第五百八十二話 行きたかった所
最近ニュース見て思った事
「あのさ、思ったんだけど、やっぱり人間て滅んだ方が良くない?」
「え? ちょ? いきなりどうしたんですか?」
「ダメです、簡単に投げ出さないでください。」
「なんなら、リィナさんから天叢雲剣借りてきましょうか?
そこらじゅう焼け野原にしてきますけども?」
なんか凶悪な事件というより・・・
最近くだらない事件というか、開いた口が塞がらないような出来事とか多くないですか・・・?
天使シリス
「・・・君の眷属たちはこんな事言ってるけど?」
大地の底で眠る巨人
「・・・もう少し・・・だから。」
<視点 ケイジ>
不穏な話は続いているが、
安心材料がないわけでもない。
「でも、なんか、心の準備しておけば大丈夫っぽいことも言ってるんでしょ?」
・・・そうらしいんだけどな。
リィナはどちらかと言うと、
話の着地点を安心したい方向に持っていきたいようだ。
まあ、もちろんオレだってそう思いたい。
ただなあ、
何を考えてるか分からないあの男だからなあ。
「うーん・・・。」
麻衣さんも、まだ何か腑に落ちない様子かな。
「麻衣さんは何か気になることが?」
「いえ、あの、ほら?」
「ん? なんだ?」
「あたし、以前夢で、ケイジさんの前世での最期の様子視てるって言いましたよね?」
あっ
「そ、そうだったっけか?
待ってくれ、て、てことは、
アイツとの会話のやり取りも・・・全てっ!?」
よく考えたらかなりヤバい話だぞ?
オレが最後の最後に聞かされたあの忌まわしい真実もっ!?
「あ、い、いえ、さすがに会話の内容まではハッキリとは・・・
ただ・・・あの人、ケイジさんに刺されて消えゆく間際は、ホントに寂しそうな顔をしていたので・・・
彼は人の心をどこまで理解できたんだろうって・・・。」
確か麻衣さんは、
天使が・・・
ヤツの目的の一つが人間の心を理解する事だと前に言ってた気がする。
でも、それはオレや母さんを練習相手にしてたと言う事なのだろうか。
ん?
そう言えば・・・
「ま、麻衣さんは・・・」
「? はい、なんでしょう?」
麻衣さんは天使の本当の姿を
「麻衣さんは天使の姿を・・・
人間とは全く異なるあのカラダをも視たのか・・・?」
「え?
そ、それって・・・
あ、か、考えもしてませんでした。
でもそれは当たり前ですよね?
あたし達人間とは全く異なる出自なんですから、違う姿なのは当然・・・
え? ケイジさん、見たんですか?
その天使の本当の姿って。」
なるほど、麻衣さんの遠隔透視?
だかなんの能力かは分からないが、
彼女の目ではアイツが一瞬だけ、天使の姿になったのは視えなかったのだろう。
ていうか、あの場にいたオレにしか視えないようにしていたのかもしれないな。
「・・・ああ、すまない。
アイツがオレの前で姿を晒したのは、ほんの一瞬だったってのもあるか、
よくある西洋絵画みたいに、翼の生えた無邪気そうな子供の姿でないことは確かだ。
まあ、麻衣さんがあの姿を視てないというなら、別にいいさ。
あんまり女の子の耳に入れたいとも思えないようなシロモノだったしな。」
西洋絵画に出てくる天使との共通点なんて、
体格くらいなもんだろう。
まあ、さすがに幼児というまで小柄ではなかったな。
せいぜいリィナの弟くらいの大きさだった筈だ。
「・・・あたし、そういうのには耐性ある方だと思いますけど、あたしの中の何かが全力で聞かない方がいいって言ってる気がしますので、あたしも追及しないことにしますね・・・。」
とことん有能だな、麻衣さんの中のなにか・・・。
オレも思わずあの場から逃げ出したほどだ。
普通の女の子がアレを見たら、みんな白目を剥いて失神するほどだと思う。
・・・そんなヤツに父親ヅラされるのもなあ・・・
しかもそいつはオレや母さんと擬似的に家族のような関係を持とうとしてたってか?
人間の心を学ぶために?
吐き気がする。
確かにこの世界に転生させてくれたことには感謝する。
転生させてくれたのが、アイツなのかアスラ王なのか知らないがな。
そしてこの世界でリィナに出会い、
彼女を助け、カラドックにも再会できて、
魔人や邪龍との戦いにも生き延びることが出来てここにいる。
・・・あれ?
なんかオレ、思いっきり恵まれてるような気がしてきたぞ?
おかしいな?
どこで考え方間違えた?
いや違う。
それはオレが頑張ったからだよな。
アイツらのおかげとか考えたから変な方向に行ったんだ。
うん、そうだ。
オレは間違っちゃいない。
今、オレがここにこうしていられるのは、
アイツらの実験に無理矢理巻き込まれて、その対価を支払ってもらったに過ぎない。
後はオレの勤勉と努力の成果だろう。
そう、それでいいんだ。
「ケイジ。」
ん?
「なんだ、・・・リィナ?」
何となく今回のリィナの口調には、
オレを非難するような空気が感じられる?
「今ケイジが考えてる事をカラドックに知られると、
多分また殴り飛ばされるような気がする。」
なぜわかった。
すいません。
それだけは嫌です。
勘弁してください。
そんなこんなでこの日の秘密勇者会議は終わった。
結論はない。
ていうか出しようない。
とりあえずオレが気をつけるしかないしな。
一応、リィナや麻衣さんはオレの周りを警戒してくれるとのことだった。
カラドックにはもちろん、この事は話していない。
話すことなど絶対にできない。
もっとも、
カラドックの方でも、ヨルの顛末などを宮殿のマルゴット女王に報告したり、
その影響が出ると思われる関係各所への打ち合わせなど、やたらと面倒ごとが多かったらしい。
ヨルがいなくなったことを、マルゴット女王は残念そうにしていたようだが、
バルファリスのジジィたち保守的な官僚は、さぞかし胸を撫で下ろしたことだろう。
まあ、落ち着いたら魔族領に遊びに行ってやるさ。
オレ達の記憶の中の最後のヨルは、とても悲しい顔をしていたからな。
せめて、その記憶を嬉しそうな顔に上書きしたいと思ってもバチは当たらないだろう?
・・・ですよね、リィナさん?
そして・・・
その式典前日、オレはかねてから予定していた事を実行に移す。
ヨルの事件が起きるまでは、
邪龍討伐式典の後でもいいかと思っていたが、
この分だと、近い将来また予測できない事件が起きて、予定が全て狂ってしまうこともあり得るからな。
行ける時に行った方がいいと思ったんだ。
というわけで。
「カラドック、みんな、
以前から言っていたが、今日はリィナを連れて一日中外に出ていたいんだ。」
リィナには、内容ごと事前に告げていたから、彼女からの是非の言葉はない。
カラドックには、近いうちに丸一日だけ時間をくれとしか言ってなかった。
それを今日この場で許可をもらえればいいだけの話。
「ああ、そう言ってたね。
でも行き先は教えてくれないか?
緊急の事態が起きた時に連絡出来ない状況じゃ困るしね。」
そりゃもちろんそうだろう。
「ああ、分かった。
特に秘密にするような場所でもない。
公都から馬車で片道二時間ほどの距離だしな。」
遠いとも言えるし、近いとも言える。
出発前にランチボックスでも用意して、着いた先の方でもそれほど時間をかける必要もないイベントだ。
「なら往復で何もなければ夕方には戻れるくらいか。
こっちは全く問題ないよ。
それで・・・。」
ああ、そんな大層な話じゃない。
場所を聞けば誰も不思議には思わないだろう。
冒険者になってからはほとんど・・・
特にリィナを仲間にしてからは一度も行けてなかったからな。
「・・・おふくろの墓参りに行きたいんだ。」
そう、最後に墓参りをしたのは、この国を出る前だったっけか。
いったい何年振りになるんだろうな・・・。