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第五百七十七話 不公平

<視点 ケイジ>


死屍累々。


そんな言葉が脳裏に浮かぶ。

もちろんこの場に死者はいない。

あいつら「聖なる護り手」の連中は、

オレに危害を加えようとも、痛みすら感じないように配慮してくれていた。


なのでもはや戦意喪失した今となっては、これ以上追い込む必要もないだろう。


ならば・・・

ここから先の話は、

ただ一人ヨルに目を向けてさえいればいい。



オレはリィナの助けを借りて幌馬車の中から降りる。

 「ありがとう、リィナ。

 ・・・足は問題なさそうだ。

 もう大丈夫だぞ。」


 「む、無理すんなよ?」

 「ああ、それより今はこの先に起きることを見届けよう。」



既にオレの視線はヨルの方だけに集中していた。

だから、

全く人の気配もないところから声が聞こえてきた時は、流石に心臓がバクんと跳ね上がった。



 「私はメリー、いま、あなたの真上にいるの。」



やめてくれ、心臓に悪い。


 「メ、メリーさん、幌馬車の上にいたのか。

 意外だな、もうオレ達には興味ないかと思っていたんだが。」


 「・・・ええ、そうね、

 でも最後だもの。

 あなた達の行く末くらい見届けようかと思って。」


もっともな話と思って聞いていたが、

真実は異なるらしい。

麻衣さんがその真実を明るみに晒す。


 「・・・単にメリーさん、修羅場の匂いを嗅ぎつけただけですよね?」


 「否定しない。」


しろよ、そこはよ。


まあ、メリーさんは特等席からこの先の出来事を見物するだけのようだ。

麻衣さんに続いてカラドックも幌馬車から降りてくる。


そして二人とも、

視線の先は同じ方向だ。


そこには悔しそうな目でこちらを睨むヨルだけがいる。



 「・・・カラドック。」

 「ああ、ケイジ。

 いよいよこの時が来たようだ・・・。」


カラドックの声も表情も真剣そのものだ。

あいつもずっと頭を悩ましてきたに違いない。


 「先にケイジ、

 パーティーリーダーとして、君はどうするべきだと思う?」


なんだよ、こっちに振ってきやがったか。

ただまあ、一応オレは被害者でもあるからな。


 「・・・オレから話すことは二点。

 一つ、オレは今でもヨルは大事なパーティーメンバーだと思っている。

 背後から襲われたことや、状況次第ではオレも殺すとか言っていたのは思うところもあるが・・・

 オレはヨルに恨みも憎しみもない。」


 「ケイジ・・・君は。」

カラドックが何か言いたそうだったが、途中で諦めたようだ。


 「ケ、ケイジさん?

 そ、それって・・・・っ!?」


ヨルはオレの言ってることを理解できないようだ。

もっと噛み砕いて言わないとダメなのかよ。


 「ヨル、お前も言ってたろうが。

 ヨル自身はオレに対して、いい人だと思っているって言ったよな?

 ならオレも同じだ。

 出来ることならこの後もみんなで一緒に旅をしたいくらいだと思っている。」



 「うっ、うああ・・・。」



「出来る事なら」・・・まあ、この一言でヨルもみんなもそんな甘い話にならないのは理解できるだろう。


 「そしてもう一点。

 パーティーリーダーとして、これだけは譲れない。

 カラドックは元の世界に帰す。

 オレやこの世界を救ってくれたカラドックにこれ以上迷惑は掛けられない。

 そしてその世界の未来を変えさせないためにも、一緒にヨルを向こうの世界に送ることも許さない。」


 「う・・・うう。」


もうヨルの顔は泣く寸前だ。

無理もない。

どっちにしろ、ヨルがカラドックと一緒になる道は、これで完全に塞いでしまったのだから。


 「あと、ついでに言うが、今度の邪龍討伐記念式典が終わったら、

 オレたち『蒼い狼』は解散だ。

 麻衣さんも元の世界に帰る前に、知り合いのいる街に挨拶しに行きたいって言ってたしな。

 ・・・カラドック、オレからの話はこんなところでいいか?」



 「ああ、わかったよ。

 じゃあ、後は私に任せてもらえるかな?」


そう、ヨルを最終的にどうするかはカラドックに任せるしかないだろう。


・・・ただ、オレはこんな時なのに、頭の中では全く別の・・・それこそ遠い過去の出来事を思い出していた。


母さん・・・




そして斐山優一・・・


いや、あの二人とは状況が・・・


違う・・・といっていいのだろうか・・・。

 


 「・・・さて、ヨルさん。」


カラドックがオレの元から離れ、ヨルの方へ近づいてゆく。

ここからは二人の問題だ。

オレたちは見届けるだけでいいのだろう。



・・・そうは思っていたんだが、一つだけオレは今更ながらに気づいたことがあって、

幌馬車のメリーさんを見上げる。


 「あら、ケイジ何かしら?」


勿論、メリーさんは慌てた様子のオレに気づいたろう。


 「・・・もしかしてメリーさんは、単なるデバガメなんかでなく・・・」


 「酷い言われようだけど、そちらも否定しないって言ったでしょう?

 ・・・でも本当の目的は、私たちの過去の歴史を変えさせないために監視に来たのよ。」


そ、そうか、メリーさんにしてみればそれこそが大事な話だよな。

間違ってもヨルをカラドックの世界に連れ帰って、歴史が全て変わってしまったら、

メリーさんやその大事な友人や、・・・前回べったべたにしていた娘さんとの過去も存在もなかったことにされてしまう危険があるのだから。


カラドックの選択次第では、あの二人の間にメリーさんが乱入する事態も危惧しておかなければならないということか。


・・・まぁ、カラドックの事だからそんなことは想定済みなのだろうけども。



 「ヨルさん。」

 「な、なんですかぁ、カラドックゥゥ・・・。」


 「・・・これは質問というかお願いに近いのだけど、

 みんなと一緒に、明るく笑いあって・・・

 一人一人、これからの幸せな未来を祝福しあって別れることは出来ないかな?

 ・・・ケイジは君に対して何のペナルティを与える考えもないようだ。

 ヨルさんの返答次第で・・・

 私たちはみんな笑ってさよならすることができる・・・。」



そうなんだよな・・・。

人が人を好きになる気持ちをオレは否定できない。

だからヨルがカラドックに惚れているというなら、それは仕方のないことだ。


けれど・・・けれど、二人が一緒になることは許される話ではないのだ。


そしてもちろん、ヨルの立場に立ってしまえば、

そんな話も受け入れることは出来ないのだろう。


ヨルは最後の力を振り絞る。


 「ずっ、 ずるいですよぅ!!」

 「・・・ずるい?」


 「そっ、そうですよぅ!!

 何が幸せな未来ですかぁ!!

 ケイジさんもリィナちゃんもこれからは世界を救った勇者としてみんなにちやほやされるですよぅ!!

 そのリィナちゃんは生き別れになってた家族にも会えたし、

 アガサさんはエルフ界初の冒険者ギルド設立の野望に燃えているですよぅ!!

 タバサさんだって故郷に錦を飾って、神官のエリートコースを歩むですよぅ!!

 メリーさんだって邪龍討伐のご褒美に、この世界の娘さんに出会えたって言うじゃないですかぁ!!

 麻衣ちゃんだってこの後、お母さんと会うんでしょうぅ!?

 ヨルだけ!

 ヨルだけご褒美も何にもないんですよぅ!!

 別にヨルはカラドックのお妃さまになれなくたっていいんですよぅ!!

 ただ一緒に・・・!!

 カラドックと一緒にいるだけで良かったんですよぅ!!

 それだけを・・・

 それだけを願うことがそんなにもいけないことなんですかよぅぅぅぅぅぅぅっ!!」




ケイジ

「アスラ王かオヤジか知らないが、どうすんだよ、不公平だってよ?」


???

「知らん。」

???

「安心しなよ、不公平になんかならないからさ。」


麻衣

「え、ちょ!?

まだなんかあるの!?」

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