第五百八十三話 お墓参りに行こう!
ようやく、
ようやくお給料まともにアップした・・・。
そして余裕が出てきたところで気づく。
今使ってるノートパソコン、かなり長く使ってるよな?
えーどダウンロードフォルダのプロパティ画面から・・・
ああ、このパソコン買ったの2016年12月か・・・。
もう7年経ってるじゃねーか。
今使ってる機種の後継的なパソコンを探す・・・
14万近い・・・
うげぇ・・・
会員割引適用で11万ちょっとか・・・。
二回分割なら利息もないし・・・
一月五万ちょいかあ。
型落ちの中古探してもいい値段だよなあ。
そっちだと割引効かないし。
かと言ってすごい安いのって今使ってるのとほとんど変わらないし。
さらに今のパソコン下取りしても、ほとんど値がついてないし。
うーん。
<視点 ケイジ>
今日の天気は曇り空。
オレらは体毛があるからそこまで寒さを感じないが、一般のヒューマンなら底冷えする気温なのだろう。
風はそれほど強くもない。
公都から郊外の街に行く定期便の馬車にオレとリィナは二人で乗り込む。
目的の街はどちらかというとあまり豊かとは言えない地域だ。
人口はそこそこといったところだが、
なにしろ裕福でない者が多い。
つまり獣人、亜人が多く暮らす街と思ってもらえればいい。
もちろん全員がそうだというわけでもなく、
中にははぶりのいいヒューマンもいるし、時には暮らしに余裕のある獣人だって存在する。
そんな所へ二人の獣人が、馬車を使って行き来しても珍しくも何ともないわけだ。
一応、オレらは有名人らしいので、フード付きの外套を頭からすっぽり被っての出発だ。
公都からこの馬車に乗り込むヤツらは結構多い。
大手の商人なんかは自前の馬車を使うだろうが、
個人商店の商人や、親族に会いに行くだけの者、
冒険者、中には何らかの事情で公都に住めなくなり、土地代や家賃の安い外れ街に落ちぶれて行くものもいる。
だから、
頭からすっぽりフードを被った獣人なんて、スネに傷を持つ者と思われたって仕方ないのだ。
そんなわけで、オレ達に構う者なんて・・・
「・・・おい、お前らひょっとして・・・」
いやがった。
ガタイのデカい熊の獣人だろうか。
冒険者という雰囲気ではないな。
見た感じ大工みたいな職人のようだが。
オレ達のフードは鼻先と口の部分までは隠し通せてはいない。
分かる者には、オレ達の人種が、狼または犬獣人、そして兎獣人だと判断できてしまうだろう。
一応まだ特定されたわけではないので、
オレ達は口を開かない。
大人しく熊獣人のセリフの続きを待つ。
「ま、まさか、邪龍を討伐した『蒼い狼』のケイジとリィナか!?」
やっぱバレるか。
しらばっくれるか、それとも無視するか。
でもなあ、
こんだけ名前が売れると無愛想にしてるのも良くない気がするし。
ていうか、リィナがボロを出しやがった。
「なっ、なんのことですかっ?
あ、あたしはあんな可愛い女の子じゃありませんよっ!?」
顔を赤らめて何言ってやがんだ。
誰も褒めてないぞ。
ほら、お陰で馬車の中の他の乗客まで、オレ達の正体に気づかれたろが。
オレがため息をついてると、可哀想な者を見るような目で熊獣人に肩を叩かれた。
「・・・大変だな、あんた。
い、いや、すまねぇ、お忍びだったんだな、
で、でもよっ、あんたらのお陰で安心して暮らせるようになったんでよっ、
礼くらい言わせてくれよ。」
「ああ、わかった、
でもオレはパーティーリーダーというだけで、大活躍したのはこっちのリィナだ。
そんなわけで感謝の声は直接彼女に言ってくれ。」
「ケイジっ!?」
そして、老若男女、ヒューマン・獣人分け隔てなくもみくちゃにされるリィナ。
「ケッ、ケイジっ、酷っ!!
あ、あたしを売りや・・・がっ、わあああっ!!」
大袈裟な。
お前はみんなのアイドルとしての自覚を持て。
まあ、目的地までの道中、時間潰しにはなるだろう。
後でリィナに仕返しを喰らうかもしれないが、
これから行くのはオレが子供の頃過ごした街だ。
街の案内などのおもてなしをすれば忘れ去ってくれると思う。
リィナのところに人口集中しているせいか、
カラダの大きい熊獣人はオレのところに戻ってきた。
「ああ、騒ぎ立てちまってすまなかったな、
でも、確かお前ら明日は国をあげての式典じゃなかったか?
こんな馬車に乗ってどこへ行くつもりだ?」
「ああ、その式典の前に生まれ育った街に行こうかなって、
おふくろの墓参りに行くとこだよ。」
「そ、そうか!?
ケイジはオレ達の街の生まれだったのか、
何だよ、そりゃビッグニュースだな!!」
その言葉にリィナに群がってた人達の半数がこっちを振り返った。
いかん、身の危険を感じる!!
「え、どこどこ!
ケイジ様の家どこだったの!?」
「やっべ、これ今日向こう戻ったらみんなに知らせないと!!」
「きゃあああ、感激!!
あたし猪獣人のボタンナブって言いますっ!
握手してくださいっ!!」
「フガフガ・・・ほにゃほによふにゃふにゃ」
リィナからザマァみやがれ的な視線を叩きつけられる。
くそっ、まさかこんな早く反撃されるとは。
ていうか、
爺さん、何言ってんだかわかんねーよ。
それと、猪獣人の女の子、
握手するのはいいが、食肉目当ての冒険者に捕まらないようにしろよ、名前がやけに美味しそうなんだからな。
「・・・はあ、まさか行きでこんなに疲れるとは・・・。」
「ま、まあ、退屈しのぎにはなったね・・・。」
目的地の街についたのは昼前だった。
乗り合わせたみんなには、
これ以上騒がれたくないので、馬車から降りる時は何もなかったことのように振る舞ってくれと頼んでおいた。
なので、ギリギリ騒ぎにはならずに済んだと言える。
ここから徒歩で共同墓地に向かってもいいのだが、オレ達は金が有り余ってるので一人用の馬をそれぞれ借りてもいいわけだ。
「あ、でも時間あるなら歩いて行ってもいい?
ケイジの育った街を見てみたい。」
そう言われたら仕方ないな。
見ても面白いものはないと思うんだが。
「わかった、ゆっくり行くか。」
まあ、歩いたら共同墓地まで30分くらいかな。
途中で屋台に寄ってもいいだろう。
大した時間のロスにはなるまい。
それに公都から離れたこの街なら、オレ達の姿を見て、すぐに邪龍討伐パーティーのメンバーとも気づかれないだろう。
「ケイジの家はまだあるの?」
「どうだろうな、
引き払ってかなり時間経ってるからな。
他に誰か住んでるか、もう建て替えされているか。」
オレの生家は共同墓地までのルートからかなり外れている。
特に見に行く予定もない。
もう他の人間が住んでいるなら、それはオレの家ではないしな。
けれど、実際のところ、外からそれを見て何か思うことがあるのだろうか・・・。
リィナの街案内がてら、墓参り用に花を買って行く。
まあ、気持ちとしてな。
どうせこじんまりとした墓だからあまり仰々しく飾ってもミスマッチだし。
共同墓地は丘陵地帯にあり、
市街地からはいくつも坂を登って行く。
遠いとか、坂がキツいとか言うつもりはない。
郊外へ向かうにつれ、住む人間がどんどん少なくなっていくから、共同墓地なんて金もろくにないヤツの埋葬が出来るわけだしな。
ちなみに無縁仏だと、いつの間にか墓がなくなってることもある。
縁者がいたとしても、定期的に管理費を払わないとこれまたヤバいことになる。
お袋の場合、埋葬後、マルゴット女王からもらった多額の金銭を支払っているので、十年間くらい放ったらかしにしても大丈夫な筈だ。
・・・筈だ。
墓の管理人が不誠実な者でなければ。
オレとしても、もしかしたらという不安がなかったわけでもない。
もし墓が無くなっていたら、管理人を血祭りにする心の準備までしている。
昼間だというのに薄暗い。
街中にいた時はなかったが、
標高が高くなるに従って霧が立ち込めているようだ。
まあ、視界が完全に塞がれているわけでもない。
魔物の襲撃を気にするべきだろうか?
この辺りに魔物が現れたとかは聞いたことはないが、もう少し標高の高いところに行けばその限りでもない。
むしろ共同墓地だとゾンビやスケルトンの発生がたまにあるからな。
とっとと火葬にした方がいいと思うのだが、
遺体の損壊や焼失を嫌う者も多いからなあ。
金もかかるし。
それにしてもどういう理屈で墓地から死体が復活するんだよ?
ダンジョンの方なら分かりやすいぞ。
志半ばに破れた冒険者が呪われて・・・
いや、死んだ冒険者の数よりアンデッドの方が多いよな?
改めて思うとよく分からん。
確かダンジョン99の謎の一つだったと思う。
あ、字数伸ばしすぎた・・・
墓前まで行かなかったか・・・
次回
「再会」