第五百七十一話 ケイジの目覚め
はい、ここで襲撃犯の正体判明です。
みなさまの予想はいかに?
<視点 ケイジ>
・・・う
ここはどこだ・・・
知らない壁が・・・
眠ってたのか?
何で椅子に座ったまま・・・
ん?
身動き・・・できない?
何だ、この態勢・・・
ガチャガチャ
む?
ああ、なるほど、両手を後ろ手に縛られているのか。
音からして金属の錠か。
それはいくらオレのパワーでも難しいだろうな。
オレは椅子に座らせられて、拘束中ってことか。
そして確か
オレの記憶通りなら・・・
ああ、やっぱり。
左足の膝から下が無くなっている。
こりゃヤベーな・・・。
確かあの見覚えのある僧侶、
クライブって言ってたっけな。
アイツが治癒呪文をかけてくれたらしい、
傷口は痛まないが、無くなってしまったものはどうしようもない。
オレの冒険者稼業もここまでなのだろうか。
タバサの治癒呪文でも足を生やすことは出来ないって言ってたものな。
・・・ふぅ、
けどまだ生きている。
前世と同じように、
仲間だと思っていたヤツに陥れられるのは防げなかったが、
いきなり殺されるわけではなかったのはマシと言っていいのだろうか。
完全に警戒していなかった。
まさかアイツがオレを嵌めるだなんて。
しかし何故ヤツはオレを襲う?
オレを襲って何のメリットがある?
まあいい。
オレを生かしておいたってことは、そのうち何かアクションを起こすだろう。
今はなにがどうなってるのか状況を掴むのが先決だ。
オレだってやられっぱなしになってるわけにもいかないからな。
まずここはどこだ?
首は動かせるので辺りを見回すが、この部屋にはオレ以外誰もいない。
もちろんここは、さっきまでオレが泊まっていた超高級ホテルではないだろう。
家具や部屋の内装があまりにも見すぼらしすぎる。
部屋の大きさ、
そして凝った家具や余計なものが何もないところを見ると、下町の安宿ってところだろうか。
安宿・・・?
そんなもん、立地的にオレらが泊まってたホテルの近くにある筈がない。
つまりかなりの距離をオレを担いで移動してきたってことか?
下町はともかく、あの高級ホテルの周辺を、オレを運んで誰にも不審がられなかったのか?
それはいくら何でも考えにくい。
なら巧妙にオレの体を隠して?
それとも誰にも姿を見せない手段があったとでも?
まあ、あいつらのリーダーのダンならオレを担いで長距離運ぶのは可能かもしれないが・・・。
まあ、そんな手段なんかどうだっていいか。
問題は何故アイツが「聖なる護り手」の連中に協力したかだ。
・・・何か弱みでも握られていたのか?
いや、これはもしかしたら魔王ミュラが関わっているのかもしれないな。
だとしたら・・・
違うな。
オレが警戒していたのはミュラじゃない。
何故ならミュラはもともとオレの仲間じゃないからだ。
オレはずっと・・・
特にカラドックや麻衣さんと出会ってから、
前世で起きた事がこの世界でも繰り返されるのではないかと考えてきた。
リィナが高いところから墜落死してしまう事については防ぐことが出来た。
・・・改めて麻衣さんには感謝するしかない。
もう、彼女に同じ事が起きないと考えていいのであれば、
次はオレの番だろう。
オレに起きた事・・・。
いや、あの時、
リィナと一緒に崖下に落ちていった時見た景色。
あれによれば、
別の世界では、
オレに「起きた」事ではなく・・・
オレが「起こした」出来事だったらしい。
前世ではその役割が逆転していたのだろうか。
ではこの世界では?
麻衣さんは先日聖女に言ってくれた。
「オレは道をはずさない」と。
そうだ。
少なくとも今のオレにはリィナがいる。
マルゴット女王もコンラッドたちもいる。
ならオレが事件を「起こす」理由なんかどこにもない。
ならば・・・この世界ではオレは「起こされる」方の立場になると言うことか。
そう、そんな考えを、
何度も何度もオレは自問自答してきたのだ。
誰にも告げずに。
カラドックはもちろん麻衣さんにも、だ。
何故誰にも相談しなかったのかだって?
理由は簡単だ。
オレはこの件では麻衣さんすら疑っていたからだ。
もちろんオレは麻衣さんに多大な恩がある。
いつだったか、命を捧げてもいいとさえ言ったよな。
さすがにそれは大袈裟だと自分でも思うが、それくらい感謝しているのは事実だ。
けれど、
その話と麻衣さんがとんでもない事を起こさないという話は全くの別。
時折、妖しく目を光らせていたしな。
実際あの子は、この世界の深淵などという、訳の分からないものを復活させてしまったんだ、
オレらに何の相談もなく。
ある意味、この世界で核ミサイルを発射するのと同じくらい恐ろしいことをやったんじゃないだろうな?
・・・ただまあ、
それはそれで恐ろしいのだが、
今のところあの子はオレ自身に何の悪感情も持ってなさそうなんだよな。
だから、
やっぱりオレが警戒すべきは彼女ではなかったと言う事でいいのだろう。
そして、実を言うとオレはカラドックさえ疑っていた。
いや、カラドックもオレに悪感情など抱いていないだろう。
可能性としてあり得るのは、
カラドックの意志ではなく、
やむを得ない事情により、オレに手をかけねばならなくなる状態に陥る事だ。
そう、何故なら
アイツが全ての真実を知った時、国王としてアイツはオレを裁きにかけねばならない立場なのだから。
・・・ただまあ、これも、
オレは実際一度、オレのやらかした報いで殺されてるのだから、理屈ではこれ以上責任取る必要ないだろとは言いたい。
それでカラドックが納得するかどうかは全く自信ないけどな。
後はダブルエルフだが・・・
アイツらも長い付き合いで、確かに仲間だとオレも認識しているが、
なんて言うか、アイツらとはそれほど互いの内面に踏み込まないというか、
ある意味淡白な関係な気もするんだよなあ。
だからあの二人はないだろうと思っていた。
意外と有り得る可能性が高いと考えていたのは、コンラッドとベディベールの兄弟。
幼いうちは心配ないが、
グリフィス公国の後継者問題が浮上してきた時、何らかの形でオレが巻き込まれるかもしれないという懸念。
その実行役として、ブレオボリス騎士団長や、
話の黒幕にバルファリスなんてジジイも出張ってくるかと警戒していたのだ。
はい、こいつらみんな白でした。
疑って申し訳ない。
一番怖かったのはメリーさん。
何考えているかわからんしな。
死んでいった者の憎しみや恨みで動いてんだろ?
それ、真っ先にオレんところにやってくるって考えるのは当然の話。
結局、被害者の恨みは次元を飛び越えて来なかったって事でいいのだろうか。
それともそれこそ、オレの罪は実際殺された事でチャラになったってことでいいのだろうか。
まあ、ここまできたら、
メリーさんの鎌はオレの首を狙ってないと、断言していいのだと思う。
さて・・・もう分かったよな。
誰がオレを襲ったのか。
お、足音が聞こえる。
うん、今度はちゃんと聞こえるな。
しかも複数。
ノックはしないか。
まあ、オレは縛られたままだしな。
やがて扉は静かに開く。
オレは落ち着いて入ってきたヤツらの顔を一睨みする。
予想外の人物も混じっていたが、
それ程不思議には思わなかった。
入ってきたのは結界師オスカ、
少年僧侶クライブ。
そして、魔族メイド・・・確かメナと言ったか。
まさか彼女までここにいるとは思わなかった。
男のダンは何故か姿を見せない。
あいつはこの件に関わっていないのだろうか。
最後に・・・
そこにはオレがよく知ってるもう一人の魔族。
オレを背後から襲ったヤツが・・・、
オレの左足を鮮やかにぶった斬ったヤツがいた。
以前何度か見た・・・何の感情もなくしたように、冷たい視線をオレに投げかけていたのだ。
誰かに騙されて?
いや、違うな。
魔王ミュラの命令?
それはあるかもしれないが、
今までずっと生き死にの運命をともにしてきたオレに向ける視線がそれなのか?
やがてソイツは、
まるで予定通りとでも言わんばかりに、落ち着いたセリフを俺に放ってきやがったのだ。
「ごきげんいかがですかよぅ、ケイジさん?」
「お、お前がオレを・・・
この世界でオレを裏切る役目を負ったのが・・・
ヨル・・・お前だったなんて。」