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第五百六十五話 賢王は惑わない

連休は今日で終わり・・・。

でも下書き全然進まなかった・・・。

<視点 カラドック>


・・・やあ、みんな。

私の出番は久しぶりだね。


その理由については、賢明なる皆さんにはお分かりかな?



さて、

聖女ミシェルネ殿を見送った後、私はマルゴット女王に連れられ彼女の執務室へとやってきた。


連れてこられた理由は言ってくれなかった。


 「カラドックよ、しばし妾に付き合ってくれまいか。」


そんな言葉一つで連れてこられたのである。


 「失礼いたします。」


お付きのメイド、ニムエさんが紅茶をいれてくれる。

とは言え、彼女の仕事はここまでだろう。


 「すまぬの、ニムエ、

 ここからは部屋の外で待機してもらいたい。」

 「かしこまりました。

 何かご用がございましたら、遠慮なくお申し付けくださいませ。」


恐らくこれまでのパターンなら、

女王がニムエさんをいじくって、ニムエさんが慌てふためくなんてのがお約束なのだろうけど、今回にあっては女王にもそんな余裕はない。


何しろこの私にもおちゃらけた顔を見せないのだ。

それだけ真剣な話題だとわかるだろう。


 「最後まで騒がしかったの。」


話の切り出しは聖女について。

それが自然だろうね。


 「あの方がこの世界の聖女なのですね。

 正直、聖女という称号について、私もよく把握しているとは言い難いのですが、

 ・・・私を呼んだ本当の理由は聖女殿のことではないのですよね?」


 「・・・相変わらず察しが良いの。」


 「察したというより、女王と同じ事を考えていただけかもしれませんよ?」


 「ふっふっふ、それは妾たちが通じているようで嬉しいのう。

 それに確かに話が早いし、そなたと腹の探り合いなどしたくもない。」


そりゃね。

考えてみれば私と女王に対立するものは何もない。

唯一考慮すべきは、私はあと十日ちょっとで元の世界に帰る事。

けれど女王たちはこの後もこの世界を支え続けなければならない。


私にはこれ以上この世界でできることはないのだ。


もし、この世界に生きている人たちに、

私が何のしがらみも感じないならば、

この後、何がどうなろうが気にもせずに、

やりたい放題、言いたい放題してから、

消え去ってしまえばいいのだけど、


誰かの意図によるものなのか、

この世界には私の母親の写し身が存在する。


・・・そして元の世界で私が永久に失ってしまった、

・・・惠介と李那ちゃん・・・

あの二人の写し身と言ってしまってよいのか、

それは今も判断に迷うところだけど、

ケイジとリィナちゃんが懸命に生き抜いている。



この話は私の中でもいろいろな葛藤がある。


だからこそ、しばらく私の語りをお断りさせてもらっていたんだけどね。


これはマルゴット女王についても同じだけど、

ケイジ達が私に助けを求めるならば、

私はどんな事でも協力してみせよう。

・・・下世話な色恋沙汰は除くけど。


けれど、

しょせん私は外部どころか別世界の人間。

これ以上、彼らやこの世界に干渉すべきではないのではないか、

そう考える自分も存在しているのだ。


だから、

「彼」が何も私に言ってこないならば、

温かく見守るだけにしておくというスタンスでいようと思っていたんだ。


・・・けれどマルゴット女王にしてみれば、

私もケイジも共に愛すべき息子の一人ということかも知れない。


子を愛する母親なら放任なんて出来ないものね。



さて、と。

そういうわけだから。


 「女王のお話とはケイジのことですよね。」


 「・・・うむ。

 昨日の会談については報告だけ受けておったが、先程の聖女とのやり取り・・・

 ケイジには妾達の知らぬ秘密があると考えて良いのではないか?」



秘密・・・か。


 「ケイジは長い間、冒険者として過ごしてきました。

 この国にとって利益にならないような活動もしていたのでしょう。

 秘密の一つ二つあってもおかしくありませんよ。

 ならば、無理に彼が口を開かないことを追及することもないのでは?」


 「そなたはケイジの意志を尊重するということか。

 じゃが、妾を見くびるものではないぞ、カラドックよ。」


ん?

女王を私が見くびる?


 「・・・わからぬか?

 妾が言いたいのは、

 ・・・そなたはそれでいいのか、と言っておる。」



ああ、

ケイジのことよりも、私の心配をしてくれたということか・・・。

なるほど、母の愛は偉大だな・・・。


 「確認するが・・・

 ケイジには一度も聞いておらんのよな?

 ケイジがそなたの弟の転生者だということを。」


 「・・・ええ、聞いてませんね。」


もちろん、うっかり聞き忘れていたとか、

聞くタイミングがなかったとか、そんな話ではない。


敢えて聞かなかった。


 「何故じゃ?

 まさか、否定されるのが怖いということでもあるまい?

 答えを得ぬまま、元の世界に戻るつもりなのか?

 もう・・・二度とそなたたちが・・・。」


そうだろうね。

もともと自分たちが生きてる世界とは別に、

全く異なる世界が存在して、そこに移動できるなんて話自体、夢物語のようなものなんだ。


そんな事が二度も起こり得るはずがない。


・・・ケイジ達とは、これでお別れなのだ。

永遠に。



私はまだ残っている紅茶の水面を覗き込む。

特に意味のある行為でも何でもない。

少し自分の心の中を見詰めなおしてみただけだ。

けれど私の答えは既に・・・



 「女王・・・。」


 「なんじゃ、カラドック・・・。」


 「恐らく、ケイジに聞いたとしても別の答えが返ってくるでしょう。」


 「別の答え?」


 「ケイジには、うっすらとこことは違う世界の記憶があるようです。」


 「ならば・・・!」


 「ですが、それは私の世界ではない。」

恐らくケイジはそう言うだろう。


 「カラドックの世界ではない?

 それは何を根拠に?」


 「あの時、女王もいらっしゃったでしょう、

 魔人ベアトリチェがいた宮殿で。」


 「ベアトリチェ・・・あの忌々しい女狐、

・・・いや、あの時か!」


 「ベアトリチェはケイジのことを知っているような口振りでしたよね。

 けれど、私の世界で惠介とベアトリチェが会っている事実はありません。

 ですので、ケイジとベアトリチェに接点があるというなら、それはまた違う世界の話なのでしょう。」


 「転生者だとしても、そなたの世界の人間ではないというのか・・・。」


 「それに・・・」


 「他にも?」


 「私の知る惠介は、

 女子供を殺すような人間ではありません。」


 「・・・。」


女王は私の瞳を無言で見続ける。



恐らく女王は私の言葉に同意したいと思ってる筈だ。

けれど、聖女が嘘をついているとも思えないだろう。

あの場でケイジは聖女の言葉を否定出来なかった。

彼には心当たりがあったのかも知れない。



考えてみれば、

これまでケイジはいつも他人の命を大事に考えてきた。


その思考の根本には、亡くなった彼の母親が影響していることは想像に難くない。


けれど、もし他にも原因があるとしたら?


例えば前世において、

彼が自らの意図に反してか弱い女性を手にかけていたとしたら?


それが今もなお彼の心を苦しめていない、などとどうして言えよう。



そして、

私にそれを裁く資格などある筈もない。




そういや最初にあいつに会った時、

あいつは変な事を言ってたな。

「オレを殺しに来たのか」って。


あの場では、私がグリフィス公国からの追手と思われての発言だと思っていたんだけど。




なるほど。


マルゴット女王の言う通りなのだろう。

彼は何かを隠している。


それが明るみに出たら自らの命も危ぶまれるほどの。


けれど、ケイジは事あるたびに頭を地につけて、潔い態度を取り続けている。

誰かがそれを咎めるというのなら、いつでも罪を償う覚悟は出来ているとでもいうかのように。


ならば・・・彼の隠し事というのは・・・


もしかしたら・・・ケイジ本人ではなく、

他の大事な誰かを守るために・・・


 「カラドック?」


私が黙って考えているのを見て、女王が言葉をかける。


そうだね、

結論はもう出しているんだよ、

私の中では。


今のはもう一度確認してみただけだ。


 「私の意見は変わりませんよ。

 私からは何も言うことはありません。」


 「それで良いのじゃな・・・。」


 「はい、問題ありません。」



そして私は背伸びをした。

残り時間はあと僅か。

それで他にも色々解決しないとならない事もある。

本当に頭が痛い。


そこで私は一つ思い出したことがあって、部屋の中の何もない一点を見上げた。

当然、女王も私の挙動は気づくだろう。

そこに何もない事は女王も同じ認識。


けれど私たちは同じ精霊術の使い手だ。

私たちの目を欺くことは出来ないよ。


 「麻衣殿、覗き見は良くないの。」

 「麻衣さん、そういうわけだから。」


麻衣さんが遠隔透視を使っていたのは早い段階で気づいていたよ。


ケイジからいろいろ相談されてたみたいだからね、

気になるのはしょうがないけどね。


 

麻衣「げぇっ!? バレてたあっ!!」

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