第五百七十八話 忌まわしき過去
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<視点 ケイジ>
そろそろ辺りも暗くなってきたな。
この場所から移動してもいいが、
いや・・・むしろここでケリをつけるべきなのだろうか。
ズルい・・・か。
そうかもしれない。
確かにオレや、リィナ達は沢山のものを手に入れたと言えるだろう。
けれど、このままカラドックに元の世界に帰られては、ヨルが手に入れられるものは何もないのだ。
多くの魔物と戦闘してレベルが上がったり、
世界樹の女神からも新しいジョブやスキルも手には入れている。
魔族の街へ帰れば盛大に迎えられるかもしれない。
・・・けど、そんなもん、ヨルにとってはどうでもいいことなのだろう。
ただ・・・お?
黙って静観していたダブルエルフがカラドックの後ろに?
たわわな胸を揺らしアガサがしゃがみ込んでいるヨルを見下ろす。
「ヨル、あなたは一つ大間違い。」
「な、なんですかぁ、アガサさん!!
ヨルが何を間違えたって言うんですかぁ!!」
続いてタバサもスリットから太ももを現わし参戦。
「ヨル、カラドックが元の世界に戻る事は最初から分かっていた事。」
「そ、それはぁ・・・っ!」
「確かに私もタバサもケイジやカラドックは好き。
もし本気で口説かれたら拒絶できるかどうかは自信なし。」
お、おお、
そ、そうか、
それは男冥利に尽きるな・・・
あ痛て!!
リィナに足を踏まれた!!
「勿論私もアガサもヨルの気持ちは十分に理解。
なんなら一線超えたとしても後悔なし。」
こ、これオレはヨルとカラドックの話には直接関係ない筈だけど、二人のセリフに喜んでいいやつだよな?
いや、別にそんな事態を望んでいるわけじゃないぞ?
・・・望んでいるわけじゃないから、
オレのつま先を踏んでる足に体重かけないでもらえますか、リィナさん?
あ、あ、そこでツイスト踊らないで・・・
そろそろ骨が砕けそうなんですが。
「で、でも!
それはおふたりの気持ちがそこまでだったって事にしかならないですよぅ!!
ヨルのカラドックに対する気持ちはお二人なんかでは分からないですぅ!!」
「「だから私たちは自分たちの気持ちを抑える事を決断。」」
「なぁ!?」
「私たちは互いに牽制し合い、共にイエスカラドック、ノータッチ、を合意。
遠くから眺めるだけで満足。」
「私たちの手が届かない存在だとしても、彼らとは一緒に冒険をし、一緒の時間を過ごし、常に生死を共有。」
「その日常こそが至宝。」
「その景色こそが至福。」
「う・・・そ、それはぁ」
う・・・オレの口からも嗚咽が漏れそうになった。
二人に出会ってからの冒険の思い出・・・。
「「ヨル、あなたはその素晴らしき時間に目を向けなかったことが最大の不幸。」」
いつもおちゃらけてる二人が、
普段何を考えていたのか、
この場で明かされて涙が出そうになる。
決して足の骨がビキビキひび割れていく痛みのせいではない。
・・・ていうか、
ノータッチとか言ってたが、オレ要所要所でモフモフされてたよな?
「そっ、そんなものヨルには関係ないですよぅ!!
魔族は欲しいものがあったら、どんな手段を使ってでも手に入れるのが信条なんですよぅ!!
いっ、いくらカラドックに拒絶されようとも、ヨルはこのままカラドックについていくんですよぅ!!」
・・・説得は無理そうだな。
オレがやられたからってわけじゃないが、
最悪、ヨルの足を動けなくしてしまうしか方法はないだろうか。
・・・いや、
また母さんの思い出が甦える。
何故このタイミングで・・・
あの男はかつて母さんに何をした?
「アガサもタバサもありがとう。」
む、カラドックがついに動くか。
今のカラドックのセリフで、
役目は終わったとばかりにアガサとタバサはカラドックの後ろへと下がる。
「・・・ヨルさんは、どんな手段を使っても私について来るとの事だけど、
ケイジも言った通り、それを許すわけには行かないし、私もこの世界に残るわけにも行かない。」
「カラドックぅ、
なんなら、ヨルは人前にも出ないし、ずっと監禁されたままでもいいですよぅ、
それでも・・・それでも一緒に連れてってくれないんですかよぅ・・・。」
ヨル、お前そこまでして・・・
「ダメだね。」
う・・・
一瞬、凍えるような冷気を感じたぞ。
どうやらカラドックのヤツめ、一切の憐れみも捨て去ったか。
「・・・な、ならぁ、ならぁ!!
ヨルの事なんか、ここでいっそ殺してくれればいいんですよぅ!!
カラドックがいない人生なんて何の希望もないですよぅ!!
いま!
この場でヨルを死なせて欲しいですよぅ!!」
いや、待て、
その流れは不味い。
・・・待てよ?
まさか、これも、
この話すらオレたちの前世からの因縁だと言うのか。
あの男は・・・
斐山優一は死を願う母さんを思い止まらせる為に、
やってはいけないことをやってしまった。
そしてその事実を、あの男は最後まで伏せたまま、
母さんは天に召された。
・・・いや、違う。
違うぞ。
今はそこまでの話にはなってない。
今、事態が向かおうとしている話は、
間違いなく、カラドックとヨル当人だけの話。
他に誰も関わってこない。
落ち着け、オレ。
あんな悍ましい話がそうそうあって堪るか。
アレは天使の力を持つヤツだからこそ可能だった話。
カラドックには不可能だし、そんな手段を取る必要すらもない。
だから今、
気にするべきは、そのこと以外の話。
つまり、結果的にオレが生まれたおかげで、
母さんは再び生きる意志を取り戻したという過去の事実。
最低の解決方法だったが、
もはや、オレはそれを咎める事などできない。
だが今、またそんな事態が起こると言うのか?
カラドックだってヨルの死を願うことはないだろう。
ならば・・・
あの時の斐山優一と・・・
ヨルを騙すということはないにしても、
自分の父親と同じ方法を選択するんじゃあるまいな?
「・・・私も考えてはいたんだよ。」
「へ、へぇ?」
何をだ。
何を考えていたんだ、カラドック。
「我が父、天使シリスと同じ手段を取ればいいのか。」
まさか・・・、
ダメだ、
それだけはやめろ、カラドック。
「な、なにをですかぁ、カラドック?」
「私の父は人間として一度死んだ。
その時、愛し合っていた加藤さんという女性は、その事実に耐えられず死を選ぼうとしていた。
死しても加藤さんの身を案じていた父は、
最悪の事態が起きる直前、一晩だけその加藤さんの前に現れた。
・・・そしてその時に生まれたのが私の弟、惠介だ。」
そ、その通りだが、
まて、カラドック。
お前、その話の裏側に・・・
あの忌まわしい真実に気付いているのか?
オレが恵介として死ぬ間際に、奴本人から明かされた本当の真実を・・・
「そ! それはうっとりするほどロマンチックな話ですよぅ!!
あ、わ、わ、ま、待ってくださいですよぅ、カラドックぅ!!
ヨ、ヨルも心の準備がですよぅ!」
「だが私は父とは違う。」
「へ?」
・・・カラドック?
「父の事は尊敬している。
惠介も大事な私の弟だ。
・・・けれど、わざわざアイツと同じような思いをさせる子を産む必要なんかない。」
お・・・おお?
「へ? へ?
あ、あの・・・元々魔族は子供生まれにくいですよぅ、
で、でもそれならそれで一夜の思い出を・・・」
「不要だ。
何よりも以前言ったように、私には愛する妻も息子もいる。
もし、それでもヨルさんが諦めきれないと言うなら・・・。」
え、ちょ、おい、待て!
カラドックのヤツ、剣を抜きやがったぞ!!
第二百三話前書き再掲
>・・・なお「この話、なんかおかしくね?」
>と思われる方、
>それは「天使シリス」編の主人公が、物語のエピローグに「彼」に語る「真相」で明らかになることでございます。