第五百六十七話 お出かけ
<視点 リィナ>
はい、リィナです。
え、いつもの美少女剣士とやらはどうしたって?
ごめんなさい、あたしが悪うございました。
今はもうそんな余裕もないのです。
え、と、どこから書けばいいんでしょう。
あの日は、聖女さま達をお見送りした後、あたし達はみんなでホテルに移動しました。
なんでもグリフィス公国の中でも最も格式ある伝統的なホテルとか。
おお、ロビーとかも真紅の絨毯でふかふかです!
冒険者身分では絶対に泊まることなどないでしょう。
お部屋も今までは麻衣ちゃんかヨルと同室になることが多かったんですけど、
ここへ来て初めての個室です。
・・・さ、寂しくなんかないんですからね!!
あ、
別に前日のことはそんなに書くこともないんです。
大変なことになったのは次の日・・・
あたしは麻衣ちゃんとお昼ご飯&お買い物に出かけました。
お買い物といってもあたしは日用必需品、
麻衣ちゃんはお土産・・・って、あれ?
自分の世界のお友達とかに?
「あ、いえ、お土産渡せるような友達なんて数えるほどしか・・・
じゃなくて!!
行けそうだったらキリオブールとかカタンダ村でお世話になった人たちにどうかなってだけで・・・。」
あっ、それはそうですよね。
異世界の物品を持ち帰ったらなんかとんでもないことが起きそうな気がしますもんね。
罷り間違っても、魔法の概念のない世界に魔道具とか持って帰ったら大変なことになりますよね。
兎さん程度の脳みそしかないあたしにも分かりますよ。
ただまあ、
あたしが麻衣ちゃんと行動してるのが、
お買い物目的なんてのは口実です。
いろいろ弟の事とか相談できるかなあ、
なんて下心もあったのです。
ケイジはあてになりませんからね。
お金はいっぱい貰ってますから少し高級そうなとこ行きますよ!
獣人お断り?
ダメならダメでいいですけどね、
仮にもこの世界を救った勇者と異世界人の女の子を門前払いにする勇気がありますか?
「め、滅相もございません!
個室を用意させていただきますので!!」
ふっ、勝ちました。
あたし達が普段から入りやすそうなとこでも良かったんですけどね、
兎獣人のあたしと、黒髪が目立つ麻衣ちゃんの組み合わせは、もはやこの公都では有名過ぎますからね。
もみくちゃにされては堪りません。
痴漢対策の為にも、ちゃんとしたお店に入らないとですね。
まあでも個室はちょうど良かったです。
あまり人に聞かれたい話ではないでしたからね。
弟のことは・・・
本人の名誉のためには麻衣ちゃんに伝えるのはどうかなと思ったんですけど、
これ以上、麻衣ちゃんと弟に接点ないだろうし。
案の定、麻衣ちゃんは目を丸くしていました。
あの時、やっぱり弟の事はノーチェックだったようで、まるで注意してなかったそうです。
そりゃまあ・・・ですよね~、
物騒なことばかり起きてましたからね~。
あの場で弟たちは、息をつける清涼な癒し要員でしたものね。
ところがその癒し要員である弟の下半身には、凶悪な獣が隠れ潜んでいたんです。
・・・いろいろ台無しにしてごめんね、麻衣ちゃん。
「リィナさんが前回、心配事がありそうだったのはその件だったんですね。
・・・いや、まあ、でも、
あのツェルヘルミアさんて人なら大丈夫そうかと思いますけどね。」
「弟の扱いには慣れているかな?」
「あー、それもあるとは思うんですけど、
多分あの人、異世界の人ですよ、
あたしの世界からか、カラドックさんの世界から来たのかは分かりませんけど。」
「えっ、マジっ!?」
「魔道具つけてたみたいで、あたしにもよくわかりませんでしたけど、
リィナさんにヤケに熱い視線飛ばしてましたよね?
逆にリィナさんの隣にいたケイジさんには食い殺さんばかりの殺気をぶつけてましたよ。」
「あー、随分見つめられてるなあ、とは思ったけど・・・ん?
それってまさか・・・。」
「もしかしたら、リナさん、でしたっけ?
ケイジさんの前世で幼馴染だった人・・・
そのリナさんのご家族なのかもしれません。」
あー
あたしは思わず天井を見上げます。
「・・・それで、なのかー。」
「リィナさんに抱きついていた時、すっごく優しそうな表情してましたよね。」
確かにねー。
あんなキレイな人が目を潤ませて・・・
あれ、ヤダな、
なんかあたしの顔、今ニヤけてる?
「あ、ま、麻衣ちゃん、いま、あたしの顔ヘンだった!?」
「ふふ、いいんじゃないですか?
それも邪龍倒したご褒美なのかもしれませんよ。」
「そ、そうかあ、
ま、まったく、だとしたら、ホントにこまいとこで色々気をつかってくれるんだね、
なら麻衣ちゃんのご主人様のしわざってことでいいんだよね?」
「ううーん、そう思いたいんですけど、カラドックさんのお父さんも関わってそうだからなあ。」
「まあ、どちらにしてもあたしは感謝するよ、
麻衣ちゃん、もし元の世界に帰ってそいつらに会えることがあったらよろしく言っといて貰える?」
「あ、は、はい、機会がありましたら。」
麻衣ちゃんにはその気があっても、
向こうがこっちの世界のことを認識してるか分からないそうです。
何しろ例の二人は復活を果たしてない人間のままでは、それほどの能力はないだろうとの事でした。
ホントに時系列がどうなってるのかわかりづらいですよね。
「あ、それでツェルヘルミアさんが向こうの世界の人だとして、どうして弟がエロくても大丈夫だって思えるの?」
「あの感じだとかなりの修羅場くぐってそうですからね、
いきなり襲われても返り討ちできるんじゃないですかね?
むしろツェルヘルミアさんが逆上したら、弟くんの身の安全のほうが心配です。」
そ、そっちかー。
まあ、今は早急に何か起きる事はなさそうですから、この事はそんなに心配しなくていいんですかね?
そう思ってたら、麻衣ちゃんの方でも大変な報告があると。
なんでもマルゴット女王様とカラドックが、
ケイジの隠し事について密談していたらしいのです。
「なにそれヤバいじゃん!!」
「ただ、カラドックさんはケイジさんが何も言ってこないうちは、首を突っ込まないみたいなこと言ってましたよ?」
え、それって・・・
「もしかしてカラドックには全部バレてるの?」
「あ、いや、それは・・・。」
麻衣ちゃんが難しい顔してます。
判断に迷ってるみたいですね。
「えーと、ケイジさんがベアトリチェさんの世界の記憶をおぼろけながら持っているとは判断できてるみたいですけど、
その・・・カラドックさんの弟の転生者であることに気づいたような発言は・・・」
なかったってことですか?
「なら、そこまではバレてないのか・・・。」
「わ、わかんないんですよね、
そもそもあたしが、遠隔透視で覗いてたの分かってたみたいで、覗きはダメだよってクギ刺されちゃったし、
あたしにも隙みせてくれないような感じもしたし・・・。」
「そこはさすがの賢王なのかー。」
でもそれって
カラドックが本当に気づいてないのならいいんですけど、
全て見抜いておきながら何もケイジに言わないんだとしたら
それってあまりにも切なくなりませんか?
あ、でも
ケイジは
もしカラドックが全て知ってしまったら、ケイジの事をカラドックは殺さなければならないとかなんて言ってたし・・・
あいつは向こうの世界で、
もう一人のあたしであるリナって子を救えなかったって話してましたけど、
それだけでカラドックに殺されるいわれはないですよね?
いったいあのバカ、何しでかしたんでしょうね?
そういえば聖女さまともなにかトラブってたみたいですよね?
あいつもしかして暗殺者でもやってたんですか?
あ・・・話は続きます!!
本題はこの後ですよ!!
暗殺者ではないですけど暗殺はしましたね。