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第五百八十七話 誰が為に

どこかで書いたかもしれませんが、

私の大好きなアーティストは男性ボーカルでは

Peter Gabrielです。


なんと21年ぶりのソロアルバム i/o が発売されたようです。


最近毎日聴きまくっています。

前作 UP から21年も経つのかあ・・・


ついこないだだと思ったんだけど。

あの時、既に白ひげ垂らしたおじいちゃんになってたよなあ。


今いくつって73歳?


なんすか、もう

Panopticomの動画・・・


機会人間と触手の融合・・・


AIアニメーションコンテスト2位だって・・・

73歳でこんなの作っちゃうの?


<時点 ケイジ>


さて、

オレがアルツァーに対し、

特に怒りも憎しみも抱いてない事は再確認した。


そしてこのアルツァーの態度を見ていると、このオレに対し引け目のようなものを感じているようにも思えるのも確かだ。



それは第三者の立場でオレたちを見詰めるリィナも感じた事だろう。

だからこそ、さっきの他人行儀なオレの態度に思わず口を挟んだんだろうな。


まあ、そこまではいい。


ただオレもそんなお人好しじゃない。


過去の自分の行いを悔いているというならば、

誰かにその過ちを許して欲しいと願う気持ちはよく理解できる。


本当に自分の過ちを悔いているのならな。



だから、オレは問い詰めねばならない。

この男を。

アルツァーを。



 「アルツァー。」


 「な、なんだ、ケイジ。」


思えば最初からこの男は自信なさそうにしていたよな。

オレを相手にどんな態度に出ていいのか迷い続けていたんだろう。


 「ケ、ケイジ、気持ちはわかるけど、熱くなっちゃダメだよ・・・。」


大丈夫だ、リィナ。

今のオレはかなり冷静だ。


 「分かってる、リィナ。

 そもそもオレはこの男を責める気なんかないからな。」


 「「えっ?」」


二人ともオレの真意は分からないかな。

まあ、いいさ。

オレの気持ちなんかどうでもいいからな。


 「それでアルツァー、

 何かオレに言いたいことでもあるのか?」


ちなみに、

責める気はないが、甘やかす気も一切ない。


 「あ、ああ、そうだな、

 ケイジに言わなければならないことはたくさんあるんだが・・・

 まさか、ここで会うとは思わなかったんでな、

 何から話せばいいか・・・。」


何言ってやがんだ。

アレから十何年経ってると思ってやがる。


 「アルツァーが、一番言わなきゃならないと思ってることから言えばいいだろ。」


アルツァーの顔が歪む。

全く人の気も知らねぇで・・・。


そしたらこの男は、

しばらく考え事をしていたかと思うと、

いきなり頭を下げやがった。


 「何のマネだ・・・。」


 「すまなかった・・・。」



 「すまない?

 何の話だ?

 アルツァーは何に対して謝罪してるんだ?」


 「・・・。」


答えはない。


あ、これ、なんか既視感があるな。


思わずチラリと視線をリィナに送る。

リィナは気づいてないかな?


これ、いつだったかオレがリィナに説教された時の構図みたいに見えたんだよ。


だとすると、

今のオレがどの口で、って言われそうだよな。


おっとアルツァーが口を開くか?


 「昔、ケイジに酷い態度を取ってしまった・・・。

 私は父親として・・・。」




ああ、ダメだ。

全くの見当違い。

やっぱりオレがリィナに怒られた時みたいだな。

だからほんの少しだけアルツァーには同情する。


 「アルツァー。」


 「な、なんだっ?」

 「勘違いしてるようだから、はっきり言っておく。」


 「勘違いっ?」


 「そうだ。

 オレはアンタを恨んでも憎んでもいない。」


 「「え?」」


なんでリィナまで驚くよ?



 「で、ではっ」


 「ただし」

 「あ」


 「オレはお前を父親とは認識していない。」


 「そ、それはっ。」


 「当たり前だろ?

 アンタはオレを育てたことも養ったこともないんだ。

 オレたちはお互いのことを何も知らない。

 仮にアンタが今からオレを引き取るとか言い出したところで、オレはもう自由気ままな冒険者だ。

 アンタの庇護は不要だし、この国に留まり続けるつもりもない。」


 「あ、そ、それは・・・その通りだな。」


 「だから、

 アルツァー、アンタが過去の自分の振る舞いを悔いているとか、引け目に感じる事があったにしても、オレに関しては謝罪など一切不要だ。」


 「ケイジ・・・それが君の答え、ということか。

 君は既に結論を出していたんだな。」


今ので結論じゃないがな。


 「オレに関しては、だ。」


 「「え?」」

だからリィナまで付き合わなくていいんだぞ?


 「オレはお前が母さんに与えた仕打ち・・・あ、いや」


 「「?」」


あっ、危ねぇ、

今のは、前世の最後にあの男に吐いたセリフだった。


状況的に似ているせいか、勝手に口から溢れそうになった。

アルツァーとあの男は違うのにな。


あの言葉の続きは「許さない」だったよな。

・・・あれ、「忘れない」だったか、

流石にあの時の自分のセリフまでは覚えてないか。


今回、アルツァーを許す許さないは、

オレが決める話ではない。

オレが決めるというより、もともとオレにその資格はないのだ。


 「アルツァー、オレは一人の男として、

 おふくろの子供として、

 アンタがおふくろをどう思っていたのか知りたい。」



 「そ、それは・・・。」


そしてオレは墓石に一度視線を飛ばす。


 「ただの一夜の過ちだとして、

 後先考えない火遊びの結果だったとして、

 ・・・もしそれならお袋が死んだ後も、こうやって墓にまで来てくれることもないと思うんだ・・・。

 でも、逆に、もしおふくろのことを少しでも思っていたのなら、

 どうしてオレが生まれていたことも、おふくろの具合が悪くなっていたことも知らず、

 まるで全て忘れきっていたと言わんばかりだったんだろうかってな?」


 

辛そうな顔をして下を向くアルツァー。

気持ちは分かるとは言わない。


けれど話は聞いてやる。


オレがその機会を与えられたんだ。

だから、お前にもその機会はあっていい。


今ここで、全部吐き出せ。


オレが出来ることは恐らく・・・



アルツァーの過去にケリをつけてやる事だけだ。



 「私が・・・彼女を、

 カトレヤをどう思っていたのか・・・だと。」


 「オレも子供だったからな、

 どうして自分には父親がいないのか、

 父親がどんな人間だったのかは、もちろんおふくろに聞いたことがある。

 だがおふくろは詳しく語ってくれることはなかった。

 けれど、アンタの・・・

 父親のことは一度も悪く言ったことはなかった。

 だから・・・オレはアンタがそんな酷い人間とも思ってない。

 だから・・・正直に話してくれないか?

 おふくろのことをどう思っていたのか、

 おふくろの息子であるオレに対して。」


 「そ、それは・・・。」


まだ言い渋るか。

恐らくだが、自分の体面を気にしてるのかもしれないな。

だいたいは想像できる。

自分がそんな立場になったら、めちゃくちゃ最低な理由しか思い浮かばん。

もし仮の話だが、

例えばヨルの願いをカラドックが聞き入れたとして、

その十数年後にこんな状況になってみろ?

ラヴィニヤやウェールズに問い詰められて、

カラドックはどんな言い訳をしなければならない?

だからカラドックは決してヨルの誘惑に負けなかったんだ。

さすがの賢王だよな。


だがな、

こっちはもう、起きてしまったことだ。

このままだとお前はこの先、ずっと重荷を抱えたままになるぞ?


 「・・・ではもう少し言いやすくしてやろう。

 オレももう子供じゃない。

 男と女の間で何が起きるのかも分かっている。

 何しろ冒険者同士でも、パーティー内で相方を孕ませたとかで解散したりするケースなんてしょっちゅう耳にする話だ。

 そして、何度も言うがオレはお前の子供じゃない。

 一人の男として、お前がおふくろをどう思ってたか知りたいだけなんだ。」


 「あ、ああ、そう、そうなのか・・・。」


さらにもう一押ししとくか。


 「それに何より、この場こそおあつらえ向きじゃないか。

 おふくろはここにいる。

 おふくろに聞かせてやってくれよ。

 それと・・・

 リィナは兎獣人の特性で、他人の嘘を見破る。

 たとえアルツァーにとって後ろめたい話になろうとも、すべて正直に告白して欲しい。」


 「う、うう・・・。」


さあ、お膳立ては済ませてやったぞ。

これは、オレやおふくろのためというより、アルツァー、

お前のためなんだからな。






 


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