケイジ。」


アルツァーから呼び止められた。

オレ達は無言で振り向く。


アルツァーもこっちを見ているわけではなさそうだが。


 「カトレヤはいい男を育てたんだな・・・、

 すまn・・・いや、ありがとう、ケイジ。」



しばらくして、

アルツァーはそのまま、おふくろの墓の前でしゃがみ込んでしまった。

これから積もる話もあるのだろう。


まあ、いいか。


おふくろ、また来るよ。

今はその男としばしの時を過ごしてやるといい。


流石に次もヤツとかちあうことはないだろう。



そしてオレ達はその場を後にする。


これで・・・



オレのしたかったこと、オレのすべきことは全て終わった。


後は邪龍討伐記念式典という公式行事。

そして麻衣さんやカラドックを見送ること。


そう、オレのイベントは全て終わった。

終わったと思ったんだ。


あれほど、


あれほどクソ親父シリスが忠告してくれたのにな。


この後なんだよ、

問題は。


さっきも言ったように、


アルツァーが獣人差別に興味がないというのは、

まさしく「良くも悪くも」の話だったんだ。


だからあいつは、

自分の周りで起きている獣人差別に、

何の興味も持たなかった。


何も解決もしようとしなかったんだ。


それが


その皺寄せが


この後、まとめて一気に来る。


このオレが、

異世界転生を果たしたその皺寄せと共に。




 

はい、

ケイジは無事に、アーサーのネタバレはしないで話を終らせましたね。


ケイジ

「・・・・・・」


そして次回、

ついに衝撃の事実が(そこまで字数が届けば)!!



カトレヤさん

「あんた・・・息子にまで頭にネジが入ってないって言われるなんて・・・」


恵子ちゃん

「違うの!!

家じゃ陽向ちゃんやガラハッドがしっかりしてくれてたから!!」



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