第五百六十六話 前世からの予見
ついに30万PB達成です!!
みなさまご愛顧ありがとうございます!
<視点 ケイジ>
それからのことを書こうと思う。
公的な行事は来週の式典まで何もない。
いろいろな方面からの面会希望や招待希望などは、全て宮殿の方で断らせてもらっている。
騎士団絡みの些事や冒険者ギルドからの細々なやり取りは宮殿の事務方に任せて、
どうしてもオレらでないと済まない話だけ出張る形にしてもらった。
実を言うと何も問題なかったわけでもない。
ヨルのことである。
前々から、ヨルがカラドックと円満に別れられるのか・・・
うん、別に二人は付き合ってるわけじゃないぞ、
二人が綺麗な形で終わるのかオレたちの間で危ぶまれていたわけだが、
それはあくまでオレたち冒険者パーティーの中の話。
対外的には公表すらしない話である。
それとは別に、
彼女の存在をどう扱うべきなのか、
この宮殿の中で話が大きくなっていたのだ。
オレが無視できない話としてこんな事があった。
「お考え直し下さい、陛下!
何も私はヨル殿に悪しき感情があって申し上げているわけではありません!!
邪龍を倒すことに尽力していただき、この上なく敬意と感謝を持っています。」
「彼女の種族ことか、バルファリス。」
女王に苦言を呈していたのは長年宮廷に勤めている官僚のバルファリスだ。
実を言うと、こいつはオレが幼い時分にもいろいろ嫌がらせまでとはいかないが、オレに対して見下すような不遜な態度を取っていた。
だからまたこいつか、と思ってはいたのだが。
「誤解なさらないでいただきたい。
獣人のケイジ様や勇者リィナ殿とは話が違います!
ヨル殿は長い間、ヒューマンと血で血を洗う争いの歴史を持つ魔族の者です。
魔族とも手を取り合おうという陛下の願いと、それより先を見据えた国の利益は私にも分かります。
けれど事を急ぎすぎては諸外国や宗主国の反発を買いかねませぬ!
ましてや、これより国格を上げようという微妙な時期には尚更!!
何もヨル殿とケイジ様方を離れさせろと申しているわけではございませぬ!
この宮廷より、然るべき距離を置いた上で歓待すべきだと申しておるのでございます!」
客観的に話を聞くと正論に思える。
オレたちは今やこのホワイトパレスの中で、
至れり尽くせりの身分で逗留させてもらっているのだ。
確かにオレは女王の縁者でもあるし、
勇者の称号を得たリィナにもそれだけの格があるだろう。
異世界からの転移などという奇跡的な手段でこの世界で貢献してくれてるカラドックや麻衣さんは言うに及ばず。
アガサもタバサもエルフの世界からの賓客ということも出来る。
メリーさんも何の感情も持たない魔道具扱いと言い切って・・・しまえばいいか?
だが魔族は流石にヤバい。
これまで「和平」といったプロセスがまるで何もない状態で、いきなり国の中枢であるホワイトパレスに迎え入れてしまったのだ。
二晩過ごしておいて今更感があるが、聖女イベントのインパクトが強すぎた。
バルファリスの方にしても言い出すタイミングがあったのだろう。
さて本題に戻るが、これまでのヨルの行動と性格で、
人間側に対して何の害意も持ってない事は、一緒に行動してきたオレたちには絶対の確信がある。
とはいえ、国家運営の責任を持つ者からしたら、無警戒かつ無条件で魔族を宮殿に迎え入れるのは、顎が外れる程のとんでもない軽はずみな暴挙だったようだ。
流石にこの件に関しては、
マルゴット女王も老官僚の苦言を無碍にすることは出来なかったらしい。
「・・・それでの、まっこと心苦しいのじゃが、
来週の式典まで、城下にある国内最大手のホテルのフロアを貸切にしておる。
もちろん滞在費はこちらで持つので、ケイジ達はそちらで羽を伸ばしてもらいたいのじゃ。」
もちろん女王はヨルの前でそんな失礼な話はしていない。
カラドックとオレにだけ事情を話してくれた。
オレでさえ納得する理由なのだ。
国王たるカラドックにも理解できる話だろう。
まあ、別にオレたちに不利益は何もないしな。
城のほとんどの連中もオレたちに悪感情を見せてくるわけでもない。
あくまで体面上の措置である事は誰の目にも明らかだ。
その日からオレたちはホテルの方に移動する。
その移動も宮殿御用達の専用馬車だ。
関係各者には本当に申し訳ない気がする。
宮殿で手配してくれたホテルは、しばらく公国から離れていたオレでも知ってるほどの、広大な敷地と部屋数を備えた伝統あるホテルだ。
豪勢にも完全個室。
しかも最上階。
食事の時は広間を貸し切って皆一緒に。
宮殿での扱いと殆ど差がないのだ。
これはあのバルファリスのジジイにも文句の付けようがない。
・・・まあ、
とは言えやる事がなにもないんだよな。
普通なら冒険者ギルドで依頼を受けて、何らかのクエストをこなしたいとこなんだが、
来週の式典まで、オレたちにはどこへも行くなと行動に制限かけられている。
不測の事態に巻き込まれないようにってだけの話で。
確かに現状、金に困ってないし、
早急に解決したい問題があるわけでもない。
・・・実を言うと、
オレは一ヶ所だけ足を伸ばしたいところがある。
けれどそれは式典の後でいいと思っていた。
出来ればリィナと二人で。
まあ、どこに行くかは後で述べさせてもらおう。
問題はこの後だ。
それは突然、
何の予兆もなく、
すっかり息を抜いていたオレの意表をついてやって来た。
ホテルに移動してからは完全な個室。
つまり個人行動。
ホテル内をうろうろしたり、
城下町を散策したり買い物したりはみんな自由だった。
もちろん朝食の時に、皆んなの今日の予定を聞いたりして、それぞれ何も問題ないことや、
危ないところに行かないよう互いに注意しあって。
ホテルそのものだってセキュリティはしっかりしてるしな。
売春婦はもちろん、宿泊客が招待した人間以外は誰も侵入できない筈なのだ。
だから不測の事態など余程のことがない限り、
問題など起こりようはずがなかったのだ。
コンコン。
それは一つのノックから。
オレの部屋の扉が叩かれる。
オレが返事をすると、
声の主は、オレが間違えようもないよく知った相手からの声。
そいつがオレの部屋を訪ねてくることに、
違和感がなかったわけではない。
けれど、
そいつは確かに一つの問題を抱えていた。
恐らくその件だろうと考えてオレはそいつを迎えいれた。
案の定、そいつはオレに相談したいことがあるとのことだった。
なら無碍には出来ない。
オレはそいつをソファーに座ってもらい、
その間、何か飲み物でも振る舞ってやろうかとして
ヤツに背中を向けた後
左足を切り落とされたのだ。
大量の血飛沫が舞う。
激痛とショック。
思わず叫び声をあげたが、この客室ならば防音もしっかりしてる筈。
隣の部屋にすらオレの悲鳴は聞こえまい。
オレの足元に、
さっきまでオレの体の一部だった左足が転がっている。
間違いなくオレの足だ。
せめて、これがなんらかのイタズラかトリックだったらという甘い考えが頭に浮かぶ。
けれど、巧妙に作られた本物そっくりの足なんて、そんなおままごとのようなぬるい考え、誰が許してくれるというのか。
現実にオレの膝から下が消えてなくなってるのだ。
オレが認識しなければいけないのは、
目の前のこいつをどう対処すればいいのか。
それこそが今最大の優先事項だ。
もちろんオレはこの状況で武器など持っていない。
オレは何も考えられず、身を捻りせめて防御行動を取ろうとするも、奴からの追撃はない。
それどころかヤツは扉に戻り、
ドアノブを開く。
オレの左足を落としただけで逃亡?
・・・そんな間抜けな話はなかった。
扉を開けた途端、
どこかで見たことあるような奴らが一斉に入ってきたのだ。
まずい。
一人で
手負の状況でこいつらに襲われたら勝ち目はない。
そしてそいつらの何人かがオレに呪文をとばす。
「ごめんなさいなの、スリープクラウド。」
「せめて痛みは消してあげるよ、ヒール。」
うっ!?
闇系魔法・・・、
いや、女の方が放ったのは闇系僧侶呪文か・・・?
いかん、意識が・・・
急激な眠気がオレを襲う。
確かに左足の痛みも消えていくが・・・
ああ、
やっぱり
こうなったか
誰かがやると思っていたんだ。
オレの前世と同じように・・・
でもまさか
アイツが
オレを
ちくしょう
全くの想定外だった
だがなぜ?
理由が全くわからない
いったい
なんの目的で
ヤツは・・・オレを
そしてこの後
いったいオレをどうするつもりなのか
そこでオレの思考は
完全に
闇の中へと・・・
こうして、オレは行方知れずとなった。
いよいよ最後の血生臭いイベントです。
さて、みなさん、
襲撃者の正体は誰かお分かりでしょうか?