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第五百八十五話 心中

ぶっくま、ありがとうございます!


タイトル

しんじゅう


じゃないです、

しんちゅう

です。


タイトルはルビつけられないのかな。

<視点 ケイジ>


何年振りだろうな。

実を言うと、マルゴット女王からは明日の邪龍討伐式典に、この男がやってくるとは聞かされていた。


女王の方も、オレとアルツァーがいきなり出くわして、不測の事態が起きる前にオレに釘を刺したつもりもあったんだろう。

子供の頃ヤツと会った時は大騒ぎしちまったからな。

だから過去のオレ自身の振る舞いが原因とは言え、ある程度一悶着起きる懸念はあった。

・・・いや、そもそもの原因はオレじゃないよな?



いや、話を戻そう。

さすがにこのタイミングでの再会になるとは思わなかった。

まさかおふくろの墓参りで出会うとはな。


もっとも・・・

オレにはこの男にさして用はないんだ。

かと言って、この男を無視するのも何か違う気がする。


まあ、とりあえず確認だけしとくか。


 「もしかして・・・

 おふくろの墓が綺麗なのは・・・」


アルツァーの方も、オレと何を話すべきか心の準備が出来ていなかったようだ。

オレの問いかけにすぐには反応できなかったと見える。

奴が口を開くのには、幾ばくかの時間を要した。


 「あ、ああ、そ、そうだな・・・。

 毎年、定期的に来れたわけではなかったが、

 時間を見つけては時々・・・な。」


なんだ、オレよりマメなことしてくれてたのか。


 「・・・そうか、

 おふくろの息子として感謝する。

 なら墓の管理費を払ってくれていたのもアルツァーだったのか、重ね重ね礼を言う。」


 「・・・いや、おま・・・ケイジに礼を言われることでは・・・。」


他の奴が聞いたら、オレの言葉をどう思うだろうか?

よそよそし過ぎるって?

そうだな、

オレは自分のセリフに何の感情も込めてない。

恨みも憎しみも、もちろん親子の情もない。

ただ、おふくろの墓参りに来てくれていたことや、いろいろ便宜を図ってくれたことは素直に感謝しているぞ。


ただそれだけなんだけどな。


そしてアルツァー自身も・・・

オレに対してどんな感情を持っているのか・・・

あいつも自分自身の中で答えを出しているのか、それとも迷っているのか・・・。


 「ケ、ケイジ・・・。」


リィナだって、この場でオレとその父親が再会するなんて想定してなかったろうしな。

オレとその父親の対面を前にして、どう振る舞っていいのか、所在なさげしているようだ。

気にすることなんかないんだけどな。

とはいえ、リィナの立場からしたらオレたちの間に迂闊に踏み込めないだろうしな。

とりあえず、この場の空気は軽くしておくか。



 「紹介するのは明日のつもりだったんだけどな、

 この機会に済ませておくか、

 リィナ、こちらがマルゴット女王の弟君にあたるアルツァー殿だ。」


 「ケ、ケイジ、お前、そんな紹介の仕方・・・

 あ、す、すいません、勇者になったリィナと言います!」


リィナの目とセリフが、オレに対して批判がましい。

実の父親をそんな、いかにも他人のように紹介したことか?


だがリィナだって知ってるだろう。

この男が実の息子であるオレを引き取ることを拒絶したことを。

だから彼女もいつものようにオレを責めきれない。


もちろん当のアルツァーもな。

そんな権利や資格などある筈もない。



 「あ、き、君が勇者のリィナ殿か!!

 初めまして!!

 そしてケイジも・・・

 君たちが邪龍を倒したおかげで我々の被害は最小限に抑えられた!!

 まずはこの場で礼を言わせてくれ!!」


そう言えば確か領地でスタンピードが発生してその対処に追われていたとか言ってたよな。


 「スタンピードの方も落ち着いたのか。」


 「あ、ああ、そうだ。

 事後処理でバタバタしていたが、ようやく余裕ができたんでな、

 明日公都に向かう前にここに来ようかと・・・。」


 「そうか・・・。」


麻衣さんのところに送られたメッセージ・・・

あの野郎シリスが言っていたことはこの事だろうか。


無理矢理転生させた弊害とか皺寄せとかなんとか・・・


うーん・・・

そうか?

なんか違う気がするんだよなあ。


この男がオレを引き取ろうとしなかったのは、

貴族のくせに獣人と関係を持ったという醜聞を避ける為だよな?


けど、

ヒューマンの貴族が獣人と一夜の過ちを犯し・・・って、

オレが転生した事と関係ないよな?


オレが転生者じゃなくたって、こうなる事はあり得たろうし。


まあ、どっちみち、オレが避ける事は出来ないよな。

なんというか、前世を完全に思い出した今となっては、オレにはそんなこだわりは持っていないんだが、何というか喉に引っかかった小骨程度には気にせざるを得ない。


ていうか、むしろこだわっているのはアルツァーの方なのかもしれない。

引け目っていうのかな、

実の息子を放ったらかしにしてしまったことを。


いや、もっとハッキリ言うと、

自分の一時の気の過ちの末に生まれた子供を、貴族の体面の為にその引き取りを拒絶してしまったって・・・

男としてどうなんだよな?



まあ、ここでお見合いしているわけにもいかないか。


 「おふくろの墓参りに来たんだろう?

 おふくろの好きな青い色、

 そしておふくろと同じ名を冠したカトレヤか。

 そこまでオレは気が回らなかったよ。

 是非その花を供えてやってくれ。」


 「あ、ああ、そうだな。

 ではその言葉に甘えさせてもらおう・・・。」


アルツァーは、

オレたちが先にお供えした花たちを丁寧に寄せながら、カトレヤの花を挿してゆく。

・・・オレはこの男のことを何も知らないんだよな。


興味もなかったというか・・・


だが、今日のこの一連の行動だけ見ても、

結構マメな男らしいことが分かった。

・・・オレとしては若干悔しいというか、してやられた感がある。

好きな女の子への誕生日プレゼントをみんなで持ち寄った時、

オレより恋仇の方が気の利いたプレゼントを持ってきやがったようなもんだ。

当然女の子は恋仇の方に満開の笑顔を向けるだろう。



クズ男の方がオレより女性の扱いが上手いということなのか、

・・・むうぅぅうぅ。





花を供えた後、アルツァーは両手を組んでおふくろの墓へ祈りを捧げる。

オレらの時のように、おふくろの墓へ何かを語りかけるわけでもない。


もしくは何か言いたかったことがあるかもしれないが、

そのセリフをオレに聞かせない方がいいと判断したのかもな。


オレがアルツァーの立場だったら何て言うだろう?

「やっと親子が揃うことが出来たよ」ってか?

・・・ああ、そんなセリフを聞かされたら全身の毛を逆立ててこの男を蹴り上げたかもしれない。



ここは何も喋らないのが正解だろうな。


やがてアルツァーが振り返る。

何も言わないオレたちに対し、アルツァーは今一度頭を下げた。


邪龍討伐の件でなら、さきほど礼は受け取った。

ならここで頭を下げたのは、

単純にここから立ち去る礼なのか、

それとも・・・別の意味なのか。


リィナは慌てて、お返しの意味で頭を下げる。

けれどオレはアルツァーが頭を下げた理由が分からないので、特に反応するつもりもない。


その事はアルツァーにも自覚できたのか、

言い訳でもするようにヤツはその理由を開示する。


 「彼女の・・・カトレヤの墓に来てくれてありがとう・・・。」


はて?


何故アルツァーがそれを言う?

この墓を建てたのはオレだし、

お前はおふくろのことなど、どうでも良かったから、オレが生まれたことも知らずにいたんだよな?

今更どの口でそれを言う?


いかんな。

オレはこの男に対して何の感情も持ち合わせていなかった筈だが、

心の奥底から何かがメラメラと湧いてきた気がする。


オレの機嫌が急転直下しだしたのは隣のリィナにも分かったろう。

慌ててリィナはフォローに入ってくれる。


 「ちょ、ちょっとケイジ、

 気持ちは分かるけど何か言ってあげなよっ、

 ケイジのお父さん、お父さんはケイジに・・・」


ん?

オレにどうして欲しいのかって?


いや、オレはこの男に




・・・そう言えば、

オレはこの男をどうしてやろうと思っていたんだっけか。


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