第五百六十三話 蘇える剣
VRoidアップデートしたら、新しいパーツが増えていました。
マイクロミニのショートパンツにベルトポーチ追加。
なお、前回麻衣ちゃんが言っていたケイジのイベントは今回のお話ではありません。
ミシェルネさん達がお帰りになってからの話です。
<視点 ケイジ>
昨日はまさしく嵐のような一日だった。
オレも何度命の危険があったのか分からなかったが、なんとか死線を潜り抜けることができたといっていいだろう。
納得できないことや腑に落ちないこともない事もない。
けれどリィナには家族が見つかったし、
なんか知らんがメリーさんまで幸せそうだ。
あの聖女さまは転生者じゃないはずだが、
それでもメリーさんの過去に何か関わりがあるというのだろうか。
まあ、メリーさんの関係者ならオレは気にしなくてもいいと思うんだが。
・・・あれ?
そう言えばオレ、聖女様と何か約束したよな?
確かオレと今後何度か会う機会を作れとか?
そしてオレから返してもらいたいものがあると。
これがもう少し年齢の接近した者同士なら、甘く切ない恋の予感、
・・・なんてときめいても楽しいかもしれないが、昨日の出来事から考えてもそれは有り得ない。
麻衣さんからも脅された。
聖女さまに逆らうなと。
不興を買うなとも言ってたな。
今のところもちろん、そんな気持ちはないが、
聖女に返さなきゃいけないもんなんてオレにあるか?
グリフィス公国を離れた冒険者のオレの持ち物なんてたかが知れてるぞ?
まさかベリアルの剣か?
あの悪魔が生き返って所有権を主張するならまだわかるが、聖女さまには何の関係もないよな?
それとも奴隷としてのリィナの所有権だろうか?
うむ、まだこちらの方が理屈は通るか?
でも昨日の感じだと、リィナが現状に満足してるなら、そんな目くじら立てるほどの反発はなさそうだった。
・・・むしろリィナ絡みになると、護衛騎士のツェルヘルミアの反応の方が過激だったような気もする。
聖女の方の話に戻るが、結局何のことかも分からないまま、オレたちは聖女たちをお見送りすることとなった。
オレたち冒険者パーティーだけでなく、マルゴット女王やその家族たちも一緒だ。
会談そのものが非公式のプライベートなものなので、当然お見送りも裏門からの質素な形となる。
なんでも聖女さまの後見役だった大司教さんとやらが亡くなったんだってな。
そりゃ大変だろう。
金枝教の内部事情は知らないが、これから想像を絶する権力闘争でも起きるのだろうか。
「ミシェルネ殿、昨日は実りある会談だったようじゃな。
次に機会があれば、妾ともゆっくり話あう時間が欲しいものよ。」
流石に魔眼持ちのマルゴット女王でさえ、金枝教の大司教の死去は予見しようもないだろうしな。
オレたちとの会見の後に、聖女と話を持つ機会を作ろうとしていたようだが、残念ながらそれは叶わぬ願いとなった。
「マルゴット女王には、ご厚い配慮をしていただき感謝の念に堪えません。
・・・ええ、そしてこれからも、
友好的な関係を築けることを望みます。」
社交辞令・・・
そう、社交辞令と言って間違いないんだろう。
けれどオレにはこうも聞こえる。
「敵に回るなら遠慮しない。」
聖女の瞳にはそんな強い意志が込められている。
そして、マルゴット女王もオレと同じ感想を持ったのか、
一呼吸置いてから柔らかい笑みを浮かべたのだ。
「・・・こちらこそじゃ。
そなたと末永く良い関係でありたいものよ・・・。」
女王の後ろにいたコンラッドやベディベールも事態をはっきり認識しているな。
・・・うん、イゾルテは気にしなくていい。
気にしていないっていうか、そこまで頭は回っていないんだろう。
うむ、そういう配役も必要だ。
そのまま穢れなき心のままでいて欲しい。
我ながらモノは言いようだな。
恐らくカラドックからも女王には報告が行ってるのだろう。
聖女のポテンシャルと危険度を。
そして、
オレはこの期に及んでまだ、
本当の聖女の危険さを理解していなかったと言える。
それは聖女の能力の問題ではない。
彼女の存在が、まさしくオレ個人にとって特別な存在だったと、いうことだ。
警戒はしていた。
聖女に声をかけるにあたって、またキツい目を向けられる覚悟もしていた。
単に今のうちにそれでも聞くべきことを聞こうと思っていただけだったのだが、
この後、オレは自らの過去を呼び起こされて、
またもやどん底の気分にさせられたのだ。
「聖女・・・ミシェルネ様。」
「・・・ケイジ様には随分失礼な振る舞いをしてしまいましたね。
お許しくださいませ・・・。」
分かってるよ。
内心許しちゃないんだろ。
相変わらずオレには心当たりはないんだが、
オレが過去のどこかでやらかしてしまった可能性は十分にある。
だからオレも調子に乗ることはない。
「いえ・・・
それより一つだけ教えてください。」
「まあ、何でしょうか?」
「オレが聖女様に返さなければならないものとは何なのですか?」
覚悟はしていた。
けど、その瞬間、周りの空気が変わったのだ。
それは聖女ミシェルネの発したものか、
護衛騎士ツェルヘルミアの発したものか、
或いは常にオレを気遣ってくれていた麻衣さんか、
それとも全てを見透す魔眼を有するマルゴット女王のものなのか、
・・・或いは全員か。
「・・・そうですね、
わたしとしては、ケイジ様がそれを思い起こすまで、悩み苦しむのも罰の一つとしてもいいかと思っていたのですが・・・。」
なんて恐ろしい考え方をするんだ、この聖女・・・。
「それを思い出してから苦しむのも罪の償いとしてはいいかもしれませんね・・・。」
やっぱりやめれば良かったような気がする。
オレが一言も返せないでいると、
ミシェルネは、後ろでオレを食い殺さんとばかりに睨んでいたツェルヘルミアに声をかけた。
「ツェルちゃん、
・・・脅かしてあげて。」
「承知しましたわ・・・。」
何が始まる?
ミシェルネとツェルヘルミアが位置を入れ替わった?
ん?
ま、待てよ!?
ツェルヘルミア、腰の剣に手を掛け・・・
オレを睨んだまま・・・!
いや、まだ距離は3メートルはある。
間合いは・・・
小さく金属が擦れ合う音がした。
オレの眼前にツェルヘルミアの細い剣先が突きつけられる。
速いなんてもんじゃない。
まさに神速。
とはいえ、必ずしも反応出来なかったわけじゃない。
まだ間合いの外だ。
そう思ったからこそ、こちらも剣を抜かなかった。
そう、そしてそれは今もだ。
ツェルヘルミアの剣先は、まだオレの顔面に届くわけではない。
けど・・・
けれど・・・
この構えは・・・
オレの目の前にある剣先の奥に潜む眼光・・・
「獲物に一切の反撃も許すこと能わず」
思わず脳裏に浮かび上がるその言葉・・・
覚えている。
思い出したぞ・・・。
この眼光を。
捕食者の目を。
ツェルヘルミア・・・この女。
何故、「彼女」がこの剣を
蛇眼剣!!
アスラ王が、そしてあの男斐山優一が得意とする絶対無二の剣!!
相対する者の戦意、敵意を眼光だけで粉微塵に吹き飛ばす魔性の剣だ!!
これを・・・これに立ち向かうには
オレの・・・未熟とは言われたが、
他に手はない。
いや、反射的にオレはベリアルの剣を引き抜き、
たった一つ、蛇眼剣に立ち向かえる剣術を。
闇を切り裂き魔を祓う、日本の神職に携わるものが一族にのみ受け継いでいたという聖なる剣術。
その名は
やばい、ストックが切れる・・・。
いや明後日から有給貰ってる。
あと一回もてばなんとか・・・