第五百六十四話 ケイジは全て理解する
これで完全に下書きストックなくなりました。
次回更新できるかどうか・・・。
<視点 ケイジ>
「そこまで。」
え
オレが構えに入ろうとした瞬間、
ミシェルネからストップが入った。
微動だにできないオレを無視してツェルヘルミアは剣を納める。
え?
これで終わり?
そして二人は立ち位置を元に戻したのである。
い、いったい何故、
今のは・・・
「ケイジ様、いま何をしようとされました?」
「え、あ?
な、何をって、身を、身を守ろうと、構えを取って・・・。」
「騎士剣術の構えでは有りませんでしたよね?」
え
確かにあの構えは剣道で言うところの八双に近い。
一般的な八双より、かなり前傾姿勢になる独特のスタイルだが、そんな構えを取る騎士剣術などありはしない。
だがオレがミシェルネに初めて見せたはずの構えを、
彼女はあらかじめ知っていたかのように・・・
まさか、
だってアレは、
オレの前世で
「わたしは『それ』を返して欲しいと言ってるのですよ。」
な
ちょっと何を言ってるんだかわからない。
だってアレはオレの二人目の剣の師匠だった白鳥さんから・・・
いや、違う。
白鳥さんはずっと前にアスラ王からその剣術を教わったというのだから、
元はアスラ王の・・・
いや待て。
アスラ王には
若い時に家族が
そしてオレはその家族を
天叢雲剣を手にしたあの女性を・・・
オレの前世ではない、別の世界で・・・
あ。
ああああ
殺していた。
な
あ、ああ。
ああああああああああああああああ。
オレが、
オレが殺していたんだ。
彼女を。
あの光景・・・
天井から崩れてきた柱に背中を貫かれて・・・
あの女の人は・・・
「ちなみに天叢雲剣の方はリィナちゃんに預けたままで結構ですよ。
・・・いいよね、ツェルちゃん?」
何の反応も出来なくなったオレのことなど、どうでもいいかのようにミシェルネは話を続ける。
天叢雲剣?
・・・そうだ、あれも元々は彼女の持ち物・・・。
「もちろんです。
リィナさんにはその資格がありますわ。
・・・いえ、むしろリィナさんにこそ、持っていて欲しいと思います。」
資格・・・。
天叢雲剣が別世界に生きていたミシェルネの持ち物で、
彼女が亡くなったというなら、剣は残された家族・・・アスラ王の手に・・・
そしてまたアスラ王の子供に受け継がれていくはずのものなのならば、
その息子、朱武さん、
更にその子供たちである朱全、朱路、そして李那・・・
またリィナは話についていけてないだろう。
だがもはや、オレにリィナを気にする余裕はない。
いや、でも待て。
ミシェルネは・・・彼女は、転生者じゃないと本人が告白している。
じゃあなんで・・・
「はい、すとっぷ、すとっぷー!」
オレの背中に小さな暖かい手がかけられた。
麻衣さんか。
「ケイジさん、なんで自分から死地に飛び込もうとするんですか、
あたしの忠告聞いて下さいよ。」
え、あ、そ、そうだ。
麻衣さんからは昨夜何度も釘刺されていたんだっけ。
「うふふ、最後まで麻衣さんにはお世話かけますね。
でももういい加減放ったらかしにしとかないと、いつまで経っても元の世界に安心して帰れないですよ?」
オレに向かって呆れたような視線を向けるミシェルネ。
オレには一切反論する術がない。
「・・・ですね。
でもあたしからは、みんな仲良くしてくださいね、としか言えません。
あ、でも、このまま、ケイジさんとリィナさんをミシェルネさんが取り込んじゃうってのもいい手なのかな?」
「麻衣殿、それは・・・!」
そこでマルゴット女王が首を挟んできた。
「あっ、そ、そうですよね、
マルゴット女王の立場じゃ、それは受け入れられませんよねっ、
ごめんなさい、それこそ余計でしたっ!」
「うふふ、けれどわたしにとっては確かにいい手だと思います。
わたしとマルゴット女王が仲良くなればいいんですもの。
そうなれば万事解決です。」
「・・・正直、末恐ろしい聖女殿よな、
聖女殿が敵性国家に取り込まれていないだけでも幸運と思うべきのようじゃ。」
オレは・・・話の流れは追えている。
話の意味も全てわかる。
けれど、口を開くことが出来ない。
聖女ミシェルネがオレに向けていた視線・・・
もし彼女に、別世界の出来事を理解する能力があるというなら、
怒り・・・憎しみ・・・そして恨み、
オレに対してのそれらは全て当たり前の話だった。
もちろんオレが視たのは、魔族執事シグに呼び出されたワニ悪魔に、地面から真っ逆さまに落とされたあの時だけの光景、
何故オレが彼女を殺すようなマネをしたのか、理由も何も分からない。
けれど・・・やったのは間違いなくオレなのだという確信がある。
ならば言い訳は一切できないし、オレが地に頭を伏し謝るしか出来ないだろう。
そしてそんなオレの姿にミシェルネは気づいたようだ。
「ようやくわかってくれました?」
「あ、ああ、その・・・オレは・・・どうすれば・・・。」
そこでふぅ、と息を吐くミシェルネ。
「別にいいですよ。
ケイジさんに記憶はないのでしょう?
それにこのわたし自身が痛い思いをしたわけじゃありませんですしね。
この先、この世界でわたしに敵対しないでくれたらそれで・・・
あ、というわけで例の物は返してくださいね?」
文句などあろうはずもない。
「わ、わかった、か、必ず・・・。」
「正直、まだこのカラダだと、木刀持つのが精一杯で、金属の剣なんて重くて自在に振るえないんですよ。
もちろん木刀でも型の練習はできますから、金枝教側のゴタゴタが片付いたら冒険者ギルド経由で指名依頼かけますのでお願いしますね。」
木剣ではなく木刀か。
やはりミシェルネはあの剣術・・・
いや、もう刀術って言った方がいい、
あの刀術の詳細を理解しているのだろう。
けれど例の力があるならオレに習わなくてもいいのではないだろうか?
「昨日も言いましたけど、夢の中で舞台背景がわかるような程度の能力なんですよ、
細かい部分なんて全くわからないといっていいレベルです。」
そういうことか。
とはいえ正直、あの刀術を全て完璧にマスターしているとはいいがたい。
奥義も教わっているが、成功率はあまり高くない。
間合いとタイミングの見極めが激ムズなんだ。
ていうか、アレっていわゆるカウンター技だからな、失敗したら命にかかわるんだ。
おいそれと練習もできないんだよ。
結局この後、
「最後までお騒がせさせちゃいましたね」と、
申しわけなさそうにミシェルネ達一行は帰路に着いた。
マルゴット女王が「何やら問題起こしたのはケイジの方のようじゃから気にされる必要はない」と、
まるでオレだけが悪いような空気にされてしまった。
立つ瀬がないとはこういうのを言うのだろう。
そうそう、オレの事ばかり書いても仕方ない。
リィナ達の家族のことだが、
彼らはオリオンバート侯爵の指示を受けて、一人娘のツェルヘルミアの世話をするように言われているらしい。
そしてそのツェルヘルミアは、聖女ミシェルネの護衛騎士としての役目を拝命しているそうなので、結果的にミシェルネ個人がツェルヘルミア以下の主的な位置づけになってるんだそうだ。
つまりリィナが家族に会いたくなったり、その用が出来た時はミシェルネの所に向かえばいいということになる。
逆に冒険者活動をしているオレたちに、聖女側が連絡しようとする時はさっきも話に出てきたが、各国の冒険者ギルドに指名依頼を出せばいいことになる。
個人的にオレは気が重いものがあるが、金枝教側と太い繋がりが出来たと思えばいいのだろうか。
それを言うとリィナはもっと凄いよな。
聖女だけなく魔王にも狙われてるんだものな。
やっぱりオレがもっとしっかりしなきゃだよな。
そして・・・
更にこの後・・・
カラドックがマルゴット女王に「一人」連れて行かれた。
それを麻衣さんがとても厳しい視線で追う。
オレの背中にとても冷たいものが走った気がするが、
ここはいつものカラドックのようにスルーした方がいいよな?
また余計なものに首を突っ込んで痛い思いをするのはこっちだしな・・・。
麻衣「・・・ケイジさん。」